第三十二回 捻りモデルから考える運動能力を開発する方法/Part3 (2022年4月29日)

前回Part2の続きです。捻りモデルのメカニクスから、股関節左右に交互にかかる内向き捻り動作を長期間(リトルリーグ~中高まで)続けることで、野球選手の尻が大きくなり、投球および打撃でのパワーアップにつながると考られることを説明しました。
またPart2で記載した「命題5」を正しいと仮定した場合は、成長期に行う伝統的な「股割り」の動作は、恥骨と仙骨及び腸骨をつなぐ軟骨に対して、それらが完全に結合して寛骨になる前に、骨盤の両側において、内側から外側に広げる負荷をかけて、骨盤の形状を構造的に変化させるのが目的だと説明できることから、同じく投球および打撃でのパワーアップにつながると考えていることも説明しました。

しかし問題は、どちらも行うには難しすぎることです。

左右交互に片方にだけかける内向き捻り動作は、骨盤の内側から外側にかかる負荷が効率的でないため、長期間動作を続ける必要があることに加えて、効果に個人差が予想されます。厳しい指導者のもとで何年も野球ばかりやっていては、嫌になってしまう子供も多いことでしょう。
股割りも同様に苦行です。村田兆治や桑田真澄がやっているのは見たことがありますが、誰もができるわけではありません。

もっと良い方法はないのでしょうか?誰もが簡単にできて安全で、かつ成長期の骨盤内部に両手を突っ込んで、左右に負荷をかけるような運動は無いのか、というところまで話しました。

そうした方法の一つを紹介する前に、基礎知識として壁にさした棒の端に重りをぶら下げたときに、どの様な力がかかるかを説明しましょう。
高校時代の恩師から「垂直思考ではなく水平思考をしろ」と叩き込まれたこともあり私は話が「横に」飛びます。

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さて上図のように、壁に棒をさして端に何か(金塊としましょう)をぶら下げたとします。矢印を書き忘れましたが、金塊は重力に引っ張られ下向きに力がかかっています。
棒はこの時「てこの原理」の様に、赤丸印を支点として、下向き赤矢印の方向に回転しようとしています。また棒の反対側は、同じく赤丸を支点として上向きに回転しようとしています。(この様に、てこの原理で回転させる力を「モーメント」と呼びます)しかし実際には、壁が壊れなければ棒が回転することはなく、静止しているでしょう。

なぜ棒が回転せずに静止しているか、もう少し考えてみましょう。

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なぜ棒は動かないかというと、壁にささっている側の棒が上向き矢印の方向に回転しようとしたとき、作用反作用の法則で、壁から棒に対して反対の力(モーメント)が発生しており、棒の回転を抑え込んでいるからです。

同様に、作用反作用から生まれる力を使って骨盤に内から外に向かって負荷を発生させてみましょう。例えばこんな感じです。

スライド1

膝上を固定して、股関節を支点に左右に足を開こうとしています。膝を左右に開こうと力を入れることで、この動作は股関節周りに内から外向きの負荷(モーメント)を生み出しています。

こちらも同様です。今度はボールを挟んでいます。膝でボールを潰そうとする力をかけることで、モーメントの向きは違いますが、股関節周りに内から外向きの負荷を生み出しています。

スライド2

写真のようにまっすぐ立っていては、恥骨と仙骨及び腸骨の接合部に効果的に負荷はかからないでしょう。写真中で発生しているモーメントは、上向き下向きの縦方向のものなので、これは仙骨と腸骨の軟骨に負荷がかかるもので、大きな負荷は骨盤を痛めるように見えます。

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骨盤に対して横向きにモーメントを発生させる方が、恥骨と仙骨及び腸骨の接合部に負荷がかかり効率的でしょう。もっともこちらも、負荷をかけ過ぎれば怪我につながる動作です。

骨盤横

横方向にモーメントを発生させるには、尻を後ろに突き出して角度をつけて、膝上に巻いたゴムバンドなどを左右に開くなどすれば発生します。

ケツプリ2

こうした、骨盤の内から外にモーメントを発生させて股割り同様の効果、「両股関節の捻応力の組み合わせによる、体幹歪み応力を大きくすること」が期待できる運動は他にも多々あります。代表的なものがヒップアップマシンです。まだ成長期のうちに、年齢や体の状態に合わせた負荷による「ヒップアップマシン」などを取り入れることで、短時間に効果的に選手の投球速度や打球速度を上げられるでしょう。

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野球だけではありません。体幹の歪み応力を使った、投げる、打つ、走るといった動作は、多くのスポーツに必要とされる動作なので、捻りモデルのメカニクスを考慮したトレーニングや知識は、あらゆるスポーツの分野で運動能力の向上が見られるようになるでしょう。これは新しい研究分野で、研究を深めていく価値があるものと信じます。

応用は多々考えられます。例えばプロ野球のチームも社会人野球のチームも、完成した選手を高い契約金で取ってくるのではなく、体格が良くてやる気のある高卒の選手を育成するプログラムを検討するなどありますが、既にそうした方向に舵を切っているチームはあるようです。

現在時点での問題点は、体格や年齢に応じて、どのような負荷をどの程度かけるのが良いのかわからないことで、むやみに負荷をかければ選手の骨折などの故障につながりかねないでしょう。体育などに取り入れるには、トレーナーによる慎重な指導は欠かせません。

国民全体の運動能力が上がり、才能がある選手が増えるのは良いですが、既に受け皿が小さすぎて、プロ野球チームも社会人チームも数が少なすぎると思います。日本の経済規模を拡大させなければ、国民が活動することができません。経済規模が拡大し余暇でスポーツを楽しめる人々も増えればいいのですが、第二十九回で述べたとおり、政府、財務省主導の日本経済縮小政策が止まらず、これではチームを増やすとかスポーツを楽しむとかどころか、スポーツ分野の研究内容も、日本人に生かされる前に外国人に盗まれるだけでしょう。これを何とかしたいものです。

メディアや学者の劣化も止まらず、明らかに間違った方向に世論を誘導し更に日本経済を衰退方向にリードしています。最近の呆れた事例を紹介しましょう。西田議員は頑張ってますね。

財政再建派が増税を検討?日経新聞に掲載された佐藤主光 一橋大教授の誤った認識!

経済の分野ではありませんが、技術系の研究者からも「予算をつけてもらえなくなるので官僚が指示した環境分野への研究しかできない」という声を聞くことがあります。文系分野においても「推して知るべし」ということでしょうか。
学問の分野では、政府による「事業仕分け」などやめるべきでしょう。
何が将来有意義な研究になるかなど研究している本人すらわからないのですから。

「空と海とがインクの様に黒く塗られているとしても、僕らの心は光に満ち溢れている」

次回は、もっと身近な例をとって、ヨガのような運動が物理的に身体に変化をもたらすのか。変化させるならどのようなプロセスで変化させていくのか、などについて考えてみようと思います。


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