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princess crush #4


太陽が南の空に昇りつつある最中……木々に覆われた庭園の奥にはいまだ朝の気配漂い、
ようやく目を覚ます者、これから眠りに就く者……目には見えぬ小さな多くの命がその
朝霞の緞帳の奥に息を潜めている。

カツカツカツ……

その静寂の森を行く二つの靴音、甲高く石畳を踏みつけるその音は女性の二つ……
朝霞の緞帳が主役の登場に幕開くように晴れ渡り、靴音の主たちの姿があらわになる。

一つは黒と銀に彩られた長身……夜空の流星を紡いだような豊かな銀髪をゆるく巻き、艶やかな黒のドレスを
翻しこの世の主人であるがごとく道を行く。

一つは白と金に彩られた少女……蜂蜜を溶かしたミルクの様に柔らかな金髪を背に流し、清楚な白のドレスを
まとい清楚ながらも威厳に満ちた姿であとを追う。

古代の神話に謳われる、あるいは人々に語り継がれる昔語りに登場する姫君のように美しいふたりの少女……

否、姫君のようにではない……彼女らこそ思慮深い善王の統治するリューネベルク王国、その第一王女……
生あるもの、なきもの隔てずすべてに遍く慈愛をもって接するマリア=フォン=リューネベルクその人と、
善王を常に支え国を守る第一の柱、王国宰相の一人娘、ミルテ=フォン=グリュンブルグである。

やがてその二人の美姫が立ち止まる。
木々が開け、瀟洒な東屋を備えた庭園が現れる。

「………」
「………」

黒の美姫ミルテが白の姫君マリアに何事か囁く。
マリアは、その囁きに困惑をするが、ミルテはそんなマリアをそっと抱き寄せ、さらに耳元で囁き続ける。
まるで、睦み合う男女のように、甘やかな光景……

マリアの金の美しい髪をミルテの細い指がもてあそび、マリアは身をよじりつつもミルテの豊かな胸元にそっと頬をうずめる。
この段に至って男女の差など関係がないような二人の睦まじい姿……そして響くヒールの音。
ミルテが石畳を踏んだ音にマリアが身を強張らせる。
マリアの顔に困惑の色が深まる、しかし、その中に困惑以外の感情も混じり始めた……

期待、衝動、陶酔、悲哀、恐怖……複雑に絡み合うその表情に……しかし、たしかに見とれるのは……喜悦。

「……」

まるで、姫を口説く王子のように、ミルテがマリアの耳を食むほどの距離で何事かを囁く。

「……」

その一言に、水を見つけた砂漠の旅人のようにうつろな表情で……ゆっくりとマリアの白い清楚なハイヒールが石畳を踏みつけた。

そして、白と黒、金と銀の色彩に新しい色が加わる、それは二つの朱(あか)と紅(あか)

朱は二人の足元……熱く、生命の根源たる血液の色。
紅はマリアの顔……熱い吐息とともに足元に咲いた朱の花よりも艶やかに彼女の頬を染め上げる。

睦み合う美姫の舞踊にも似た足の捌きによって無造作に踏み散らされるのは小さな命、その最後に抵抗のように
磨き上げられた美しい二人の靴に血液と臓物を撒き散らし、清澄な森に鉄の匂いが混じる。

やがてマリアは糸の切れた人形のように力なくミルテの胸に崩れ、それを優しく抱きとめるミルテは力尽きた彼女を
慰めるように髪を、頬を、腰を、胸を……そしていまだ純潔を守る姫君の秘所を愛撫し、
民の知らぬ、姫君たちの秘め事は延々と続くのであった……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さかのぼること数時間前。

マリア「ふぅ……」

朝の光の差し込む静かな部屋、大きな樫の机に就き、いくつもの書類を改める少女が一人……

マリア「見ておく書類はこのくらいですね…」

父王の負担を少しでも減らそうと年若いながら政務の一端をになっているリューネベルク王国の姫君は小さくため息を漏らす。
しかし、様々な思惑の交錯する政務は少女の小さな体には少々荷が勝っている様だ……普段民の前では見せない疲れた表情が
美しい顔に浮かんでいる。

サラ「姫様、すこし休憩されてはいかがですか?」
マリア「はい…そうですね」
サラ「お茶を用意してまいります」
マリア「お願いします」

横に控えた長年マリアの世話を勤めるメイドが気を利かせて茶を用意すべく部屋を辞する。

と……

コンコンコン

机と差し向かいの扉を叩く音。

マリア「は、はい……どな……ぇ?」

マリアの誰何を待つことなくその扉が開き、黒い影が室内に舞い込んでくる。

女性「姫様におかれましてはご機嫌も麗しく……」

豊かな銀髪を巻き、艶やかな黒いドレスに身を包んだ妙齢の女性が、そのスカートの端をつまんで恭しく、王族への辞句を述べる。

マリア「あ、あの……」
女性「執務中でございましたか、これは大変失礼いたしました……」
マリア「あのミルテ様……?」

マリアにミルテと呼ばれた女性がさらに口上を続ける。

ミルテ「執務中の突然の来訪の非礼……いかなる罰も受ける所存でございますが、何よりこのミルテ、姫様のご尊顔をぜひとも……」
マリア「あの、ミル…いえグリュンブルク公爵代理?」
ミルテ「はい、姫様」
マリア「あの、ここではそんなに堅苦しい時候の挨拶などは……」

マリアがミルテをたしなめると、スカートをつまんだまま頭を垂れるミルテが立ち上がり……

ミルテ「……いやですわ」

年齢に似合わず、すねた子供のようにぷいっとそっぽを向いてしまった。

マリア「え、ええ!?」
ミルテ「姫様が『グリュンブルク公爵代理』なんて他人行儀なこといってるうちは私も王族と臣下という立場でいさせてもらいますわ」
マリア「え、ではどうすれば……」
ミルテ「そうですわね……昔のように、私のことは呼んでくださいまし」
マリア「は、はい……ではミルテ姉様?」

おずおずと恥ずかしそうにミルテのことを「姉様」と呼ぶと、ミルテの表情がふっと和らぎ……

ミルテ「はい、久しぶりですわね、マリー」
マリア「お姉様こそ……お元気でしたか?」
ミルテ「ええ、私は問題ありませんわ、そういうあなたは……すこし疲れているようですわね?」
マリア「いえ、そんなことは……」

一国の姫君に「姉様」と言わしめた彼女は、古くからの王国の重臣であるグリュンブルグ公爵家の令嬢ミルテ=フォン=グリュンブルグ
父であるグリュンブルグ公爵はいま王国の宰相として王都に詰めているために所領の管理は、公爵の名代として彼女に任されている。
そして、マリアとは従姉妹の間柄でもある。

ガチャ……

そこに茶の用意の為に席を外していたサラが戻ってくる。

サラ「あら、これはミルテ様……お久しゅうございます」
ミルテ「サラ……久しぶりね、元気だった?」
サラ「はい、おかげさまで……あ、ただいまお茶をご用意いたします」
ミルテ「ええ、ありがとう」

いかにも貴族の子女然に鷹揚とサラの申し出を受けると、執務机に就いたマリアの背後に回り、彼女の柔らかな金髪を手で梳き始める。

マリア「んっ……」
ミルテ「まぁ、こんなに傷んで……仕事のせいかしら?」
マリア「このようなこと、何の苦労でもありません、毎日仕事に励んでおられる国民の方や父上のご苦労からすれば……」
ミルテ「そんなこといって強がって……」
マリア「そういうお姉様だって、もう何年も所領にこもってお仕事をされているんでしょう?」
ミルテ「私のことはよろしくてよマリー、あなたはお姫様なんだから、可愛い服を着てニコニコしてるだけで国民だって満足するのよ?」
マリア「そんなことは……」

振り返って否定するマリア、しかし……

ミルテ「すくなくとも、ここに大満足な国民がいましてよ?」
マリア「え?」

ミルテは自分を指差してそういう。

ミルテ「それに、私だけではないはずでしてよ、ねぇサラ?」
サラ「はい、姫様がそのような事務仕事などされなくとも、そのようなことその辺の官吏にでも任せておけばよいのです」
マリア「……」
ミルテ「ね?」

ミルテはあいかわらず、マリアの髪を指でもてあそび優しげな表情で従妹の頭を撫でる。

ミルテ「南方の国では海藻を使って髪の毛のお手入れをするそうですわ」
マリア「そうなんですか?」
ミルテ「ええ、街に来る商人がそういっていましたわ、今度その商人に言って献上させましょう」
マリア「そんな、申し訳ないです」
ミルテ「……相変らず堅いですわね、では私がその商人から買って贈らせていただきますわ、それでよろしくて?」
マリア「は、はい……」
ミルテ「ふふ……いい子ね、そんなに遠慮しなくてもよろしくてよ、さっきも言いましたが……」

ミルテ「あなたが可愛いだけで満足な人はたくさんいる……そのことはよく覚えておくことよ?」
マリア「はい……」

サラ「では姫様……ミルテ様との積もる話もおありでしょうから、私はしばらく席を外しております」
マリア「はい、すいません」

パタン……

サラが出てゆくと、薫り高い紅茶の湯気が漂い、姉妹のような二人が久しぶりに二人きりの再開を果たす。
民の前では毅然とした美しさを見せるマリアだが、姉も同然のミルテの前では歳相応の少女の姿を見せる。

マリア「お姉様……今日はどうしてここに?」
ミルテ「すこし王都に用事がありましてね……」
マリア「お仕事なんですか?」
ミルテ「そうね、でもしばらくこちらに滞在することになりそうでしてよ?」

その言葉にぱっとマリアの表情に花が咲く。

マリア「では、よろしければ城に滞在されては?」
ミルテ「マリー……」
マリア「え?」
ミルテ「そんな遠まわしないい方しなくてもよろしいのに、昔みたいに『ミルテ姉様、一緒に寝よう』と言って欲しいとは申しませんが」
マリア「っ……!」
ミルテ「ここに居て、くらいのことは言ってもいいと思いますわ、まぁ、もとよりマリーの顔も見たかったしそのつもりだけどね」
マリア「じゃ、じゃあ……」
ミルテ「まったく……それよりもいつまでも私なんかではなく好きな男の子でも見つけたらどうですの?」
マリア「!!?」
ミルテ「しかし、お姫様ではそれもかないませんか……」

マリア「……」

マリアがふと窓の向こう、庭園に目をやる。

ミルテ「…相変らずここのお庭は見事ですわね?」

ミルテは釣られて庭園に視線を移し、その感想を述べた。

マリア「はい、毎日アル兄……いえ、アルフレッドさんが手入れをしていますので」
ミルテ「アルフレッド……ああ、あの庭師ですか、まだ城で勤めているんですの?」
マリア「はい」
ミルテ「………」

ミルテ「ねぇマリー?」
マリア「はい?」
ミルテ「まだお仕事が残っているんですの?」
マリア「あ、いえ……さし当たってはもう終わっています」
ミルテ「そう、ではよかったらすこしお散歩にでも行きませんこと?」
マリア「はい、是非!」

ミルテは子供のように目を輝かせて、自分の申し出を受け入れたマリアの頭を満足げに撫でて……

ミルテ「ではサラに散歩に行くことを伝えてきますわ、すこししたら追いつきますので一足先に外に出ていてくださいな」
マリア「はい、分かりましたお姉様」

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お姉様にいわれて、一足先にお庭に下りて参りました。
もう正午近い時間ですが木々の多いこのお庭は木陰も多いですので、奥のほうはまだ朝方のような涼しさです。

マリア「ん……風が気持ちいい」

大きく息を吸い込むと、すこしひんやりとした森の空気とかすかに花の香りがします。

マリア「お姉様の言うとおりですね、部屋に閉じこもってお仕事でもいいですが……すこし疲れも取れる気がします」
声「姫様!」
マリア「あ、アルフレッドさん」

聞きなれた声に振り返ると、いつもの作業着に身を包んだ長身の男性が手押し車を押してこちらにやってきます。

アルフレッド「おはようございます姫様」
マリア「おはようございます、ここはまだ涼しいですね」
アルフレッド「はい、お散歩ですか?」
マリア「ええ」
アルフレッド「ではお気をつけください、もう1時間もすれば森の奥も日差しが強くなりますし、虫なども居ますので」
マリア「はい」

ミルテ「お待たせしましたわね」
マリア「お姉様……いえ、そんなことはないですよ」

アルフレッド「こ、これはグリュンブルク公爵代理!」
ミルテ「あら、アルフレッドも息災のようですわね? それと私のことはミルテでよろしくてよ?」
アルフレッド「分かりましたミルテ様、しかしいついらしていたのですか?」
ミルテ「つい先刻ですわ、それよりアルフレッド?」
アルフレッド「なんでしょうか?」
ミルテ「この庭園で今お花の咲いている場所はありまして?」

アルフレッドさんはお姉様の問いに、頭の中にあるこの庭園の図面を思い起こしているのでしょうか? しばらく思案されたあとに
ここだという自慢の場所をお姉様に告げます。

アルフレッド「いまでしたら、奥の泉の側の睡蓮がよろしいかと、これから午後になると花が咲きますよ」
ミルテ「そうなんですの?」
アルフレッド「ええ、水面に見事な花を咲かせます、是非ご一覧ください」
ミルテ「ありがとう、そういたしますわ、さぁ、参りましょうマリー」
マリア「はい」

わたくしはお姉様に手を引かれて、アルフレッドさんに見送られながら泉に向かって小道を歩き出しました。

このお城は長い時間をかけて改修と拡大が行われたといいます。
長い戦乱の時代は強固に堅牢に……そして、栄華を極めた時代はこのように広大な庭園を造るべく拡大され
いまやお城の敷地は森一つを囲みこむといいます。

森の中は人の手が入り、古い石畳の小道が縦横無尽に走りますが、今居るあたりは城の人間でも知る者は少なく、
庭園の管理を一手に引き受けるアルフレッドさんや、長くこの城に住むわたくし、それに幼少の頃をここで過ごした
お姉様のようなものしか知らないような場所になっています。

マリア「お姉様、そのカゴは?」
ミルテ「ただ散歩だけでは、すこし淋しいでしょう? さらに頼んでお弁当を作ってもらいましたのよ」
マリア「そうなんですか……」
ミルテ「アルフレッドの言う泉のところでお昼にしましょう?」
マリア「はいっ!」

久しぶりに公務とは関係のない、お姉様との本当の姉妹のような会話にわたくしの心もすこし和らぐような気がします。
やがて、朝の霞が残る小道の先に開けた場所が現れます。
清澄な朝の気配を残す泉とその脇に設えられた小さな石造りの東屋……幼い頃はよくここで水遊びなどもしたものですが
久しぶりにここを訪れました。
澄んだ泉には睡蓮の花が蕾を持ち、大きく広がった葉の下には小さな魚の影が見え隠れしています。

ミルテ「すばらしいですわね、さすがアルフレッドの言うだけのことはありますわ」
マリア「はい、そうですね、アルフレッドさんはここの庭園のことでしたらなんでもご存知ですから」

お姉様のアルフレッドさんを賞賛する言葉がまるでわたくしが誉められたかのように、誇らしい気分なります。

ミルテ「どうですの? 少しは気分が落ちつきまして?」
マリア「はい」
ミルテ「私があなたの年齢ではまだそんなにたくさん仕事などしていない世間知らずの娘でしたのよ?」
マリア「はい、しかし先ほど申しましたように、私ばかりが安穏と生きているわけにも参りませんから」
ミルテ「ふふ、その調子ですと王国はまだまだ安泰ですわね、次の王もよい王妃がそばについてくれることが約束されているのですから」
マリア「………」
ミルテ「正直すこし妬けますわね、ああ、私が男でしたら今すぐにでも口説いて見せますのに」
マリア「お、お姉様?」

お姉様が東屋にサラの用意してくれたかごを置くと泉のそばに立つわたくしを後ろから抱きすくめます。
まるでこのままお姉様に求婚でもされるような雰囲気です……そう考えると、頬にすこし熱が帯びてくるようで……
お姉様は女性ですのに、わたくしはどうしてしまったのでしょうか?

ミルテ「ふふふ、かわいいですわマリー……そんなに頬を紅くして」
マリア「いえ、そんなお姉様」

お姉様がわたくしの手を取り、もう一方の手はわたくしの髪を、腰を、胸を次々と撫でそのたびに身体の芯に雷が走ったように
不思議な感覚が襲い掛かり、両足で立っていられなくなります。

マリア「ふぇ…お、おねぇさま……なにをなさるのですか?」
ミルテ「マリーは疲れているのですわ、すこしこうして心も身体もほぐして差し上げようかと」
マリア「で、でも……なんかふしぎな気分です……その、心臓がドキドキして……」
ミルテ「それでよろしくてよマリー、さぁ、私にもっと寄りかかって……」
マリア「はい……」

長身のお姉様に寄りかかるとわたくしの頬がちょうどお姉様の胸に当たります、同じ女性としても信じられないほど豊かで柔らかく、
上等な絹よりも滑らかなお姉様のが私の頬に吸い付いてくるようです。
それはそう……どのような素材を用いた枕でもこのように柔らかいのにしっかりとした弾力は表現できないのでしょう……
鼻の奥にお姉様の香水の香りがして、眩暈と睡魔が同時に襲ってくるような感覚にもてあそばれます。
はしたないですがこのまま叶う事でしたら、お姉様の胸の中で眠ってしまいたい、そのような衝動がこみ上げてまいります。

ミルテ「マリー……とても気持ちよさそうですわ」
マリア「は、はぃ……」
ミルテ「このままベッドがありましたらよろしかったのですが、今日はすこし趣向を変えてみましょうか?」
マリア「ぇ?」

そういうお姉様は一度わたくしの身をそっと離し、東屋のかごから何かを取り出してきます。

マリア「お姉様それは?」
ミルテ「サラに用意してもらったものよ? とても香ばしい香りがしますわ」

お姉様は取りだしてみせたものは、サラに用意してもらったものだろう、一枚のビスケット。

ミルテ「人でなくともこの素敵な香りには食欲がさぞそそられるでしょうね……ふふふ」

お姉様もお酒を召されたように頬を染め、うっとりとした様子で、そのビスケットを口に運ぶのではなく、小さく砕いて
小道の植え込みの影に落としました。

マリア「な、なにをなさるのですか!?」
ミルテ「見てらっしゃいマリー、いまに素敵な客人がいらしてよ?」

お姉様のいう意味が分からず、お姉様の挙措をただ見守るよりほかありません。
しかし、その意味がすぐに分かりました。

ミルテ「御覧なさいマリー、お客さんですよ?」
マリア「あっ……」

ビスケットのかけらに惹かれて、植え込みの影から姿を現したのは小さな緑色の姿をした……カエルさんでした。

ミルテ「あらあら、随分たくさん集まってきましたね、にぎやかですこと……ですが好都合ですわマリーおいでなさい」
マリア「はい」

再びお姉様に抱き寄せられて、頬にお姉様の柔らかな体温を感じなんともいえない安心感がわたくしの心の中に広がります。
足元ではカエルさんたちが、お姉様の撒いたビスケットを一心不乱に口に運んでいます。
それは、午後に指しかかろうというこの森の中でとても穏やかな時間のように感じられました。

しかし……

ミルテ「ねぇマリー……」
マリア「はい、お姉様?」
ミルテ「人づてに聞いたのですが、あなた最近まで野ネズミを飼っていたのよね?」
マリア「っ……!?」

お姉様の胸に顔をうずめて、穏やかな気持ちだったものに、突然心臓に氷の杭を突き立てられた気分になりました。

マリア「ど、どこでそのことを?」
ミルテ「人づてにですわ……ふふふ」

お姉様の言葉が一つ一つ胸に突き刺さります、先ほどとは違う感覚に足元がおぼつかなくなります。

ミルテ「でもその野ネズミはもう居ないんですのよね?」
マリア「………」
ミルテ「もう亡くなられてしまったのでしょう?」
マリア「はい……それは」

私を抱き寄せるお姉様の腕が私を強くさらに強く抱きしめます。
そして耳を甘噛みするように息を吹きかけながら囁かれます。

ミルテ「マリー……」
マリア「ひぁん……!?」

そのたびに全身にしびれるような感覚と下腹部がうずくような感覚がこみ上げてきます。

ミルテ「全部聞いておりますわマリー……あなたはとっても悪い子ですわね、ふふふ」
マリア「あ……ぁ……」
ミルテ「民や臣下の前では、美しくたおやかな……虫も殺せぬ優しいお姫様なのに……」
マリア「やめ……てください……お姉様……ああっ!」

お姉様の言葉にまざまざとあの光景が甦ります、ジークフリード、無垢で小さな友人のすがた……

ミルテ「いいえ、もちろんマリーが優しいのは知っていますわ、それがあなたの本当の姿ですから」
マリア「………」
ミルテ「でも隠さなくてもよろしくてよ、その野ネズミ……マリーが殺してしまったのですよね?」
マリア「!!!」

背中に冬の井戸水流し込まれたような錯覚がよぎります。

ミルテ「このように……ね?」
マリア「ぁ……あ」

のどが渇き、声が出ません……そして視線はお姉様のつま先、瀟洒な黒いハイヒールに釘付けになります。
お姉様はそのつま先をゆっくりと上げ……そして何のためらいもなく足元でビスケットを食べるカエルさんを踏みつけました。

マリア「ああっ!?」

なにが起こったのかわからないのかカエルさんはお姉様のハイヒールから逃れようと手足をもがきますがやがて……

グエッ…ゲプッ!!

大きな口から赤いものを吐き出して踏み潰されてしまいました……

マリア「んっ!?」
ミルテ「このように、マリーも野ネズミを……その素敵なハイヒールで踏み殺してしまったのですよね?」
マリア「………」

お姉様がそのつま先を少しだけひねると、カエルさんの姿は完全にお姉様の靴の下に消え、石畳の隙間から赤いものが流れ
それは風に乗ってわたくしの鼻に鉄の匂いを届けます。
その匂いと真っ赤な花になったカエルさんの姿に、わたくしは背中に冬の井戸水を流し込まれたような錯覚を感じ、
同時に、あのときの……自分の足でジークを踏み殺してしまったときに感じた下腹部のうずきが強くなります。

ミルテ「あらあら? マリーは私がかえるを踏み殺したのを見て……感じてしまっているのですか?」
マリア「か、感じて?」
ミルテ「ええ、要するにこういうことですわ」

抱く寄せるお姉様の手が私の胸を掴み、自分でも気がつかなかったその先端のしこり……そ、その……わたくしの乳首の上を
ドレス越しにそっと撫でてきます。

マリア「んあああっ! ……お、おねぇさま……すごい、これ……なんですかぁ?」
ミルテ「かわいいですわよマリー……あなたもまさに王家の血筋なんですね?」
マリア「ふぇ? どういうことですか?」
ミルテ「どういうわけか……王家の女性にはそういうものがあるようなのですよ、かくいう私も……」

お姉様が独特な翼のようなスカートをたくし上げると、黒い下着にわずかにシミが見て取れます……

マリア「おねぇさま……それは?」
ミルテ「私としたことが、カエルを踏み殺してすこし感じすぎてしまったようですわ、粗相をしてしまいましたわ……ふふふ」

ですが、お姉様は言葉とは裏腹に、スカートをたくし上げたことであらわになった長い足をそのまま地面に叩きつけます。

カツン!

固いヒールの音が静かな森に響いて、何事かその足元に視線を送ったときにはお姉様の靴を中心に真っ赤な飛沫が広がっていました。

ミルテ「んっ、はぁん……」
マリア「お、おねぇさま?」
ミルテ「王家に連なる女性には……そうですわね、そういう「癖」がある、とでも申しておきましょうか?」
マリア「くせ?」
ミルテ「ええ、このように生き物を踏み潰して、真っ赤な血を見ると……感じてしまうのですわ」
マリア「そんな……ではわたくしにも?」
ミルテ「ええ、あなたがその野ネズミ……ジークフリードと申しましたか? 彼を踏み殺したときに感じたものは……はぁはぁ」

お姉様の息も次第に荒くなります。

ミルテ「マリーも感じてしまったのですね……もっとも、世間的に誉められるものではありませんから、しないに越したことは…んっ」
マリア「……」
ミルテ「ありませんけど、こればかりは性(さが)ですわね……」

そしてひどく妖しげなお姉さまの戸息交じりのささやきがわたくしの最後の理性を吹き飛ばしてしまいました。

ミルテ「さぁ、マリー……踏んで御覧なさい?」
マリア「え?」
ミルテ「たかがカエルではありませんか、踏み殺して差し上げなさいな」
マリア「……はい」

止めを刺す一言にわたくしもついに……自らの足で、足元でビスケットを食むカエルさんを……

グッ、グエェェェェ、ゲッ!!
ブヅッ………

つま先で軽く踏みつけると、カエルさんが苦しげな声を上げて悶えますが、存外簡単に踏み込んだだけで
潰れてしまいました。

マリア「はんっ!? あっ……」

わたくしの靴の下で動かなくなったカエルさん、その口の端から臓物を吐き出して赤い川を石畳に作っています。
その姿に、わたくしの中の黒い衝動はこみ上げてきて、わたくしの非道な所業によって一方的に命を絶たれてしまったにも
かかわらず、ひどく醜いものに見えてまいります。
ですからわたくしはごく自然に、その無残な死骸を踏み躙ります。


ミルテ「まぁ、マリーもそんなひどいことをして……」

ひどくなんてありません、このカエルさんは血でアルフレッドさんのお庭を汚したんです。
だから殺すんです、わたくしに踏み殺されても何の申し開きもないはずです。
普段からは想像もつかないような残酷な衝動に駆られるまま一心不乱にカエルさんを踏み潰し跡形もないほどにハイヒールの靴底
で轢き潰します。

ミルテ「マリー、足を上げて御覧なさい?」
マリア「はい……」

お姉様にいわれるがまま、わたくしは足を上げると私のハイヒールの靴底にべっとりと赤い血の痕と臓物をへばりつかせて
カエルさんが張り付いています。

マリア「カエルさんが……靴の裏に張り付いています」
マリア「……汚い」

そのような醜いものが靴の裏にへばり付いているのがどうしても我慢できなくなり、わたくしは何のためらいもなく、軽く足を振ると……

べチャッ!!

真っ赤な塊に変わり果てたカエルさんが地面に落ちて、血溜まりを作ります。
わたくしが作り上げた……赤い残骸……その姿にわたくしの心臓がさらに跳ね上がり、下腹部の疼きが抑えきれないほどになってきます。

マリア「んっ、あああっ……」
ミルテ「マリー、私が手伝って差し上げますわよ」

お姉様に抱き寄せられたまま、ダンスを踊るようにわたくしとお姉様の立つ位置が入れ替わり、そのたびに足元で
カエルさんたちがわたくしたちに踏み殺されてゆきます。
その、潰れる瞬間の、命が弾け飛ぶ瞬間の感触が靴の裏から全身を駆け巡り、もう膝に力が入りません。

ミルテ「ドレスが汚れてしまいますわ、ここは私がして差し上げます」
マリア「お、おねぇさま?」

髪や腰や胸を撫でるお姉様の手がわたくしのドレスのスカートをもどかしげにかき分けてその奥の……絹の薄布で作られた
下着の奥……疼きの中心についに指が至ります。

その間もわたくしたちのハイヒールは無残に足元のカエルさんたちを無造作に踏み殺し続け、もはや石畳は真っ赤に染まっています。

やがて、わたくしの下着を食い破るようにお姉様の指が疼きの中心を這い回り、スカートの中で下着をズリ下ろしました。

マリア「あっ!?」
ミルテ「マリーの……すごくあったかいわ」

お姉様のながくて冷たい指先が、熱く火照ったその疼きに触れると……

マリア「んあぁぁぁぁぁぁっ、おねぇさま……おねぇさまぁぁ!?」
ミルテ「かわいいわマリー、ここには誰も居ませんことよ、大きな声を出してもかまいませんわ」
マリア「こ、こんな、変です……おねぇさま、わたくしは……マリアはもう立っていられません」
ミルテ「大丈夫でしてよマリー、ちゃんと抱きしめて差し上げますわ」
マリア「はぃ、おねぇさま……」

お姉様の指先が、わたくしの割れ目をそっと舐めあげて、ゆっくりとその奥に入ってまいります。

マリア「あああっ、おねぇさまっ! おねぇさまのゆびが……ゆびがマリアの中にはいってまいりますっ!?」
ミルテ「ええ、もうすごくヌルヌルしていてうっかり奥まで滑り込んでしまいそうでしてよ?」

気を張っていないと意識まで飛んでしまいそうな快感にもてあそばれまる。

ミルテ「ほら、マリー御覧なさい?」
マリア「ふぇ?」
ミルテ「そこに一匹……マリーのハイヒールが欲しいと待っている子がいますわ……」

うつろな目で見下ろすと、多分このこの仲間たちだった真っ赤な血溜まりの石畳の上で、わたくしのこの姿を見上げる
カエルさんが一匹いました。

ミルテ「この子はマリーが乱れている姿をさっきからずっと見ていましてよ?」

その言葉に、顔がまさしく火が出るように熱くなったことを感じました。

ミルテ「踏んで差し上げなさい、マリーの靴で死ねるなんて幸せですわ」

もはや善悪の区別もつかなくなってしまったわたくしの頭はお姉様の言葉どおりに……

マリア「はい、おねぇさまぁ……」

グブッ……フジュッ!!

最後のカエルさんを踏み殺し……

彼の命が踏み潰されるときの最後の抵抗で撒き散らされた真っ赤な血液の華に……

お姉様の、まるで別の生き物のようにわたくしの中をかき回す指に……

全身をくまなくもてあそぶ快感に……

マリア「あっ、あああああああああああんっ!!」

追い討ちをかけるようなこれまで体験したことのない……そう、まさにまったく薄められていない原液の快感に嬲られて

わたくしの意識はそこで途切れてしまいました。

<完>


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