憧れの先輩をオタコンサートに誘った話

こんにちは、鶴見つるみです。

鶴見には高身長高学歴国家公務員の3K揃った自慢の先輩がいる。顔は整ってるし、言葉遣いも高貴。どんな分野にも精通していて質問すれば必ず何か返してくれる。月に一回は高級なホテルのレストランに連れて行ってくれるし、学生時代からバイト代で買ったという高級車を乗り回していた。

いつもよくしてくれる先輩に、鶴見も何かお返しをしたいと考えたが、経済力も知識も先輩に劣っている鶴見には、何も渡せるものが無い。

そう伝えると、先輩はいつも「君はいてくれるだけでいいんだよ。私が好きでそうしているんだから」と笑ってくれる。

それでもやはり申し訳ないので、鶴見なりのお返しをすることにした。物や情報では先輩がすでに持っている可能性があるので、先輩が味わったことのないであろう体験をプレゼントしたいと考え、オタコンサートに誘った。

先輩は一瞬驚いた顔をしたが、「君から誘ってくれるのは初めてだね。ありがたく御相伴に与らせてもらうよ。」

「先輩、それ多分意味違いますよ?御相伴って食事の席とかで言うんじゃありませんでしたっけ?」

「そうかい?昔は同行する時にも使っていたと思ったけど。」

一体いつの時代の話をしているのだろう。いや、先輩が言うのだからあながち間違ってはいないのかもしれない。先輩が天然なのか鶴見が間違っているのか分からない。こんな不思議な感覚を味わわせてくれるのもまた先輩の魅力なのだ。そんなことを考えながら、詳細な場所や日時の約束をした。

先輩は鶴見とは違い、オタクでもなければ、コンサートに足繁く通うようなウェイ系でもない。だから、オタコンは先輩の初めての体験になるだろうと思った反面、こんなサブカルチャーで楽しんでもらえるだろうかと心配にもなった。

まあ先輩なら「君の好きな物ならどんな物だって楽しめるよ」とキザなセリフを返してくれそうな気もするが。

当日、誘ったのは鶴見なのだが、先輩が鶴見の家まで車で迎えに来てくれた。サングラスを外して挨拶する姿も様になっていた。

本当は会場まで電車で1時間くらいかけて行こうと思っていたのだが、先輩の「君とのおしゃべりを楽しみたい」との要望で、車で行くことになった。

車では大学の話や先輩の仕事の話をした。

会場に到着すると、絵に描いたようなデブオタクから、普通人を装ったガリオタクまで、さまざまに溢れていた。

そんな彼らを見ながら「すごいよ!鶴見くん!本物のオタクだよ!」と目を輝かせていた。一応鶴見もオタクなのだが、先輩にとって鶴見は「本物のオタク」ではないらしい。

肩をバシバシ叩きながら、デブオタクを指さす先輩。諭す鶴見。

「先輩、流石に失礼なので指さすのはやめましょう。」

「あ、そうだね。失敬。つい興奮してしまったよ。画面越しにしか見たことがなかったから。」

先輩は一応、画面越しにオタクを見たことがあるらしい。一つ懸念が解消された。実はもう一つ疑念があったのだが、この時はあえて聞かなかった。

ライブコンサートが始まり、先輩も楽しんでくれたようだった。少し激しすぎたくらいだ。

コンサートが終わり、会場を出ようとすると、物品販売が行われていた。Tシャツやアクリルキーホルダーなんかが売られているが、鶴見はこう言うのにはあまり興味がなかった。

すると先輩が、「あ!鶴見くん、なんか売ってるよ!寄っていこうよ!」と、祭りの出店に向かうくらいの軽い足取りで販売所に近寄っていった。

「先輩、こう言うところのは物価が高いですよ。」と止めようとしたが、指を振ってチッチッチッと、「我社会人ぞ」とドヤ顔を決めてきた。

「それに、せっかくだから形に残る物持っておきたいじゃない。」

眩い笑顔に目が眩みそうになった。

「そうですね、じゃあここは鶴見に出させてください。元々誘ったの鶴見ですし。」

「そうかい?悪いねえ。」(ニヤニヤ)

正直先輩の経済力からすればこのくらいの出費は屁でもないのだろうし、なんなら奢ってもらいたかったが、先輩にいいところを見せたかった。

無難にTシャツを買った。

「ありがとう。これでお揃いだねぇ」(ニヤニヤ)

鶴見は赤面した。


ここから先は

688字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?