久しぶりの風邪

これは別ブログで書いた記事をnoteで編集・再投稿したものです。
当記事を書いた当時は2023年です。

2023年夏。世間は夏風邪を引く人間が増えているとか。
私も7月に入ってから珍しく流行りに乗っかり、珍しく風邪を引いた。

私は日頃から頑丈なのか運が良いのか体調不良にならないタイプで、ナントカは風邪を引かないを体現している人だ。ここ数年は風邪を引いた記憶がない。実は引いていたかもしれないが、ナントカなので覚えていない。

しかし最近はメンタルがじんわりと不調になっていた。
今年に入ってから今日まで、些細なことで落ち込む。
精神が擦り減っているのはゲームやSNSのやり過ぎでは?とも思っていたが、そのどちらからも2週間ほど離れていた時期ですら変わらずじまいだったのだから、どうしてこうなったのかさっぱり分からない。
3食しっかり食べ、毎日7時間眠っているのに。

そんな情緒不安定気味な人間が風邪を引くとどうなるのか?
心が元気になる。
あまりにも久しぶりすぎる風邪の感覚に「わぁ~しんどい~!」と喜んでいる。病気か?病気だ。

発熱と頭痛でままならなくなり、上司や周囲にペコペコ頭を下げながら早退をする日があった。帰り際に事故を起こさぬよう、悪寒と不安でヒヤヒヤしながら運転をした。
したくないタイミングで発作のように咳が止まらなくなり、慌ててトイレに逃げ込むも申し訳無さに気が遠くなる。喉がすぐに乾き、ひたり、と喉の皮と皮が引っ付いた瞬間に爆発的に咳が出て酸欠になる。
深夜2時に喉が痰で詰まり、呼吸困難になりながら飛び起き、胃液を吐く勢いで咳き込む。1時間は痰が収まらず、丑三つ時にスライムを吐き出し続ける妖怪になる。
鼻水がさっぱり止まらず、食べ物の風味が分からず、顔の真ん中が常にグジュグジュしているまま、なんとか1日3回食事をする。
喉が痛み、声も枯れてしまい、電話越しだとより一層ボソボソオタクボイスはノイズまみれになり、業務連絡の意思疎通に苦労する。

こんなに酷い風邪がこの世に存在するのか?これは巷にはびこるコロナやインフルというやつではないのか?そう思ってかかりつけの内科に飛び込み、鼻に痛~い検査棒を入れられて泣きながら診断を待ったが、どちらも陰性。
立派なただの風邪だった。

風邪ってこんなに大変なのか!
つらいよりも驚きの方が大きい。

あまりにも風邪を引かないでいると体調不良による苦労がまったく無い。
その他の苦労と言っても、幸せ者なので周囲のおかげで困りごとも助けてもらったりしてだいたいなんとか乗り越えてきた。
しばらくイベントに参加もしていないので自業自得の修羅場なども味わってなく、「しんどい」と思うタイミングは今年に入ってさっぱり無い。

そうなると有効期限内の「しんどい」の経験サンプルが極端に少なくなり、頭の中でだけで「しんどい」という概念をふわふわと想像することになる。想像はたいてい大袈裟になりがちで、この世の終わりみたいな「しんどい」をどんどん生成したりする。
そうして、現実でなにか小さいことにつまづいた時、「しんど……」なんて言葉を心のなかでつぶやくと、過剰に誇張された「しんどい」が出てきて、最近は些細なことすら大変深刻なもののように感じるようになっていたのではないか。自分の心の動きなんか意識したことないから、これすらも想像だけれども。

心の中でのみ生成されていた「しんどい」と同等もしくは上回る「真のしんどい」がお出しされると、「なんだ、私がこれまで想像していた”しんどい”って、大したことないじゃん」と今までの自分の悩みだとか負の感情がちっぽけでしょーもないものに感じてくる。

そんなわけで元気が湧いてくるのだ。
「確かに今の状況は死ぬ程しんどいけど、思ってたよりは怖くないな」と。

風邪を引いて心が随分楽になり、以前よりも穏やかになった気がする。こんなに凪いだ精神は久しぶりで、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ時くらいにはスッキリした心地だ。
飲んでいた薬が有能で、自分の免疫力もエリートだったおかげか、それに加えて職場や家族の優しさがそうさせたのか、1週間くらいで夏風邪はほぼ収まった。ありがたい。

心のチューニングとして定期的に風邪を引くのは良いかもしれない。新たな発見のある体調不良だった。
ただ、まあ、しばらくはもういいかな。鼻詰まりは苦しいし。