第四十三回 バッティングフォームのチェックポイントについて (2023年6月13日)

「大抵の人は、自分の見たいと思うものしか見ないものだ」とは、遥か昔から言われてきたことですが、これは常に気を付けていないと自分にも当てはまります。
選手のバッティングフォームを観察する上でも、「捻りモデルのメカニクスが、広まりつつあるはずだ」というような希望的な目線で観察してしまうと、できるだけ客観的な視点で観察しようと気を付けていても自分に都合の良い動きばかりが目についてしまうものです。
それでも、特に最近活躍し始めている若い選手達のバッティングフォームを観察していると捻りモデルに基づいた打ち方が広がってきているという印象が強いので、ここは一つ誰もが簡単に判断できるように、捻りモデルのバッティングフォーム観察ポイントを、まとめてみようと思いたちました。

最近バッターのフォームが変わったと思うけど具体的にどう変わったかよくわからないと思う人には、参考になるかもしれません。チェックポイントはそれほど多くないので、動画などで打撃フォームを観察するときに役に立つでしょう。

なぜこれらがチェックポイントなのかという説明には、第四回と第五回をご参照ください。

最近SABRでの説明資料として作った資料からイラストを抜粋します。

捻りモデルに関係するチェックポイントは、これら5点で、その他グリップやバットの軌道など重要な観察ポイントについては、付録(appendix)として説明をつけたファイルを、最後にアップロードしておきます。それでは、一つ一つ見てみましょう。

最初のチェックポイントは、インステップしながらどこまで上体が前を向くかです。

股関節内向き可動域が大きい選手ほど、インステップしたまま上体を前に向けられます。ここを見ることで選手のポテンシャルを確認できるでしょう。
自分の野球選手としてのポテンシャルも確認できるので、インステップしたままどこまで上体が前を向くかを見てみましょう。

二番目の項目は、上体を前に向けた時に、バットを後ろに残して引っ張っているかどうかです。

バットを引っ張ることで、バットに上体を引っ張ってもらい体幹に歪みのエネルギーが溜まるのですが、上体と一緒にバットが回っていると、いわゆるドアスイングという事で、体幹に溜まるエネルギーが少なくなりバッティングのパワー不足につながります。

三つ目のチェックポイントは、へそベクトルの向きです。

体幹に溜めたエネルギーは、板バネのような直線的なものなので強く働く方向が決まっており、それはだいたいヘソが向いている方向です。へその方向に強く打つことができると言えるでしょう。

例えばこの場合、ヘソベクトルはレフトを向いているのでレフト方向には強く打てますが、バットが回ってセンター方向に打っています。こうした場合には非力な打球が飛ぶことがわかるでしょう。

(追記 2023年6月30日)
数日前の大谷選手の28号は、へそベクトル方向に打球が飛ぶという良い例です。体重移動も良し、トップハンドの位置は私は好きではありませんが、主に力を伝えるボトムハンドの位置は良し。インパクトの後でボトムハンドは外れて、右手一本で打ったように見えますが、そうではありません。
「柳田選手の変態打ち」を大谷選手が再現したというところでしょうか。
比較的シンプルな古典力学の範囲では、ボールが飛ぶのにも理由があるのです。

大谷選手の28号ホームラン映像から

さて次のチェックポイントは、バットスイングがどのポイントで一番速くなっているかです。

バットを引っ張ってインサイドアウトにスイングした場合は、「人体」は金属とは違い粘弾性のある素材なので、最もボールに力が加わるのは、バットスピードが最も遅いところではなく(少しズレが生じていてい)少しバットを振り出したあたりでしょう。

ボールをミートした場合は、ボールにエネルギーが伝わってフォロースルーは小さくなりますが、空振りした時のフォロースルーがどうなっているか見てみると、パワフルな打者程フォロースルーのあたりでバットスピードが最速になっているはずです。もしかしたら尻もちをついているかもしれません。

最後のチェックポイントは、体重移動です。捻りモデルのメカニクスでは、前足に体重をしっかりと乗せて居る場合に強く打てます。

こんな様子ですね。

その他の重要と考えるポイントについては、下記ファイルのappendix (6~9)に記載しています。

これらチェックポイントの観察例としては、大谷選手がスランプだった2020年の動作と、MVPを取った2021年の動作の変化について、第六回、第十八回、第十九回で紹介していますが、これらのチェックポイントを観察することでスランプからの脱出を予測していたのがわかると思います。

この他には、グリップの違いを観察するのも面白いでしょう。最近は大谷選手のグリップを真似する選手が多いようですが、私は大谷選手のグリップよりも鈴木誠也選手のグリップがパワフルだと思っています。

またバットの軌道についても、appendix 6で紹介している軌道と前を払うような軌道の二種類が観察されるようで、この違いが打率・長打率の違いとして現れていると思います。

打撃フォームは、おおよそチーム毎に傾向が違うようなので、非力なチームとパワフルなチームの打撃を自分で観察することで、野球の面白さが更に広がることと思います。

従来の打ち方から抜け出せずに貧打に苦しむチームを観察して、面白いというのも不謹慎ですが、どうしようもないですから仕方ありません。
見守るしかないというのは、子育てに近いものがありますね。

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