2020年映画ベスト10
マルモイ ことばあつめ
この作品以外、2020年のベスト1は考えられなかった。『タクシー運転手』の脚本家が本作の脚本、監督で、ユ・ヘジンが主演。相手役(リュ代表)は『犯罪都市』の怖い敵役。
1940年代頭、日本統治下の朝鮮。自国の言葉で辞典を作るために懸命に生きる人たちの話。『タクシー運転手』と同じく、映画のあとにポスターの主人公たち(辞典の執筆、編集に携わった人たち)の顔を見ると愛おしさでまた泣けてきてしまう。傑作。
ブリング・ミー・ホーム 尋ね人
観終わって映画館を出ても鳥肌立ったまま。子どもの誘拐、児童労働、我が子を探し続ける母親が主人公と、恐ろしく、悲しい話だけど、この緊迫感は凄まじい。一瞬も緩まない。実話じゃないことが救い。
車の衝突、あんなシーン観たことない。この車のシーンは地獄巡りの始まりを宣告するようでした。悪意や抗えない暴力が積み重なっていく、助けは来ないという状況に観てる間に胃がおかしくなりそうで。もし映画冒頭に「based on a true story」とあったら耐えられなくて途中退場してたかも。
説明的な場面やセリフを排して(子の失踪や、警察と釣り場の関係など)、あれだけ容赦なく、もうほんとに悪のおぞましさとそれに翻弄される母親を描いて、なのに集中を離させないという凄まじい引力を持つ映画。
傑作。今年のベスト5に入る。ただしもう一度観るのはきつい。
他の人の感想に「終盤、彼女の行動が行き当たりばったりすぎ。脚本なんとかして」というのがあって、自分が感じたのと深い隔絶が。ひとりで無策でそれでも行くしかない、一緒にいるはずだった夫もいなくて。あの一度体よく追い返されるところの辛さとか震える。
ジョジョ・ラビット
コメディだとか笑ったとか後味がいいとかの感想を見たけど、冒頭、10歳の少年ジョジョのイマジナリーフレンドとしてヒトラーが登場してから最後まで一瞬も愉快な気持ちにはなれない傑作。くたばれナチス、くたばれヒトラー。
主人公の少年、匿われてた少女、スカーレット・ヨハンソン、サム・ロックウェルも素晴らしい。サム・ロックウェルの部下が『ジョン・ウィック』のロシアンマフィアの息子役だった人だった。選曲も良かった。
スウィング・キッズ
ロビーに出ても涙が止まらなくて顔を上げられない。朝鮮戦争、巨済島の捕虜収容所での話。主演のEXOのD.Oをはじめみんな最高。中盤、ボウイの曲で不意打ち。観て!
第二次大戦末期のドイツが舞台の『ジョジョ・ラビット』も、朝鮮戦争のこの『スウィング・キッズ』も、どちらも時代背景からは外れるデヴィッド・ボウイとビートルズの曲をとても印象に残る場面で使ってた。
捕虜収容所を舞台にしたタップダンス映画と思われるかもしれないけど(僕もそう思ってたんだけど)、朝鮮戦争時の捕虜収容所を描いた戦争映画です。敵味方や人種の違いをダンスは越えられるのか? 簡単に越えたら嘘だ。でもそれを阻むものには抗わなくてはならない。傑作。
パラサイト
完璧。4回観た。
浅田家!
実在で現役の写真家、浅田政志さんを二宮和也が演じる映画。「なりたいものになればいい」という父(平田満)の言葉から、消防士、極道、レーサーなど、実際に浅田家の四人がそれに扮してセルフタイマーで撮影する「家族写真」を撮りはじめる。
破天荒だけど迷いもある、頼りない浅田政志を二宮和也が好演する。21歳の彼は金髪で両腕に彫り物あり。24歳、無職時代の風貌はエレカシ宮本のような長髪。29歳、木村伊兵衛写真賞を受賞。32歳、2011年に東日本大震災が起こり、東北に向かう。写真を撮ることではない写真作業をボランティアで。
浅田政志は東北の避難所でひとりで写真洗浄をしている青年(菅田将暉)と出会い、彼の手伝いを始める。瓦礫の中から発見された、津波で泥をかぶって持ち主がわからない被災写真やアルバム。一枚一枚、水で丁寧に汚れを落とし、乾かし、展示し、持ち主に見つけてもらう作業。
津波で家や家族を失った人には写真はとても大切な思い出になる。だから被災地で瓦礫を片付けた自衛隊もアルバムを見つけたらそれをわかる場所に置いておく。それを菅田くんのように集め、洗浄する。映画でこの描写がとてもリアル。僕もやっていたのでわかる。つうか泣いた。
写真洗浄のボランティアは被災地だけでなく、日本各地に広がり、僕も東京で参加していた。2011年12月にその関係で浅田政志さんのトークイベントを聞きに行った。この話が映画の中での菅田将暉が演じる青年に繋がっているはず。
「自分も写真に関わってるので、その青年と話したくなった。彼はたまたま拾ったアルバムが知り合いのものだったので届けたらすごく喜んでもらえて、それから落ちてるアルバムを探して、自衛隊が見つけたアルバムも受け取り、ひとりで洗い始めたんです。僕も次の日からそこで洗浄に加わった」(浅田)
この写真洗浄のある場面から涙が止まらなかったけど、浅田家がとても素敵で、笑えるし、あったかい気持ちになるし、黒木華は最高だし、お勧めします。写真洗浄の体験者には特にお勧め!
ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー
『ルース・エドガー』や『WAVES』や本作のようにアメリカの高校生たちを描いた映画を観ると、作品について語る以前にアメリカと日本との大きな違いに「かなわねえ」と思ってしまいます。日本の青春映画のちまちま具合にもだし、もし自分が高校3年間、モリーのように勉強をがんばってアメリカの大学に受かったとしても彼らと同じような学園生活を大学から送れるとは思えん。
この監督インタビュー良かった。最初の質問。→
「『ブックスマート』の新しさは、あらゆるものが当たり前に存在する感覚が全体を貫いていることだと思います。(中略)悪質なホモフォビアやファットフォビアを映画から除外することは意識していましたか?」
https://i-d.vice.com/jp/article/935m3v/interviewbooksmart-olivia-wilde-interview
37セカンズ
予告編も見ず、あらすじも知らず、タイトルの意味だけ把握して(生まれたとき「37秒間」呼吸できずに脳性マヒとなった車椅子の主人公)、でもそんな断片からの想像を遥かに飛び越える物語だった! 今年のベスト10に入りそう。石橋静河が120秒ほどのちょい役で出てた。みんなよかった。
レ・ミゼラブル
現代、パリ郊外の団地。貧困、人種間の対立、警官の暴力で怒りが爆発する。すごく緊迫感のある映画だった。ラストもいい。あの警官は『デトロイト』を思い出した。傑作。
ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
美しい映画だった。汚れた魂の持ち主はひとりも登場しない。今作のシャラメは史上最高シャラメ。監督もキャストも知らないで観たけど(原作すらも)、「もしかして『レディーバード』の」と思ったら当たりだった。監督もそうだとは上映後にポスターを見て知った。
偶然にも先日観たばかりの『ハリエット』と同時代のアメリカが舞台。
次点
私をくいとめて、フェアウェル、ファヒム パリが見た奇跡、透明人間、ハリエット、スキャンダル、ハスラーズ、淪落の人、his(順不同)
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