単独ライブを配信で見る①-空気階段第4回単独ライブ「anna」-

僕は、普通の人に比べたらだいぶお笑いに詳しいけども、劇場ライブや賞レースの予選に通い詰めるほどのお笑いオタクでもない、ライトなお笑いファンだ。実際に劇場に足を運ぶのは東京03の単独ライブだけなので、その他の芸人の単独は公式YouTubeにアップされる単発のネタ動画か、各種配信サービスやレンタルDVDで見る程度。単独を通しで見たことがあるのは、ラーメンズ、さらば青春の光、うしろシティ、ラバーガール、バイきんぐ、シソンヌ、バカリズム、鳥居みゆき、Aマッソあたりでこう見ると全然多くない。(大学生の頃、鳥居みゆきのネタ分析で言語学のレポートを書いた記憶がある)

コロナ禍のおかげで単独ライブやお笑いイベントもネット配信されるようになって、TVやラジオ以外でお笑いに触れるハードルがぐっとさがった(やっぱり劇場への男ソロ参加はかなりハードルがあるんだよなやっぱり)ので、前々から気になっていたコント師の単独ライブを配信形式で堪能した。

空気階段 第4回単独ライブ『anna』

空気階段を知ったのは、ベタにクローゼットのネタだと思う。2018年からはキングオブコント決勝にも進出し、特に去年決勝で披露したネタ(霊媒師、定時制高校)の完成度はピカイチだったし、キングオブコントからの流れで昔から評判は聞いていたTBSラジオ「空気階段の踊り場」も聞き始めた。(結果、ラジオを聞いていてよかった。オープニングコントやトリネタなど、ラジオのノリを踏まえた場面もネタの中にいくつかあったので)

僕は基本的に漫才よりコントの方が好きだけど(お笑いにハマったきっかけが中学生の頃ポッドキャストで聞いていたTBS「アンタッチャブルのシカゴマンゴ」で、そこから東京03とかアンジャッシュとか人力舎芸人のネタも見るようになった)、コント師の中にも、固定のコントキャライメージが強い芸人と弱い芸人がいると思っている。

例えば東京03やジャルジャル、ラバーガールなんかは、コント内のキャラクターが独り立ちして色々なコントに顔を出すようなことはない(03の豊本演じる女性・豊美はネタによってキャラクターが違うし、ジャルジャルが演じる変なキャラクター(チャラ男番長とか神保マオとか涙腺コルクでキュッ!とか)は基本的にそのキャラの存在するコント世界の外には出てこないので、コント内のジャルジャル・福徳=チャラ男番長、とはならない)。

一方で、アルコ&ピースの平子が一時期やっていた瀬良社長のキャラのように、あるコントキャラクターが全然関係ない別のコントにも顔を出す、キャラ憑依系のコント師もいて、うしろシティ・金子の演じる声の低いおっさんや何も疑うことがなさそうな能天気男子学生のキャラ、バイきんぐ・西村が家シリーズ(小峠の家に西村演じるヤバいキャラが訪問してくるフォーマットのネタ)で演じる狂気キャラあたりが該当する。

空気階段もどちらかというと憑依するキャラを持っているコント師だと思っていて、鈴木もぐらであれば赤や黄色の帽子を被ってたどたどしく喋るおっさんのキャラ、水川かたまりであれば、「ゆうえんち」に出てくるサイコ系犯罪者キャラやキングオブコントの2本目やゴッドタンの女装企画でも披露していた少し陰のある女性キャラは色々なコントで顔を出す(今回であれば「オープニングコント」「27歳」「SD」「anna」に登場)。

固定のキャラクターを持っているというのは、それだけで客を掴めるという強みがある一方で、キャラ頼みのネタになりやすく、キャラの殻を破るネタを作りにくくなるという弱点があると思うのだけど、今回の空気階段の単独ネタが凄いな、と思ったのは、既存のキャラを上手く使いながらも、しっかりネタの展開で観客を巻き込む構成が作りこまれていること。そして独自の世界観を手札として複数持っていることだ。世界観をきっちり作るためには数分間まったく笑いのない場面を作ることにも抵抗がないし、ドラマ仕立てのコントもぶっ壊れ発想のコントもどっちも演じられるコント師・役者としての胆力に感服してしまった。

シンプルなキャラの面白さと、楽屋ネタ的なオチでしっかり笑いを取る前説的な「オープニングコント」に続く長尺ネタ「27歳」では、もぐらの定番キャラが登場するが、長い尺を取って次第に予想外の方向へと展開する。このネタは既存の人物いじりと大喜利的な狂気ボケが要所要所でうまく機能していた。

「SD」は導入から某ネタのフォーマットを彷彿とさせるが、タイトルの意味バラシ⇒約束された勝利のオチ、に至るまでの疾走感が気持ちいい。ゴッドタンのネタギリッシュ向けかも。長尺ネタ「メガトンパンチマンカフェ」は出オチかと思いきや少しずつ細かい裏切りを積み上げていくことで次第にコントキャラと「メガトンパンチマンカフェ」に愛着が湧いてくるタイプのネタ(これが後々のフリになっている)で、遊びの余地が大きいので、03みたいに全国回ったりすれば次第に原形をとどめなくなりそう。

「コインランドリー」は一発目のツカミの強さとかたまりのヤバさが際立つネタで、ネタの強度的には今回の単独で一番だと思う。題材的に賞レース向きかどうかは微妙だけど。「銀次郎24」は、中学生の授業中の妄想を実写化しました的なコントで、今回の単独ライブは所謂幕間映像的なものはほとんどないのだが(暗転中のセット転換を観客に見せるという今まで見たことのない演出)、実質このネタはコント本編×幕間映像でセットとなるタイプのネタ。このくだらなさは大好きだけど。

「Q」は、急に酒に酔った勢いで作ったのか、ストーリーの欠片もない、意味不明系コント。岡野陽一が巨匠時代にやっていた、「万物の祖」というこれまた意味不明系のコントを思い出した。最後の「anna」は暗転と舞台転換を多用しつつ、コントとしては異例の長さのコント内時間が経過する長尺コント。ほぼ笑いなしのドラマパートも含めて、これまでのフリも少しずつ回収しながら、笑える良質な青春ドラマを2人だけで魅せられるのは本当にすごい。いい映画観た後のような素敵な余韻だった。

空気階段の二人は舞台上でとても生き生きしていたし、コントらしいコントも、コント仕立てのドラマも、ドラマ仕立てのコントも堪能することができたので、本当に充実した単独ライブだった。空気階段はTV・ラジオタレントとしても今まさに売れている過程のコンビだと思うけど、同じ東京吉本のコント勢のトップランナー、シソンヌのように、これからも継続して単独ライブで良質なコントを作り続けてほしい。次回の単独ライブも絶対に見よう。



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