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第一回 捻りモデル概観(2021年1月6日)

積極的に宣伝するつもりはないので、このサイトを訪れる人達は、「捻りモデル」を検索してたどり着く人達であろうと思います。またその中でも最初にここに来る人達は、主にプロ野球の選手、コーチ、好奇心旺盛な中高生選手など実際に野球のプレーに関わる人々、あるいはチームの組織運営に関わる方々でしょう。

2014年の発表当時は、「回転モデル」に置き換わる「仮説」としてしか発表できなかった「捻りモデル」ですが、今では実際に、プロ選手を含め様々な選手に受け入れられて成果を上げているように見えます。ですから既に仮説の段階を通り過ぎ、応用展開を模索する段階に入ったのだという認識でこのサイトから新たな発信をしようと考えました。
このサイトでは、捻りモデルを様々な実践に役立てたいと考えている読者に想定し、最新の捻りモデル研究の応用や考察についてアップデートしていきます。

捻りモデルの応用範囲は広く、単に野球選手の能力向上に留まりません。しかしプレーに関わる人たちを読者に想定しているので、当面はそうした方々が興味を引くような対象から話を進めていくことにしましょう。
まずは以下の様な内容について、全て捻りモデルの見地から、考察していこうと考えています。

・捻りモデルと回転モデル
・大谷選手不振の原因と解決策
・バットの軌道から考える長嶋茂雄の意図
・体重移動とStay Back
・なぜMLBでホームランが増え続けているのか
・捻りモデルと科学する野球
・膝を痛める動作と予防対策について
・肘を痛める原因と予防対策について

全て「捻りモデルの見地」から考察するつもりなので、次回から「捻りモデル」の動作についての説明から話を始めますが、その前に今回は、2021年現在の捻りモデルの広がり具合などについて勝手な考察をしてみようと思います。

1.捻りモデル外観

捻りモデルが、どれだけ球界に受け入れられるか見てきた人たちは、あまり多くはないと思います。動作は一瞬ですが、最近は選手や試合の動画を入手しやすくなったこともあり、スローモーションで確認することで、どの選手がどの様な動作をしているのか非常にわかりやすくなりました。

本の出版当時は、プロ球団からの問い合わせなどもあり、何人かの選手や幾つかのチームで、捻りモデルに基づく動作を取り入れようとする試みがなされたようです。しかしすぐに気づいたのは、本の中で記載していなかった「バットの軌道」について選手が混乱していたことでした。
捻りモデルは、体幹に力を溜める目的でバットを長い距離引っ張る動作を推奨するので、バットの軌道は、構えたところから最短距離ではなく、むしろ最長距離になります。しかしテレビでの解説などでは、打撃ポイントまで最短距離での軌道が良いとされていたため、実に窮屈で不自然なバットの振り方が目についたというわけです。

また「体重を後ろに残して打て」という話が出てきて、多くの選手が体重を後ろに残して打つ動作が目につくようになりました。これはMLBでのStay Backという指導方法が、「体重を後ろに残して」と誤って翻訳されたものと思いますが、ホームランになっても良さそうな打撃が外野フライに終わるような例が多々見られるようになりました。
体重移動の、(捻りモデルの立場からは)間違った動作が広まっていた状況については、日米野球を機に私のフラストレーションも大いに高まり、これら捻りモデルの本に記載していなかった記述についてアメリカ野球学界で発表するとともに、プレゼンテーションを幾つかの球団に送りつけましたものです。

それは構えた位置から下のボールについては、すべてすくい上げる軌道が、ボールに対して直線的な軌道だと主張したものなので、選手にメッセージが届いたどうかについては、動作を見る事でわかりました。
2017年以降こうしたバットの軌道やしっかりした体重移動については、一部のチームにおいては着実に広がっているように見えるので一安心しています。

2.理論と実際の関係

「科学する野球」で村上豊氏が喝破したように、野球というスポーツは力学的動作のスポーツなので、その動作が理想的であるかどうかは、力学的な観点から判断できるはずです。また理論に基づく理想的動作はただ一つだけです。

しかし実際においては、選手個々人の体の違いもあり、全ての選手が同じように理想的動作ができるわけではありません。
ですから、個々人が自分の体に合わせて理想的動作に近づけていく努力をするのですが、その時の感覚やコツといったものも選手それぞれなので、ある選手のやり方が他のすべての選手に当てはまることはありません。

理論と実践に関わる例として「打球速度を上げるにはどのようにすればいいか」という場合、「回転モデル」に基づいた理論的結論は、「(打撃時の)バットのスイングスピードを上げろ」ということになるので、選手は練習を通じてバットのスイングスピードを上げようとする事は、非常によくあります。

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しかしここで理論「回転モデル」が間違っていたらどうなるでしょう?(もちろん「捻りモデル」の立場からは、「回転モデル」は間違った理論です。)

現場での指導は「大振りせずインサイドアウトにコンパクトに打て」です。しかし「回転モデル」の理論的結論が「スイングスピードを上げろ」なので、大振りしてスイングスピードを上げた方が良いはずです。しかし大振りすると打てません。これではわけがわからず選手は混乱するはずです。
あるいは無理矢理「大振りせずコンパクトに打ったのでバットスイングが上がり打球速度が上がった」などと矛盾した結論を受け入れるしかありません。

このような理論と実践の乖離が原因で、選手は矛盾した動作の練習を要求されることもあります。「(打撃時の)バットのスイングスピードを上げること」と「フォロースルーを大きくする」といった動作は、捻りモデルから見ると、どちらか一つしか得られないので同時に行うのは「不可能」な動作なのですが、理論と実際の動作の乖離が原因で、選手はこの様なmission impossibleを求められ不毛な練習をする例も頻繁に見られます。

「捻りモデル」は、経験から得られた感覚を矛盾なく説明することができるので、「回転モデル」を「捻りモデル」に置き換えることで、選手は納得して練習を重ね力を発揮できるようになるでしょう。

今の日本野球界で、「捻りモデル」が理論として受け入れられ、動作が継承されているかというとそうではありません。捻りモデルで良い結果を得られた選手が、他の選手に捻りモデルを推奨することはありません。またある球団では、似て非なる「ツイスト」する打法を取り入れてたとも聞いています。この打法が「捻りモデル」に基づくものなら良いのですが、選手の練習風景を見たところ、どうもそうではないようです。

理論的には従来の「回転モデル」に基づいたまま、ツイストする動作だけを加えるとなると、結局のところ目的は「スイングスピードを上げる」ということになるので、パーフォマンスの向上は限られてしまうということになります。2020年の日本シリーズ、ジャイアンツの惨敗は、この辺りに起因しているとみています。

経験に基づく指導のみでは、一時期選手のパーフォマンスが良くなっても、選手が変わりコーチが代わる事で、再び混乱と低迷は避けられないでしょう。その為、古い「回転モデル」理論を、「捻りモデル」に基づくものに変える検証は必要と考えます。
しかし恐らく新しい理論を古い理論に置き換える作業は、現場の選手やコーチ主導ではなく、経営サイドや外部の人間が主導しないと進まないだろうと思います。


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