見出し画像

R-1グランプリ2021感想

R-1グランプリといえばこれまで面白さも盛り上がりも影響度もイマイチな残念賞レースのイメージだったが、今年は10年縛りの導入に伴うテコ入れが入り、点数制の導入、審査員の刷新、出場者の若返りと、急激に「ちゃんとした賞レース感」が増した。Creepy Nutsのっテーマ曲もM-1の時よりカッコいいし、煽りVもイケてたねえ。

特に審査員の刷新(陣内智則、友近、麒麟・川島、古坂大魔王、ハリウッドザコシショウ、ホリ、マヂカルラブリー・野田クリスタル)はかなり思い切った人選で、キングオブコントにもぜひ見習ってほしい。野田クリスタル審査員紹介時の上沼ボケも最高だった。ザコシは服着て審査員席に座ってるだけで面白い。

今回は一応準決勝は配信で見ており、決勝メンバー全員の勝負ネタは一度見ているという状態なので、審査員や会場の反応をわりと客観的に見れるかな?ちなみに僕の中の評価基準はキングオブコントを評価したときと同じ、「設定」、「展開」、「ワード」、「演技」、「ハマり感」の5段階。

と、始まった時は思っていたんだけど、10人+3人のネタ披露を2時間の枠に収めるのが苦しかったのか、全体的に構成が酷かった。明転前のカメラワークは安定しないし、暗転のタイミングはミスっているときがあるし、審査・講評に割く時間がなさ過ぎて演者1人に対して審査員1人にしかコメントが振られない。敗者コメントもほぼ無し。点数発表も途中から初期M-1形式(一斉に点数オープン)になってワクワク感が無くなったし、Fainalステージはルールも特に説明されないままぬるっと審査が終了し、審査員ごとの点数が発表されないままに終了。なのに最後優勝者のゆりやんの1stのネタをみんなで振り返る謎の時間が確保されており、全体的に意味が分からない。会場が広すぎるせいなのか、大阪会場の空気感のせいなのか分かんないけど、会場の笑い声がほとんど拾えておらず、特に非大阪吉本芸人以外は全体的に滑っているような空気になっていた。結局一番面白かったのが野田の上沼ボケというのは悲惨な状況だが、賞レース激強のゆりやんがここで優勝して(おそらく)賞レース卒業になるのは枠つぶし的な意味で嬉しいかも(THE Wは出続けているから普通に来年も出るかもだけど)

最終審査結果

画像1

マツモトクラブ(敗者復活)(ネタ:告白)

合計得点:637点(陣内:89、友近:93、ホリ:93、古坂:94、野田:88、川島:89、ザコシ:88、視聴者:+3点)

1stステージ順位:9位

私的評価:設定A、展開A、ワードB、演技B、ハマり感B

準決勝はがっかりするレベルで激スベリだったけど、流石に敗者復活は強い。安定感のある芸風なのでトップバッターとしてはちょうどよかったかもしれない。

フォーマットはかまいたちがKOCで披露した「告白の練習」に似た叙述トリック構成だが、1週目(幼馴染・イクヨから告白される)と2週目(警察からの取り調べ)でセリフ・振る舞いがほぼ同じなのに意味合いが全く変わってくるという、ラーメンズ的な文学性を備えたネタ。個人的にはバラシ以降の展開も強いし、マツモトクラブらしい悲哀も兼ね備えたいいネタだったと思うけど、敗者復活×トップバッターということで点数は伸び悩んだか。制限時間に全部詰め込むため(ネタの性質上、ネタ尺に合わせて一部を削るというのがかなり難しい)、テンポが速すぎて全体的にぎくしゃくしている感は否めなかった。

だいぶ詰め込んでテンポ間が速すぎる

ZAZY(ネタ:なんそれ(4枚フリップ))

合計得点:669点(陣内:93、友近:95、ホリ:95、古坂:99、野田:95、川島:93、ザコシ:94、視聴者:+5)

1stステージ順位:1位

私的評価:設定A、展開B、ワードA、演技C、ハマり感B

今は東京進出しているけど、元々大阪吉本所属というのが味方したのか、会場の反応はホーム感があった。元々4枚フリップに加えて絹江にパンパンパン以来のZAZYの代名詞といえる奇天烈なリズム要素、最後突然の歌い上げからの「なんそれ!」は変化球×変化球の唯一無二なフリップ芸なので、審査員ウケはいいだろうと思ったけれど、ここまで客ウケも取れるとは。(最後の歌は怪しかったが)

ZAZYは冒頭の「ZAZYに慣れる時間」掴みが面白し、準決勝時にはなかった、各パートの後半に畳みかける大喜利フリップ(フリー素材、フォント、Googleの配色、等)が追加されていて、しっかり面白かった。古坂大魔王が高得点なのは納得。

土屋(ネタ:自転車競技)

合計得点:647点(陣内:88、友近:96、ホリ:94、古坂:95、野田:93、川島:90、ザコシ:90、視聴者:+1)

1stステージ順位:7位

私的評価:設定B、展開B、ワードB、演技B、ハマり感B

自転車競技中、喋り方が田原俊彦に似てくる、という導入から最終的に田原俊彦に会って感謝したい、まで田原俊彦一本で走りきるネタ。正直準決勝を全組見た中で彼の決勝進出が一番??となった。ネタのフォーマットとしてはモノマネが上手い必要は一切ないんだけど、それにしても田原俊彦だけでは単調すぎて盛り上がりにかける。

しれっと友近が最高得点なのは、ひとつの着眼点から無限にネタができる、という自分の芸風に似ているものを感じたんだろうなあ。僕は友近クラスの完成度でも時々くどいなあと思ってしまうのだけれど。

森本サイダー(ネタ:ラブレボリューション)

合計得点:650点(陣内:91、友近:91、ホリ:96、古坂:96、野田:92、川島:90、ザコシ:93、視聴者:+1)

1stステージ順位:5位

私的評価:設定B、展開A、ワードA、演技B、ハマり感A

前半で全く面白くないコントをやり、その後突然フリップ芸に移行してネタの違和感部分に対しセルフでツッコんでいくという、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』形式の急展開ネタ。

フォーマットとしては真空ジェシカがM-1やラフターナイトで3年前に披露していた「悪いお客さん」のネタに近いが、ザ・ギースがKOCで披露した「劇的ビフォーアフター」もその類かもしれない。

個人的には凄い好きなネタだし、例のオズワルド伊藤・蛙亭岩倉・ママタルト大鶴肥満とのシェアハウス(「お笑いときわ壮」と称されていた)箱推しなので応援していた。

フリップに移行して観客がざわつくなかでの「リュックが大きすぎる」のボケが強すぎるため、そこが良くも悪くもピークになってしまっていたかもしれない。その後にこれ以上に強いボケがあればさらに点数は伸びたかもしれない。あと、終盤の絶叫ボケ(僕は天才なのに!!等)は、緊張と緩和で客が引かないような構成にはなっているけど、同じく絶叫ボケのさらば青春の光「芸術家」がKOCでドン滑りように、ホーム以外の客だと受けにくいのかなあと思った。KOCの時、松本も絶叫ボケは難しい、って言ってたな。

フリップをめくる手がめちゃくちゃ震えてたので、緊張が凄く伝わってきた。

吉住(ネタ:祠)

合計得点:646点(陣内:90、友近:95、ホリ:94、古坂:94、野田:91、川島:89、ザコシ:88、視聴者:+5)

1stステージ順位:8位

私的評価:設定B、展開A、ワードB、演技A、ハマり感A

うーん、このネタがウケないのか。。昨日公式Youtubeで配信されていた岡野陽一との対談動画でも「このネタがウケなかったら俺はお笑いが分からない」と評されていたし、準決勝でも最大瞬間風速のネタだったのに、あのバラシがあんなにウケないとは。。吉住の演技力が高い分、「怖い」が勝ってしまったのか。僕は怖いコントが大好物だから怖いと面白いは両立するんだけど、これはそこまで一般的な感覚ではないんだろうね。

怖いネタというのは割とコントに多いところもあるので、今回、審査員の中にコント師が友近しかいなかったのも、怖い系、一発で仕留める系のネタに対する点数が伸び悩んだ理由かもしれない。アンガ田中とかかまいたち山内あたりがいれば評価はだいぶ違ったかも。(陣内のネタは陣内自身が映像にツッコむので友近とか吉住のコントとはだいぶ性格が違うし、野田はマヂラブでグロいネタ、汚いネタはやるけど、怖いネタはやらない。ザコシはザコシ)

今回一番ショックだった!!

寺田寛明(ネタ:自分なりの英訳)

合計得点:633点(陣内:87、友近:89、ホリ:93、古坂:93、野田:89、川島:88、ザコシ:89、視聴者:+5)

1stステージ順位:10位

私的評価:設定C、展開C、ワードA、演技A、ハマり感A

年始のテレ東特番「笑うラストフレーズ」で「I love you」を自分なりに訳してコントのオチにする、という企画があったけど、それのフリップバージョン。おそらく準決勝イチウケのネタだったと思うのだけど、R-1決勝の舞台と圧倒的に相性が悪かった。本人の華の無さ、文字のみのフリップという他のフリップ芸人と比べたときのこじんまりさ、大阪会場(新宿駅西口から地上に出れない、という随一のボケが全くウケない)すべてが逆風だったか。大喜利としてはめちゃくちゃ面白いと思うんだけど、どうしても単調に見えてしまうのかもしれない。これはバカリズムが(彼はフリップネタだけではないけど)R-1で全然結果を残せなかったのと通じるかもね。

かが屋 賀屋(ネタ:駆け込み乗車)

合計得点:655点(陣内:90、友近:93、ホリ:96、古坂:95、野田:94、川島:92、ザコシ:90、視聴者:+5)

1stステージ順位:3位

私的評価:設定A、展開A、ワードB、演技A、ハマり感A

日曜チャップリンでもやってたネタで、準決勝ネタはFinalステージに温存。掴みの早さ、最小限のセリフ量でリアリティを失わずに最大限の展開を見せる構成力は流石。

ここまで割と採点傾向が似ていた野田・川島・ザコシの点数がこのネタでちょっと差が出たのも面白い(演技力を評価した野田は高得点、川島は平均点、ザコシは低得点)

kento fukaya(ネタ:トリプルフリップストーリー)

合計得点:650点(陣内:92、友近:90、ホリ:94、古坂:93、野田:92、川島:92、ザコシ:92、視聴者:+5)

1stステージ順位:5位

私的評価:設定B、展開B、ワードB、演技B、ハマり感B

個人的にあまり面白さがまだわかってないんだよなあ。巨大フリップを3セット使う必要性が前半は感じられず、後半になっても、そこまで3セットないと出来ない、というほどの展開でもないよなと思ってしまうのに加え、話題があっちこっちに飛ぶので、フリップ間を行ったり来たりするのと相まって気が散ってしまう(多分これは好みの問題で、むしろこの部分が評価されているんだと思う)

やっぱりフリップのテーマに脈絡がないのでネタの方向が発散気味で、伏線回収みたいなものが一切ないのに加え、ネタの盛り上がる部分がないというところでZAZYに食われる形で点数は伸び悩んだか。

高田ぽる子(ネタ:おじいちゃんの乳首)

合計得点:652点(陣内:93、友近:89、ホリ:95、古坂:92、野田:92、川島:93、ザコシ:93、視聴者:5)

1stステージ順位:4位

私的評価:設定S、展開A、ワードA、演技B、ハマり感A

初見の準決勝で一番の衝撃を受けた2年目のぶっ飛び少女。ずっとカルト風味の意味不明なフリップネタなのになぜかちゃんと面白いのがわけわからなくて終始混乱していた。

今回は2回目だったのである程度冷静に見れたけど、やっぱり終始変な笑いをしてしまう。おじいちゃんの乳首が取れたから取れた乳首ポケットに入れて乳首専門店に買いに行くってなんやねん。

ちなみに、終盤の山場、リコーダーで乳首代を稼ぐ場面、それまでBGMとして流れている音楽をリコーダーで自前で演奏するというのが、コント空間における音楽の位置づけをBGMなのかコント空間内の音声なのか曖昧にするという映像・音声論的に物凄く面白くい要素に思えてゾクゾクしてしまう。全然関係ないけど『魔法少女まどか☆マギカ』の新劇場版で、巴マミが自らのテーマ曲を映画内で口ずさんでいるというシーンがあって、あれもめちゃくちゃ興奮したな。

野田、ザコシあたりが95点オーバーをつけるんじゃないかと思ったけど、さすがに自制したな。

ゆりやんレトリィバァ(ネタ:ちゃうねん)

合計得点:666点(陣内:95、友近:94、ホリ:95、古坂:97、野田:95、川島:93、ザコシ:92、視聴者:5)

1stステージ順位:2位

私的評価:設定B、展開B、ワードB、演技B、ハマり感A

ゆりやんはあまり得意ではなくて、準決勝も面白くないなーと思っていたけど、決勝に向けて流石の調整力。観葉植物に対するボケをしっかりブラッシュアップしており、大阪のホーム感もあってかなりウケていた。もともと芸人評価はかなり高いので、高得点でもそこまで違和感はなかった。

Fainalステージ

決勝ステージ1人目:かが屋・賀屋(ネタ:おなら)

合計得点:650点

私的評価:設定B、展開B、ワードB、演技A、ハマり感A

準決勝で披露した、彼氏が帰った後に我慢していたおならをするネタ。もともとかが屋二人でのネタらしいね。

有吉の壁のコントで出てくる「たっくん」が酷い彼氏なので、このネタの優しそうな「たっくん」はかなり違和感(笑)。ドラマ性は1本目に負けず劣らずだけど、笑いのポイントがやはり少ないなあ。

暗転は完全にミスっていた。

決勝ステージ2人目:ゆりやんレトリィバァ(ネタ:ダイエット)

合計得点:663点

私的評価:設定B、展開C、ワードB、演技B、ハマり感B

ダイエットのインタビュー中、インタビュアーが内心思ったことを拳銃で撃ちぬいていく、という現実のゆりやんとコントキャラのゆりやんとが曖昧になっているような設定は悪くなかったと思う(森本サイダーのネタの劣化版だとは思うけど)

ただ、後半のアレは何だったんだろう?やりたい放題という、ゆりやんの悪いところが出ていたと思うし、ZAZYが明らかなミスをしなければ優勝に疑義がついてもおかしくないなとは思った。

決勝ステージ3人目:ZAZY(ネタ:なん●れ)

合計得点:656点

私的評価:設定B、展開A、ワードA、演技B、ハマり感B

ZAZYが白い衣装に着替えてるだけで笑う。フォーマットは1本目と同じで意外性は無かったけれど、しっかりフリップの内容は面白かったしウケていたので、ちょっと看過できないミスが出てしまったのが本当に悔やまれる。4セットめのフリップにクリップがついていて完全にネタが止まるという痛恨のミスに加え、そこから何とか持ち直したにも関わらず、大オチの「な・ん・そ・れ」の「そ」のフリップが白紙という信じられないミス(さすがにあれは「あえて」ではないだろう)。ZAZY本人も生きた心地がしなかっただろうけど、観てるこっちも背筋がゾワッとした。賞レースでのあからさまなミスはこれまでKOCでのパーパー・星野ディスコのセリフミスだったと思うけど、それを超える事故だったなあ。。(M-1もちょくちょくミスはあるけど漫才の特性上フォローができるからな。。)あれがなければ結果は変わっていたのではないか?というので何とも悔やまれる結果に。

審査全般について

今回、審査員コメントがほとんど聞けなかったので、点数しか見るポイントがないのだけど、とりあえず視聴者投票は後半からすべて+5点で機能していない(あまり審査全体に影響を与えないこの仕組み自体はいいと思う)

審査員の傾向として、まずホリと古坂は平均点が94点代と高く、標準偏差も2点未満でほとんど差がないので結果にはほとんど影響していない。特にホリは93点-96点という僅か4点のレンジで採点しており、完全に頭数を合わせる要員である。古坂はリズム感のあるネタ(ZAZY、ゆりやん)の評価が高い一方で、ZAZY以外のフリップネタは低評価だし、高田ぽる子に最低点をつけている(ぽる子の調子の狂ったリズム感を評価しなかったのだろう)。

陣内はそれなりに点数に幅を取った評価をしているが、基本的にはウケ量に合わせた配点か。ぽる子にも93点と高得点をつけており、若手のぶっ飛んだネタに対する柔軟性、感度は高そう。

友近はかなり独自な審査傾向で、ZAZY以外は、マツモトクラブ、土屋、吉住、賀屋といった、自分自身の芸風にも通ずる一人コント勢に対する評価が高い。一方でZAZY以外のフリップネタは軒並み低評価なので、フリップのみのネタや粗削りなネタに対しては辛口の模様。点数のばらつきが最も大きい。

野田クリスタルは挨拶ボケがM-1のナイツ・塙並みの瞬間風速だったが、審査自体は極めて堅実。平均点は92点だが点数のばらつきもそこそこで、しっかり幅を持って点をつけている。ホリを以外で唯一「自身のつけた高得点上位3位」と「Finalステージ進出者3名」が一致している審査員でもある。もう少しぽる子やサイダーあたりに高得点を出すのではと思っていたが、だいぶ審査員に徹した模様。

川島、ザコシは平均点、ばらつきともに同等程度。川島・ザコシ共に、演技>ウケ量のネタ(吉住、賀屋)をあまり評価しない傾向がある一方で、ザコシは森本サイダーや高田ぽる子のような粗削りだけど飛び道具があるネタをそれなりに評価している、といった所か。

なんだかんだで審査員のバランスはかなりよさそうなので、来年以降はちゃんと審査に尺を取ってください。あと、Finalステージの審査方法はどうにかしてくれ。個別点数公表しないって「な・ん・そ・れ」。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?