抜き打ちトンネル

この世界には「トンネル」というものがありますね。今回はそのトンネルが抜き打ちテストのように突如あらわれるという「抜き打ちトンネル」が存在する街を覗いて見ましょう…

―2○▽×年 日本―ある日突然、この街には「抜き打ちトンネル」というものが出現するようになってしまいました。そのトンネルは1人で歩いている人がいると突如目の前に現れ、通らなければ向こう側には行けません。しかし、そのトンネルの中がどんななのか、それはその日の運次第。ある日は嬉しい気持ちに。ある日は悲しい気持ちに。あるいはなんだか不快な気持ちになることもあるのだとか。

「行ってきまーす」
A君はいつものように学校へ行くために朝早く家を出ました。カバンにお気に入りのうさぎのストラップをぶら下げ家を出ます。A君は学校から遠く離れた場所に住んでいて早くに家を出なければ間に合いません。なんと毎日6時には家を出ます。そのため周りに人がめったにいません。そんなA君はいつもひとりで歩いているからか、抜き打ちトンネルの餌食になってしまいます。
「今日は出てくるかな、、、」
A君は恐れているわけではありませんが、抜き打ちトンネルがあまり好きではありません。今までろくなトンネルに出会ったことがないからです。A君にとって今まで出会ったトンネルといえば、なんだかお化けが出そうな雰囲気のトンネル、これでもかと言うほど寒いトンネル、そうかと思えば次は砂漠のように暑いトンネル、しまいにはトンネルなのに大雨が降っていたこともありました。これでトンネルが嫌いでなければそれはもうまともな人間ではないでしょう。しかし今日はトンネルには出会いませんでした。
「ふう、良かったー」
A君は安堵して登校しました。A君はなんだか今日は気持ちよく1日を過ごせそうな予感がしました。A君にとってはトンネルは要らない存在なのです。そんな日、A君の一日は最悪でした。まず、歩いていたら目の前でカラスがフンを落とし靴にかかってしまいました。次は蜂が来て怖くて逃げてしまい、とても追いかけられました。やっとの思いで学校につくと、筆箱と宿題を忘れたことに気づきましたが、どうすることも出来ず、先生におこられてしまいました。体育の授業では苦手な跳び箱をやり、みんなの前で恥ずかしい思いをしました。休み時間にはクラスメイトに馬鹿にされました。
「またその変なうさぎのストラップだー、どうして泣いてるうさぎなんだよ笑」
「関係ないだろ!おばあちゃんがくれた大切なものなんだ!どっか行けよ!」
A君はもうどっと疲れました。
「トンネルに出会わなかったのに今までで1番最悪だ、、、」
そんな散々な生活を送り、下校の時間がやって来ました。

いつものように人気のない帰り道までやってきた時です。それはやってきました。A君の目の前にながーいトンネルが現れたのです。A君は絶望しました。
「もういやだよ!今日は疲れたんだ!」
しかしA君の家までは1本道で、トンネルを通らなければ帰ることができないのです。
「どうしてこんな目に遭わないと行けないんだ、僕が何をしたって言うんだよ。」
A君は覚悟を決めました。
「もうなんでもかかってこい!」
ついにトンネルに入りました。するとなんということでしょう!目の前にはお祭り屋台が出口までずらっと並んでいるではありませんか。
「ここはなんだ?」
このトンネルは1人の時しか現れません。そう、これはA君のためのA君だけのお祭りでした。お題は無料、時間制限もなし、A君にとっては天国のようでした。
「こんなところは初めてだ!!!!」
A君はそれはそれは楽しみました。美味しいたこ焼きをたべ、クレープをたべ、トロピカルジュースをのみ、金魚すくいもしました。終わりの方まで来て、A君は名残り惜しい気持ちでいました。すると後ろからうさぎの着ぐるみを着た者がやって来ました。
「楽しんでくれたかい?」
A君は驚きましたが、元気に返しました。
「最高に楽しかったよ!なんだか報われた気分だ!」
うさぎは言いました。
「それは良かった。私はA君を見ていて幸せにしてあげたいと思ったんだ!実はこのトンネルは神様の気分で決まるんだけど、今回は僕のわがままでどうしてもA君が幸せになるトンネルにしてもらったんだ!」
「神様?君は何者なの?」
「それは言えないんだ、でも友達になってくれたら嬉しいな!」
「もちろんさ!君のこと忘れないよ!また絶対会おうね!」

A君はトンネルを抜け、家に帰りました。このことを誰かには話さずにはいられず、すぐにお母さんに話しました。
「そうかい。それはよかったねえ」
お母さんはA君が嬉しそうでなんだか自分まで嬉しくなりました。
「おばあちゃんにも話してあげなさい。」
A君は仏壇へ向かい同じことを話しました。
「本当に楽しかった!」
A君はトンネルが嫌いではなくなりました。トンネルは悪いことばかりではないのだと気づき、これからもトンネルを通り続けようと思えたのです。A君はその日とても楽しそうな顔で眠りました。―家の中が暗く静まり帰った時、うさぎのストラップは見守るような顔で微笑んでいました―
「行ってきまーす」
A君はいつものように学校へ向かいました。

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