【R18】滅びかけた世界で、滅びゆく存在と共に戦う

序文:いきなり質問で申し訳ないが。

 読者の皆様は、「チター」というモノをご存じだろうか?おそらく多くの方は知らないだろう。どれくらいマイナーな単語であるかというと、Googleで検索をかけると調べ方によっては、「チーター」だとか「Twitter」だとかと勘違いされる結果になることもある。それほどまでにドがつくレベルのマイナーな言葉である。

 「チター」あるいは「ツィター」とよばれるモノは楽器である。16世紀ごろに開発された弦鳴楽器である。主にアルプス地方を中心に広まり、19世紀に最盛期を迎えたとされている。約30本に及ぶ伴奏用の弦と、5本、あるいは6本ある旋律用の弦があり、共鳴ボードと呼ばれる机、あるいは台座に乗せて、プレクトラムと名付けられた爪を弾いて鳴らす。奏法自体は難しいものではないのだが、上手に演奏するには扱いが難しいらしく、それ故に現在ではほとんど扱われることがなく、また有名な文学本での書かれ方が理由なのか、「滅びゆく楽器」と称されている。
※補足事項:この段落は、この後紹介する本作、及び日本チター協会HPwikipediaのツィターの記事をベースに記述しております。

 私がそんなドマイナーな楽器のことを知ったのは、とあるゲームの世界で、一人の音精(ニュムパ)、つまるところ、楽器の精霊――との出会いからである。
※注記:本記事の掲載画像の著作権はDMM.com OVERDRIVEに帰属します。

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 そのゲームのタイトルは「ガールズシンフォニー」――現在は、その作り直し作品である、「ガールズシンフォニー:Ec」(ガールズシンフォニー:アンコール)がサービスを継続している。
※補足事項:2020年2月29日現在でのことです

「ハルモニア」――その世界は、一度滅びかけた

 「ガールズシンフォニー」、そのゲームについては、まず歴史から語らせていただきたい。このゲームのプラットホームはDMM GAMESである。……と言えば誰もが思いつく代表作として「艦これ」がおもいつくであろう。その「艦これ」以降、DMM GAMESでは様々なモノを擬人化したゲームが――よく言えば量産、悪く言えば乱造――されている。本作もその流れをくむ作品のひとつであり、2017年2月14日にリリースされた。

 このバージョンでは「7 〜モールモースの騎兵隊〜」で有名なローテーションバトルを採用し、シナリオライター深見 真氏が織りなす、華やかな世界と残虐性が両立されているシナリオや、主に深川 翔太氏が作り出したまさにこのゲームの主軸が音楽である!と言わしめるレベルの質の高い鮮やかな音楽が高い評価を受けていた。なお、この二人は現行である「ガールズシンフォニー:Ec」でもスタッフとして参加しているため、この二つの評価は現在も継続中である、ということは特記しておく。

 ここでうだうだ話すよりもまずは聞いた方がいいだろう。旧作より1曲、現行作より1曲ここに掲載するので、まずはそので確かめてほしい。

 しかしながら、それ以外の部分はというと、そこまで人気ではなく、どちらかと言えば不人気の部類で、わずか7か月後の2017年9月29日をもって、長期メンテナンスに突入する。そして、ここからが非常に長い迷走をたどることになる。

 サービス開始当時は「FLOWER KNIGHT GIRL」を製作・運営するYourGamesが担当をしていたが、「FLOWER KNIGHT GIRL」側、及び旧「ガールズシンフォニー」側どちらにも発生していたFlash終了に伴うhtml5への移行問題に苦労をしていた。結果、上記作業と不評なシステムやUI等の見直しを行うため、「ガールズシンフォニー」の製作と運営を別のチームが引き継ぐことになった……のだが、なんとこの製作と運営が次々とたらい回しになっていた。一応隠そうとは努力していたようだが、正直言って、ダダ洩れ状態になっているほど、酷い有様だったのだ。
(流石にこれは噂レベル故社名は避けるが、本作の権利担当であるKAなんとか側のせいだとも言われている)

 最終的には、「かんぱに☆ガールズ」等を担当している、「DMM.com OVERDRIVE」が現在の製作・運営を受け継いでいるが、上記の経緯故か引き継いだ後も迷走に次ぐ迷走が重なり、昨年9月の東京ゲームショウでのステージでも、ゲーム画面も何も発表できない有様であり、なんとか再リリースされた2019年12月5日以降も、UIやシステムも大きく切り替わったものの、肝心のソレも前作とは違う理由で不評を買っているため、バグや不具合等の頻発も相まって、余り評判はよろしくない。これらの責任をすべて引き受けたプロデューサーの梨木氏がこれらの不満を理由に叩かれていることに、私は不憫や憐憫を覚えてしまう。いや、本音を言うと本当に可哀そうなのだよ、この人。

 とは言え、4ヶ月経過した今では多少なりとも改善されており、こういったシナリオやBGMの良さが周知されるタイプは、後々伸びる可能性があるため、私個人としては長い目でまだまだ続けていきたいと非常に強く思っている。それこそ、わざわざnoteに新規登録して、ゲーム感想文コンテストに本記事を作るくらいには。

 そんな改善された要素のひとつでもある、「低レアリティのキャラを根気よく育成を続けていれば、上位レアリティに引き上げること可能になる」ことによって、今でも最前線で戦闘を続けられるようになった「シシィ」と戦い続けている。……そう、UIやシステムが不評でも、評判の極めて高いシナリオやBGM、そして何よりもこの世界を生きるキャラクターをもう一度失いたくないからこそ、私は今、この世界で戦い続けている。そのことを強く書き狂いたいために、私は「シシィ」を軸にして、この記事を書いている次第である。

 なお、なぜ上記の要素に不評があるかの理由だが、よりキャラクターを強くするためには、極めて大量に重ねる必要があるからである。最上位レア(☆5)でも完全体にするには、同キャラクターの10凸(累計10回重ね)が必要であり、次点レア(☆4)は同レア内での完全体に10凸、レアリティ昇格後に再度完全体にするのに10凸(しかもここからは1凸に3体必要。累計で同キャラが40体必要になる)。無料ガチャでも手に入るユニット(☆1~3)なら、上記後に、さらにもう一度レアリティ昇格と10凸(ここからは1回につき5体必要……つまり合計90体の同キャラ)が必要なのである。

 ……と、このように書くと嫌気がさすかもしれないが、その分、各キャラクターは旧作と比較しても遥かに入手しやすく、オールマイティ扱いの重ね用アイテムもあるため、実際は意外と楽にできる、ということに関しては擁護しておく。……何よりも旧作では無料ガチャで入手できるユニットはそんなことが絶対に不可能だったのだから、ぶっちゃけ、低レアを活躍させる機会自体はめちゃくちゃ増えているので、そこは高く評価したいのである。ちなみに下記の画像は40凸状態(レアリティ1回昇格後、10凸済)のシシィさんである。これでも十分第一線級……というか、10凸の時点から彼女はずっと最前線で戦うことが可能になっている。

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 ……前置きが随分と長くなってしまったがそろそろ本題に入ろう。なぜ私が「ガールズシンフォニー」を楽しんでいるか。そして、なぜその表現に「シシィ」を起用しているかを。

空虚な彼女に「夢」を持たせるため――旧作のシシィ

 さて、突然だがここで感想をもらいたい。彼女からどんな第一印象を受けたか。どんな形で彼女を感じ取れたか

 ……おそらくもっとも出る言葉としては「地味」だろう。薄灰色の髪に、その自身の色をベースに濃淡だけを加えたような衣装。顔も体つきもごくごく普通であり、ともすれば「モブ」のような色合いだが、辛うじて持っている楽器兼武器のお陰でキャラクターであると認識できる。おおよそ、そんな感じだったではなかろうか?

 あぁ、いや、別にそれで怒るとかそういったことはないので安心してほしい。というか、もっと言ってしまえば、私は今でもそう思っている。もっと言ってしまうと、自分はこのゲームで最初に容姿で引かれたキャラクターは最上位レアのリンガーだし、キャラクター付けや戦闘でのエフェクトに関しては、次点レアのエミリアーナ・カヴァリエーリの方が大好きだ。ポニテ姉御系女子万歳、ロマン武器機構万歳。

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 とまぁ、自分の好みの容姿でも性格でもない、さらに言えば低レアである彼女を私は、最初の方はそのままの意味で捉えていた……のだが、彼女のある部分が気になってしまい、それ以降、自分でもよく分からないまま、彼女に好感度アイテムを与えていった。そして、そのある部分、そしてそれに起因する彼女の態度に、自分は言葉にできない何かで惹かれていってしまう。

 その部分とは、彼女の「夢」、別の言葉で言い換えれば「欲」だった。

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 「(前略)、その後は自分がお払い箱になっても構わない」、と彼女は夢を述べる。自分が必要のない存在になったら、そのときはどうしてくれったって構わない。自分が消えることが指揮者である私の役に立つかもしれない。戦闘に限らず、色々なことに使ってもらえる便利屋としてポジションが、一番。そんなことを彼女は話す。それは一見すると希死観念のようにも見えるが、それとは少し違うようにも感じる。どちらかと言えば、存在感をなくしていく、と言えばいいだろうか。

 そんな思いになってしまう一番の理由は、彼女が「チター」の音精、つまり、チターとしての業を持っていることが大きな原因である。つまり、彼女の将来に関しては、

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「誰も必要としなくなる時は、近いかもしれない」と悲観的である。なぜなら、彼女はチター。「滅びゆく楽器」だから。

 そんな彼女と行動しているうちに、ある日、彼女は指揮者の見ているそばで、彼女の特技の一つを披露する。その特技を見て、そしてその後交わした会話から、指揮者は、以前から考えいた、とあることを提案しに彼女と街に出かける。そして、その提案に対して、彼女は珍しく、心のそこからそう思っているかの如く驚愕する。その提案に対し、指揮者は真意を明かす。以前問われた、彼女の問いに対して、「戦いが終わっても、私はシシィを必要としている」と。

 それに対して、彼女は答える。それは、その問いの答えを聞いて理解した、彼女の気づき。その答えは、指揮者の考えていたこと、その思惑とは全く違うことだった。しかし、それは、指揮者の傍にいたから分かったこと。他でもない、戦争の後のことまで考えてくれていた指揮者なら、自分をどこまでも導き、求めている指揮者のもとでなら、いつまでも自分が必要とされなくなる、それが理解できたから。

 では、なぜ彼女は指揮者の問いとは違う答えを出したのか。それは、彼女に示した、指揮者の答えに対する問題点を問いただし、それについて答えられなくなってしまったことから、自覚する。そして、最後は笑みを浮かべながら、こう言うのだった。

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 これで彼女との物語は一度、幕を閉じる。そして、ここまでの話は、別に旧作でも(もちろん今作でも)味わうことができる部分である。つまり、これで本当に終わっているのであれば、思い出話として語るだけでも良い。

 ここで、もう一度、私がわざわざnoteに新規登録して、ゲーム感想文コンテストに本記事を作る理由を見返していただきたい。私は書いたはずである。この世界を生きるキャラクターをもう一度失いたくない……と。その理由をこれからお話する。

空虚な彼女が「欲」を持った瞬間――新作のシシィ

 さて、ここで一旦、タイトルの最初に書いてあることを見てもらいたい。そう【R18】と書いてあるであろう。この作品自体は、全年齢で楽しめるバージョンと、年齢制限が設けられている「Xバージョン」が存在する。そして、ここからの話は、全て年齢制限有りのバージョンを前提にして話す。

 なぜなら、本作品は「年齢制限有り」のバージョンで楽しんでもらいたいからだ。この作品は、年齢制限が設けられている部分が濃い。単なる性的表現だけではない。こちらのバージョンになると、原作担当者やこの世界観の持ち味である、残虐性や戦争のリアリティの観点等も色濃く表現されるからだ。その部分も含めて、この作品を感想でも表現したいからだ。

 さて、「ガールズシンフォニー:Ec」では既存キャラにも新たなる変化が発生している。それが「超進化」というシステムである。……まぁ、覚醒だとか第二進化とか言えば、こういうゲームではよくある追加のシステムではあるのだが。そして、それに伴い、既存のキャラとの交流イベントにも新たに追加部分が発生した。ただし、それは「Xバージョン」でしか読むことはできない。当然、「シシィ」にも追加の情事として加えられている。

 「シシィ」との一回目の情事は、とどのつまり、事故的な要素の方が大きい。敵との戦いで怪我をした指揮者を支えようと、シシィが指揮者の入浴中に浴室に入ってくる。そして指揮者の体、特に怪我をした足の部分を中心に洗っているうちに……という内容である。この情事の発生個所は先に話した個別シナリオの中間地点に配置されているためか、どちらもそれなりの好意はあるものの、という感じの表現になっているキャラクターもいる。……というか、シシィはその最たるものといっても過言ではない。それゆえかどこか感情に淡泊な部分が多い。なお、誤解しないでいただきたい。グラフィック的にはこっちの方がむしろ色々と欲情するという個人的主観だけは置いておこう。

 そして、今から話す、二回目の情事、つまりは、「Ec」部分でのみでしか味わえないのはここからである。場面は前回とは真逆の状態から始まる。戦闘中、苦悶のうめき声と共に敵の攻撃で意識を失うシシィ。指揮者はそれを受け止めながら、一時離脱を図る。

 やがて彼女は安全地帯で目を覚ますも、手足がすぐには動かせない状態である。そんな彼女は指揮者に問う、「どうして私を助けたの。私より、他の人を……」と。その答えに対し、指揮者は恐怖する。今回は幸いにも戻ってきたが、自分を常に後回しにする彼女が、いつか自分のところに戻ってこなくなってしまうのでは、と。

 そんな思いと共に抱きしめ続けていたからか、彼女もそれに気が付き、そして懺悔する。いつもはあんな敵には負けなかった。でも、今回は戦闘の時に決して抱いてはいけない雑念にとらわれてしまったからだと。

 この答えは、彼女が先の個別シナリオで最後に指揮者に語った答え―「夢」とはちょっと違う、「信念」のようなモノ――「常に戦闘のことだけを考える」というものからすれば、絶対にやってはいけないことだった。気づいても無視しなければならない。その雑念を彼女は語る。

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その言葉から続けられる、彼女の思い、告白。その言葉の重みが、指揮者を感動させ、指が震える。そして本能のままに彼女を貪りつつも、彼女の肢体の回復させるために愛撫を始める。……自分のことに無頓着な彼女に、自分を慈しむことを覚えさせるという想いと共に。

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その想いにシシィは応える。今まで一度も語られていなかった「共鳴ボード」に指揮者を例えるなど、信じられないくらい情熱的な言葉で指揮者を誘い、初回の情事とは完全に異なる熱狂的な反応を指揮者に見せる。それと同時に、初めて、本当に初めて彼女の真意が見えてくる。実は誰よりも貪欲だったのだが、それを自分の優しさでずっと封印していただけだったのだと。

 やがて情事を終え、目覚めた彼女が動かなくなっていたはずの手を動かしながら、感想を述べる。自分がまるで違う生き物になってしまったように、「欲」に対して虜になってしまったことを。けれど、その「欲」は恐怖を感じさせるが、強いものであると語る。そして彼女はこう結ぶ。

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 私はこのシーンの間、終始感動していた。しかし、それは指揮者の歓喜からくる感動とは真逆で、後悔と自責の念からくる感動だった。彼女の本当の言葉を知ったからこそ、自分の隠されていた本心に気づかされていたのだった。それこそが、「この世界を生きるキャラクターをもう一度失いたくない」という思いにほかならなかった。

 もし、この作品が上記の迷走で再開が断念されていたら……。もしこの世界がこの想いを自分が知るまで持ちこたえられていなかったら……。いや、もし自分が、「Ec」後のガールズシンフォニーの世界に行こうと思わなかったら……。

 白状しよう。実は、自分は「ガールズシンフォニー:Ec」再開直後はしばらく、この作品に触れていなかったのだ。最大の理由としては、自分がDMM GAMESでメインとしているゲームの大幅アップデートの攻略に専念し、時間を取る余裕がなかった、というのがある。……が、実のところ、先の不具合や不評を先に聞いてしまい、再びこの世界に飛び込む前に足がすくんでしまったのだ。その後、年末年始の休暇を使い、たとえUIやシステムが不評だろうと、あのシナリオ続きや新たな音楽を味わいたいと、勇気を出して、えいやと再び飛び込んだからこそ、先の絶望――シシィの本当の気持ちを知らずに終わってしまうこと――が未遂で済んだとはいえ……。

そして、音が鳴らせない私が詩を書くため、筆を取る

 シシィは私に思い出させてくれた。芸術というのは、たとえ無数のマイナス点があろうとも、一点の特筆すべきプラス点があれば、全てのマイナス点に臆さず、接するべきである、加点評価で判断すべきということを。

 シシィは私を奮い立たせた。周りの人からの評価がたとえどのようなものであろうと、自分が絶賛すべき想いを覚えたら、声を大にして、世の中の人に建言すべきであるということを。

 シシィは私に気づかせてくれた。私がこれらをやめてしまったら、私の愛した世界は、音もなく壊れてしまうことがあるということを。

 今後、「ガールズシンフォニー:Ec」がどのような経緯をたどるかは私にも分からない。少なくと順風満帆というのはあり得ないだろうし、いくら頑張ってもいつかは形すら残らず、終わってしまう世界だ、ということは概ね変わることもないだろう。

 それでも、それでも私は「ガールズシンフォニー:Ec」の世界を旅していき、そこで見つけた素晴らしい点を叫び続けるだろう。そうすれば、少しでも長く、この世界と、そしてシシィと長く生き続けることができるから。

 そして、世界が長く長く続いてゆく限り、きっと、シシィを始めとしたこの世界のキャラクターたちの、今までに感じられなかった新たな素晴らしい特徴が生み出されることを、いつまでも期待できるから。だから、今日も私は筆をとる。

蛇足:終わりに書かせていただくと。

 冒頭の「チーター」につけたリンク先は、私が先のシーンを見終わった後に、すぐに無意識のうちにとった行動の結果である。

 そう、この世界の実物のシシィ――もとい、チターを見たくなったから。

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