第十二回 Josh Hamiltonの悲劇 (2021年1月21日)

今回は、私が力を入れて応援していたホームランバッター、Josh Hamiltonについて書こうと思います。Josh Hamiltonの悲劇と言うと、Hamilsonは、野球選手として最高の資質を持ちながらも、アルコールと薬物依存に苦しんだ遅咲きのホームランバッターというイメージが強く、何か破滅的な出来事を連想するかもしれません。しかし「捻りモデル」の立場から考察してみると、少し違う形の悲劇が見えてきます。まずは、彼のバッティングフォームを、有名な2008年のHome Run Derby (2008 Josh Hamilton Home Run Derby) からご紹介しましょう。映像のリンクを貼っておきます。

スライド01

ホームラン競争なので、打ちやすい球がきます。Hamiltonのフォームは「捻りモデル」に則っているもので、熱烈に彼の活躍を応援することになったのも、それが理由です。(「捻りモデル」のフォームについては、第四回で説明しているので、ご存知ない方はそちらをご覧ください。)

スライド02

前足をインステップした後、上体でバットをリードし体幹に力を溜めています。ボールに対して直線的にミートするように、構えた位置とミートポイントを含む「仮想面」に対してバットを完全に横に倒し、理想的な軌道を描いています。(バットの理想的な軌道については、第七回で説明しているのでご覧ください。)

スライド03

股関節可動域が大きな選手で、股関節中心に捻りの動作が発生しています。

スライド04

体重もしっかりと前足に移しています。ごく自然でオーソドックスな、とても良いフォームだと思います。
このフォームが引退直前には、この様に変わっていました。

スライド05

構えにはあまり違いはありません。

スライド06

前足のつま先が内側を向いた、かなりのClosed stepに変わっています。
すでに嫌な予感がしてきました。
第六回で説明した大谷選手と同じ様に、「回転モデル」の罠にはまっていたのでしょうか。

スライド07

Hamilton選手は、上体を前に、打つ方向に向けて打つという感覚は、引退まで持っていたのではないかと思います。顔が横を向いていわゆる「chin-back」していますが、上体は前を向いて打っています。
「回転モデル」の罠にはまっているのではないようです。

確かにヘソ方向に強く打てるとは思います。レフト方向にも強い打球は打ちやすいでしょう。しかし問題は、この様にClosedにステップしすぎていることで、股関節周りだけで捻りの動作を受け止めることができず、膝回りにも捻り動作が入っていることがわかります。

スライド08

前回紹介した股関節は、球がカップに入っている様な形をしているので捻り動作を受け止めやすい構造をしていますが、膝関節は、捻る様にはできていません。
膝で捻る動作は受け止められないので、最終的には地面にステップしている足底がずれることで力を逃しています。

スライド10

飛び上がる様に前足を地面から離し力を逃しています。
これは彼の現役時代晩年に特徴的なフォロースルーですが、2008年のものとは違い、かなり膝を捻る、膝に負担をかけるフォームに変わっていたのがわかります。

現役時代終り近くのHamiltonの打撃は、膝を故障しがちであることもあり見ていてとても痛々しかったのを覚えています。
何とか2008年当時のフォームに戻す様に伝えたかったのですが力及ばず。両膝を手術し自由契約となってしまいました。

Hamilton自身は、左膝手術が回復した後に現役続行を望んでいたそうです。
そしてそれは「捻りモデル」の立場からは、簡単な股関節内向きストレッチとフォームの修正などによる膝への負担回避を行うことで恐らく可能だったでしょう。しかしHamiltonの希望が叶うことはありませんでした。
何と勿体無い、何という悲劇だったでしょうか。せめて日本でプレーしてもらう可能性を探れなかったのか。とても残念なことでした。

次回はHamiltonとは反対に、膝への負担を回避しながら活躍を続ける、日本のホームランバッターについて考察をしていこうと思います。

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