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2024年すけべ怪談投稿文章

「膳裸」


 私は食事が好きです。料理を味わうのはもちろんですが、食事という行為そのものが好きです。座を正して膳に向かう。飲み干せないほどの艱難辛苦があっても、この行為が肉体と精神を善い位置に戻してくれます。
 そんな私は、ときおり全裸で食事をします。料理が置かれたちゃぶ台と私、それらをぐるりと囲むように姿見を置き、全裸で正座をする自分の姿を見ながら食事をするのです。姿見は東西南北に1枚ずつとその間にも1枚ずつ、つまり合計8枚を配置して、4組の合わせ鏡が私を映すようにします。
 「合わせ鏡」という言葉、いわゆる都市伝説で聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれません。曖昧模糊な記憶ですが、特定の時間になると将来の自分や悪魔を映す、なんて話があったような気がします。しかし、合わせ鏡にする理由なんて自分を確認するのに便利だからというだけなのです。美容室の合わせ鏡と同じです、それ以外の意図などありません。

 この習慣は、食事に敬意を払える善い姿勢かどうか、細かく確認するためにおこなっています。皆様が想像されているような、無垢なる姿にこだわりがある、という訳ではありません。服を着ておりますと、身体が布で隠れてしまい調整に誤差が出てしまいます。そのための全裸なのです。
 背筋は頭頂部から通された糸が天井から吊るされているように真っ直ぐに。顎は引き、脇は締めて、肘がはらないようにする。箸や茶碗の持ち方や腕の角度、臀部のひしゃげ方は自重が上手く分散されている時のものか、合わせ鏡に映った薄橙(うすだいだい)たちを見ながら調整をします。この行為を繰り返しおこなうことで、意識せずとも善い姿勢で膳に向かえるようになるのです。

 なかなかに多忙な日々でして、食事の時間が深夜0時過ぎなんて日も少なくありませんが、そんな時間でもこの習慣は続けています。
 最近は合わせ鏡が骸骨を映すようになりました。肉月(にくづき)が落ちたその姿、骨格の段階から姿勢を確認出来て、善いですよ。

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