朗読台本「いつか、ひとつに」
しっとりと読むのか、薄暗く読むのかで最後の一文の意味が違って伝わりそうですね。
雨の後は土の匂いが膨らんで、草木の香りがむせるくらいに立ち昇る。
この香りを味わいたくて、雨上がりの日はここにくる。
「ああ……っ」
うっとりと息を漏らして、
肺の奥まで土や草の香りを含んだ空気を吸い込んだ。
体中の空気を入れ替えたくて、深呼吸を繰り返す。
すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。
体の隅々まで、行き渡るように。
表面上は穏やかに。
心の中では、むさぼるように。
すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。
「ぁあ……はぁ」
指先が興奮に痺れる。
なんて、心地がいいんだろう。
「はぁ……ああ……っ」
体が浮き上がるほどの解放感。
本来の自分を取り戻したような。
なつかしい故郷に抱きしめられているような。
あなたに、抱きしめられているような。
「いつか、ひとつに」
いずれ溶けてなくなって、この香りの一部になる自分を想像すると、
抱えた不安も悲しみもきれいさっぱり消え去ってくれる。
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