第二十回 ヘソベクトルから見る低反発球と野球のギャンブル性について(2021年4月26日)

先日、SABR東京支部で発表の機会を頂いたので、その内容を抜粋して紹介しようと思います。

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「低反発球はHRを減らすか?」という題ですが、第十八回と第十九回でも出てきた「ヘソベクトル」についての補足説明が中心です。

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Overviewに続きプレゼンを並べていきます。

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せっかくの機会なので冒頭で、理論と打法の違いについて述べ、現在の野球「理論」は、バットの運動量と投球速度だけを考慮する「回転モデル」理論と、バットの運動量だけでなく体幹からの力がボールに作用するとする「捻りモデル」理論の二つしかない事を述べました。そして

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現在主流である「回転モデル」理論について説明した後で、

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低反発球について、(大きさを変えずに2.8g軽くしたという事は、それだけ糸を緩くまいて変形しやすくしたボールと考えればよいでしょう。)ざっくりとこの様に紹介し

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低反発球は、「回転モデル」理論に基づいて打球速度を落とす目的で導入されたものと説明しました。

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一方で体幹からの力「F」が最大になる様に打つことで打球速度が上がると主張する「捻りモデル」理論に基づいた場合、低反発球ではボールがより大きく変形し、ボールとバットの接触時間が増えるので、逆に打球速度が増える場合があると予想しました。

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観察するポイントとして、どういう打ち方だと(F x Δt)が大きくなるかというと、

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それは、ヘソベクトルが向いている方向に打った場合です。

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なぜならヘソベクトルとは、バットを引っ張ってインサイドアウトスイングをした場合に発生する体幹の力(F)が向いている方向だからです。

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ヘソベクトルと打球方向が違い過ぎるとどうなるかというと、

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ボールに与える(F x Δt)の要因が小さくなり、バットの運動量(M1 x V1 : バットの質量 x 速度)だけでボールを打つことになるので、打球速度は小さくなります。

ですから「捻りモデル」理論では、例えば条件として、打撃時に前足への体重移動がしっかりされていて、体幹に力(F)を発生させるスイングの軌道同じであれば、低反発球を導入したことで、ヘソベクトルと同じ方向に打った打球速度は上がり、ヘソベクトルが向いていない方向に打った打球速度は下がると予想します。

ちなみに、この体幹からの力(F)とバットの速度(V1)は、いわゆる微分と積分の関係にある事から、人体は剛体ではなく粘弾性があるため多少のズレは生じますが、どちらかが最大の時もう一つは最低になります。両方が同時に最大になる事はありません。

第四回で説明した通り、回転モデルはV1を最大にするモデルで、捻りモデルはFを最大にするモデルです。この事から、バットのスイング速度を上げる事を目的とする「打法」は、全て回転モデル理論に分類できると考えます。

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私は、MLBでホームランが増えた理由は、「捻りモデル」のメカニクスを取り入れる選手が増えてきた事によるものではないかと推測しています。
もしこの推測が正しければ、低反発球を導入した今期のMLBは、ホームランの数は変わらないか増え続け、タイミングが合えば長打になり、タイミングが合わない時は凡打になる確率が高くなるので、得点をよりホームランに頼った大味な野球になることでしょう。

私は、ホームランが増えたことに対して安易にボールを低反発球に変えるのではなく、むしろストライクゾーンを高めに広げた方が良かったと思います。高めはホームランになりやすいですが、ストライクゾーンを広げることでピッチャーには有利になる面もあるでしょう。
その結果ホームランの数が増えるか減るかわかりませんが、野球の「ギャンプル性」はより高くなり、野球中毒になる観客を増やす事に貢献できるでしょう。

ホームランを減らす事よりも、野球をより面白くする条件を探った方が良かったと思います。

(追記) 
私も熱狂的に応援している大谷選手について、背中の上部が少し丸まっているのが気になります。これは推測ですが、ピッチングに際してコントロールに影響が出ているようにも見えます。
軽いゴムバンドを持った両腕を上に真っ直ぐ伸ばし、左右に引っ張る運動で改善するでしょう。




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