見出し画像

Berryz工房の魅力について


 Berryz工房のことについて説明するときに、多くの人が二言目には「個性的なグループ」と言う。これはBerryz工房のメンバーも、自分たちのアピールポイントとして言っていたことなので(もちろんスタッフ発案かもしれないが)、間違いでは無論ないのだが、そういうありきたりな言葉では魅力が十分伝わりきらないという恨みがある。結局のところ、すべての人間はそれぞれに個性的なわけであって、個性的であることが唯一のセールスポイントであるならば、Berryz工房は他のグループとそんなに変わらないということになる。しかし、当然のことながら、Berryz工房には他のグループにはないような特別な魅力がある。そしてそれは、「個性的」という一言では簡単に片付けられないものである。

 Berryz工房がいまいちブレークしきれなかったのは、そういったすぐには伝わらないような魅力を言語化して、他の人と共有しようとする人が少なかったからではないか、と個人的には考えている。もちろん熱心なファンは多くいたが、そういう人にありがちなこととして、自分の好きなものを語るときに対象と一体化しすぎて、一歩ひいて客観的に魅力を挙げるということができず、Berryz工房に興味のない人からは理解しづらいという難点があったように思う。そういうわけで、このノートではBerryz工房の魅力を、10のポイントに絞って、個人的に少し整理してみようと思った。


1)デビュー曲


 ハロプロのグループのデビュー曲は、制作陣が力を入れることが多いこともあって、後に残るような曲が多いが(スマイレージの「夢見る 15歳」やJuice=Juiceの「ロマンスの途中」など)、Berryz工房の「あなたなしでは生きてゆけない(以下、「あななし」)」もその例に漏れない。

 ただ、「あななし」には、普通の良曲というだけにとどまらない特徴的な点がいくつかある。

イ)洋楽オマージュ

 つんく♂の曲に限らず、ハロプロの楽曲には、洋楽を元ネタにしたものが多いが(代表的なものはLOVEマシーンで、編曲者のダンス☆マン自身が元ネタの種明かしをしている)、「あななし」も発表当初からJustin TimberlakeやJay-Zがネタ元なのでは?、と話題になり、洋楽好きの人にも関心を持たれ得る曲になっている。

ロ)つんく♂コーラス

 つんく♂がプロデューサーだった時代のハロプロの楽曲には、つんく♂のコーラスが入っている曲が結構あるが、「あななし」はその中でも代表的な曲である。「あななし」のように、ほとんど全曲を通してつんく♂も一緒に歌っているのは、つんく♂がコーラスに参加している曲の中でも稀で、その意味で「あななし」はつんく♂の関与が最も高い曲の一つといえる。

ハ)MV

 MVがさいたまスーパーアリーナで撮影されており、MVに贅沢に金を使うことがまだできた時代背景が窺え、モーニング娘。全盛期の残り香が感じられる。後にBerryz工房は、2007年に平均年齢最年少でさいたまスーパーアリーナ単独公演を行っており(この記録は未だ破られていない)、色々と縁が深いコンサート会場となっている。

二)複数バージョン

 2012~2013年は、℃-uteが「②℃-ute神聖なるベストアルバム」、モーニング娘。が「The Best! 〜Updated モーニング娘。〜」と、それぞれ昔の曲を再録したベストアルバムを出した。その中で、Berryz工房は「あななし」のみ、2013年にリリースされたオリジナルアルバムで再録バージョンを出した。メンバー減はあるものの、当時もいたメンバーで再録という意味では、℃-uteと同様であるが、「あななし」が少し特殊なのは、2004年のオリジナルバージョン、2013年の再録バージョン、更に2015年に再々録したものを加えてリミックスしたバージョンが2015年にリリースされたベストアルバムに収録され、合計3バージョンが存在するということである。これは、ハロプロの楽曲では唯一のパターンであると思う。


 残念ながら公式動画ではないが、この曲の魅力、ひいてはBerryz工房全体の良さをあまなく引き出していると個人的に思っている動画を貼っておく。

 極言すると、この動画を見て心が動かされない人には、Berryz工房のことを語っても無駄だとさえ思う。

 「あななし」を使って、約10年のグループの歴史を想起させるという演出は、2013年の最初の武道館公演で行われたが、2014年のベリキュー武道館公演では「あななし」はセットリストに入っていなかった。そういう意味で、「あななし」は、決して代表曲という位置づけではなかったように思うが、Berryz工房の歴史の長さをこれほど端的に表せる曲は他にないわけで、もっとフォーカスしてもいい曲だったと思う。


2)初期楽曲


 Berryz工房で初期楽曲と言った場合、主に1stアルバムと2ndアルバムを指すが(広義で4thアルバムまで)、これらのアルバムは、アルバムには収録されていない同時期のカップリング曲も含めて、いわゆる業界人やアーティストからの評価が高い。

イ)業界人からの評価

 2019年にタワーレコードが行った「ハロプロアナログ化プロジェクト」という企画で、タワーレコード限定のアナログ盤レコードが発売されたときに、第1弾、第2弾と合わせて計6枚がハロプロの全アルバムの中から選ばれたが、その内の2枚がBerryz工房の1stと2ndであった。他は、モーニング娘。の2ndと4th、タンポポの1st、松浦亜弥の1stと、いずれも音楽的に定評のあるアルバムばかりである。時期的にBerryz工房のアルバムは、これらのアルバムの中で最後にリリースされたものであることから、つんく♂の創作才能が最も発揮された時代を締めくくるものとしての位置づけがされているように思う。

 この企画でBerryz工房のアルバムが選出されたことは勿論、タワーレコードの社長である嶺脇育夫氏がBerryz工房のファン(いわゆる「ベリヲタ」)であることと無関係ではないと思われるが、それでもプライベートなものでなく、商品として売り出すものという基準で選ばれたものであるから、業界人から見た音楽的価値の目安として捉えていいように思う。

ロ)アーティストからの評価

 Berryz工房の初期楽曲群を評価しているアーティストの中で、そのことを広言し、かつその事実がよく知られているのは、Base Ball Bearのボーカルでソングライターでもある小出祐介である。多少誇張は入っていると思うが、Berryz工房の1st、2ndアルバムの自分にとっての音楽的価値を、Pink Floydのアルバム「狂気」、「ザ・ウォール」にそれぞれ喩え、手放しで絶賛している。

ハ)「楽曲派」

 現在のアイドルシーンでよく使われる、「楽曲派」という言葉は、初期のBerryz工房(及び先行グループのZYX、あぁ!)がその発祥だという、かなり信憑性のある説が存在する。もともとは、年少のアイドルそのものには興味がなく、その楽曲に興味があるんだという、アイドルに嵌った音楽愛好家が、自嘲を交えて言い逃れをするときに使われていた言葉らしいが、時とともに使われるコンテクストが変わっていき、ルックスではなく楽曲で勝負するアイドルという意味で現在は主に使われている。

 この言葉が市民権を得るようになったのは、BiSやでんぱ組の登場によってアイドル音楽に触れた音楽業界の人たちが、アイドルシーンのアクターとして積極的に関わるようになってからだと思う。BiSに衝撃を受けたという電撃ネットワークのギュウゾウが主催し、「楽曲派最後の砦」を標榜する「ギュウ農フェス」が始まったのが2015年、でんぱ組によってアイドル音楽への見方を変えた音楽プロデューサー・加茂啓太郎がフィロソフィーのダンスを立ち上げたのが、同じく2015年。さらに、楽曲派の筆頭と目されるBiSHが結成されたのも2015年。奇しくも2015年は、Berryz工房が活動休止した年である。この「楽曲派」という言葉がもう少し早く浸透していれば、Berryz工房も、例えば「元祖楽曲派」のようなキャッチコピーでイメージを作り上げることができたかもしれない。


 つんく♂自身が、会心の作として名前を挙げることのよくある「」は、1stアルバムに収録されている曲である。公式チャンネルにある、ライブ動画を貼っておく。


3)代表曲


 Berryz工房には、グループ名を聞いたら誰もが思い浮かべるだろうというような曲は、残念ながらほとんどないといっていい。しかし、ある程度の知名度がある曲は勿論あり、以下にそれらの曲を紹介する。

イ)「付き合ってるのに片思い」

 2007年に紅白歌合戦に出場したときに歌った曲であり、後述のカバー曲を除き、ハロプロファン以外の人に一番知れ渡っている曲の一つであると思う。Berryz工房のファンとして知られる、フットボールアワーの岩尾望が好きな曲として、ことあるごとに曲名を口にしていたので、それを通じて知られている場合もあるように思う。また、北京オリンピックの競泳会場で流れたり、振付師の竹中夏海が、紅白でこの曲を披露しているBerryz工房を見てアイドルの振付師を志した、等のエピソードがある。

ロ)「スッペシャル ジェネレ〜ション」

 ハロプロファン内では、もしかしたらBerryz工房の楽曲の中で一番知られている曲かもしれない。盛り上がり曲としては、ハロプロ楽曲の中でも有数で、非公式で行われている「ハロプロ楽曲大賞」の1位を、リリースされた2005年に獲得した。編曲は大御所の馬飼野康二によるもので、いかにつんく♂が当時のBerryz工房に力を入れていたかがわかる。

ハ)「ライバル」

 上述の「ハロプロ楽曲大賞」の1位を2009年に獲得した曲(Berryz工房の曲で楽曲部門1位になったのは、これらの2曲のみ)。ファンに合唱させる部分があり、Berryz工房のライブの特徴とされる、メンバーとファンとの一体感を象徴する曲の一つである。

ニ)「友達は友達なんだ!」

 2010年の「ハロプロ楽曲大賞」のMV部門で1位となった曲(MV部門で1位となったのはこの他に、2013年の「ROCKエロティック」がある)。その歌詞は秀逸で、Berryz工房の世界観を最もよく表している曲の一つといえる。


 この他、「なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?」と「ギャグ100回分愛してください」は、それぞれアニメのテレビ番組・映画とのタイアップがあり、曲名は知らなくても、メロディーは知っているという、非ハロプロファンの人が一定数いると思われる。

 また、「VERY BEAUTY」はハロプロメンバーのバースデーイベントの定番曲の一つであることから、ハロプロファン内では良く知られており、「恋の呪縛」、「ジリリ キテル」、「胸さわぎスカーレット」などの初期の曲の知名度は、後期に比べて比較的高い(これは、その頃はハロプロの勢いがまだ残っており、ハロコンがまだアリーナで出来た時代であり、多くの人が耳にする機会があったことと関係していると思う)。

 Berryz工房のコンサートは、有名曲ばかりで固めたセットリストで行うということが比較的少なかったこともあり、特定の曲に人気・知名度が集中するということはなかった。特定の曲によってイメージが固定され、その脱却に苦労するアーティストがいることを考えると、そのことは良かったかもしれないが、代名詞になるような曲がもしあったならば、グループの名前を聞いてイメージが湧きやすいという側面もあるので、一概に良し悪しを言うのは難しい。

 ちなみに、最初の項目で「あななし」が2回目の武道館のセットリストに入っていなかったことについて触れたが、Berryz工房が行った3回の武道館公演全てで歌われた楽曲は、「スッペシャル ジェネレ〜ション」「ライバル」「cha cha SING」「一丁目ロック!」「世の中薔薇色」である。いずれも観客のコール・レスポンスに特色がある楽曲である。アルバム曲が2曲も入っていることからもわかるとおり、Berryz工房のコンサートに初めて来る人たちのために知名度のある曲を選ぶのでなく、ライブでの盛り上がりを優先させてセットリストを組んでいたことがわかると思う。


  なお、Berryz工房の曲の知名度は比較的低いと上で言ったが、2008年ぐらいまでは、アニメを初めとするサブカルチャーへ、かなりの影響を及ぼしていた。このことは、アニメ「銀魂」に、2006~2008年の間の複数回、Berryz工房と℃-uteを模したキャラクターが登場していることからも窺えるが、さらに有名なのは、2006年に放映されたアニメ「涼宮ハルヒの憂鬱」のエンディングテーマ曲「ハレ晴レユカイ」の振り付けが、「スッペシャル ジェネレ〜ション」と「ギャグ100回分愛してください」のダンスを流用したものであるということである。この「ハレ晴レユカイ」は、そのダンスも含めて、アニメファンの間では根強い人気を誇っており、つい最近(2020年)でも、当時の声優陣や、その他著名人がYouTubeにUpした「踊ってみた」動画が驚異的なペースで再生されたことが話題になった。ダンスの流用自体は、アニメ監督自身が公に認めていることであるが、「ハレ晴レユカイ」のダンスが話題になったときに、これまでアップフロントが反応したことはなく、その話題に乗っていこうという姿勢を見せていないことは残念である。


 最後に、公式チャンネルにある、「付き合ってるのに片思い」のライブ動画を下に貼っておく。


4)海外人気


 Berryz工房は、2015年の活動休止の時点では、ハロプロの中でモーニング娘。を上回り、最も多く海外公演を行っていたグループであり、ハロプロの「海外担当」と呼ばれたり、名乗ったりすることもあった。海外人気の高さの一端は、MVへの外国語コメントの多さからも窺える(もっとも、Berryz工房活動時は、全てのハロプログループが現在と比べて海外で人気だったが)。以下にBerryz工房の海外での人気の特徴的な点を挙げる。

イ)タイでの人気

 Berryz工房の海外人気で特筆すべきは、特にタイで人気が高かったことである。これには、2008年にリリースされた 「行け 行け モンキーダンス」が大きく寄与している(タイでは、猿が国民的な人気動物であり、同曲が人気となったのは、おそらくそれが理由と思われる)。2010年には、タイを代表する体育館で約4000人の観客を前にコンサートを行っており、その後、2013年と2015年に、規模は年々小さくなったものの、それぞれコンサートを行っている。

ロ)タイ映画出演

 上述のタイでの人気は、2014年末公開のタイ映画「The One Ticket」でBerryz工房がモチーフになり、カメオ出演するまでに至る(あらすじは、Berryz工房のファンである娘の父親が、Berryz工房のコンサートチケットを獲得するために奔走するというもの)。興行的には日本で配給されるほどのヒットにならず、残念ながら日本で大きな話題になることはなかった。また、公開がBerryz工房の活動停止直前の時期だったためもあるのか、この件をメディアに取り上げるようにアップフロントが積極的に働きかけをした気配もなかった。日本のアーティストではPuffyが、アメリカのアニメで、自分たちをモデルにした主人公のキャラクターに扮したことがあったが、本人たちが直接与り知らないところで映画が企画されたのは、極めて珍しいケースだったと思う。映画が公開された2014年は、BABYMETALが初のワールドツアーを行い、海外人気を日本で(ときには針小棒大に)喧伝して、人気をいわば逆輸入する試みを始めた年でもあるので、タイミングさえ合えば、Berryz工房も似たようなことをできたかもしれないと思うと、少し残念ではある。

ハ)フランス Japan Expo招待

 2014年には、フランスで開催されたJapan Expoに℃-uteと共に、名誉ゲスト(GUEST OF HONOR)として招待された(同年の音楽部門の名誉ゲストは、他にYOSHIKIのみ)。ハロプロではそれまでに、2010年にモーニング娘。が、2013年に℃-uteが同様に名誉ゲストとして招待されているが、これ以降はどのグループも参加していない。また、Japan Expoには、これまでに他のアイドルグループがプロモーションを兼ねてかなり多く参加しているが、名誉ゲストとして招待されたグループはない。


 公式チャンネルにある、Japan Expoでのライブ動画を貼っておく。


5)アカペラ


 Berryz工房は、2009年から2010年にかけて、3つのコンサートツアーで、アカペラの歌唱を披露した。アカペラグループのINSPiの指導によるもので、INSPiは後に、℃-uteやこぶしファクトリーのアカペラ指導もすることになる。その意味で、Berryz工房のアカペラ挑戦は、こぶしファクトリーの代名詞ともなったアカペラ・パフォーマンスへの道筋をつけたと言ってもいい。

 残念ながら、Berryz工房は、それ以降のコンサートでアカペラをすることはなかったのだが、2014年にフランスを訪れた際の公開質問会でも、アカペラ関連の質問が出るなど、ファン側からの需要はあったように思う。アカペラをやらなくなったのは、2010年秋冬ツアーの「 ベリ高フェス!」からであるが、ちょうどそのコンサートツアーから、コンサートの構成などにBerryz工房のメンバーの意見が取り入れられるようになったらしいので、そのことともしかしたら関係しているのかもしれない。

 2010年の段階で、Berryz工房のアカペラは相当なレベルにあったと思うので、そのまま継続していれば、こぶしファクトリーのようにアカペラ楽曲を音源化するようなこともあり得たかもしれないが、結局のところ、Berryz工房にとってアカペラは、十分に引き出されることのなかったアピールポイントという位置づけにとどまってしまった。そういうわけで、この項目は短く終わらざるを得ない。ただ、その代償であるかのようにして得た、コンサートのプロデュース能力は、集大成ともいえるラストコンサートを自己プロデュースすることによって発揮されたということは付言しておきたい。

 

 非公式の動画ではあるが、Berryz工房のアカペラ歌唱が3つ全てまとまっているものを下に貼っておく。


6)イナズマイレブン


 2009年から2010年にかけてBerryz工房は、アニメ・イナズマイレブン(以下、「イナイレ」)のエンディング・テーマを担当した。そして、当時イナイレを見ていた人たちが成人に近づくにつれ、あるいは成人に達するにつれ、非ハロプロファンのBerryz工房に対するイメージは、このタイアップによって決定づけられるようになってきている(さすがにBerryz工房=イナイレとまではいかないが、それに近いものになりつつある)。

イ)MV

 Berryz工房のMVの中で再生回数が多い2位と3位を、イナイレ曲である「 本気ボンバー!!」と「流星ボーイ」がそれぞれ占めている。ここ数年の再生回数に限ると、この2曲がすべてのMVの中で群を抜いて多い。

ロ)カラオケ

 カラオケで歌われている曲も、イナイレ関連曲(上記2曲の他に、「青春バスガイド」、「雄叫びボーイ WAO!」、「シャイニング パワー」がアニメの、「マジカルフューチャー!」がゲームのエンディングテーマとして使われている)が上位を独占している。

ハ)非公式動画

 YouTubeにアップされている非公式の動画でも、イナイレ曲を扱ったものの再生回数が多く、中には2021年1月時点で150万回近く再生されているライブ動画もある。


 アイドルグループのYouTube再生回数データを見ると、他の解散したグループに比べて、活動休止・解散後も衰えないBerryz工房と℃-uteの人気に驚かされる。Berryz工房の場合、その変わらぬ人気は、イナイレとのタイアップを通じて非ハロプロファンにまでファンの裾野が広まったことによって支えられているように思う。もし、今もBerryz工房が活動していたら、イナイレを見て育った人たちが自分たちの趣味にお金を使える年齢に達していることもあり、かなり面白いことになっていたと思う。


 下は、公式チャンネルにある、「雄叫びボーイ WAO!」のライブ動画である。


7)ベリキュー


 ハロプロは、グループ間のコラボレーションが多いが、その中でもBerryz工房と℃-ute(両グループ合わせてしばしば「ベリキュー」と呼ばれる)が行ったコラボレーションの数の多さは群を抜いている。同じオーディションから生まれたという出自の特殊性も含めて、両グループの関係性は、日本のアーティストでは他に類を見ないものである。以下に主なコラボレーションを挙げる。

・ 競作曲(同じ曲をBerryz工房と℃-uteがそれぞれ別に歌う)が2曲(2008年の「ダーリン I LOVE YOU」と2012年の「青春劇場」)

・ 合同曲(Berryz工房と℃-uteが共同で一つの曲を歌う)が2曲(2011年の「甘酸っぱい春にサクラサク」と2012年の「超HAPPY SONG」)

・ 合同コンサートツアーが2回(2008年春と2011年秋)

・ 合同コンサートが2回(2014年のフランス Japan Expoでのコンサートと同年の「Thank you ベリキュー!in 日本武道館」コンサート。ただし、「Thank you ベリキュー!~」は、合同とは銘打っているが、実質的に連日で各グループがそれぞれの単独コンサートをやっただけと見ることもできる)

・ 合同の舞台が2回(2011年の「戦国自衛隊」と2012年の「キャッツ・アイ」。ただし、「キャッツ・アイ」は両グループの選抜メンバーのみ出演)

・ 合同主演の映画が1つ(2011年の「王様ゲーム」。ただし両グループがまだハロプロ・キッズ時代に主演した「仔犬ダンの物語」(全員が出演しているわけでないが)を含めるならば2つ)

・ 合同のテレビ番組が一つ(2008年に半年間放送された「ベリキュー!」)

 この他、合同のイベントなど多数。また、Berryz工房と℃-uteのメンバーから選抜されて(ときには他のグループのメンバーも加えて)多くのユニットが結成された。Buono!がその中では最も有名。


 これだけの数あるコラボレーションの中でも特筆すべきなのは、合同曲の「超HAPPY SONG」。ただ単に同じ曲を一緒に歌うというのではなく、2つの異なる曲を重ね合わせたら1つの曲になるというアイデアは当時話題になり、今では「ハロプロっぽさ」を形作る数多くの要素の内の一つとして受け入れられているように思う。そのことを間接的に示すエピソードを一つ。宝塚でハロプロにインスパイアされた舞台が作られたときに、ハロプロ好きで知られるヒャダインが、これもハロプロファンの演出家に依頼されて制作した舞台中で歌われる曲の構成が、「超HAPPY SONG」と同様のものだった。「ハロプロらしい」曲を作るというときに、二人のハロプロファンが共通の言語コードとして「超HAPPY SONG」を思い浮かべたというのは非常に興味深い。

 そういうわけで、「超HAPPY SONG」のライブ動画を貼りたいのだが、残念なことに「超HAPPY SONG」関連の動画(つんく♂へのインタビューなどを含む)が多数上げられていた公式のモベキマスチャンネルは現在非公開になっている。ただ、動画自体は消去されていないので、「超HAPPY SONG」の仕掛けが普通のライブ動画より良くわかる、ダブルスクリーンのライブ動画を下に貼っておく。

(モベキマスチャンネルが非公開になっているのは非常に残念。たとえ「超HAPPY SONG」のコラボレーションが期間限定のものだったとしても、上述のエピソードからもわかるように、曲自体とそのアイデアはいつまでも残るのだから、後から誰でも動画にアクセスできるような形で残しておくべきだった。下の動画の再生回数が、そのクオリティに反して少ないのは、チャンネルが非公開だということが大きな理由だと思う。)


8)カバー曲


 Berryz工房は、シングル曲では「ジンギスカン」と「cha cha SING」の2曲、カップリング曲では「Loving you Too much」(「cha cha SING」のカップリング)と「I like a picnic」(「アジアン セレブレイション」のカップリング)の2曲、合計4曲、海外の曲をカバーしている。

イ)つんく♂プロデュース

 特徴的なのは、上に挙げたカバー曲のすべてが、つんく♂プロデュースであること。これは、「ジンギスカン」のリリースと同じ年(2008年)に出された、モーニング娘。のシングル「ペッパー警部」(作詞は阿久悠)とアルバム「COVER YOU」(全曲が作詞家・阿久悠のカバー)のいずれもが、つんく♂プロデュースでなかったことを考えると、余計に際立つ。

 「ジンギスカン」は、以前に行われた日本語カバーの際の日本語詩をそのまま使っているが、つんく♂はコーラスに参加している。「cha cha SING」、「Loving you Too much」、「I like a picnic」はいずれも、つんく♂が日本語詩を担当している。

 ちなみに、つんく♂が(舞台曲を除いた)全曲をプロデュースしたグループ(派生ユニット・スペシャルユニットを除く)は、Berryz工房の他に、活動期間が約1年半と短命に終わった太陽とシスコムーンしかなく、オリジナルアルバムを3枚以上出しているグループでは勿論Berryz工房のみである。

ロ)ジンギスカン

 「ジンギスカン」は運動会などでよく使われる、非常な有名曲であり、ときにはBerryz工房のバージョンが使われることもあることから、Berryz工房がカバーをしているということは、特にハロプロファンでない人でも知っていることがある。また、リリース時、当時の人気番組だった「IQサプリ」に、曲に合わせてBerryz工房が踊るコーナーがあり、そこでBerryz工房が「ジンギスカン」をカバーしているということを知った人もいると思われる。MVの再生回数も300万回を超えており、再生回数の多さでは、「cha cha SING」、「本気ボンバー!!」、「流星ボーイ」に次ぐ4位につけている。

ハ)cha cha SING

 「cha cha SING」は、タイのヒット曲のカバー。Berryz工房のMVの中で最も再生されている曲でもある。カバー曲にもかかわらず、ハロプロのコンサートでも非常に盛り上がる、ハロプロ屈指のお祭り曲として定着した。関西の番組のジングルとして使われていたり、宝塚のタイを舞台にした作品で(映像には残らなかったが)使われたり、色々な方面で耳にすることがある。また、タイ人歌手がBerryz工房のバージョンを再カバーするなど、この曲は、音楽を通じた日タイ文化交流にも貢献していると言える。

ニ)Loving you Too much

 「Loving you Too much」も、タイのヒット曲のカバー。カップリング曲でありながらMVも作られ、Berryz工房の活動休止前に公式が行った、Berryz工房のベストソング投票企画で、並みいる有名曲をおしのけて1位となるなど、ファン人気の高い曲になっている。


 下は、ハロコンで「cha cha SING」が歌われたときの会場の盛り上がりがわかる、公式チャンネルのライブ動画である。


9)ガールクラッシュ


 イナイレとのタイアップが終わった後、2011年にリリースされた「 ヒロインになろうか!」以降の楽曲は、一見(一聴?)すると曲調もバラバラで、一貫した方向性がないようにも思える。しかし、Berryz工房活動時には人口に膾炙していなかった「ガールクラッシュ」という概念を、後期のBerryz工房楽曲群に当てはめれば、つんく♂がBerryz工房に託した世界観を理解できるように思う。

 「ガールクラッシュ」という言葉は、もともとはK-POPの用語だということで、女性が憧れる(可愛いだけでなく、強く、格好いい)女性たちを指すらしい。これをコンセプトにした代表的なK-POPグループがBLACKPINK。

 この「ガールクラッシュ」という概念とBerryz工房の間に親和性があると感じている人の一人が直木賞作家の朝井リョウで、Berryz工房は今のK-POPが必死にやっているガールクラッシュを先取りしていたという旨の発言をしている。

 Berryz工房の「ガールクラッシュ」性を最も表している曲の一つは、おそらく「WANT!」であろう(MV再生回数も、後期楽曲では「cha cha SING」を除いて最も多く、マツコ・デラックスも、この曲を好きだと発言したことがある)。個人的には、その延長線上に、軍歌っぽいということで話題になった「愛はいつも君の中に」があると思う。

 後期のシングル曲にはその他に、ディスコナンバーの「アジアン セレブレイション」、「ゴールデン チャイナタウン」、EDMの「サヨナラ ウソつきの私」、ゴシックな世界観を持ったロックナンバー「ROCKエロティック」、ハウスミュージック風の「大人なのよ!」などがあるが、それらに一貫しているテーマが、主体性を持った女性像の表現だと思う。つんく♂から課せられたこの課題に、Berryz工房のメンバーはうまく応え、実際にメンバー自身が主体性のある女性だったかどうかは別にして、少なくともそういうイメージを発信できていたと個人的には思う。ただ、その頃にはまだ「ガールクラッシュ」のようなキャッチーで、簡単にスローガンになるような言葉がなく、Berryz工房は理解しづらいという印象だけが残った。そうして結果的に、時代を先取りし過ぎたようになってしまったのは残念である。

 こういった「ガールクラッシュ」路線からは少し外れるが、個人的に印象的な曲は、ラストシングルの中の一曲である「ロマンスを語って」である。つんく♂自身がライナーノーツに書いているように、モータウン調の曲であるが、ラストシングルになってもなお新しい音楽性に挑戦させたというのは非常に興味深い(もちろん、モータウン調の曲がそれまでのBerryz工房の曲になかったわけでなく、例えば2006年の「笑っちゃおうよ BOYFRIEND」のような佳曲もあるが、最後になってもう一度その方向性を取り上げたという姿勢が個人的に面白いと思う)。そういった「攻め」の姿勢は歌割にも表れていて、メインボーカルを2人だけにとらせ、他の5人はコーラスに回らせるという、できるだけ全員に花を持たせようとする現在のハロプロとは対極にあるようなことを、あえてラストシングルでしたつんく♂には感服する。このように、自分が歌わせたい曲を作るというつんく♂の姿勢は、特にBerryz工房に関して一貫しており、ラストコンサートの後のブログにある「まだまだ歌わせたい曲はある」というのは、つんく♂の本音だった気がする。

 後期楽曲群の中でも異彩を放つのは、モーニング娘。の「THE マンパワー!!!」と並ぶ怪曲として言及されることの多い「1億3千万総ダイエット王国」である。発表当時はそれほど評価されていなかったと思うが、つんく♂がプロデューサーを退いて以降、奇抜な新曲も少なくなり、希少価値が高まって、評価する声が多くなってきた印象である。ハロプロの音楽を取り上げたテレビ番組(2018年放映)でヒャダインが、ハロプロ全楽曲の中でのオススメとしてこの曲を挙げたのは興味深かった。


 下の公式ライブ動画は、Berryz工房が2014年のひなフェスで「1億3千万総ダイエット王国」を歌ったときのものである。この怪曲を見事に自分たちのものとしているBerryz工房のパフォーマンス力は、もっと評価されていいと個人的には思っている。


10)メタ構造曲


 つんく♂の作る曲の特徴として、いわゆる「当て書き」的な曲が多いということが挙げられる。したがって、つんく♂曲では、歌詞の主人公がメンバーを想起させることがしばしばあり、極端な場合は、メンバー自身が歌詞に登場するときもある(モーニング娘。の「女子かしまし物語」やももちの「ももち! 許してにゃん♡体操」)。この構造は、小説理論でいわれるところの「メタフィクション」(実在人物を小説に登場させることなどによって、リアルとフィクションの区別を揺るがせる手法)を彷彿とさせるものである。

 しかし、「メタフィクション」とつんく♂が書く「当て書き」曲との違いは、つんく♂の曲の場合、歌い手であるメンバーがどういう人物かを聞き手が知らなければ、曲の持つメタ構造そのものに聞き手が気づかないということである。つまり、或る曲がメタ構造を持っている(曲の歌詞に実在の人物(メンバー)が登場している)かどうかを知るためには、メンバーに関する知識が必須となる。

 ただ、歌詞に登場する人物が、手に取るようなキャラクター性を持っていて、それが曲の聞き手に、歌い手とは別の実在の人物(自分や周りの人たち)を想起させるものだった場合、歌い手(メンバー)のことを知らなくても、その曲がメタ構造を持っているように聞き手に映ることがある。そして、そういった曲は特にBerryz工房に目立つ気がする。

 「アイドル10年やってらんないでしょ!?」は、まさにそのような曲であり、この曲を例にして、上に述べたことを説明してみよう。つんく♂がこの曲の歌詞を、Berryz工房のメンバーを意識しながら書いたことは明白である。ハロプロファンは当然、歌詞の主人公がBerryz工房のメンバーに他ならないことを知っており、そこにメタ構造を読み取る。つまり、歌い手(Berryz工房)は、フィクションの世界を歌っているのではなく、自分たち自身にまつわることを歌っており、聞き手(ハロプロファン)は、曲を聴きながらリアルとフィクションの狭間を漂うことになる。しかし、Berryz工房のことを全く知らない人でも、身近にアイドル活動を10年間やったことがある人がいるならば(あるいは、自分自身、アイドル10年やったことがあるならば)、歌詞の主人公をその人に置き換え、Berryz工房が歌っていることはまさにリアルの世界のことだと感じる可能性がある。つまり、そこにメタ構造を読み取り、リアルとフィクション(歌詞)の区別があやふやになる可能性がある。

 こういうことが起こり得るのは、つんく♂がBerryz工房に対して曲を当て書きするとき、範型的に人物像を描くので、共通のキャラクターを持った人と置き換えるのが比較的容易だからではないかと思う。よく、Berryz工房のメンバーは「キャラクターが立っている」という評がされていたが、それとも無関係ではない気がする。いずれにせよ、Berryz工房の当て書き曲は、例えば「大人なのよ!」のように、歌詞の登場人物のキャラクターが浮かび上がってくるような曲が多いというのが、個人的な印象である。

 余談になるが、つんく♂の創作姿勢がよく表れているのが、℃-uteにラストシングル曲を提供した際のエピソードである。℃-uteのメンバーに、曲を書く前にメールでこと細かにインタビューをしたそうだが、その理由は、最後の曲でメンバーに嘘を歌わせたくないというものだったらしい。不思議なのは、それまでにも℃-uteに当て書き曲をつんく♂はたくさん作ってきたはずなのに、そういうインタビューをしたのは初めてだったらしいことである。もしかしたら、最後の最後になって、℃-uteのメンバーのことを自分は本当に知っていたのだろうかという不安が過ぎったのだろうか。そうだとしたら、Berryz工房のときにはこういうエピソードがなかったのは、Berryz工房メンバーのキャラクター把握につんく♂が相当の自信を持っていたからなのかもしれない。

 「アイドル10年やってらんないでしょ!?」とは違うパターンで、メンバーのことを知らなくても曲のメタ構造が読み取れる曲が、ラストコンサートの一番最後に歌われた「Love together!」である。歌詞はもちろん、Berryz工房の最後の心境を扱っている。そして、そこに出てくる「小さな駅も大きな街も初めて行った外国も楽しかったね」というフレーズなどは、Berryz工房が様々な都市や外国でコンサートをしてきたグループであるということを知らなければ、歌い手(Berryz工房)が自分たちのことを歌っているということはわからない。

 しかし、ラストコンサートで涙を流しながらこの曲を歌っているBerryz工房を見るとき、Berryz工房のことを知らない人であっても、「Love together!」に登場する人物は、他ならぬ歌い手その人だということが瞬時に理解できる。そういう意味で、「Love together!」は、ラストというシチュエーションになって初めて、曲の持つメタ構造が浮き彫りになるという、非常に面白い作りをした曲なのである。


 下の公式のライブ動画は、まさにラストコンサートのときのものであるが、コメント欄には、Berryz工房のことを詳しくは知らないけど泣けた、という趣旨のものが散見される。このように、この映像が人々の涙を誘うのは、Berryz工房の歌唱に心を動かされてというのもあるが、「Love together!」という曲の力、その構造に因るところもあると思う。


 以上、10個のポイントに渡って、Berryz工房の魅力を自分なりに整理してきたが、ここではあえて、個々のメンバーには触れず、グループとしての魅力(特にその楽曲に関して)に焦点を当ててきた。それは、メンバーの魅力とグループの魅力は別々に考えるべきであるという考えからである。グループはメンバーの総和でなく、固有のダイナミズムを持っており、グループの魅力もメンバーそれぞれの魅力を足し算したものではない。各メンバーの才能・資質に還元されない、Berryz工房というグループに属する魅力をこれまで挙げてきて改めて思ったのは、Berryz工房には非常に多くのアピールポイントがあったのに、それらを生かしきれなかったということである。近い将来に、それらの魅力が再発見されて、音楽グループにしばしば起こるリバイバル(最近で言うとQueen)が、Berryz工房にも起きることを願っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?