第七回 理想的なバットの軌道と長嶋茂雄の気持ち (2021年1月12日)

長嶋茂雄と言えば、「ミスタージャイアンツ」もとい「ミスタープロ野球」だと言われる昭和の名選手ですが、そのバッティング指導は非常に感覚的でよくわからないと言われることが多かったようです。
YouTubeにその一端が記録され残っていたので、今回は、「捻りモデル」における理想的なバットの軌道を説明すると共に、長嶋茂雄のバッティング指導について考察してみたいと思います。
長島茂雄語録集1」から、その場面を抜粋(4:40あたりからです)してみます。長島さんが何を伝えようとしていたのか想像できるでしょうか。

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長嶋さんが何を伝えたかったか、わかったでしょうか。
ここで「捻りモデル」の理想的なバットの軌道を紹介します。

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これは村上豊氏の著書「科学する野球」からの抜粋です。
構えた位置より高い球にはバットを立てて、同じ高さであれば地面と平行に、構えた位置より低い球は全てすくい上げる軌道が、ボールに対して直線的であるということで、村上氏の考えを支持します。
また「捻りモデル」の立場からは、バットを立てて構えたところから、各々の軌道に対してバットを完全に平行に寝かせて、そこから上体でバットを引っ張って力を溜めていくとすれば、構えた位置から打点まで「最短距離」ではなく「最長距離」をとるので、最も体幹にエネルギー(以下「力」とします。)が溜まります。

どういう事かというと、また猫じゃらしに例えますが、猫じゃらしの茎を持って、(同じ力で)先端のフサを短い距離(例えば 3cm)引っ張った場合と、長い距離(30cm)を引っ張った場合を比べると、30cm引っ張った方が、猫じゃらしはたわみ、茎に「力」が溜まることがわかります。同様に、バットも(一般に)長い距離引っ張った方が体幹に「力」が溜まるのです。
最近では、MLBのホームラン王であるLuke Voitの軌道が参考になるでしょう。

長嶋さんの話に戻ります。長嶋さんは「ダウンスイングだろうがアッパースイングだろうが関係ない」ということを仰っています。
上図の通り、投球に対して最も直線的な軌道は、球の高さによって上から叩いたり、すくい上げたりで変わるので、どれか一つにこだわる必要はないということを言いたかったのだろうと思います。

また上図では三種類の軌道が描かれていますが、最近流行りの高く構えた場合に同様のコンセプトを当てはめると、下図の通り、理想的軌道はほとんどすくい上げる軌道になると思います。
構える高さによっても理想的軌道は変わるので、ダウンスイングかアッパースイングかなどにこだわり練習するのは意味がなく、長嶋さんが「全然必要ない」と言うとおりです。

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次に、「ダッ」「パーン」について見てみましょう。

「捻りモデル」では、バッティングは、「「力」を溜める動作」と「溜めた「力」をリリース動作」の二つの動作に分けられます。

下図は第四回でも説明した「力」を溜める動作です。出来るだけ体をしならせるのが目的なので、あまり筋肉に力を入れないようにするプロセスです。
長嶋さんの「ダッ」という動作は、「力」を溜める動作と考えれば理解できます。

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次に球を打つ動作です。球を打つには、体を大きくしならせた後に筋肉に力を入れて打つ方が強く打てます。
これは長嶋さんの「パーン」という動作は、下図の体幹に溜めた「力(エネルギー)」がリリースされた時の様子だと理解できます。

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このように「捻りモデル」では、二つの異なった動作を連続的に行っていると考えるので、長嶋さんの「ダッ」「パーン」という説明にも納得がいきます。

動画では、王さんのユニフォームのシワなどについても話されていました。ユニフォームのシワは、足を上げた際に左足股関節周りに「捻り」が入っているか確認できる重要なバロメーターであり、その状態は日々変化していたことでしょう。見事な観察でした。

長嶋さんは、バッティングの事を非常に良く理解していたと思います。惜しむらくは当時は、その感覚を十分に表現するための言葉も理論も、存在していなかったのです。

次回は、 体重移動とStay Backについて説明しようと思います。

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