第十五回 Louの親心 (2021年1月25日)

Luke Voitに会ったのは彼がまだ高校生の頃でした。彼の父Louが、私が務める会社の製品を販売するLocal agentで働いている関係で、ある金曜日一緒に仕事をし、夕方仕事帰りにLukeが出場するアメリカンフットボールの試合を応援に行ったというのが縁です。
その時観戦していた地元の人の話では、Lukeは既に地元では名の知れた高校生で、怪力で相手を押し潰すところは凄いものだとのことでした。

試合後に自宅に招かれ、Lukeの小さい頃の写真やバッティングの様子を見せてもらい、そうこうしているうちにLukeが帰ってきました。
身長は185cmくらいでしたか、私は肩でなく腰で体格を見ましたが、腰幅が広く見るからに力がありそうです。大きなコップで牛乳をゴクゴク飲んでいたのが印象的でした。

Louの話では、大学でフットボールをするか野球をするか迷っているとのこと。本人の選択を応援すると話していました。私は、これが彼の選択に影響するかもしれないとは思いつつも「I think he has a talent to be a major leaguer.」と伝え、当時はまだ未発表であった「捻りモデル」研究の内容をLouにメールで送りました。

その後は私も国内の部署に異動になったこともあり、やり取りは少なくなりましたが、Lukeは大学ではフットボールではなく野球を選び、キャッチャーとしてプレーしていたと記憶しています。
そんな訳で実際に私がLukeのプレーを見ることができたのは、カージナルスでデビューしてからのことでした。

2019年までの打撃は、パワーに加えて広角に打つ印象がありましたが、昨年は、前足に体重をしっかり移動させて強い打球を打つことを心がけていたのではないかと思います。気がついたらホームランのタイトルを取っていたので驚きました。それでは2020年のLukeのバッティングを見ていきましょう。

スライド1

バットは高く構えています。

スライド2

投球に合わせて体重移動のタイミングを測っています。

スライド3

立てて構えていたバットを、投球に対して直線的にミートできる「仮想面」に沿って寝かせています。(理想的なバットの軌道については、第七回で説明しています。)正面から見た仮想面に黄色いマーカーをつけて見ました。

スライド4

体重を完全に前足に移動しつつ、「仮想面」に沿って上体でバットを引いていきます。グリップの位置も良さそうです。

スライド5

上体を前に向けながらバットを引っ張ることで、体幹にしっかりとエネルギー(以下「力」とします。)が溜まっています。

スライド6

インサイドアウトにバットは振り出されています。

スライド7

しっかりミートしました。つま先を閉じて、体重が完全に前足に移動していることがわかります。

スライド8

前足のつま先が前を向き、股関節と膝への負担を逃しています。

こうして見ると、Luke Voitのバッティングは、見事に「捻りモデル」の理想的動作を再現していることがわかります。

Louには、時折「捻りモデル」の最新研究内容を送りますが、それがどれ程Lukeの役に立ったかは知りません。
Lukeがヤンキースの選手として活躍しているのは、あくまで彼の才能を磨く努力と運の賜物であり、LouもLukeに対して、何かしろと言ったとか何かしてあげたとか主張することはないでしょう。もしそのような親子関係であったら、Lukeはとっくの昔に野球などやめてしまっていたと思います。

とは言え、さりげなく「自分が有益と思う情報」は、Lukeの目に止まるようにしたかもしれません。親ですから。私の「捻りモデル」研究も、もしそのような情報の一つとしてLukeの役に立っていたのなら嬉しいかぎりです。

Lukeがホームランのタイトルをとった際に、Louにはお祝のメールを送りました。メールの返信には、迫力満点のLukeのワークアウトの映像のリンクが送られてきました。リンクを貼っておきます。

この映像に入っている、タイヤを打つという動作は良いと思いますが縦方向の運動が多く、股関節可動域周りの柔軟性を保つ体操が含まれていませんでした。
そこで怪我防止に役立つと思われる、簡単なストレッチの画像を返信しました。凄いね、頑張れと言ってあげればそれで済むのに、余計なことをいう奴だと思ったかもしれません。

スライド9

Lukeにこの情報は届くでしょうか。

次回は「フライボール革命」と「捻りモデル」の関連について考察します。

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