第二十四回 今年度総括と研究の進め方について(2021年11月7日)

NPBではポストシーズン真っ盛りではありますが、MLBは日程を終了したこともあり、少々気が早いですが本年度の総括をしてみようと思います。

捻りモデル理論は、SABRメトリックスに代表される分析手法と比較すると、過去の結果を分析するのではなく今後を予測できるという特徴があります。その意味では、大谷選手のキャンプでの動きから今シーズンの好調を予測できたこと、ドジャースが概ね捻りモデル理論に基づいて筒香選手のメカニクスを改善していったプロセスを観察でき、7月末の時点でその後のパイレーツでの活躍を予測できたことは、捻りモデル理論の有効性を示した一例であったと考えています。

また今シーズンから導入された反発係数の低いボールの影響について、打ち方によってはホームラン数が増える場合があるとも予想しました。
低反発球の影響で全体としてはホームラン数は減っており、ホームラン数を減らすという試みは成功だったのだろうと思います。
しかし2021年と2019年のレギュラーシーズンをざっと比較すると、2021年に最も多くホームランを打ったブルージェイズと二番目にホームラン数の多かったジャイアンツが、ともに2019年よりもホームラン数と打率を向上させていることがわかります。フィリーズ、タイガースなども低反発球にも関わらず打率を維持しホームラン数を伸ばしており、今シーズンチャンピオンのブレーブスもかなり健闘しています。やはり全てのチームがホームランと打率を下げたわけではないようです。
なぜその様な違いが現れたのかというと、もちろん体幹歪みのエネルギーをボールに伝える様な打ち方をしていた選手が多かったからということが予想できるので、これらのチームがどの程度「捻りモデル」のメカニクスを取り入れているものか、来季は注意してみていこうと思います。

さて今後の研究テーマですが、「捻りモデル」理論の検証はある程度できたと判断したので、いよいよ応用に入っていこうと考えています。
「捻りモデル」から予測される応用としては、若い成長期の選手達に股関節可動域が大きくなる様な環境を与えることで、投げる、打つ、走るといった才能を向上させることができると考えられます。
しかし具体的にどの様な環境・練習を行うことで、その様な結果が得られるかについては、実際に検証しながら知見を深めていかなければならないのが難しいところです。

このブログで記載した内容を英文にしSABR-LなどでSABRのメンバーに公開し米国を中心に検証を進めれば話は早いでしょう。しかし日本人全体の運動能力を向上させる、日本野球のレベルを世界一にするといった可能性が見えてることから、日本人として国内での検証を優先していきたい気持ちも強く迷うところです。
過去にはBaseball Research Journalに掲載される前は、日本国内で研究内容を発表するのは実に困難でした。そこでアメリカで認められれば日本でも認められるという事でSABR機関紙での掲載を進め、結果として国内でも本の出版にこぎつけた経緯がありますが、今回もそれでは余りに情けないし勿体ない。

野球の話ではありませんが、岸田政権のたかだか10万円の給付についても、いまだ「バラマキ」であるとか「財政規律を優先」などという話がマスコミに踊る有様を見れば、官僚やマスコミに正しい政策や報道を期待するのは難しい事がわかります。マスコミの報道だけ見ていては、悪いことにまるで日本人全体が考える力をなくしているようにも見えてしまいます。
しかし一方でSNSなどでは、国債発行高は、政府が民間に幾ら円を発行したかを示すだけのもので「国の借金」なのではない事。国民生活を無視して財政規律を優先することに意味がない事など、真っ当な経済政策についての議論がなされているのも事実です。恐らく野球も同じでしょう。現場に近い人達は日々知恵を絞り、少しでも良くなろうと努力しているに違いありません。

日本にも「自分の頭で考える」野球人がいる事を信じ、そのような人達を相手に、当面は日本国内で研究を進めていこうかと思います。
しかし多くの日本人が権威主義で「自分の頭で考えて試行錯誤する」という事に慣れていないことも事実なので、前途は多難でしょう。

Stay hungry. Stay foolish. 



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?