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しろくろコンチェルト〜第三楽章〜(前編)

ある月の半ばの金曜日、時刻は午後7時を回ったところ。
週末の開放感か街を歩いているスーツ姿の人々もどこか晴れやかな表情だ。

僕はそんな人並みを会社の窓から眺めてから、キーボードを叩いて最後の一文を入力する。今日急に言われた急ぎの資料だったけど,どうにか完成に漕ぎつけた。

「あの…そろそろあがろうと思います」

殺伐として澱んだ空気の職場で僕は先輩職員に帰宅する旨を伝えた。
今日はカノンちゃんのスタジオで彼女の演奏を聴くことになっている、確かソナタちゃんもくると言っていた…
その後は、一応歳上の社会人らしく彼女たちに食事でもご馳走しようと思う。

僕は『これから向かう』というメッセージを打とうと思いスマホを取り出そうとしたところで…

「あぁ? 田中ァ…お前もう帰るのかよ? こっちが残業してるってのに随分余裕だな?」

入社が何年か早かっただけで大きな顔で上司ぶる同僚職員のダミ声がオフィスに響く…
この人には入社以来散々な目に遭わされている…例えば取引先で土下座させられ、その上に頭を踏みつけられたこともあった、他の職員がいる前で何時間も立たされて無限ループの説教という名の罵倒をされたこともあった、そのせいで朝どうしても出勤に躊躇してしまい遅刻寸前に…結果はいつもの5割増の罵倒だった…
そんな嫌な記憶と僕の中に刷り込まれた恐怖心が頭をもたげてくる。
しかし今日は大切な用事がある、僕は意を決して彼に言葉を返した。

「で…ですが今日の分の仕事は終えていますが…」

「はぁ? じゃあ完璧なんだな、誰が見てもぐうの音も出ないほどにできてるんだな? オレはお前がミスってもテメェのケツなんか持たねぇからな!」

「……」

バンッ!!

苛立たしげに机を叩く同僚職員。
いつもの恫喝、頭ではわかっているけどこれにはいつも足がすくんでしまう。

「あぁ? なんか言ったらどうなんだよ! チッ…こっちは必死で仕事してるのに…お前、明日休みなんだろ? まったくいい気なもんだよな!!」

そう言って先輩は電源を落とそう思っていた僕を押し除けてパソコンの前に座り、今し方完成させた資料のデータを開く。

「おい、見せてみろ…ってなんだよこりゃ、なってねぇ、全然駄目だ! テメェ何年働いてるんだよ!?」

データが開いて2秒、ろくに資料に目も通さず大仰で芝居かかった仕草で僕に言う。

「で、ですが…」

「んだよ…口答えすんなよ、オレが駄目って言ったらダメなんだよ、全然ダメ! まったくなってねぇ、やる気あんのか? こりゃクソの仕事だ、ほら早くやり直せ、テッペンまで後5時間しかねぇぞ!!」

「……分かりました」

「承知しましただろうがぁ! テメェ口の利き方も知らねぇのか!!」

「……し、承知しました」

単に僕が先に上がるのが気に食わなかったのか言いがかりをつけられて、資料作成のやり直しを命じられた…
僕は送信直前だった『これから向かうよ』というメッセージを取り消して『急な残業で遅くなってしまう、今日は行けなくてごめん』と打ち直し送信ボタンをタップした。

「田中ァ!! ケータイで遊んでる暇があったらさっさと仕事しろよ! このグズがっ!! 大した仕事もできねぇくせに、この給料ドロボーがぁ!!」

「…はい」

とてつもなく理不尽な気分に打ちひしがれる僕に、程なくして届いた二人からのメッセージ…

『急なお仕事じゃ仕方ないよね、アタシたちはいつでもいいから、お兄さんは気にしなくていいよ、疲れてるなら今度マッサージしてあげるね』

『お仕事ご苦労様ですイチロウさん、最近夜遅くまでお仕事をされているようですが、お体に気をつけて、あまり無理をしないようにしてください』

可愛らしいスタンプと共に届いたそれだけが今の僕の心の支えだった。

土曜日、午前1時30分。

ガチャ…キイィ、バタン…

立て付けの悪いアパートの玄関が閉まり、ようやく僕だけの時間が訪れた。

自分でやり直せと言ったくせに、今日最後の電車の中でも嫌味を垂れっぱなしで…

「田中ァ、お前本当に最低、人間のクズだな、テメェだけならまだしも俺まで終電だ! あーぁ予定があったのになぁ! 全く最低な後輩を持つとこっちも散々だ、いっそ死ねよ…いや死んだらテメェみたいな奴でも香典出さなきゃいけないからな、さっさと辞めてくれねぇか?」

人もまばらな車内だがそれでも乗客はいる、彼らに聞こえるように言っているかのように僕を責め立てる、周りの乗客の何事かと思いつつも関わり合いになりたくないといった空気や、僕への憐れみのような気配がひしひしと感じられる…

僕はそんなに手酷いミスをしたのか?
なんでそこまで言われなきゃいけないのか?
あそこで何か一言でも言い返せなかったのか?

「……」

ガサガサ…バサッ!

白いコンビニ袋を適当に放る、こんな時間に開いている飲食店など牛丼屋か居酒屋くらいしかない、でも一人で飲む気分になんてとてもなれなかったので、結局帰り道のコンビニで味気ない食事と安い割にはアルコール度数が高い酒を一本買い込んだ。

「あんなに言われて僕はなんでこの仕事を続けてるんだろうな…」

あのタバコで焼け切ったダミ声の罵声がまだ頭の中で響いている。

今の仕事は給料がいいわけでは決してない…正直、生きてくのにやっとだ、でも僕にはこれでしか生きてく道がない。
残念ながら、どう取り繕ったって大したことのない大学をどうにか出て、容姿も冴えない、特技もこれといって思いつかない…

いっそ辞めて転職でも…何度も考えて、転職サイトなども見た事があったが、学歴もスキルもパッとしない自分には転職先もない…

もっと自分に能力があったらなぁ…

考えても意味のない妄想ばかりが頭の中でぐるぐる回り、お決まりの諦めにたどり着く。

「やっと…休みか…」

わざと何でもない風を意識して呟く、そうしないと現状の惨めさに泣き出しそうになってしまう。

僕は自分を騙し込んで食事もそこそこ、シャワーを浴びて、さっきの安酒を胃に流し込んだ。
今夜はもう寝よう…

「カノンちゃんたちには悪いことをしちゃったな」

前から約束をしていたのに今日は勝手に反故にしてしまった、夜が明けたら連絡をしておこう。
僕はそう思ってスマホを手に取ると、メッセージが何件か入っていた。

受信はおよそ2時間前、ほぼ同時刻に彼女たちからだ。

『まだお仕事中ですか? いくらお勤めとはいえ流石にお体を壊さないか心配です。
明日はイチロウさんもお休みだと聞いています、どうかゆっくりと過ごしてください。では、おやすみない。
あと後ほどカノンが動画を送ると思います、ちょっと恥ずかしいですけどイチロウさんでしたら大丈夫ですので、使ってくだい』

ソナタちゃんらしいちょっと時代がかった文面を苛立った気分が和んだが、後半はどうも妙な文章だ…カノンちゃんの動画とは?

今度はカノンちゃんのメッセージを確認する。

『お兄さん、そろそろ日付が変わりそうだけどまだお仕事してるの? だったらホントにお疲れ様、そんなお疲れのお兄さんにとっておきのこの間撮った動画を送るね』

続く動画をダウンロードする。

「!?」

ダウンロードした動画を開くとそこには画面いっぱいに黒いタイツのほっそりした足首とシンプルな黒いパンプスに包まれた足がピアノペダルを踏んでいる動画だった。
慎重にペダルを捉えたパンプスの靴底が体重をかけてペダルを押し込む、その際の爪先に僅かに浮かぶシワや靴底の反りがなんとも言えず扇情的だ…
靴の好みからこの足はソナタちゃんだろうか?

一つの生き物のように滑らかにペダルを踏み込むパンプスを見てペニスに血が流れ込み一気に勃起しそうになるが、見知った女の子の足だと思うと途端に罪悪感が湧いてきて、劣情にブレーキをかけた。

『どうだった? ソナタの足ってなんだかすごくえっちだよね、なんて言うのかな、官能的?』

『あ、そうだ、それはソナタからOK貰ってる品物だから大丈夫だよ、ソナタ、顔を真っ赤にしてたけど「イチロウさんだったら、構いません」って、だから安心してオカズにしていいよ』

「………」

『それと、ソナタのだけじゃ悪いからアタシのも撮ったんで一緒に送っておくね、お兄さん今夜は一人でかわいそうだけど、アタシたちのペダル動画で楽しんでくれると嬉しいな…じゃあ、おやすみなさい』

絶対他人には見せられないメッセージとともに今度はカノンちゃんのものと思われる可愛らしいピンクのストラップパンプスで同じ曲を弾いているのに全く違った足遣いの動画が添付されていた。

「………」

表現の仕方はおのおの違うが、いずれも優しさに溢れたメッセージに思わず胸が詰まってくる。

…帰ってからというもの、今日の出来事と出来もしない絵空事に悶々と悩まされていた。

しかし、最近知り合った彼女たち…有名な女学院に通う女の子たちで、本来ならばこうして連絡を取り合う事など僕のような人間にはなかっただろう、それくらいもう住む世界が違うといってもいい二人だが、そんな僕の事をこうして気遣ってくれる二人の優しさにとっくに乾き切って疲弊した心の奥の方に潤いとあったかい何かが灯るのを感じる。

その一方、我ながら呆れ返るが、送られた動画に湧き上がってくる衝動には抗えなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、二人のパンプスに踏まれるペダルを交互に見て、ペダルに自分のを重ね合わせ、一人でティッシュの中に罪深すぎる欲望の塊を吐き出す…彼女たちの優しさに甘える充足感とその中に墨汁を一滴垂らしたように薄く拡がる罪悪感を抱えて、僕はそのまま泥のように眠りに落ちることにした…

午前4時…

「………」

あの口汚い罵詈雑言は今に始まったことではないが…何故か今夜は心に引っかかって離れない。
目を閉じるとこれまでの嫌な記憶が蘇ってきて罵倒される声が聞こえてくる…
僕はいよいよストレスでどうにかなってしまったのか?

午前7時…

…見慣れた薄暗い部屋の閉じ切らないだらしないカーテンの隙間から眩しい日差しが差し込んでくる…
今日はよく晴れているのだろうか?

「結局眠れなかったな…」

ウチの会社はブラック企業には変わらないが以前に比べて少しだけ休みがもらえるようになった。
しかし、この暗鬱な気分では何かしようという気も湧かない、気晴らしになるかはわからないがまた都心の方にでも出てみようか?

「あ…」

そういえば今日は注文した品物が届く予定になっていた、僕にとっては少々値が張る品物だし、ちょっと男の僕が買うにはそぐわない品物…南米の熱帯雨林の名を冠する通販サイトで散々悩んだ挙句に購入してしまったあるモノだ。

「お金を用意しないとな、え〜と財布は…」

昨日コンビニ袋とともに放り出した仕事用の鞄をあさって財布を取り出す。

「……しまった、待ち合わせがないな」

財布の中にはお札はおろかろくに小銭すら入っていなかった。

「仕方がない、近くのATMで下ろしてこないと…」

僕はキャッシュカードが入っているカードケースを鞄の中から探すが、目当てのものに一向に当たらない。

「あれ、いつもはここに…どこに行ったんだろう、会社で使うようなものじゃないしなぁ…」

あのケースには運転免許証とか大事なものも入っている…お金が下ろせないのもあるが、免許の紛失が頭によぎり、徐々に焦りが僕の中で大きくなってゆく。

「まいったな…」

警察に届け出るべきか悩んでいると…

ピンポン…

「!?」

唐突にインターフォン…とはいえない、ただのドアベルがなった、もう配送業者がきてしまったのか?

「お金がないなんて、どうやって言い訳すればいいんだろう…困ったな…」

このまま居留守を決め込んでしまおうか…
僕はしばらくこの状況の対応をしかねて黙って玄関ドアを見つめていたが…

コンコンコン

「お兄さん、いるんでしょ?」

ドアの向こうからよく知った声がした。

「え? カノンちゃん?」

僕は慌てて玄関ドアを開けるとそこにはこのボロアパートの訪問者にしては華やかすぎ二人が立っていた。

「おはよう、お兄さん…なんで居留守なんて決め込んでたのかな?」

「おはようございます、イチロウさん」

「ああ、おはよう…いや、居留守しようと思ったわけじゃないんだけどさ…ちょっと探し物をしてて」

「そうだったんだ…ってお兄さん、なんかひどい顔色をしてるよ、それに少しやつれてるみたいだし…大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ、ちょっと寝不足と考え事をしていただけだから…」

僕はそんなに酷い顔していたのか…

「昨日も遅くまでお仕事をしてたみたいだけどあんまり無理しないでね、アタシたちでも話を聞くくらいはできるからさ、ところで探し物って?」

「うん、キャッシュカードが入ったカードケースを…って、二人ともどうして僕の家がわかったの? 住所を教えた記憶はないんだけど…」

こんなボロ家に用事などないだろうし、知ったところで何の得にもならない情報なので特に僕の住所は話していなかったが、どうやってここまできたんだろう?
そう考えていると、カノンちゃんが彼女のカバンの中から何かを取り出した。

「じゃあその問題は解決ね、昨日気がついてお兄さんがスタジオに来たら返そうと思ってたんだけど…はいっ!」

「こ、これは…」

僕がずっと探していたカードケースだった。
何かの弾みでカノンちゃんのスタジオに忘れてきてしまったようだ。
そしてソナタちゃんがそれに続けてことの経緯を説明してくれる

「申し訳なかったのですが、中身を見させてもらいました、運転免許が入っていたので無いと困るだろうし、住所を見て届けに来たんですよ」

「そうだったんだ…わざわざありがとう、連絡をくれれば取りに行ったのに…」

「ううん、お兄さんは見ればわかるけどお疲れだし、それにどんなところに住んでるのか、ちょっと興味があったから…」

「まぁ、見ての通り独身社畜男のさびしいねぐらだけどね…あっ、そうだった」

「え?」

「ごめん、二人ともちょっとお金を下ろしてこないといけないんだ、帰りにお礼のスイーツでも買ってくるからこんな所で良ければちょっと待っててくれるかな?」

「あ、うん、わかったよ…気をつけて行ってきてね」

「ではお言葉に甘えて、お邪魔します」

「ごめん、すぐ戻るから!」

早いところ現金を調達しないと配送業者がきてしまう、カノンちゃんたちには本当に助かった。

しばらくして…

近くの金融機関でお金を下ろして、その足で駅前にある洋菓子店でスイーツを買う。
この辺りは芸術関係の学校が多く、女の子達も多い…そのせいか、こういった甘い物は結構充実している。

ガチャ…キィィ…

女の子を招くには若干不相応な相変わらず立て付けの悪いドアを開けて、普段なら言うこともなくなってしまった帰着を知らせる。

「ただいま」

「おかえなさい」

部屋の中でカノンちゃんとソナタちゃんが出迎えてくれる、乱雑な部屋にも関わらず、こうして可愛らしい女の子がいるとこうも雰囲気が違う物なのか…そして、彼女たちのそばに大きな箱が一つ、外装には例の熱帯雨林の名前のロゴがプリントされている。

「そ、それって…」

この事態は想定していなかった。
僕の留守中に業者が来てしまうとは…しかもこうして部屋に置かれていると言うことは…
僕の背筋に冷たい汗が一滴流れ落ちる。

「これ? お兄さんが出掛けてる間に宅配便さんが来たの、代引きだったから立て替えておいたよ」

「あ、ありがとう…助かったよ」

僕はそそくさと下ろしてきたお金をカノンちゃんに返そうとしたが…

「でもこの箱、すっごく大きいけどその割にはなんか軽いんだよね…なんか中からガタゴト音がして…中に何が入ってるの気になるなぁ」

「う…」

カノンちゃんが小悪魔のような笑みを浮かべて僕を見つめている。

「男の人が通販で何を買っているのか気にはなりますけど…イチロウさんのプライベートな物ですし、いくらカノンが立て替えて受け取ったからといって中身を詮索するのは失礼かと…」

ソナタちゃんがカノンちゃんに嗜めるような言葉をかけるが、好奇心が隠せないらしい…彼女自身も中身が気になっているのかチラチラと箱の方を見ていて何の説得力もない。

この状況…どう誤魔化そうか…

本を買った? いやそれにしては箱のかさが張りすぎる。
DVD? 余計にややこしいことになりそうだ…
家電は? のサイズはちょうどいいけど軽すぎる。
じゃあ服を買ったことに…いや、カノンちゃんの事だから絶対に着て見せてくれと言うと思う…

八方塞がり。

大人しく白状するしかないか、僕は諦めて箱の中身を彼女たちに言おうとした矢先に…

「あーっ、お兄さん、黙ってるって事はやっぱりこれの中身ってエッチな道具かなんかなんだ…言ってくれればアタシたちが足でくらいならしてあげるのに浮気とかサイテー」

「!!」

カノンちゃんの言葉が不意に僕の心突き刺さり、重苦しい雲が立ち込めてきた…昨夜の先輩の『最低だな』という言葉が無限に繰り返されて目眩がする…

「最低…最低かぁ……あ、あれ?」

そして、目眩が徐々に酷くなり、視界が暗くなって呼吸が浅くなり、僕は立っていられずその場にへたり込んだ。

「ちょっと…お兄さん?」

「イチロウさん?」

「……ハァ…ハァ…」

別にカノンちゃんが悪いわけじゃない、勝手に頭の中によぎってくるアイツが悪いんだ、でも、自分にそう言い聞かせるが迂闊にも視界が滲んで涙が出てきた。
一体自分はどうしてしまったんだろう?

「お、お兄さん、い、いまのは冗談! サイテーってのは冗談だってば、ね? お兄さんが何を買ってもアタシは気にしないからさ?」

「ごめん…そうじゃないんだ…カノンちゃんのせいじゃないよ、昨日あったちょっと嫌な事を思い出しちゃってね…うん、もう大丈夫」

「で、ですがイチロウさん…顔色も優れませんし…」

「そうだよ、本当に無理しちゃダメ、倒れちゃうよ、ほらちゃんと座って!」

心配そうにがカノンちゃんが僕の背中を撫でてくれる。
背中をさする彼女の手の温もりで少し気分が落ち着いてきた。

二人とも心底僕のことを、心配してくれているようだ、仕事のことを引き摺ってしまって二人には申し訳ない事をしてしまった。
それによく考えたら僕の事なんてとっくに知っているだろうし、変に隠すよりは開けっぴろげてしまった方が良さそうだ。

「もう大丈夫だよ…驚かせちゃってごめん、そうだ…せっかくだしその箱を開けてみよう」

僕は全世界的に有名なロゴの入った大きな箱を手に取って、封のテープを引き剥がす。

「……」

「……」

取り乱した僕をを見た後だからか二人とも言葉を発さずに僕の様子を見守っている。
そして、ダンボールを開けた先には白く平たい箱が二つ。

「こ、これは…」

「ええ…」

全ての箱を開け切ると二足の女性用のブーツがあった。
一つは白いスムースレザーで膝より上の部分は折り返してニーハイブーツとして履いてもいいし、そのままオーバーニーブーツとしても使える、商品説明にはイベントコンパニオン用の白いブーツとあった品物。

もう一方は黒いスエード調の素材で作られたやはりニーハイブーツ。
履き口のところのレース飾りが女の子らしく可愛らしい。

いずれもヒールはすらっと高くほっそりした作りの女の子の為の靴であり、男で彼女もいないような僕にはそぐわない。

僕はこの二足のブーツを一目見た時からこの綺麗なシルエットの虜となり、ずっと買おうかを迷っていたのだが、先日意を決して購入に踏み切ったのだ。

「まぁ…カノンちゃんの言う通りだったかな…」

「そうかな? アタシは別にいいと思うよ、お兄さんがこれを何に使うのかはなんとなくわかるけど、でもてっきりもっとどぎつい一人で遊ぶものでも出てくるのかと…それに」

二人は箱の中から出てきたブーツを取り出して手に取って眺めている。

「そうだね…失礼ながらその、何というんでしょうか…選び方がとても素敵だと思います」

ソナタちゃんは白いブーツを傍に置いて言う。

「そうそう、センスいいよね、もっとこう…ピッカピカのエナメルでヒールなんて針みたいでさ、いかにも女王様みたいなやつとかそう言う欲望丸出しみたいな感じがしなくて」

カノンちゃんは黒いスエードのブーツの方に興味があるようだ。

「ねぇお兄さん、アタシこれ履いてみてもいい?」

「え? それは構わないけど」

「やった! ありがとう、アタシこういうの持ってなくて、ロングブーツとか一度履いてみたかったんだよね」

「そ、そうなんだ…」

「膝や足首の動きが少し制限されますから、こう丈が長いブーツはピアノの演奏には不向きなんですよ、私もそういうのを気にしてこれまでは買う靴の選択肢に入っていませんでした」

「ね、ソナタ、どっちがいい?」

「う〜ん、私は…こっちの白い方にしようかな?」

「じゃあアタシは黒い方、というわけでちょっと待っててね」

二人は各々、僕が買ったブーツのサイドジッパーを下ろし始めた。

自分で言うのもなんだけど、女の子が履いてその足元を飾るために生まれてきたブーツたちだが、僕なんかに買われてしまったばかりに、誰の足も包み込む事なく、女の子を転倒から守るための靴底の滑り止めにペニスを擦り付けられて、汚らしい精液を吐きかけられる…そんな異常な使われ方をされて終わるはずだった2足のブーツ。
これらも目の前のカノンちゃんとソナタちゃん、誰がみても間違いなく美少女だと言うだろう二人に履いてもらって本望だろう…

二人がブーツを履く様子を僕は黙って見守る。
サイドジッパーが開き切り、普段街では目にすることができないブーツの裏地が顕になる。
特に興味のない人間ならなんとも思わないかもしれないが、パンプスなどど違い、隠された土踏まずに縫い付けられたブランドのタグが妙に心を揺さぶられる…
その開き切ったブーツの薄暗い爪先に向かって彼女たちのソックスに包まれた柔らかそうな足が滑り込んでゆく。

「……」

女性に縁が無い僕には、この女の子がブーツを履く何気ない仕草もとても魅力的だ。

やがてつま先から踵まですっぽりと収まり二人の足が華奢なヒールで武装された…

「わ、サイズも計ったみたいにぴったり…アタシさちょっと他の子より足が小さいから大人っぽい靴を探すのが大変なんだよね」

カノンちゃんがそう言いながら開き切ったジッパーをゆっくりと上げ、ブーツと彼女の脚は一体となった。
ソナタちゃんも履き終わったようで、自分の白いつま先を見ながらつぶやく。

「意外と…足首がきついかと思いましたが動かせますね、それに却って支えられているような感じがして、こんなにヒールが高いのに安定している気がします」

「お兄さんお待たせ、どうかな?」

「……」

二人の姿につい見惚れてしまった。
二人とも小柄だけど元々整った顔立ちだし、脚も長くスタイルがいい、知り合ってまだあまり経ってはいないが、普段はあまりハイヒールを履いているところを見たことがなく、制服姿の時は学校指定のストラップシューズかショートブーツだし、私服ではソナタちゃんは安定感の高い靴を好む、カノンちゃんはどちらかと言うと可愛らしいデザインのものが好みなようで、このブーツのようにセクシーな靴を履いている姿は珍しい。

「…二人ともよく似合ってるよ」

この小汚いアパートの部屋で僕は床に直接座って、白と黒のロングブーツ…まだ下ろしてはいないが土足として使う靴を履いて立つ二人の女の子を見上げていると若干心の中に被虐的な気分が湧き上がってきて股間の奥がムズムズしてきた。

そこで、二人のブーツ姿を見ていてあることに気がつく。

「そういえば、二人ともなんか雰囲気が違うような気がするんだけど…あぁ、服かな?」

「あ、お兄さんも気がついた?」

「先日カノンと買い物に行って、たまには明るい色の服も買えと言われまして…私は黒とか暗い色ばかり選んでしまいますから」

「そうそう、ソナタも明るい色の服を着ればもっと可愛くなると思ってね」

「そうなんだ…」

言う通り、今日のソナタちゃんは淡いクリーム色のニットのカットソーにこちらも薄いピンク色のチュールスカートを身に付けている、そこに膝上まである白いロングブーツなので、大人しくて優しげふわふわとした雰囲気とブーツの硬質なイメージが合わさって、その辺のアイドルにも引けを取らないし、全体的なイメージとしては天使のようだと言ってもいいと思う。

「ソナタが今日はこんな感じだからアタシも少し雰囲気を変えてみたんだよ?」

対してカノンちゃんは普段は明るいパステルトーンの可愛らしい服を着ているイメージだけど、今日は黒いミニワンピースに黒いニーソックスという姿、黒いスエードのブーツとあいまって元々イタズラっぽいところがあるけど、さらに小悪魔っぽく魅力的だ。

「まるで白黒逆転だね」

「そうですね、ですが確かに普段やらない事をするというのは新鮮で新しい発見があると思います」

「うん、アタシも鏡見て黒も意外といけるなぁって思ってさ、今度のコンクール、黒いドレスにしようかな?」

「近くにコンクールがあるの?」

「そうだよ来週に、あぁ…もちろんソナタも出ることになってるよ」

「そうなんだ、活躍を期待してるよ」

他愛もない話をしていたら、さっき突然かかった心のモヤはいつの間にかどこかに霧散していることに気がついた。
このところ仕事が続いていたし、勤務中はあの罵声を浴び続けなくてはいけなかったから神経質になっていたのだろう。

「ありがとう、今日も帰って練習だけど…ねえ、お兄さん?」

「え?」

「これから特に予定がなかったら、スタジオまで来ない? 本当は昨日、お兄さんに出来映えを聞いてもらいたかったの、それにお兄さんもなんだか気分が浮かないみたいだし、ちょっと気晴らしでもしようよ」

「あ、うん…それは大丈夫だよ」

「よかったぁ、ソナタも来るよね?」

「そうだね、イチロウさんに客観的に聞いてもらえれば、また別の課題も見つかるかも」

「うんっ、そうと決まったら早速行こう」

「じゃあ、ちょっと準備をしてくるよ」

「そうだ…」

カノンちゃんは芝居がかって、ポンと一度手を叩く、そしてソナタちゃんに何事かを耳打ちで伝えると…

「ねぇお兄さん、このブーツも持って行っていい? こんなカッコいいブーツ履いたら…ね? アタシお兄さんのこと、踏みたくなっちゃった」

カノンちゃんが今度は僕に耳打ちをするように囁く。

「!?」

「ソナタもでしょ?」

急に話を振られたソナタちゃんは少しだけ顔を赤くして…

「う、うん…私もこのブーツで、イチロウさんを踏んでみたい…」

「!?」

そもそも,そういう妄想に駆られて買い込んだブーツなのに、それを履いた美少女二人に『踏みたい』なんて言われてしまい、思わずペニスが薄手のズボンの中で射精してしまいそうになってしまい、それに気付かれないようにそそくさと僕は準備のため隣室に駆け込んだ。

服を着替えて、荷物…普段ならば財布とスマホ程度なのだが、今日はそれに加えて2足のブーツと少し大荷物だ。

僕の家からカノンちゃんのスタジオへは最寄りの私鉄に乗り、終点のターミナル駅から環状線に乗り換えて数駅…大体40分くらいの道のりになる。 

「着いた着いたっと…」

スタジオの最寄駅からしばらく歩いて高級住宅地の外れ、僕たちは彼女の所有するスタジオに辿り着いた。
ここは彼女のお爺さんが経営していた工場を改装したものだそうで…グランドピアノが置かれたちょっとした仕掛けがあるホールの他、普通に住宅としても使える設備を持っていて、カノンちゃんだけではなくソナタちゃんもここでよく練習をしているという、その一点だけを取ってみてもカノンちゃんの家の資産家ぶりを見せつけられる。

「そういえば来週コンクールがあるって話だけど、それは結構有名なコンクールなの?」

僕は到着するなりアレを始めるのが気恥ずかしくて、荷物を置いた後、道中話そうと思っていた話題を二人に振った。

「う〜ん、審査に有名な先生も来るけど…ほらお兄さんのアパートから駅に向かう途中にあった芸術大学の教授とか」

「へぇ…そうなんだ」

カノンちゃんの返事にソナタちゃんが続けて補足をする。

「ですが、コンクールとは言ったもののどちらかと言うと学内選抜のような意味合いの方が強いですよね」

「そうそう、ウチの学校は音楽にはすごく力を入れてるからね、コンクールの成績が良い子は留学とかもあるんだよ」

「なるほど…じゃあ、二人とのその留学を目指しているのかな?」

「それが非常に狭き門でして…年間数回行われる選抜コンクールで常に上位を維持して…仮に全コンクールで優勝しても審査員の先生方の評価が得られなければ留学の座を射止めることできないんです…」

コンクールで全勝しても審査員選考で落ちるのか…すごい世界だな。

「本当に狭い門だね、でも二人ともすごいな、そんなレベルの高いコンクールに出るなんて…」

「そういえば、お兄さんもピアノをやってんだよね? お兄さんはコンクールとか出たことあるの?」

「え? イチロウさんがピアノをやっていたんですか? 初耳です」

「あ、ソナタちゃんには話していなかったか…うん、昔ちょっとね、コンクールにも何度か出場したことがあるけど二人みたいに才能があるわけでもなかったから、まぁ参加賞くらいかな?」

そういえばカノンちゃんとの出会いも発端はピアノだった、ピアノを習っていたあの頃、思い返すと…つくづく不純な動機だったけど、あの時は打ち込めるものがあったな…今はもう朧げにしか顔も声も思い出せない優しかった先生とのレッスンの時間、最初は先生のペダルになって踏まれたいだなんて歪んだ感情からだけど、コンクールに出て、賞は取れなくても先生は手放しで褒めてくれて、頭を撫でてくれた。
先生との時間は、今よりよっぽど生きてる実感があったと思う。

それが今はどうだ? 寝て起きて、家畜か奴隷のように働かされて…毎日罵声を浴びせかけられて、人格を否定されて帰って寝る、そして起きてまた同じ事を繰り返す…

無味乾燥として死人のよう…いや死んだら何まで感じないからそっちの方が楽か。

「……」

…いけない、せっかくの休日にカノンちゃんのスタジオでこんな可愛い女の子たちと楽しく話をして、しかもこれから二人が僕のためにブーツで踏んでくれるというのに…
ネガティブな考えが頭によぎって気分が曇ってしまう。

「……」

「イチロウさん、大丈夫ですか? また少し顔色が悪いようですけど…」

「そうだよ、折角なんだから、楽しく…ね?」

「ありがとう、またちょっと考え事」

「そうですか? お疲れでしたらあまり無理をしないでくださいね」

「うん、ありがとう…気をかけてくれて嬉しいよ、ところでコンクールでは二人は何を弾くのかな?」

何故か今日は電車内で浴びせられた罵声のせいで、仕事の事がやたらに頭によぎってその度に胸が締め付けられる。

…気持ちを切り替えよう

僕は二人の手前なんでもない風を装って、ピアノの横に置かれたソファに腰掛けた。
ソナタちゃんは僕の横に腰掛けて、カノンちゃんは飲み物を用意してくるとキッチンに向かって行った。

「今回の課題曲はモーツァルトのソナタです」

「モーツァルトのソナタかぁ…僕も弾いたことがあるけど意外だね、なんか初心者向ってイメージがあるけど…もっと聴いたこともないような難しい曲なのかと思った」

「ええ、ピアノを始めたばかりの人や小さい子の発表会ではモーツァルトのピアノソナタの第16番とかは定番ですね、私も最初の発表会の課題曲でした、その…緊張して泣き出してしまったので一音も弾けず大失敗でしたけど…」

「ソナタちゃんが緊張して泣いちゃうなんて、その話も意外だね」

ソナタちゃんにとって初めての発表会は苦い記憶だったようで、頬を赤らめて恥ずかしがっていような、当時を思い出して悔やんでいるような表情をしている。

「その時は厳しかった親からひどく叱られました」

「……」

「その後お部屋で泣きながら発表会で弾けなかったソナタをもう一度弾いたんですよ、その時に落ち着いて正確に、譜面に集中すればもう緊張しないって気がついて、私の弾き方はその時に染み付いたんでしょうね」

「でもピアノが嫌になったりはしなかったの?」

「そうですね…ピアノは大好きでしたし嫌いにはなりませんでした」

「そうなんだ…すごいね」

「いえ、それほどでも…そろそろカノンが戻ってきますから演奏の準備をしましょう」

ソナタちゃんがソファを立ってピアノの椅子に座り高さを軽く調整する。
程なくしてカノンちゃんが飲み物とお菓子を持って戻ってきたら。

「あれ、ソナタもう弾くの?」

「うん…イチロウさん、今回の課題曲はモーツァルトのピアノソナタ第13番第一楽章です」

「……」

「モーツァルトのソナタは全部で18曲あると言われていまして、初心者向けから難曲までとても幅が広いのが特徴です」

「そうそう、今回のは長調で弾むような出だしが特徴だけど、そこがアタシはちょっと苦手…明るくて楽しい曲の割にはキッチリ弾かないといけないから…」

「…実はモーツァルトがコンクールで課題曲になるのはそこにあるんです、これはピアノ経験が長い人程言いますが、弾けば弾くほど難しいというか…聴いて貰えばわかると思います」

「あ、じゃあソナタが弾き終わったらアタシが弾くから聴き比べてみてねお兄さん」

「あ、うん,わかったよ」

「一回ずつ演奏したら今度はブーツに変えてお兄さんのおちんちんをペダルにして踏んであげるから,楽しみにしててね」

「……」

ソナタちゃんの細い指が鍵盤に添えられ、右足がペダルにかかる、カノンちゃんのセリフでつい足元に目が入ってしまうが今は演奏に集中しなきゃ…

ソナタちゃんの演奏が始まる、冒頭部はカノンちゃんが言う通り軽やかで楽しげな旋律が印象的だ。
でも、それだけに手元はとても忙しく、モーツァルトの曲の特徴的な装飾音がさらに運指を難しくさせる。
ソナタちゃんは得意の正確な演奏で譜面を再現してゆくが、最初に聞いた頃のようなまるでCDを聴いているような硬さはない。
最近、豊かな表現力を会得した彼女の演奏は正確無比な中に潤いを感じられ、今日は何かと気分が曇りがちな僕だが自然と楽しげな気分になれる。

「やっぱりソナタはすごいなぁ…お兄さん効果は抜群みたいだね?」

「え?」

「あの日からソナタの演奏がすごくなんて言うか…正確なんだけど、色っぽいって言うか…あぁ、これは今回はソナタには敵わないかもなぁ、アタシももっと頑張らないと…」

「そ、そうなんだ…確かにちょっと前と違うね」

曲は序盤から中盤、同じフレーズが強く、弱く掛け合って歌うような場面、ソナタちゃんは右足のダンパーペダルだけでなく左足のソフトペダルも使って、その掛け合いを巧みに表現してみせる。

「すごい…」

豊かな余韻を表現するために終始ダンパーペダルに添えられていた彼女の靴底が離れ一瞬の溜めの後に床まで一気に踏み抜かれる。
そしてソナタちゃんの靴底は踏み込んだペダルに強弱のある爪先遣いで追い討ちをかけた。

深い余韻を響かせてからの一瞬の静寂…続く中盤は若干テンポが下がる感じがして、とても優雅な旋律が合流してくる。
優雅な曲調とは裏腹にペダル操作は情熱的で、さっきほどではないけど、深い余韻の為の踏み込みから靴底を離さず連続したペダル操作、そして軽くノックするような小刻みの踏みつけ…曲に集中しようとしていたが、艶かしさすら感じるソナタちゃんのペダル操作を目が釘付けになってしまった。

「……コンクール当日は、ソナタより先の演奏がいいなぁ、後だと粗が目立っちゃいそう…」

「……」

終盤、軽やかながら力強いフレーズ、当然幅の広い音を表すためにペダルも大きく何度も踏み込まれる…曲は終局に向かい、一際大きく踵を支点に振り上げられた彼女の靴底がペダルを打ち据えて、案外重たいペダルが一気に沈み込み、このまま踏みしだくように爪先を動かす、そして、長くじっくりとした余韻を残しソナタちゃんは武道の残心のように油断なくペダルから彼女の足が離れ、鍵盤から指を離した。
未だに余韻が響いているかのような静寂の中でゆっくりとソナタちゃんは椅子を立ち、僕たちに向かって優雅に深々と一礼…

その姿に僕は自然と惜しみない拍手をしていた。

「すごい! 聴き入っちゃったよソナタちゃん!」

「ありがとうございます、どんな感じの曲か分かりました?」

「もちろん、確かに序盤の弾むようで楽しげな曲調はカノンちゃん向きなのかもしれない、だけどすごく正確な打鍵が求められて、そのあたりはソナタちゃんの真骨頂だと思う」

「……」

「……」

僕の感想を二人は黙って聞いている。

「あと音が一個一個立ってるから誤魔化しも効かない…これはとても難しいと思う、しかも軽やかなようで重厚なところもあるし、譜面をなぞるだけなら白けてしまうだろうし、勢いで弾いたらバランスを崩してしまいそうで、本当に二人の特性が両立しないと弾けない曲だよね」

「流石ですイチロウさん、一度聴いただけでそこまで…」

「お兄さんすごいね、今の仕事じゃなくて音楽関係のお仕事に就いた方が良かったんじゃない? よしっ、ソナタの後だから緊張するけど、今度はアタシが弾くよ!」

「……」

今度はカノンちゃんがピアノに向かって一呼吸、鍵盤の上で指を滑らせ始めた。

あれ?

カノンちゃんの演奏の雰囲気が違う…自由闊達で一気に聴く者を引き込むエネルギッシュな感じは変わらないけど…

「音にばらつきがない…」

「気が付きましたか? あの子は良くも悪くも基本を飛ばしがちなところなんです、それが持ち味の情熱的な演奏に繋がるところでもあるのですが、やり過ぎて、音がガチャついてしまう事がありました」

「うん」

「本人もそれを気にして、イチロウさんに出会ってから楽典を一から読み直して、基本を学び直したそうですよ…でも、本当にイチロウさんは耳がいいみたいですね、カノンの演奏を聴いてそこまで気がつくなんて、曲の感想にせよカノンの演奏にせよとても的確な評価で、まるで本当のコンクールで審査員の先生から講評をもらっているみたいです」

「そ、そうかな?」

躍動的な旋律は変わらず、しかし一音一音の圧が揃っている、端正に整ったそれは以前よりはるかに迫力を持って聴く者の耳に届くだろう。
才能のある人間が才能だけに頼らず、基本を学んだらどれだけ強いかを思い知らされる演奏だと思う。

最初から最後までカノンちゃんの演奏に引き込まれたまま曲が終わった。

僕はカノンちゃんにも賞賛の拍手を贈る。

「どうだったかな?」

「う〜ん、どっちも甲乙付け難いね、これは本番でどっちが優勝でもおかしくないよ」

「ありがと、これもお兄さんのおかげかな?」

「僕は特に何もしていないよ…」

「ううん、アタシさ、ソナタがすっごい演奏をするようになったでしょう? 正直本当に自信が無かったの、でもさっき演奏中にお兄さん、音が揃ってるって言ってたでしょ?」

「うん、そうだね」

「そう、それそれ、地味だけど実はかなり力を入れて練習したところだから、気がついてもらえて嬉しいな、流石アタシたちのパトロンだねっ!」

カノンちゃんは自信作を得意げに親に見せている時の子供のような表情で興奮気味に言う、多分相当練習をして会得したのだろう。

「そうですね、イチロウさんの演奏の評価はとても的確で勉強になります、失礼ながら、本当にその耳は勿体無いですね、イチロウさんが音楽の指導者でしたらもっと才能が開く人がいそうなものですが…」

ソナタちゃんの言葉はとても嬉しく、少しくすぐったい。
でも、こんな僕の、あんな会社で泥水啜って…どこかで潰れるまで毎日同じ日々をこれからも過ごすだろう、今のどうしようもない環境を嫌でも意識させる…

「ははは、僕はただのサラリーマン…しかも名の知れたブラック企業の社畜だよ…」

意識したわけでもなく、自嘲的な言葉が僕の口から漏れた。

「お兄さん、そんな淋しいこと言っちゃダメだよ、アタシは演奏聴いてもらって自信が出たし…」

「ええ、私も客観的に聴いてもらって仕上がりが確認できました、ありがとうございます」

「だから、そういうわけで…お礼にほらっ、ソナタも準備してっ!」

「うん、イチロウさん…またブーツをお借りしますね」

そしてソナタちゃんがカノンちゃんと何事かを無言で確認し合う。

「今度はお兄さんのおちんちんを踏みながら演奏するからアタシとソナタ…」

「私とカノン…どっちでその…い、イってもいいですから、楽しんでくださいっ!」

「じゃあ、お兄さんのためだけのプライベートコンサートの開演だよ!」

「……」

カノンちゃんとソナタちゃんはブーツに合う衣装へ着替えに衣装部屋に向かっていった。 

このスタジオのちょっとした仕掛けがある…おそらくそう言うために作られたのではなく、たまたまなのだろうけど、それにしては出来すぎた構造。

部屋の中央に置かれたグランドピアノの真下に鉄板で塞がれた一筋の溝。
かつては何かの配管が走っていたのか、又は機械の動作のために必要だったのか…何らかの意味があって掘られた溝だけど、あろう事か人がすっぽと収まる大きさで、僕がここに入ると深さもピッタリでちょうどグランドピアノのダンパーペダルの上にペニスを乗せる事ができる。
僕は服を脱いで素っ裸になり、その溝に滑り込み金色のダンパーペダルの上にまだ半勃ちのペニスを乗せた。
こうする事で、二人がピアノを弾けば当然ペダルとともに僕のペニスは踏みつけられてしまうことになる。

コツコツコツ…
カツカツカツ…

溝の中で横になって待っていると硬いヒールが床を踏む音が二人分聞こえてきた…

「お待たせしました…」

ソナタちゃんは白いコンパニオン用のオーバーニーブーツ、衣装はそれに合わせた真っ白なミニ丈のドレスを着ている。
腰の部分で可愛らしいリボンが結ばれ、前から見ると膝上20センチくらいあるのではと言うほどの超ミニ丈だけど、後ろはゆったりとフリルとドレープで形作られたトレーンとなっている、普通の靴…例えばパンプスなら惜しげなく曝け出された脚で目のやり場に困ってしまいそうだが、太ももまで彼女の脚を覆うオーバーニーブーツとの相性はとても良い。

対してカノンちゃんは黒い、エプロンを外したメイド服のようなデザインのミニドレスだ。
ドレスは手触りの良さそうなビロードで仕立てられて、天井の照明をキラキラと反射させている。
足元は何故こんなものを彼女が持っているのか疑問だが、ガーターベルトで留められた黒いフィッシュネットタイツ…いわゆる網タイツに僕の購入した黒いスエードのニーハイロングブーツだ。

普段はカノンちゃんが白、ソナタちゃんが黒い服を着ている印象だが、今日はブーツに合わせて色が逆転している。

「お兄さんお待たせ! 準備できてる?」

カノンちゃんが溝に収まる僕に声をかける。

「いつでも大丈夫だよ」

二人ともそれが本当にピアノの発表会やコンクールに着て行くドレスなのかと思うほど、大胆に脚を見せた衣装にロングブーツという姿で溝の淵に立つ。

「ちょっと変わった衣装があったから着てみたけどどうかな? ブーツによく合うでしょ?」

「うん、よく合ってる…こっちは裸だからなんか期待を通り越して緊張してきちゃうな、ソナタちゃんもすごく可愛い、白もよく似合うね」

さっきは堂々とした演奏をして見せたソナタちゃんだが、ドレスがちょっと恥ずかしいのか、彼女は僕の言葉に少し頬を赤らめている。

「ありがとうございます、カノンのドレスは何回か借りて着た事がありますけど、こんな大胆なのは初めてで…でもイチロウさんにそう言ってもらえると嬉しいです、頑張りますね」

白いブーツを靴音を鳴らしてソナタちゃんがピアノの椅子に座る。

「じゃあ、私から弾きます」

着替えながら事前に順番を決めていたのか、ソナタちゃんが先に踏んでくれるようだ。

椅子の位置を調整して、ペニスの分だけ踏み位置が変わったペダルの具合を確かめるように、ペニスごとペダルを軽く何度か踏み込む…


ふにっ…ふにっ…

「あっ…んっ…」

ものすごく優しくブーツの靴底を押し当て、じわじわと彼女の体重をかけられる…いわゆる卵形のノンスリップソールのギザギザが僕のペニスを甘噛みしてきて、それがすごく気持ちいい。
まるで眠っているところを揺り起こされるような感覚に半勃ちだった僕のペニスがにわかに充血して太く硬くなった気がした。

「ピアノソナタ第13番 変ロ長調は1778年、モーツァルトが22歳の時にパリで書かれたものだと言われています」

ソナタちゃんが準備を進めながら曲の説明をしてくれる。

「んっ、イチロウさんの…硬くなってきた…ちょっと踏み心地が…彼はベートーヴェン、ハイドンと並ぶ古典派、ウィーン古典派を代表する作曲家ですけど、彼等の格式高い厳格なイメージとは対照的にモーツァルトは浪費家で借金癖があったと言われています」

彼女の口から偉大な作曲家の意外な一面が語られる。

「へぇ、モーツァルトがそんな人柄だなんて知らなかったなぁ、アタシももっと音楽史も勉強しないと…」

「そのために自身の表現というよりは生活費を捻出するために依頼を受けて書かれたものが多く、長調の楽しげな曲が多いのもそのためだと推測されています、また有名な話ですけど…」

ソナタちゃんの僕を踏む足が一度離れる、そして…

キュッ…グリッ、グリッ!!

「あっ!? あっ!! そ、ソナタちゃん?」

彼女の白いブーツの爪先が僕の亀頭を捉えて軽く踏み躙る!
さらにヒールで小突いたり、踵を浮かせて体重をかけて踏み潰したり…ペダル操作とは全く関係の無い足運びで僕のペニスを弄んでくる。

「どうですかイチロウさん…気持ちいいですか?」

「そっ、そんな…あっ!? き、気持ちいい…」

「よかったです私の足を気持ちいいと思ってくれて…これは有名な話ですけど、モーツァルトは口汚い言葉遣いや猥談、その…エッチな話をとても好んだと言います」

話を続けながらソナタちゃんの足は止まらず、僕のペニスを靴底で愛撫し続け、早くもペニスの奥の方にじんわりと何かが込み上げてきた。
そして彼女は一度クスッと笑みをこぼすと…

「ここにもし、モーツァルトがいて、自分の曲を弾きながらペダルに乗せたイチロウさんのペニスを踏みつけていても、彼はきっと怒らないでしょうね…それどころか、面白がってわざとペダル操作で射精させるような曲を書き出すかも知れないですね…さぁ、始めましょう」

静かなホールに「すぅ…」とソナタちゃんが一度大きく息を吸う音がかすかにして、ピアノから旋律がこぼれ出す。

冒頭部の軽やかな、装飾音に彩られた華美なメロディ。
一度耳にして足運びも見ていたが…

「んっ…ぁ…あ、す、すごい…」

キチキチと耳慣れない、合皮のブーツが軋む音とともに、ペニスから靴底を離さず連続して踏みつけるようなペダル操作。
まるでゆっくりとした電気あんまのような安心感のある心地よい刺激が断続的にペニスに送り込まれてくる。

しかし、ペニスの踏まれ心地が次第に変化してゆく…

「はぁ、はぁ…あれ…?」

さっき見ていた演奏の時と同じような上から押し付けるような踏み方に、踏み込みと同時に少し足を滑らせるような動きが加わる。

硬い金属で出来たペダルではなく、柔らかいペニスを踏めば靴底に肉が押し潰され、さらにペニスを包む皮がめくれて靴の裏は僅かに滑る、そこに靴底の滑り止めを食い込ませて、踏み込まれる感触をより射精を促すようなものへと変化を加える…ソナタちゃんはその一瞬の動きをペダル操作に組み込んできた!


「演奏も大切ですが、今はイチロウさんをもっと気持ち良くさせてあげたくて…ちょっと踏み方を変えてみました」

しかし、ソナタちゃんの演奏はそんな『余計な動き』をペダル操作に組み込んでいるのに、普通に弾いている時と変わらない、これは打鍵やペダル操作の強さや速さを完全に把握しているから出来ることなのだろう…つくづく凄まじい技術だと思う。

かつて、作曲家たちが残した譜面に私見を挟むことを嫌い、ひたすら忠実に楽譜を再現してゆくことを至上としていたソナタちゃんが、モーツァルトがこの行為をもし見ていたらと思いを馳せ、僕のためにペダルの踏み方を変えてみせる…これはとても大きく良い変化と言えると思う。
そして、その彼女の考えを僕はペニスの一点で感じ取り、僕のペニスは早速射精に向けて、芯に精液が充填され、先走りの汁が滲み出して、青臭い独特の異臭が漂い出してきた気がした。

「ソナタの足の動き…なんかすごい…これは、ちょっとアタシの出番が無くなっちゃいそう…アタシまで変な気分になってきちゃうよ…」

傍でソナタちゃんのブーツに弄ばれる僕のペニスを見守っていたカノンちゃんがため息混じりに一人、感想をこぼした。

「まだこれからですよ」

ソナタちゃんは器用に両足を使って強く、弱く掛け合うようなフレーズを弾いてゆく…

「ああっ…あっ、あっ…」

断続的に揺さぶるようにペダルを僕のペニスごと踏みつけ、コリコリと卵形のノンスリップソールのギザギザが僕の敏感なところを引っ掻いゆく。
そして、ソナタちゃんの白いブーツに包まれた足が一瞬だけ僕のペニスと一体になったペダルから離れ…

「ぁ…これは…」

記憶にある足運び、この次の瞬間に待っているのは…

ピアノの下からではよく見えないけどソナタちゃんが一瞬クスッと笑った気がした。

グシャァッ!!!

「ああああああぁぁっ!?」

勢いをつけた彼女の靴底が一気にペダルを僕のペニスごと床まで踏み抜いた!

「あっ…す、少し…ああっ、ああっ…」

ソナタちゃんの足とペダルの間で押し潰されたペニスから粘りはなくサラッとした白く濁る液がほんのわずかだけ射出された。

ピュルッ……ビクンっ! ビクンっ!!

射精ではない、でもソナタちゃんが床まで踏み込まれたペダルに駄目推しをするように軽くつま先を捻ると、その痛みでペニスが痙攣して射精に至ってしまったような快感。

「ああっ、ああっ、あああぁぁ…」

快感の波が去っても勃起が収まらず、演奏は中盤に差し掛かり旋律は豊かで優雅な響きが加わってくる、裏腹に足元はリズミカルに…ソナタちゃんはまるで勃起し必死で自分の靴底を押し返そうとしてくるペニスで遊んでいるかのよう浅い踏み込みのペダル操作を繰り返す。

「あっ、ま…また…」

不発…いや、軽い暴発に終わったペダルがブーツにペダルごと愛撫されて再び発射態勢を整えようとする。
曲も終盤に差し掛かり、優雅ながら力強い響きに変わって…

グイッっ!

「あ、ああんっ!?」

ギュゥっ!

「ああっ!? あっ…」

とめどなく溢れてくる我慢の汁がまとわりついたペニスが旋律に余韻を持たせる深いペダルの踏み込みの度に道連れで踏み潰されて…

ピュルッ…ビクンッ!!

「ぁ…ま、また…!?」

最後の一音の残響に沈み、彼女の白いブーツに踏み潰されながら薄い精子混じりの汁が一度だけ飛び出して、靴底の下で空撃ちの痙攣とともに演奏が終了した。

「ハッ…ハッ…ハッ…」

身体を起こそうとするが、心臓の高鳴りがひどくて呼吸が浅く、思うように動けない。

ビクンッ…ビクンッ…ビクンッ…

射精していないのに、今まで感じたことのない何分にも及ぶ射精をしているような感覚…そんな長く長く続く痙攣と軽い絶頂感に溺れて溝の中でぐったりとしている僕をピアノを離れたソナタちゃんが覗き込んでくる。

「イチロウさん、気分はどうですか?」

「ぁ…すごい、まだ射精してるみたい…」

とっくにソナタちゃんの足は離れているのに、まだ彼女の足にペニスを踏みつけらて痙攣し、精液が滲み出てくるような感覚がある。

傍で見ていたカノンちゃんも僕の様子に驚いているようで…

「ねぇソナタ、お兄さん…まだイってないんだよね、どんな風にしたらこんな事ができるの?」

カノンちゃんの問いかけにソナタちゃんは恥ずかしくて赤面しているような、でもやり抜いて満足しているような表情で答える。

「うん…最初にわざと靴の裏で擦るようにしてイく直前まで踏むの、出そうなのはペダルを踏み込んだ時にヒクヒクってして分かるから…それで、出ちゃいそうになったら元のペダルの踏み方に戻すの、男の人って『もう出るっ』ってなったら本人でも止められないらしいんだけど、でもそこで刺激を弱められちゃうと完全には射精出来なくて、痙攣して軽い射精感だけ感じられるんだって…」

そ、それって…話には聞いていたけど『寸止め』とかいうものなんだろうか?

「な、なるほど…でもどこでそんな事覚えたの?」

「学校の図書館にあった本で…読んだ事があったから」

「はぁ…ウチの学校はなんでそんな本があるんだか、でもソナタは相変わらず勉強熱心だね」

溝の中の僕にソナタちゃんが声をかけてくる。

「イチロウさん、少し休憩しますか? それとも…すぐにこのままカノンとしますか?」

ソナタちゃんの余韻に浸りたいような気もするし、このまますぐにカノンちゃんにしてもらいたい気もする…僕はどうするかしばらく迷っていると…

「アタシはすぐに始めたいな…お兄さんはともかく…お兄さんのおちんちんは今すぐにでも出したくて仕方がなさそうだよ?」

「あ…」

コツコツとヒールを鳴らして歩く二人の足音に条件反射の如くペニスが勃起し、早くもペダルの上でカノンちゃんの踏みつけを求めているようだった。

椅子を引いて、今度は黒いドレスに身を包んだカノンちゃんが腰掛け、彼女はスカートの裾を直して高さを調節しながらそばのソファに腰掛けているソナタちゃんに問いかけた。

「でもさソナタ、あんなにエッチな踏み方してて、そのまま続けてイかせちゃえばよかったのになんでそんなにお兄さんのこと焦らしてたの?」

…カノンちゃんにまるで物か何かのように言われるが、それはそれで何か良いものが…

「それは…焦らしてたんじゃなくて、イチロウさん今日はなんだかあまり元気がないようだったから、顔色もあまり良くなかったし…ちょっと嫌な事があったとも言っていたから…」

「そうだね、さっきもびっくりしちゃったなぁ、お兄さん急にしゃがみ込んで息が浅くなっちゃってたし…」

「……」

どうやら二人に随分気を使わせてしまっていたようだ…申し訳ないことをしてしまったな。

「そんな嫌な事を少しでも忘れていられるように、出来るだけ長い時間楽しく、気持ち良く過ごせるようにしてあげたかったの…だから、後はカノンに任せるね、イチロウさんのは、カノンが出させてあげてね…」

「そうだね、これは責任重大だなぁ…わかったよ、じゃあ…ね、お兄さん、あとはアタシに任せて、ソナタがここまで持ってきてくれたものを…必ず果たさせてあげるから待っててね」

ヒタッ…

「うっ…ぁ」

ソナタちゃんと同じく、ペダルの具合を確かめるためにカノンの黒いブーツの靴底がペダルの上に乗った僕のペニスに押し当てられる。
ソナタちゃんの白いコンパニオンブーツとは違ってカノンちゃんの黒いスエードブーツは平面の靴底で、ひんやりと冷たく、吸い付くような感触はすっかりソナタちゃんに敏感にされてしまったペニスに心地いい。

そのままカノンちゃんは幾度かペダルを踏みながら1オクターブ分、音の調子の確認のために指を滑らせる。
ただのドからドまでの1オクターブなのに彼女が弾くとその音色は流麗で、軽く平滑な靴底で踏まれる圧迫感とともに期待が高まってきた。

「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作、ピアノソナタ第13番、変ロ長調、いくよ…お兄さん」


<後半に続く>


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