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【詩の森】614 汚染水か処理水か.

汚染水か処理水か
 
福島第一原発事故現場で
日々発生する汚染水―――
それをALPS処理して貯めておくタンクが
満杯状態となり
東京電力が終に海洋放出を始めたのは
2023年8月24日のことだ
これから約40年に渡って
年に22兆ベクレルのペースで放出するのだという
時の経済産業大臣は
汚染水と呼ぶのはフェイクだといったそうだが
海洋放出を認めさせたい政府にとっては
そういいたいのは山々だろう
だからそれをとやかくはいわない
政府の言い分もここでは詳らかにしない
それは天下のマスコミが
口写しに伝えてくれるはずだから―――
 
この問題の核心は
福島の汚染水が
溶け落ちたデブリに晒された水だということだ
人が近づけば一時間で即死するデブリである
そのデブリに触れた汚染水には
200種類以上の放射性物質が含まれているという
福島では
デブリの崩壊熱を取るために
毎日毎日延々と水を掛け続けている
その気の遠くなるような作業を
いったい何時までやればいいのだろうか
子孫たちは果たしてそれを引き継いでくれるだろうか
それが既に100万トンを超え
1000基ものタンクに充たされている
そして毎日90トンのペースで
増え続けているというのだ
 
これから先は引き算の話だ
この汚染水を多核種除去設備(ALPS)で
ろ過したものを東電はALPS処理水と呼んでいる
だからALPS処理でどれだけ引けるかが問題なのだ
その処理後の状態如何では
処理水と呼べるのかそれとも
汚染水と呼ぶべきなのか判断できるだろう
ところでALPSはそもそもどんな原理で動くのだろうか
東京電力の説明によれば
ALPSは大きく前処理工程と後処理工程に分かれ
前処理では薬液により異物を取り除き
後処理では
種類の違う吸着剤が充填された吸着塔を通すことで
放射性物質を取り除くという
62種類の放射性物質を取り除くために
62個の吸着塔が連結されているのだ
 
そして原理的に
ALPSでは取り除けないものが
トリチウム(三重水素)というわけなのだ
取り除けないものは他にもある
汚染水に含まれる200種類以上の放射性物質の内
ALPSでろ過される62種類以外は
はじめから手付かずである
もともとALPSは
規制基準よりも多く含まれる可能性のある
62種類だけをろ過するように設計されているからだ
しかも62種類でさえ完全除去は不可能で
規制基準以下ならよしとされる
この除去対象外の放射性物質の危険性については
人類は未だ何も知らない
それを問題ないとして排除するのは
無責任であり科学的態度とはいえないだろう
 
しかも問題はそれだけではない
放射性物資の海洋投棄は
ロンドン条約によって禁止されているのだ
ロンドン条約とは
1972年に締結された
「廃棄物その他の物の投棄による
海洋汚染の防止に関する条約」のことだ
投棄対象には放射性物質が含まれており
日本は1980年にこの条約を批准している
しかしその国内法といわれる
廃棄物の処理及び清掃に関する法律と
海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律に当たっても
肝心の放射性物質は対象外か適用除外なのだ
また海洋法に関する国際連合条約(第194条)には
海洋環境の汚染を防止するために
最善の手段を使うべきことが謳われている
 
この問題は
汚染水か処理水かといった呼称の問題ではない
原発稼働時のトリチウム放出との比較の話でもない
問われるべきは
国連条約に照らして
海洋放出が最善の手段かどうかということだろう
タンク貯蔵という手段を擲って
折角貯めたものを海に放出するのだから―――
あるいはまたロンドン条約に照らして
汚染水に含まれる全放射性物質の
1/3程度をろ過しただけで
はたして海洋投棄してもよいのかということだろう
経済産業大臣の発言はむしろ
議論を矮小化する呼び水だったのではないだろうか
こんなことで日本は世界に
顔向けできるのだろうか
 
2024.3.26

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