子供が一人しかいない父の最期とその後~No.2父、肺癌疑いと診断される

 潰瘍性大腸炎の最初の治療が終わり退院。入院中の至れり尽くせり(要は何をするにも看護師さんの見守り付きなのでほとんど何もせず歩かなかった日々)で、すっかり怠け者になってしまった父だったけど、退院すればそうはいかない、ということで、父自身あれやこれや日常生活の復帰を模索していた時、風邪を引きました。

 もう何百回も一人で行っている、いわば常連の病院に行かせると、診断は風邪。風邪薬を処方されて帰ってきました。それが10月の半ばだったと記憶してます。

 が、咳がなかなか治らない。これは本当に風邪なのか? ほこりアレルギーとかカビによる喘息とか、そういう可能性はないんだろうか? なんて思っている時に、潰瘍性大腸炎の定期診断の日がやってきました。そこでお腹の調子まあまあだけど、風邪をひいてしまって、という話をしました。すると「潰瘍性大腸炎の方が風邪をひいてしまうと、重症化する恐れがあるので、入院した方がいいと思います」と言われ、11月の頭に再入院。

 個室しか空いてないので、また個室です。今回は日額1万8千円のベッド代がつく部屋でした。ちなみに東邦大学医療センター佐倉病院の差額ベッド代は2万円、1万8千円、4千円、となぜなのか、すごい幅があるんです。前回は2万円だったので2千円安い部屋なわけですが、こちらとしては2万円でも1万8千円とか大して変わりません。ベッドが空いてない、と言われ、「早めに入院した方がいいと思うんですよね」と先生に言われれば、了承するしかありません。あまりごちゃごちゃ言って目をつけられるのも嫌ですし。

 ただ、この頃、父はまだしっかりしていたので、病室に入った瞬間から「こんなにいい部屋じゃなくていいのに」「お金かかるんでしょ? 気が気じゃない。気が休まらないよ」と看護師さんに言い続けてくれ、今回も翌日、今度は差額ベッド代なしの大部屋に移ることが出来ました。

 そんな中、ある日、家の方に主治医の先生から電話がありました。父の長引く咳が風邪ではない可能性もあるので、一度呼吸器科の方で検査を受ける、と。

 父がヘビースモーカーだったかどうかは、喫煙しない私にはわかりません。本人曰く15歳位から吸い始め、年金生活になる65歳まで多い時で一日一箱は吸っていたようで、たとえ15年前にすっぱり辞めていたとしても、肺へのダメージは残るとの話もありました。

 そういえば、数年前、市の肺がん検診で引っかかり、父は後年「肺癌だった」と言っていたけれど、癌だったら家族に話が来ないわけないと思いますし、その時は入院も何もせず治療していつのまにか影が消えていた、ということがありました。そして、この春にも肺がんで精密検査の診断が市の検診で出て、それは父曰く「何ともなかった」と言っていました。そんなことが頭ををよぎり「そういえば、春に肺で精密検査って言ってたよね? あれから何も言ってなかったけど、あれは検査したの?」と聞いたら再度「したけど、何ともなかった」との答え。 

 結局、今思えば、父は先生の説明がよくわかっていなかったのかもしれない。勝手に解釈して大丈夫だった、と思っていたのかもしれない。 

 レントゲンには一箇所白い濃い影がありました。呼吸器科の先生は「まだ小さいけどこれが広がっていけば、癌の可能性が高い」と言われました。ただ、濃い影以外のところも白っぽいものが多くあり、癌を確定するために内視鏡検査をすると、肺が破れるかもしれない、と付け足されました。

 呼吸器科の先生の話をまとめれば、
 ①肺癌の可能性が高い。
 ②確定するためには内視鏡検査をやらなければならない。
 ③内視鏡検査をすると肺が破けるかもしれない。
 ④肺が破けたら呼吸器をつける生活になる可能性が高い。
 ⑤放射線治療でも呼吸器をつける生活になる可能性が高いし、そもそも、肺癌が確定してない患者さんに放射線科では治療が出来ない。

 潰瘍性大腸炎の主治医からは、肺癌の治療と潰瘍性大腸炎の治療は一緒には出来ないので、どちらかを選んでもらうことになる、と言われました。

 父はこれまで、決断というものをほぼしないで来ました。たぶん、欲しいもの(若い頃の車とかステレオとかテレビとか)を買う時ぐらいだと思います。こういう今後に関わってくる重要なことを決断するのはいつも母でしたので、この時も、何を聞いてもわかってるんだか、わかってないんだか、わかりたくないんだか、ぼんやりとした返事。終いには「決めていいよ」と言い出す始末。いやいや、自分の命なんだから自分で決めなきゃだめでしょう。娘に自分の命の選択を委ねないで。それは残酷すぎるよ。と言い、図解で説明してよく考えるように伝えました。

 ◇肺が破けて呼吸器の生活になっても肺癌を確定するために内視鏡をするか。
 ◇潰瘍性大腸炎もひどくなれば腸全摘になりうるので、肺は経過観察で潰瘍性大腸炎の治療をするか。

 要は、生きるのを選ぶか、死ぬのを選ぶかのと同じですが、結局、父は苦しくない方を選びました。

 肺はそのまま、潰瘍性大腸炎の治療を受けることに。

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