憧れの先輩をアイドルに誘った話

2023年5月某日

「先輩、僕と一緒にアイドルやりませんか?」

「ほう…?」

先輩は一瞬目を丸くして驚いたが、すぐに余裕を取り戻しニヤニヤ笑いを浮かべた。

「そうだねぇ…

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こんにちは、鶴見です。

鶴見には高身長、高学歴、国家公務員の3K揃った自慢の先輩がいる。

GWに入り、二人の予定が合ったので、遠路はるばる先輩に会いに行った。

駅に着くと先輩が待っていた。

「やあ!よく来たね!久しぶり!」

「お久しぶりです。前回は僕の誕生日だったので、ちょうど半年ぶりくらいですね。」

「そうだね。あ、大学卒業したんだよね。改めておめでとう。」

「ありがとうございます。と言ってもまだ学生なんですけどね…」

「弁護士志望だもんね。大変でしょ。今日は忙しいところありがとうね。」

「先輩こそ」

他愛もない挨拶を済ませ、案内されるままパーキングエリアに向かう。そこには懐かしの高級車が停めてあった。

「この車、こっちに持ってきてたんですね。」

「もちろん。愛車だからね。」

学生時代から何度も乗せてもらった先輩の車。

「なんかちょっと嬉しいです。なんでか分かんないけど…」

「え?何で泣いてるの!?」

「自分でも分かんないんですけど、なんか嬉しいです。」

「君ってやっぱり面白いね。」

車を見て懐かしくなったせいか、理由は定かではないが、涙がポロポロ流れた。あと、先輩の言う「面白いね」は基本「変だね」の意であることは長年の付き合いで分かっている。許さんからな。

「よし、軽くドライブしてディナーにしよう!」

空気を変えるようにポンと手を叩いて、先輩は鶴見を助手席に押し込み、そっとドアを閉め、自分も運転席に乗り込んだ。先輩とのドライブはこれが定位置だ。正直、鶴見が未だ普通自動車運転免許をとっていない原因の9割はこれだと思う。遠出したい時はいつも先輩が連れて行ってくれた。自分で運転しようなんて思いつかない。

ドライブ中にそれを遠回しに伝えると、先輩は、ケラケラ笑っていた。

「まあ良いんじゃない。必要になったら取れば。最悪、私が責任とって送り迎えしてあげるし。」

「最悪なんですか?」

「んー?どうだろうねぇ?」

悪戯なニヤニヤ笑いで鶴見を弄ぶ。これぞ先輩。たまらない。

半年分の身の上話を楽しみながら、向かった先は先輩御用達のフレンチレストラン。先輩には、先輩が学生の頃から月1くらいで色々なご飯屋さんに連れて行ってもらっていたが、ここは取り分けゴージャスだった。

「やっぱ都会はオシャレな店が多いですね」

「うんうん、開拓したいお店がたくさんあって困っちゃうよ。」

「あと先輩」

「何だい?」

「僕多分、ドレスコード的にアウトです。」

「あっ」

というわけで、急いで近場の服屋でクソダサ私服をかっこいいジャケット(卒業祝いに買ってもらった。もしかしたらここまで先輩の計画通りだったかもしれない。)に着替え、今度こそレストランに侵入成功。

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「それじゃ乾杯」
「かんぱーい」

と言っても、先輩は運転があるし、鶴見はお酒を飲まないので2人とも水という質素な乾杯を済ませ、思い出話に花咲かせる。徐々にネタがなくなり、今度は将来について語り合う。

「鶴見君は弁護士になった後はどうするの?やっぱり大手の四大事務所とかに入るの?」

「まあ出来ればその辺入って、3年くらいで独立したいなぁって」

「野心家だねぇ」

先輩がニヤニヤ笑いを浮かべる。この表情を見ていると、恥ずかしさと嬉しさの中間くらいの感情で心と顔が熱くなってくる。

「でも最近はアイドルにもなりたいと思ってて、ダンスのための柔軟とかやったりしてて……っ!」

照れ隠しのため話題を変えようとして咄嗟に、最近ぼんやりと考えていることについて口を滑らせてしまった。

「アイドル?アイドルになるの?鶴見君が?」

しっかり拾ってくる。さすがコミュ力お化け。

「あー、えっとー、あははー。」

「もう事務所とか入ってるの?」

「いやそんなんじゃなくて、いつかなれたら良いなーくらいのぼんやりとした目標で…」

「ふーん…そんなに甘くないと思うけど…」

少しだけ空気が重くなった。鶴見も正直テンパってた。そこで、とんでもないことを言ってしまった。

「先輩、僕と一緒にアイドルやりませんか?」

「ほう…?」

先輩は一瞬目を丸くして驚いたが、すぐに余裕を取り戻しニヤニヤ笑いを浮かべた。

「そうだねぇ…アイドルねぇ…」

ええいままよ!

「先輩はスタイル良すぎますし、ルックスも整ってます。大学でダンスサークルもやってましたし、どうせ歌も上手いんでしょ?ほら!アイドルアイドル!」

ヤケクソだった。勢いで何とかその場を乗り切ろうと思った。しかし返ってきたのは意外な答え。

「君となら、ちょっとアリだね。面白そうだ。」

「え、あ、じゃあ、やります?」

「ああ、考えておくよ。別に今すぐってわけじゃないんだろう?」

「あ、そうです。3年後くらいに、ぼちぼち活動したいなって。それまで勉強と同時並行で歌とダンスを。」

「それじゃあ、君が弁護士になれたら、という条件付きでどうだい?それと、一応公務員だからさ、基本的に副業は禁止でね。非営利でやるなら問題ないだろう。」

「最高です。」

こうして憧れの先輩をアイドルに勧誘することに成功した。こんなこと全く想像してなかったけど、アイドルになった先輩はめちゃくちゃ見たい。弁護士になる楽しみが一つ増えた。

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