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朗読用台本 「新月の夜の浜辺」

男女どちらでもいけるよう、人物は「人影」にしています。
セリフ部分の感情を、どう受け止めて読むか、個性が出そうですね。

 その日は、とても寒い夜だった。満天の星が波間に金銀の粉を散らしている。
「ああ」
 胸に詰まっていたものを吐き出すように、感嘆の息を漏らした人影は、昼間のうちに用意をしていた小舟の縁に手をかけた。
「いよいよだ……いよいよ」
 ぶつぶつと繰り返す声は、呪文を唱えているように規則正しい。同じ言葉を繰り返しながら、人影は小舟を波の上に移動させた。
「待っていて」
 決意らしきささやきを奥歯でかみしめた人影は、舳先の向こう――地平線よりその先にあるものをにらむように見つめていた。

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