第二回 捻りモデルと回転モデル(2021年1月7日)

スライド01

今回から、昨年末に「捻りモデル」のポイントについてまとめたプレゼンテーションを紹介していこうと思います。実際にプレゼンテーションをするつもりで、文章を書いていくつもりです。

スライド02

実際に発表する場合は、概ね1時間程度はかかるので、一気に説明するのではなく、下記の目次ごとにアップロードしていきます。最初は、捻りモデルと回転モデルについての違いについてです。出来るだけ感覚的にわかるように説明を心がけます。

スライド03

まず従来からある「回転モデル」から説明しましょう。これが何かと言うと、ビリヤードを思い浮かべてください。動いているビリヤード球を止まっている球にぶつけます。真っ直ぐに衝突した場合、最初に打った球が静止し衝突された球が同じ速度で動き出しました。これは衝突前と衝突後で、全体として「運動量」が保存した状態です。

「運動量」が何かという事ですが難しく考える必要はありません。要するに球の重さ(質量)に球の速さ(速度)を掛け算しただけのものです。打撃の場合は、ボールもバットも動いているので少々複雑かもしれませんが、ティーバッティングならボールは静止しているので、ビリヤードとの違いは球をぶつけるかバットをぶつけるかで基本的に同じです。
バットの運動量(質量xスイングスピード)が大きければ、打球速度も大きくなるという結論は、この運動量保存則を当てはめた「回転モデル」からきています。

面白いことにこの理論では、柔らかい樹脂をバットに使った「ビヨンドMax」の様なバットが、なぜ通常のバットに比べて飛距離が出るか説明できません。ボールがバットにぶつかった時に、ボールやバットが変形してしまっては、変形により運動量が熱などに変わる事で失われ、この理論に基づけば打球速度が落ちてしまうはずだからです。私の記憶では、当初メーカーの説明は「バットは潰れてもその分ボールが変形しないから」というものでした。しかしボールが潰れなくてもバットが潰れれば運動量は失われるので、この説明は苦しかった。ビヨンドがなぜ飛ぶか説明できるのは捻りモデルです。

スライド05

次に「捻りモデル」の説明に入りましょう。根本的な違いは、「回転モデル」の場合は、打撃の際にボールが衝突するのがバットだけを想定している反面、「捻りモデル」ではボールが衝突するのはバットとプレーヤーの両方であると想定している点です。
壁に釘を打ち付けるのに、トンカチの金具を投げてぶつけるのか、トンカチを握って打つのかの違いとも言えます。
この違いについて分かりやすい様に単純な条件で説明しましょう。

140km/hの速度でボールが投げられ、地面に置かれた1kgの硬いブロックに当たりました。どうなるでしょうか。1kgのブロックはボールの勢いに弾かれてしまうでしょう。では、地面に置かれた80kgのブロックにボールが当たったらどうなるでしょうか。ボールは80kgのブロックを動かすことができず、同じ様な勢いで投げた方向に戻ってくるでしょう。
バントの時にバットをしっかり持っていると以外に遠くまで飛んでいくので、打球速度を殺すのに苦労しますね。そのイメージです。

「捻りモデル」による理想的な打撃は、バットの質量1kgだけではなく、80kgのブロックをボールにぶつける打ち方と考えてください。一方「回転モデル」の理想形は、ボールに差し込まれ、バットに当たった後で手が痺れたりする様な打ち方です。

画像5

百聞は一見にしかずと言いますが、実際にボールがバットと選手の両方に衝突し、ボールが潰れている瞬間を捉えた写真は、最近では多数存在します。

衝突の際に何が起きているのかというと、選手の体はコンクリートや金属の様に硬くはないので、ボールはバットを少し押し込むでしょう。しかし「捻りモデル」に基づく動作では、選手がバットを十分支えることができるので押し込まれたバットを押し戻すでしょう。そうこうしているうちにボールが潰れていて、結果としてボールとバットの接触している時間も長くなっているでしょう。前述のビヨンドが飛ぶのは、接触時間が長くなり、体幹からの力(エネルギー)がより伝わるからと説明できます。

野球をプレーしたことのある人は驚くでしょうが、「回転モデル」では、「力でボールを押し込む」というような、選手の体がボールに力を及ぼすことを否定してます。その様なことはできないと主張しているのです。
その根拠となるのは、私の知る限り、ペンシルベニア大学やイリノイ大学の研究者が発表した実験に基づくものでした。
実験の結果、簡単に言うと「ボールがバットに衝突した際の振動が手に伝わる前にボールとバットは離れている」と言うことが事実として確認され、そのため体幹がボールに力を及ぼすことはないという結論が導かれ定説になったという次第です。

これら実験レポートがあまりにしっかりした内容だったので、「捻りモデル」がアメリカ野球学会(SABR)の機関紙、Baseball Research Journalに記事が掲載されるまで、随分と時間がかかってしまいました。参考までに、これら実験レポートを下記に紹介いたします。

Dynamics of the baseball-bat collision (Alan M. Nathan, Department of Physics, University of Illinois, March 2000 )


Model of baseball bats (Haward Brody, Physics Department, University of Pennsylvania, October 1989)

最終的には、上記の実験レポートは、特定の条件下(「回転モデル」の理想条件)によるもので、必ずしも全ての打撃の条件に該当するものではないとの主張が認められ、peer review(2名)を得られたことから掲載されたのですが、国内で最初に「捻りモデル」の雛形を発表してから公に発表できるまで、15年もかかってしまいました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?