黎明
ディズニーランドでもなく、水族館でもラブホテルでもなく、僕たちが選んだのは廃工場だった。
宵闇の中燻る煙と、ほの明るい光。
「あなたといると、いつも寂しい気持ちになるの。一緒にいるし、充分に抱きしめてもらっているのに、自分がどこか遠くにいる気になるの。腕の中にいながら、暗闇の中足がもつれてもうどこにも行けない気になるの」
彼女が呟いた。
「それは僕のことが好きではないと言うこと?」
「そうじゃない」
星がちらちらと光る空を見上げながら、彼女は続ける。
「寂しくて満たされない気持ちになるの。好きなはずなのに」
「そう、じゃあさ」
僕の言葉を遮り彼女は続ける。
「私たちは、どこに行くんだろう。傷ついて傷つけて、それでもそれを辛いと思わないで死なないで生きてるのはどうしてだろうね」
「そうするしかないし、それだけじゃないからだよ」
そういって僕は強引に彼女の唇をふさいだ。息が止まるかと思うくらいに。
暗闇の中で僕たちは身動き出来ない冬眠中の動物みたいにうずくまっていた。
彼女の頬は濡れている。
「ほら、朝がくるよ」
僕は彼女の泣きそうな笑顔がもう一度見たくて、もう一度、今度はおはようのキスをした。
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