往復切符

光の国の神さまは、今日も忙しくせっせと切符を作っています。
どんな切符かと言うと、ここ光の国への往復切符です。切符には『光の国⇔地上(往復切符)、有効期限:イノチの限り』と書かれています。
光の国で遊んでいるタマシイたちが、地上へ降りるタイミングを決めることはできません。
タマシイたちは「そろそろ出発の時だ」と告げられると、ハハの子宮に着床したタマゴに入るため地上へ降りる準備を始めます。タマシイはどのタマゴに入るのかを選ぶことができます。タマゴは成長してやがてカラダになります。

タマシイは『カラダ借用書』に色々と必要なことを記入し、認証の発行をしてもらいます。そして借用書にはこんな風に書かれています。
『カラダ借用書 私タマシイNO.×××は、地上のハハ○○○の持つタマゴに入り、タマゴが成長してカラダとなった後も借り続けます。借用の開始日はタマゴへ入魂した時です。カラダから出魂する時は私タマシイNO.×××がその時を決め、借用の終了日とします』

タマシイには名前がまだありません。地上に降りてから、ハハやチチに名前を付けてもらいます。発行された『カラダ借用書』を切符自販機に差し込むと、代わりに往復切符が出てくる仕組みになっています。光の国にはお金がありませんので、『カラダ借用書』と引き換えに切符を手に入れるのです。この切符を持っていると、タマシイは光の国と地上の間を走っている列車に乗ることができます。切符を買う時は、『カラダ借用の開始日』に間に合う列車を選びます。
たまに早く出発したいと焦るタマシイがいて、切符を買い忘れそうになります。基本的に切符がなければ光の国から出ることはできませんが、万が一切符なしで出国してしまうと大変なことになります。光の国へ永遠に戻ってくることができなくなるからです。

さっきも慌てん坊のタマシイが切符を持たずに、光の国の入口から出ていきそうになりました。
「あー、これこれ」神さまが、慌ててタマシイを呼び止めます。
「切符は持っているのかね。まだなら買ってきなさい」
神さまはどのタマシイも往復切符を買い忘れることがないように、気を配ることに一生懸命です。
また、タマシイたちは地上へ旅立つ時にそれぞれ『イノチの計画書』を作成します。
タマシイたちは計画通りに実行できるとイノチを終えて、光の国へ還ってきます。次に地上への出発を告げられた時に、前に立てた『イノチの計画書』の次の段階を計画して、地上へ降りていきます。
計画通りに実行できずに、途中で光の国へ還ってきてしまうタマシイもいます。その場合も次の出発を告げられた時に、前に立てた『イノチの計画書』の続きを実行します。

今また1つのタマシイが列車に乗って、地上へと降りていきました。
タマシイはハハの子宮で着床したタマゴの中に入り、子宮の中で300日あまりを過ごします。
タマゴから赤ちゃんのカラダに成長して地上の光を浴びた時、タマシイは計画書のことも往復切符のことも忘れてしまいます。
しかし、これだけは覚えていておいてほしいのです。どのタマシイも光の国へ戻る切符を手にしているということを。期限は地上のイノチの限り。地上でのイノチが終わる時、どのタマシイもまた切符を手に光の国へ還っていくことを。
神さまは今日も切符作りに汗を流しながら、還ってくるタマシイたちを「おかえり」と笑って迎えてくれることでしょう。

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(週刊キャプロア 第78号『自動販売機』初出)

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