見出し画像

空気の抜けた自転車

夕方、久しぶりに家を出た。

コロナでずっと家の中に閉じ込められていたから。

外の空気を吸いたくて。違う景色を見たくて。

久しぶりに動かした身体は、外に出たい気持ちとは裏腹に、思うように動かなかった。

少し歩いただけで、なんだか疲れてしまう。

もっと遠くに行きたくても、身体がついてこない。


無理もない。1週間以上もベッドの上で生活していたのだ。僕の体は寝るための身体に最適化されている。急に動かそうと思っても、そう簡単には動くはずがない。

夕方の冷たい風が、身に染みる。


しかし、僕には、人類の英智、文明の利器がある。

自転車だ。自転車にのれば、 遠くまで行ける。これだ。


しかし、そうはうまくいかなかった。自転車の空気が抜けていた。

行きは良かった。下り坂を自転車で風を切りながら、突き進んでいく。ここまでは良かった。

問題は帰りだ。進みが悪いことに気づいた頃には時すでに遅し。空気の抜けた自転車は、思うように前に進んでくれない。それどころか、むしろ余計に疲れる気がする。

病み上がりの身体で、傾斜のきつい上り坂を、空気の抜けた自転車で登る。なんてハードモードだろう。

しかし、ゲームのようにやり直しはきかない。


息を切らしながら家に着いた。

ふと、

「自転車も僕も一緒なんだな。」

そんな風に思った。


自転車に空気を入れる。
明日はもっと遠くにいけるだろうか。


月乃輪うるふ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?