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℃-uteの魅力について


 前にBerryz工房の魅力についてノートを書いたが、同じようなフォーマットで℃-uteのことについて書いてみたいと思う。

 ただ、℃-uteの場合、Berryz工房とは少し事情が異なり、その魅力を伝えるためのキャッチコピー(代表的なのは「(ハロプロの)パフォーマンスNo.1グループ」)にはこと欠かず、Berryz工房のように、どういう魅力があるのか理解しづらいという評は少なかった印象がある。その意味で℃-uteは、Berryz工房に比べれば、イメージ戦略がうまくいった方だと思う。後期には、パフォーマンス力が取り沙汰されることは少なくなったが、その代わり「アイドルが憧れるアイドル」というキャッチコピーが多用されるようになり、それがある程度浸透した結果、℃-uteのことをよく知らない人にも、何となくすごいグループだというイメージが抱かれるようになった。

(ちなみに、この「アイドルが憧れるアイドル」という言葉が使われたのは、もともとはBerryz工房に対しての方が先であったように思う。2012年頃は女性アイドルが他のアイドルグループを好きと公言することはまだ珍しがられていたが、そのような中、AKB48・HKT48の指原莉乃やSUPER☆GiRLSの前島亜美といった知名度のあるアイドルがBerryz工房ファンであるという発言をし、それを受けてBerryz工房のことをメディア上で説明するのに散発的に使われていた。℃-uteにもPASSPO☆の槙田紗子など熱狂的なファンはいたが、「アイドルが憧れるアイドル」という言葉が、いわば℃-uteの専売特許のようになったのは、Berryz工房が活動を休止して以降のことである。)

 しかし、℃-uteは、あまりにも「アイドル」と自己限定してしまったために、アイドルファン以外に興味が持たれづらくなった恨みがある。YouTubeの、とあるサブカルチャー解説チャンネルに上げられているBerryz工房についての解説動画と℃-uteについての解説動画を比べると、Berryz工房の方が約2倍再生されているところを見ても、非アイドルファンに魅力が伝わるようなアピールがこれまでされてこなかったという感想を持つ。そのようなわけで、このノートでは「アイドルが憧れるアイドル」というようなステレオタイプに収まらない℃-uteの紹介をしてみたい。


1)デビュー曲

 

 Berryz工房のメジャーデビュー曲である「あなたなしでは生きてゆけない」(以下、「あななし」)と似たような立ち位置にある曲が「まっさらブルージーンズ」(以下、「まっさら」)である。「似たような」というのは、細かく見ると、両曲の間ではかなりの違いがあるからである。

 まず、「まっさら」はメジャーデビュー曲でない。一般的にはインディーズデビュー曲という言われ方をされているが(実際、つんくもそういう表現をしているが)、メジャーデビューアルバムからの先行シングルカット第一弾と言う方が、より正確であるように思う。当時のつんく♂のライナーノーツを読む限り、つんく♂は℃-uteをアルバムで(メジャー)デビューさせることに拘りを持っていたようで、「まっさら」をいわゆる「デビュー曲」としてではなく、アルバム曲の一つとして書いたようである。

 また、「まっさら」は、℃-uteの最初の持ち曲というわけでもなく、その点でも「あななし」とは異なる。℃-uteが最初に客前で披露したのは「わっきゃない(Z)」であり、℃-uteメンバーの記憶によると、当初は、1stアルバムに収録されている「As One」が「まっさら」より先にメンバーに渡され、最初のシングルになる予定だったらしい。

 さらに、「まっさら」のMVは、「即 抱きしめて」、「大きな愛でもてなして」と合わせて3曲を2日間で撮影するという突貫工事だったらしい。作りも、低予算であることが一目でわかるもので、さいたまスーパーアリーナを貸し切って撮影した「あななし」とは非常に対照的である。

 しかし、楽曲のクオリティという点では、やはり「まっさら」はデビュー曲と呼ばれるにふさわしく、「あななし」に十分匹敵するレベルにあると言える。特にベース演奏が秀逸で、ベースがかっこいいハロプロ曲という話題では、ほとんど必ず名前が上がるほどである。

 「まっさら」は℃-uteを代表する曲の一つといってよく、℃-uteが行った大きな会場でのコンサートでは、「Danceでバコーン!」、「Kiss me 愛してる」、「悲しきヘブン」とともに、必ずセットリストに入れられていた。また、MVの再生回数でも、「夢幻クライマックス」、「Kiss me 愛してる」に次いで3番目に多い人気曲である。

 ラストコンサートでは、℃-uteのメンバーそれぞれの思い出の曲、5曲を、その曲が発表された当時の映像をモニターに映しながら披露するというセクションがあったが、そのハイライトはやはり、2006年に同じ会場(さいたまスーパーアリーナ)でオープニングアクトとして歌った際の映像が曲振りとなって始まった「まっさら」であった。Berryz工房でも、最初の武道館公演で「あななし」を歌った際、デビュー年からのジャケット写真を1年ごとに順番に映してグループの歴史を感じさせる演出があったが、その意味でも「あななし」と「まっさら」は対となる曲であると思う。


 下の動画は、そのラストコンサートでも流された、2006年のさいたまスーパーアリーナで行われたモーニング娘。のコンサートのオープニングアクトで「まっさら」が披露されたときのもの。口パクなのは残念だが、メンバーの当時の年齢・キャリアを考えると仕方がないのかもしれない。


2)前期代表曲


 ℃-uteの有名曲は中期以降のものが多い印象だが、それでも前項で紹介した「まっさら」をはじめ、前期にも有名な曲がいくつかある。以下にそれらを紹介する。

イ)「大きな愛でもてなして」

 インディーズシングルとしてリリースされた曲であるが、「きらりん☆レボリューション」のエンディングテーマとして使われたこともあり、ハロプロファン以外にも知名度が高い曲である。最近ではTikTokでも多く使われ、その影響もあってか、このところのYouTubeでのMVの再生回数でいうと「夢幻クライマックス」についで多い曲となっている。

 その他、℃-uteの曲で他にアニメのタイアップがあったのは、アニメ「ロビーとケロビー」のオープニングテーマとして使われた「めぐる恋の季節」がある。

ロ)「桜チラリ」

 メジャーデビュー曲ということもあって、デビューの際のプロモーション時期などにメディアでの披露の機会が多かった曲。後の「②℃-ute神聖なるベストアルバム」(2012年)にも、インディーズシングル群に並んで再録バージョンが収録されている(後述の「都会っ子 純情」「LALALA 幸せの歌」も同様に再録されている)。

ハ)「都会っ子 純情」

 両曲とも2007年の紅白歌合戦で歌われたということもあり、同じような時期にリリースされたBerryz工房の「付き合ってるのに片思い」と位置づけが似ている曲。この曲はその他に、同年の日本レコード大賞最優秀新人賞の受賞曲でもある。

二)「LALALA 幸せの歌」

 2007年の紅白歌合戦で、モーニング娘。、Berryz工房、℃-uteの3グループから成る「ハロー!プロジェクト10周年記念紅白スペシャル隊」の楽曲として披露された後、℃-uteのシングルとして2008年にリリースされた。同年に℃-uteがミュージックステーションに出演した際に歌われた曲でもある。


 上に挙げた曲の内、「都会っ子 純情」(以下、「都会っ子」)は℃-uteのキャリアの後期でもセットリストに組み入れられることが比較的多かったが、その他の曲はライブの定番曲という扱いではなかった。これは、5人時代以前のイメージをできるだけ払拭しようとした思惑があったからかもしれない(「都会っ子」は、「2012神聖なるVer.」では、セリフ担当が矢島から萩原に代わって、かなりイメージが異なるものとなっている)。

  ハロプロは各グループのYouTubeチャンネルを開設したのが2010年末とかなり遅かった。その際に、それまでリリースされた曲のMVを一気に公開したが、℃-uteの場合、これまでに100万回再生を超えているのは、上記の、「LALALA 幸せの歌」を除いた3曲と「まっさら」の計4曲のみである。これは、Berryz工房が、YouTube開設時以前にリリースされた今日の内、11曲(当時最新曲であった「本気ボンバー!」を除く)も100万回以上再生させているのと非常に対照的である。

 

 下の動画は、公式チャンネルにアップされている、「都会っ子」のライブ動画である。


3)ダンス


 ℃-uteメンバー自身が「ダンスが一番の売り」と言っていたように、℃-uteの魅力として、よく挙げられるのがそのダンスパフォーマンスである。もちろん℃-uteは初期から「まっさら」に始まり、「涙の色」「FOREVER LOVE」など、ダンスがフィーチャーされた曲を歌っていたが、℃-uteの歴史を辿ってみると、「℃-ute=ダンス」というイメージは、℃-uteが5人になってから戦略的に作られたものであることがわかる。2010年8月にリリースされた「Danceでバコーン!(以下、「ダンバコ」)と同月に始まった「℃-uteコンサートツアー 2010夏秋 〜ダンススペシャル!!『超占イト!!』〜」、さらに同年末からYouTube(ちょうどその頃に℃-uteチャンネルが開設された)にUpされた岡井千聖の「踊ってみた」動画が、ダンスグループとしての℃-uteのイメージを形成し、2011年2月にリリースされ、℃-uteの代表曲の一つとなった「Kiss me 愛してる」(以下、「キスミー」)が、それを決定づけた感がある。

 ただ、この路線も長く続くことはなく、2011年4月に始まった、スマイレージとの合同ツアー「℃-ute&スマイレージ プレミアムライブ2011春〜℃&Sコラボレーション大作戦〜」ではダンスバトルコーナーが設けられていたものの、同月にリリースされたアルバムタイトルを冠し、同月末から始まった「℃-uteコンサートツアー2011春『超!超ワンダフルツアー』」では、それまでとは違ったイメージを打ち出そうとした印象がある。


 下の動画は、公式チャンネルにアップされた、「℃-uteコンサートツアー 2010夏秋 〜ダンススペシャル!!「超占イト!!」〜」で披露された「ディスコ クイーン」のライブ映像である。曲自体はセカンドアルバムに収録されていたものであるが、二曲目にメンバー紹介とともにパフォーマンスされたこの曲は、ツアーを象徴する楽曲となっている。


4)アイドル路線


 上記のように、2011年4月末から始まった「℃-uteコンサートツアー2011春『超!超ワンダフルツアー』」で、それまでのダンス路線とは少し違った路線が打ち出されたように思うが、それは一言で言うなら「アイドル路線」と表現できるものだった。ツアータイトルの元となった同月リリースのアルバム「超WONDERFUL!⑥」のリード曲である「超WONDERFUL!」がその路線の嚆矢となり、 続いてリリースされたシングル曲「桃色スパークリング」(以下、桃スパ)「世界一HAPPYな女の子」(以下、「セカハピ」)が、「アイドル」グループとしての℃-uteのイメージを確定した印象である。この2曲はMVの再生回数でもそれぞれ6位、5位を占め、いずれ劣らぬ人気曲となっている。

 セールス戦略的にも、この「アイドル路線」の延長で2012年の4月にリリースされた「君は自転車 私は電車で帰宅」(以下、「君チャリ」。ただし、曲自体はつんく♂が得意とする歌謡曲調のものであり、アイドル路線からは若干外れるものであった)から、いわゆるチェキ会商法が始まり、30バージョンものMVが1曲で作られるという奇抜なプロモーションもあいまって、アイドルファンを中心とした新たな購買層が掘り起こされることになった。

 この℃-uteの「アイドル路線」は、どこまで計算されていたものかわからないがタイミング的にうまく嵌ったものとなった。折からのAKBブームに加えて、当時ハロプロで最もアイドルっぽさ売りにしていたグループであったスマイレージが2011年に大幅に改編されたことや、Berryz工房はメンバーが後に「迷走期」と揶揄したように新規ファンがつきにくい時期であったこと、モーニング娘。もグループの中心であった高橋愛が卒業し、新メンバーが大量に入って、次の路線がまだ定まっていなかったことなどもあり、当時の℃-uteはハロプロ内でアイドルファンの需要を一手に引き受けていた感があった。

 そういうわけで、2011年の℃-uteの「アイドル路線」は、セールス的には成功だったといえる。2011年秋のBerryz工房との合同ツアー後の2012年の単独春ツアーは、ライブ映像作品の売上げで初めてBerryz工房を超えたツアーとなり、それ以降℃-uteはBerryz工房を売上げで常に上回ることになる。またCDの売上げでも、上記の「君チャリ」は飛躍的に売上げを伸ばし、以降℃-uteは安定した売上げを保ち続ける。

 2016年の「FNSうたの夏まつり」でハロプロ外のアイドルグループと共演した際に℃-uteが披露したのが「桃スパ」であったことからもうかがえるように、「アイドル路線」の楽曲群は、ハロプロファンと他のアイドルグループのファンを繋げる、いわば「共通言語」のような役割を果たしていたと思う。しかし、この「アイドル路線」も突如現れたわけでなく、つんく♂によってある程度準備されていたものであるように思われる。なぜなら、2016年の「FNSうたの夏まつり」で℃-uteは、「桃スパ」の他に、2009年に自身がカバーした キャンディーズの「暑中お見舞い申し上げます」も歌っており、このカバー曲の延長線上に「アイドル路線」の楽曲群があるとも考えられるからである。


 上で紹介した曲で、公式に単独でアップされている動画はないので、ハロ!ステ内にある「セカハピ」のライブ映像を下に貼っておく。


5)ハモり曲・アカペラ


 2012年になると、歌唱力を前面に押し出した曲が出されるようになる。同年9月にリリースされた「会いたい 会いたい 会いたいな」(以下、「あいあいな」)のカップリング曲である「悲しきヘブン」(以下、「カナブン」)がそれにあたる。鈴木と岡井、二人のハモりが特徴のこの曲は、℃-uteの歌唱力の高さを端的に表すライブの定番曲となり、℃-uteの代表曲の一つになった(「あいあいな」自体は、つんく♂曲によくある即物的なエロ路線の曲で、インディーズ時代に「即 抱きしめて」を歌っている℃-uteにとっては、ある意味原点回帰ともいえ、新機軸を打ち出したというものではなかった)。

 ℃-uteのハモり曲としては他に、森高千里のカバー曲である「この街」を挟んで2013年4月にリリースされた「Crazy 完全な大人」のカップリング曲である「地球からの三重奏」がある。この曲では、上記の鈴木・岡井のペアに矢島が加わった3人のハモりを聞くことができる。

 しかし、それ以降は、曲の一部でハモる曲はあったものの、曲全体を通してハモり続ける、純然たるハモり曲が作られることはなかった。もちろんそれは音楽的にチャレンジングな曲が作られなかったという意味でなく、それ以降でも例えば「悲しき雨降り/アダムとイブのジレンマ」のカップリング曲で、ボサノバ調の「あったかい腕で包んで」のようにテクニックを要する曲はあるが、わかりやすく歌唱力をアピールする路線が再び追及されることはなかった(ただ、これには一定の留保が必要であって、つんく♂がプロデューサーであった時代の最後の曲である「I miss you」は、3つの異なるメロディーを同時に歌うという、高度な歌唱テクニックが必要な曲であった。もしつんく♂がプロデューサーを続けていたのなら、歌唱グループとしての℃-uteを強調する曲が引き続き作られていたかもしれないが、実際には「I miss you」のようなテクニカルな曲がそれ以降作られることはなかった。これには、その頃から看過できるものではなくなった萩原の声の不調も、もしかしたら関係しているのかもしれない)。

 この時期の℃-uteの歌唱力志向を表すものとしては、ハモり曲の他に、アカペラへの取り組みがある。端緒となったのは、2012年に開かれた「アイドル横丁祭!!」で「君チャリ」を大掛かりな準備もせずにアカペラで披露したことのように思われる。この「アイドル横丁祭!!」でのパフォーマンスはアカペラも含めて大きな反響を呼び、℃-uteの人気上昇へのターニングポイントの一つと後に言われるようになる(時期的に見て、「カナブン」の制作も、あるいはこの反響を受けてのものだったのかもしれない)。ただ、色々と事情はあったのだろうが、本格的にアカペラがツアーで披露されたのは「℃-ute武道館コンサート 2013『Queen of J-POP〜たどり着いた女戦士〜』」とそれに続く「℃-uteコンサートツアー 2013秋『Queen of J-POP〜たどり着いた女戦士〜』」のみだった。


 下の動画はリリースの約3週後に公式チャンネルにUpされた「カナブン」のライブ映像である。これは通常のライブ映像と異なり、リハーサル時の映像も組み込まれているとのことで、当時かなり戦略的に℃-uteの歌唱力をアピールしていこうとしていた姿勢が窺われる。そのかいもあってか、同曲は2014年にシングル曲としてもリリースされるが、そのMVよりこのライブ映像の方がいまだに再生回数が多い。


6)ベリキュー


 Berryz工房のノートで書いたことと重複するので、ここでは割愛する。


7)Queen of J-POP


 「Queen of J-POP」は、2013年の℃-uteの初武道館公演の直前にリリースされた8枚目のアルバムのタイトルであり、それに収録されている楽曲が発表された時期は、上の第5項で触れた時期と重なる。同項で触れたように、歌唱力をアピールするプロモーション戦略は2013年で一区切りついたように思うが、曲の路線自体はアルバムリリース以降、2014年になっても同じ方向性で続いていった。そこでここでは、「あいあいな」とそれに続く「②℃-ute神聖なるベストアルバム」のリリースから2014年後半につんく♂がプロデューサーを離れるまでの時期を、便宜的に「Queen of J-POP」期と呼びたい。

 この時期は、簡単に言うと、「アーティスト」路線を追求した時期だったと言えると思う。特徴としては、第5項で述べた歌唱力アピールの他に、激しいダンスパフォーマンス、楽曲や振り付けのみならず衣装も含めてのセクシーさの強調などが挙げられる。その意味で、この時期の℃-uteの楽曲は、2010-2011年のダンス路線の延長線上にあったといえる。この頃のハロプロでは、通常のMVの他にダンスショットバージョンも公式チャンネル上にアップされていたが、「Crazy 完全な大人」「アダムとイブのジレンマ」などは、「Danceでバコーン!」のようにダンスショットバージョンの方がMVよりも再生されているという現象が起きている(しかも、後者に至っては、300万回以上も再生されている)。

 ただ、つんく♂の中で「アーティスト=セクシー」という考え方があまりにも強過ぎて、それが枷となって、楽曲の引き出しの多さというつんく♂本来の持ち味を、この時期はうまく出せていなかったでように個人的には感じている。また、この「アーティスト=セクシー」という考え方は、賛否両論を呼んだ「℃-uteコンサートツアー2014春~℃-uteの本音~」で披露されたポールダンスにもつながっていったように思う。

 また、比較的早い時期から(前のノートでは「ガールクラッシュ」路線と勝手に名づけた)脱アイドル路線を歩んでいたBerryz工房との差別化にも、つんく♂は苦しんでいた印象がある。2014年7月にリリースされたシングルは「The Power」と既にカップリング曲として発表されていた「悲しきヘブン」のシングルバージョンの両A面シングルであったが、前者の曲については、マツコ・デラックスがBerryz工房に歌わせた方がよかったんじゃないかとコメントしており、その頃にはつんく♂の中で℃-uteに歌わせるべき曲のネタがつきかけていた感がある。

 しかし、その次のシングルである、2014年11月リリースの「I miss you」は、上の項目で述べたように、℃-uteにとって新境地ともなるような曲だった。ただ、それもつんく♂のプロデューサー退任とともに、これからどのように進展していくのかわからないまま、「Queen of J-POP」期は終わりを告げる。


 下の動画は、上で触れたポールダンスとともに披露された「Crazy 完全な大人」のライブ映像である。


8)ストーリー性


 グループアイドルにとってメンバーの増減は、そのストーリーを語る上での重要な要素である。そして、ハロプロのグループで長期間続いたメロン記念日やBerryz工房と比べると、℃-uteはメンバーの増減が激しかったグループで、その点でストーリー性に富んでいたと言える。

 その℃-uteのストーリー性を象徴する曲の一つが、2010年1月にリリースされた「SHOCK!」である。これは前年に梅田えりかが卒業してから最初のシングルで、グループ内でのメンバー間のバランスがまだ安定していなかった時期のリリースであったことに加え、ほとんど鈴木愛理のソロ曲といっていいほど歌割が偏っていたため、メンバーの軋轢を生んだ曰くつきの曲であった。曲自体はそれほど有名な曲ではないが、ラストコンサートにおいて、メンバーがそれぞれ1曲ずつチョイスするセクションで、鈴木愛理があえてこの曲を選んだことにも表れているように、℃-uteの楽曲群においても特殊な位置を占めている曲である。

 ℃-uteのストーリーは、メンバー構成の変化の他に、メンバーが減った逆境の中、残った5人が団結してモーニング娘。以外のハロプロのグループとしては初となる武道館コンサートを目指すということも一つの軸となっており、そのエピソードが曲の形として端的に表されたのが「Queen of J-POP」に収録されている「たどり着いた女戦士」である。この曲は2013年の℃-uteの初武道館コンサートのタイトルにもなっており、そこでもちろん歌われた他、ラストコンサートではダブルアンコールの後、最後の曲としてアカペラで歌われたことからもわかるように、℃-uteのストーリー性を担う重要な曲になっている。

 さらに、℃-uteのストーリーが曲として表現されたのは、2015年4月にリリースされた「我武者LIFE」である。℃-ute結成10周年に向けて番組の企画で作られたこの曲は、つんく♂でなく、湘南乃風のSHOCK EYEの作詞である。それまで℃-uteと関わりのなかったSHOCK EYEではあったが、℃-uteのそれまでの歴史を踏まえて作られたこの曲のメンバー間人気は高く、それ以後の楽曲提供を通じてメンバーとの親交は深まり、℃-ute解散後もそれは続いているようである。


 下の動画は、℃-ute結成10周年の日に横浜アリーナで行われたコンサートの際の「我武者LIFE」のライブ映像である。


9)非つんく♂曲


 2014年につんく♂がハロプロ総合プロデューサーの職から離れ、2015年からは非つんく♂プロデュース曲が℃-uteに提供されるようになった。2017年の℃-uteの解散で終わるこの時期には、シングル5枚、アルバム1枚がリリースされた。ちなみに、℃-uteはインディーズを含めるとシングル35枚、アルバム9枚をリリースしており、℃-uteの楽曲全体における非つんく♂プロデュース曲の割合は然程大きくないが、かといって決して無視できない部分を占めている。

 この期間は、メイン作家というものは置かれず(といっても、つんくがプロデューサーから退いてからは、他のグループにもメイン作家といえる人はいない。強いて言えば、こぶしファクトリーに多く曲を提供している星部ショウぐらいか?)、様々な作家が曲を提供するという体制が敷かれ、それに伴って楽曲もバラエティに富んでいる。特にアルバム「℃maj9」では、それまでに培ってきたスキルを生かして、かなり実験的な曲に取り組んでいる印象である。

 しかし、この時期の人気曲といえる曲は、MV再生回数で判断する限り、「The Middle Management〜女性中間管理職〜」「人生はSTEP!」「夢幻クライマックス」といったダンスを特徴とする曲である。その意味で、この時期の楽曲が、それまでの℃-uteのイメージが大きく変えることはなかったというのが個人的な感想である。

 しかし、セクシー路線一本槍であった、それまでのいわゆる「Queen of J-POP」期とは違って、上に挙げた曲の衣装はいずれも露出が控えめになっていて、その点ではかなり従来のイメージを変えた気がする。特にMVが℃-ute全曲の中でも最も再生されている「夢幻クライマックス」の衣装は、ゴシック調の耽美的ともいえるもので、この曲の衣装も含めた全体的なアートワークが、現在持たれている℃-uteのイメージを決定づけている印象である(言い換えれば、「Queen of J-POP」期のときのような露出度の高い衣装であれば「アイドルが憧れるアイドル」というキャッチコピーは成立しなかったのではないかと思われ、その意味でこの曲が持つ意味は大きかったと思う)。

 

 下の動画は、その「夢幻クライマックス」のライブ映像である。


10)ラスト楽曲群


 アイドルグループに限らず、一般に音楽グループで、解散をモチーフにして作られた、いわゆる「ラスト曲」というようなものがあるグループは意外に少ない。これは、決して理由のないことではなく、解散の主な理由になるのが売上げ不振であることが多いため、ほとんどのグループは、解散前に曲をリリースする余裕がないというのが実情のように思える。

 これに対して、℃-uteは、人気が落ちたことが解散の理由でなく、また解散発表から解散まで約10ヶ月と比較的長い期間があったため、かなりの数の、いわゆる「ラスト曲」が作られた。

 その中でも明確に「ラスト曲」的な位置づけにあるのは、ラストシングルに収められている、つんく作の「To Tomorrow」とSHOCK EYE作の「ファイナルスコール」、最後のベストアルバムに収録されている、つんく作の「全部終わった帰り道」の3曲である。

 その他にも解散発表後のリリースとなった、ラストシングルの前のシングルに収められている3曲(「夢幻クライマックス」「愛はまるで静電気/Singing〜あの頃のように〜」)は、いずれも解散を意識して作られており、広い意味での「ラスト曲」に含めることができるかもしれない。また、ラストシングル中の1曲である「The Curtain Rises」も、作者であるつんくが、ラストコンサートの冒頭に歌われることを意識して作ったとライナーノーツに書いているように、解散というコンテクストの中で意味がより明確に理解できる曲である。

 最後のベストアルバムには上で触れた「全部終わった帰り道」の他に、「夢」「凜(RIN)」という新録曲が収められているが、2曲とも℃-uteファンであったり、℃-uteとゆかりのある作家が、解散のことを知って提供したものであり、これらもラスト楽曲群という括りに入れられるように思う。

 こうしてみると、℃-uteの場合、ラスト楽曲群と呼べる曲が9曲にも上り、ラスト曲という位置づけにある曲が、ラストシングルの「永久の歌」と最後のベストアルバムの収録曲である「Love together!」の2曲のみであるBerryz工房とは対照的である(「普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?」も、時期的に活動停止のことを知った上で、つんく♂によって作られた可能性があるが、リリースが活動停止発表前であるので、ここでは含めない)。

 このように多くの曲が℃-uteの解散にまつわって作られたため、「ラスト曲」の重みが分散し、℃-uteの最後を象徴する曲を1曲に絞るのは大変難しい。このことは、ラストコンサートの最後の曲が、第7項で述べたように、解散の4年前、2013年にリリースされた「たどり着いた女戦士」であったことにも現れている。この点でも、ラストコンサートの最後に歌われた曲が、「また会えるよね」という歌詞を含んだ「Love together!」で、この「ラスト曲」の涙ながらの歌唱が最後を象徴するシーンとして記憶に残り続けているBerryz工房と好対照である。


 しかし、そのようにラスト楽曲群に含まれる曲が多いとしても、その中でも知名度も比較的高く、ラスト曲という扱いを受けることが多い曲は「ファイナルスコール」であると思う。下の動画は、ラストコンサートにおける同曲のライブ映像である。


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