第十四回 ハンク・アーロンが先か、「捻りモデル」が先か?(2021年1月23日)

私がHank Aaronの追悼文に相当するような記事を書き、誰が見るかもわからないサイトに投稿することになるとは全く予想外の事でした。
しかし「捻りモデル」の構築に当たり、彼のバッティングフォームを大いに研究した者としては、Aaronの逝去の報に接しては、何か書かないわけにはいきません。
私に出来る事など限られているので、少々奇妙な追悼ではありますが、Arron氏のバッティングフォームについて考察する事で追悼に変えさせていただくことにしましょう。(Baseball Mechanics_Hank Aaron swing)からの映像です。

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バットを構えている位置が余り高くありません。「捻りモデル」の立場からもバットを高く構える事にメリットを見出せないので、このように低く構える方がシンプルで私の好みに合っています。

スライド02

後ろ足股関節周りにテイクバックした後に、下半身を先に動作し始めました。

スライド03

ボールに対して直線的な「仮想面」に沿って、立てていたバットを寝かせています。(理想的なバットの軌道については、第七回に説明しています。)

スライド04

上体が前を向く事でバットを引っ張り、体幹にエネルギー(以下「力」とします)を溜めています。体重は前足に完全に移して打とうとしています。

スライド05

上体でバットを後ろから引っ張り、体幹に最大限の「力」が溜まりました。素晴らしい動作です。

スライド06

バットを少し振り出したところでボールをミートします。バットのスイングスピードは速くありません。

スライド07

ここでミートしました。前足に体重が完全に移動している事に注目してください。またヘソベクトルは投球に正対しています。(ヘソベクトルについては、第六回に説明しています。)

スライド08

ボールを打つと、体幹の「力」はボールに伝わるのでわかりにくいですが、フォロースルーでバットスピードが最大になるような打ち方をしています。

余談ですが、体幹に「力」を溜めるスイングになっているかどうかは、空振りした時によくわかります。ボールに「力」を伝えることができなかった場合は、放出した「力」を自分の体で受けとめる事になるので、より大きなフォロースルーになります。

これが正しい「素振り」と言えるかもしれません。強打者の空振りは、故障に繋がることもあるので注意が必要です。

スライド1

Hank Aaronに戻りましょう。

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大きなフォロースルーでした。
ところでHank Aaronのフォームで一点気になるところがあります。それは彼のグリップ位置です。

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正面からわかりにくいのですが、トップハンドの甲が前を向いています。
(理想的なグリップについては、第九回で説明しています。)

このグリップについては、従来から議論の対象になっていたようで、Hank Aaronの写真集「Home Run, My Life in Pictures」を見ると興味深い記載がありました。

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これは、Ted WilliamsとHank Aaronのグリップの違いを写したものです。
Aaronのグリップでボトムハンドの手首をまっすぐに打つと、トップハンドの甲は前を向いてしまいます。
第九回で説明した通り、力学的に最も強く打てるグリップはどちらかと言うとTed Williamsに軍配が上がります。

「捻りモデル」の研究は、Hank Aaronなどのホームランバッターの動作が、第二回で説明した「回転モデル」の理想的動作とは違うという観察から始まりました。Hank Aaronのフォームが「捻りモデル」だとも言えます。ですからどちらが先かと言われれば、実はHank Aaronが先なんですね。
当然彼のフォームは、第四回で説明した「捻りモデル」の理想的動作にも沿うものであるわけです。

Hank Aaronは、キャリアを通してバッティングフォームをほとんど変えていなかったのではないかと思います。それだけこのフォームは、様々なピッチャーの様々な投球に対して普遍的に有効だったのでしょう。偉大なバッターでした。

彼の素晴らしい人間性や、人種差別を物ともせずに淡々とベーブルースの記録を破った強さなどについては、他の誰かがより適切な追悼を書かれる事でしょう。この記事は、グリップの位置にケチをつけたところで終わりましたが、決してHank Aaronへの尊敬と感謝の気持ちが薄れたわけではありません。

次回は、今度こそLuke Voitのバッティングについて考察しようと思います。


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