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『NOVEL 11, BOOK 18 - ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』

著者:ダーグ・ソールスター

書店で本棚を眺めていて、シンプルで良い装丁だなあと思い手に取った本。

村上春樹訳、作者はノルウェイを代表する作家で、タイトルは著者の「11冊目の小説、18冊目の著作」ということらしい。

訳者があとがきで書いている通り、とにかく不思議な小説。

主人公は50歳、若い官僚で妻子がいたにもかかわらず、若い女性と恋に落ちて逃亡、地方の都市の収入役になるが、14年後にその女性と別れ、その4年のちに話が始まる。

文体は主人公の一人称だが、深い内省がなされるわけではなく、再婚した女性が年を取っても若い頃のように男性の前で振る舞うことの悲しみや、転がり込んできた自分の息子に対する抑えようのない嫌悪感、またその息子が友人に嫌われていることへの想像(それはリアルで間違いなく当たっていると読者にも思える)が延々と描写される。

物語の後半で、唐突に主人公がある計画を立て、それを実行して話は終わる。

その計画がどのような思考のもとになされたかは一切説明されないが、その協力者がどのような思いで計画実現後の振る舞いをなすのかについてはやはり主人公は延々と考えを巡らす。だがもちろん、答えは提示されない。

しかし読み進むと、主人公の選択について、なんとなく理解できるような気がしてくる。今書いていてもよく分からないのだけど、とにかくそういう話なのである。

先ほど「答え」と書いたが、すべての人の心の動きや振る舞いに正確な答えがあるのだろうか。
その行為そのものと、人からそれがどう見えたか、あるのはそれだけではないのかとの思いが、この小説を読んだ後湧き上がった。

村上春樹はノルウェイ滞在中にこの小説の英訳を買い求め、英語からの重訳を決意する。
こういう不思議な話を引き込む能力というか、引きの強さはさすがだなあと思う。

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