見出し画像

いくつになっても

人に怒られてばっかりいる。大学生になってもいろんな人に怒られていた。おそらく社会人になってもちゃんと怒られる人間なんだろう。

最初にしっかり怒られた記憶は寝ている父親の顔を誤って踏んでしまったことだと思う。寝起きとは思えない速さでビンタされた。なんでこちらの位置を把握していたんだろうか。

僕は怒られているときに思い出してしまうことがある。

それは小学校低学年の時の話だ。秋ごろになると祖父の家の近所でお祭りが催される。祖父の家から神社までは長い一本道になっている。当時はお祭りでしか歩く事はなかったので歩く事自体もお祭りの余興のようなものだった。

縁日では詐欺師しかいないことに当時の僕は気づかなかった。子供はくじに当たりがないことなんてわかるわけないのに。本当に当たるかもしれないと思っていたからお金を払ったのに。許せないな。夢を売ってるとかじゃないぞ。いつかちゃんと当たるくじを出すようないかれた感性の奴が出てきて欲しい。すぐに潰れるだろうけど。

そういう意味では確実に当たりが入っている一番くじは最高だな。まあそんな当たりもしないようなくじに胸を膨らましていた僕はその日も任天堂DS lightを当てられるわけもなく、ちっちゃいDSのカセットをちっちゃくした消しゴムをもらい満足していた。そんなすごく消せるわけでもない消しゴムをもらってちょっと嬉しいかったのはなぜなんだろうか。消しゴムのくせにシール貼られてるし、消しゴム界の序列は最下層だろう。こんなものをもらって喜んでいた自分が情けないったらありゃしない。でももし、今DSのカセットの消しゴムをもらったら案外喜んでしまうかもしれない。それはDSのカセットのシールも貼ってるし、形もそっくりだから満足感があるんだろうな。バカが。なんも変わってねえじゃねぇか。

まあそんなこんなをしながらお賽銭を入れて、尋常じゃない量の水飴をたっぷりつけたすもも飴を食べて、お土産にカルメ焼きを買って僕達は神社を後にした。

神社から祖父の家までの帰り道、まだお祭りが終わった気がしていなかった。一本道ではめちゃくちゃ走ったりずっとふざけていた。家族が見えなくなるくらいまで遠くへ走ったあと、僕は仮面ライダーごっこをしはじめた。やっぱり当時は人の目なんか気にしないからやりたい放題だ。街路樹や壁などを全て敵と捉え攻撃しまくっていた。絶対に反撃してこない敵に僕は完全にハイになってしまい何も無い所にもキックをしまくっていた。そんな時、キックをしたら犬を連れた20代くらいのカップルが死角から現れた。びっくりしたが誰にも当たって無かったので見えない敵を攻撃し続けようとしたその瞬間事件は起こった。

「おい、こらぁ!」

その言葉は犬を連れたカップルの女性から発せられた。その音を「おい、こらぁ」という意味に認識する前に僕の胸ぐらは女性に強く掴まれていた。

「犬に当たったらどうするつもりなんだよぉ!」

強く胸ぐらを掴まれたままめちゃくちゃ怒鳴られた。子供にキレる怖すぎる大人とエンカウントしてしまった。おそらくこのカップルは僕が犬に向かってキックしたと勘違いしたんだろう。でも今考えてもこの大人はヤバすぎる。どんなに言い訳をしても怒鳴りつけてきた。アイツらは現在一体何をしているんだろう。ちゃんと自粛をしているのだろうか。あと子供にキレたあとどんな飯を食ったかどうかだけでも教えてほしい。ハイパーハードボイルドグルメリポートのように。今考えてみたら当時の若者はめちゃめちゃ怖かったような気がする。ディズニーランドの待ち時間にちょっとぶつかってしまったカップルの男はブチ切れるし、近所の公園では女子高生が昼間から氷結を飲んでたりしていた。おかしな時代なのか土地なのか。真相は分からずじまいだが、少年期のそういうようなことを思い出しながら西岸良平は三丁目の夕日を描いてたんだろうな。

当時、知らない大人にバチバチに怒られた経験なんてあるはずがなく僕は大泣きしてしまった。もし今でも同じことをされてもまだ泣きそうになると思う。そのくらい怖かった。その後追いついた両親が事情を聞いてそのカップルと和解し僕は地獄から解放された。そのためぼくは両親に貸し1がある。わりとでかい貸しだ。

そんな僕もそのカップルと同じくらいの年齢になってきた。いつか僕をブチ切れさせるレベルの子どもにあってみたいものだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?