10:プロジェクトファシリテーションのニューノーマル

コロナ禍を経て、特にグローバル企業や大企業を中心に、すっかりリモートでの働き方が定着してきました。もちろんこれからパンデミックの最悪の状況を脱していくにあたり、徐々にオフィスに人を戻す動きも見られますし、もうずっとリモート中心ということを発表する企業もありますし、ハイブリッドでいく、という職場もあるでしょう。コロナ以前から予測されてきたアフターデジタルに向けた動きが10年早まった印象です。いずれにせよ、働き方は今よりはずっと柔軟に、多様になっていくことが見込まれます。それに伴い、ジョブ型雇用への移行の話も毎日のように目にしますし、それは即ち人材が評価される軸も(日本の雇用文化に慣れ親しんだ人達にとっては)変わってくるということを意味していると思います。大人語講座で扱っているプロジェクトファシリテーションは、どちらかというと欧米からの輸入に近いため、これから先のジョブ型雇用の時代と親和性が高く、そこで自分の価値をどうやったら発揮できるようになるか、という議論をしているものです。今、コロナ以前から言われてきた未来が既にきてしまいつつある状況ですから、プロジェクトファシリテーションの技術もアップデートが必要になりつつあると言えそうです。そんななかにあっても、大人語講座でお伝えしていることは非常に汎用性が高い技術なので、環境が変化してもその時々に応じた調整は容易です。現に新たな時代に突入している直近でも価値創造を大いに可能にすることができています。その具体例を挙げるとするなら、2020年8月1日に開催された「夏の大人の外語祭2020」が好例です。

「夏の大人の外語祭2020」や、そもそもの「夏の大人の外語祭」自体がどんなものか、という話についてはこちらの記事をご参照いただければと思います。大人語講座講師陣は、このニューノーマルにおける代表のようなデジタルイベントの運営事務局(=外語会NEXT)に対して、プロジェクトファシリテーションの知見を提供しました。今まで開催されてきた夏の大人の外語祭と比較して運営面で大きく異なるのは、幹事団が一度もリアルで会うことなく、非対面で企画から実施までをやり切っている点です。しかも、非常に高いレベルでイベントを成功させています。イベントの申込者数は400名弱で、これは過去のリアルイベントの3倍強の人数です。通常、人数が増えればネガティブな反応というのは増えるものなのですが、参加者に対する事後アンケートによる満足度は91.4%。しかも、明らかに間違えて回答してしまっている方々がいらっしゃったため、実際のスコアは限りなく100%に近いです。驚異的なのは、次回も参加したい、と回答した方もほぼ100%だった点です。こちらも「ほぼ」というのは明らかな回答ミスがあったため、100%にならなかったという事情によります(スコアは99.1%)。寄付も相当集まり、何とか今回と次回の開催費用を賄うことができた、という結果となっています。

これだけ聞けば、普通にどこにでもある人気イベントのように聞こえるかもしれません。が、実は全然違います。企画から実施に至る前提として一般のイベントと大きく異なるのは、先ず、幹事が全員本業を持っている、ということです。片手間で企画・実施を全てやり切るしかなく、幹事がこのイベントに割ける日常生活におけるワークシェアは僅少と言わざるを得ません。その上で、その幹事の人数自体もイベントの規模に比して著しく少ない。加えて、お金も全くありません。さらに難しいのは、オンラインのカンファレンスイベントになった瞬間に、登壇者・参加者の幅はグローバルに拡がります。しかも外語会関連イベントの性格上、配慮すべきステークホルダーは多岐に及んでしまいます。つまりこのイベントは、蓋を開けてみれば「絶望的に少ないリソースで多様なステークホルダーに対する価値創造を非対面でやり切るという、誰もやったことが無い高難易度なグローバルプロジェクト」でした。通常のイベントと大きく異なる前提条件が沢山あり、前例が無いため、これが正解、というやり方もない。まさに大人語の出番です。イベントをどう設計し、どうプロジェクトをファシリテーションし、どう参加者の満足度を高めて運営費用を得ていくか。クリエイティブに答えを創っていかなくてはいけません。ここで得られた知見は、まさにプロジェクトファシリテーションのニューノーマルとでも言えるものだと思います。これからのアフターコロナ&アフターデジタルの時代にグローバルで働くことを選ぶ人が多いであろう現役外大生に対し、大人語講座として、その知見をここに共有したいと思います。とは言え、大人語講座受講者にとってみれば、このアップデートバージョンも、既に教授しているプロジェクトファシリテーションの内容とそこまで大きく変わらないんだな、と受け止められるかもしれません。それもそのはず、結局は大人語講座でお伝えしていることの応用に過ぎないからです。ただ、実際にどうやってプロジェクトを進めていくのかという具体事例があるので、これまで書籍版では理論だけでお伝えしてきた内容も、ややイメージしやすくなるのではないかと期待しています。ということで、早速、本項を進めていきましょう。内容は以下の通りです。

―イベント実施に向けて、大き過ぎた問題たち
―どう問題たちと向き合うか
―プロジェクトファシリテーション上の課題(本題)
―その他のアプローチの特徴と、これからの時代のヒント

まずはこのイベント自体にまつわる様々な問題について。どんな問題と対峙しなくてはいけないのかという前提条件を確認するところから始めます。そしてどうそれらの問題たちと向き合うか。その課題を突き止め、解決策を提示する過程を追体験していただきます。そして最後に本項の最大の肝である、デジタルイベントを開催する上での企画から実施に至るプロジェクトファシリテーション上の課題と、それらの課題を解決するための解決策をフレームワークとして共有させていただく流れとなります。

では、始めます。

<イベント実施に向けて、大き過ぎた問題たち>

大人語講座で「問題」と「課題」の違いは説明していますが、冒頭ご紹介した通り、問題だらけでしたのでまずは列挙していきます。大きく言うと

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