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僕が麻雀に出会った日

当時の僕は何をしていたのか。

今回のnoteを書くにあたって、僕はまずTwitterのアカウントを遡り、当時のツイートを読み返すことにした。

2017年の夏。

当時の僕は大学を中退し、派遣社員であるが一応は社会人をやっていた。

中退した理由はまぁ、単位が取れなかっただけである。

なんで単位が取れなかったのか。

大学生の頃の僕は、大学そっちのけで執筆活動とバイトに全ツッパしていた。

執筆活動の詳細はまぁ置いとくとして、僕はその書いた本をコミケなるオタクの祭典(お盆と年末にビッグサイトでやるアレ)で同人誌として販売したりして、それなりの儲けもあった。

小さなコミュニティではあるがそこそこ有名人で、承認欲求を満たしながら(彼女がいるにもかかわらず)界隈の女子を適当につまみ食いして、それが当時の彼女にバレて別れたりした。

そんなことをしていてまともに単位など取れるはずもなく、大学四年生の夏、僕は潔く大学を中退し、社会人となった。

当時は割と本気で物書きとして生計を立てたいと思っていたし、そっち方面の勉強は周りにはあまり話してなかったけどこっそりやってた。

ツテもそれなりにあって、結局流れてしまったけれどもエロゲシナリオの執筆の話が目の前までやってきたこともあった。

ただまぁ、世の中そんなに上手くいくはずもなく。結局僕は小さな界隈でちょっとだけ有名な同人作家止まりであり、最後にでかい花火でも打ち上げるか、というノリと勢いで2018年は16万字にも及ぶ超大作を書き上げ、その年の年末のコミケで頒布した。

僕個人としての活動はそこで終わっていて、ただそこから2年程はまた別の執筆活動を行っていた。

時間を少し戻して、2018年の夏。

社会人となって1年が経ち、ちょうど夏のコミケの締切におわれていた頃。僕は一人の男に出会った。

ここではSとする。

Sは僕と同じく同人作家だった。
友人と立ち上げたサークルで本を出し、それが結構なヒット作となり、一躍人気サークルとなっていた頃で、僕も何となく聞いたことがあるな、くらいの知名度であった。

ある時、Sのサークルに所属するYという男が、Twitter上でネトゲを遊ぶ仲間を募集していた僕に声を掛けてきた。

ゲームをしながら色々と話をした。Yは僕のファンを名乗り(後で聞いたところ半分事実、半分嘘くらいらしい)、親しげに接してきた。そして、Yの所属するサークルの話となって、Sとも話をしてみないかということとなった。

そんな流れで、僕もSやSの作った作品に興味があった為、ひとまずネット通話で話をしてみることにした。

これがまぁ、面白い奴だった。
そもそも、僕が同じクリエイター同士で話すことが好きだったということもあるが、それにしてもSとの話は楽しかった。
お互いの創作論や作品の話をして、大いに盛り上がった。

Sは当時福岡に住んでいたが、ちょうどコミケが開催されるため上京の予定があり、そこで酒でも飲みながらまた話さないか、という流れになった。

そしてコミケの前日だか前々日に、僕はSと2人で飲み会に行った。

正直4年も前の話なので、内容まではっきり覚えてはいないが、サシ飲みであんなに盛り上がったのは後にも先にも記憶にない。それくらい楽しかったことは覚えている。

その後、SやY、またその周りの面々を加えた新たなコミュニティに僕はどっぷりとハマって行った。
夏コミ後、すぐに冬コミの順にに取り掛かることとなり、何せ16万字もの作品を作ってたこともあり全く余裕は無い日々だったが、ただ何となく作業しながら通話したり、時には飲み会に行ったりと、楽しい日々を謳歌していた。

そんなある時、すっかり打ち解けたYから呼び出しを受けた。いつもの如くネット通話をしながら、YはSの主催するサークルへ参加しないか、と僕に声を掛けてきた。

僕はこの時点で既に、Sのやろうとしていることをあらかた聞いていた。同人から商業作品へ、そして起業をしたい.......そんな話をされて、そこに参加して欲しいと言われて、僕は二つ返事でそれを了承した。

そうして僕はSの主催するサークルに参加することとなった。2018年末の怒涛の締切ラッシュと冬コミを乗越え。年が明けた頃、2019年にはSのサークルに本格的に参戦し、早速執筆活動へ取り掛かった。

年が明けたある時、Sはふと「麻雀をしたい」と言い出した。この頃のSは当時の仕事の都合で上京、借家住まいで、何かゲームや飲み会となるとサッと集まれるようになっていた。

麻雀.......まぁ、やった事ないけど咲とかアカギはなんとなく知っていたから「ロン.......!ロン.......!ロン.......!」って奴か、確か役が多くて難しいんだよな、くらいの認識だった。国士無双だけ知っていた。

ただ興味はあったので、僕は「他にメンツが揃うならやってもいいよ」と答えた。


そして、運命の夜が訪れる。


.......おっと、ここから先は「フィクション」です。


2019年3月9日 深夜

この日僕は、都内にあるSの家を訪れていた。

1Kのアパートに集まったのは、僕を含めた4人の男。

1人は家主でこの会の主催、S
麻雀を覚えてしばらくしてから気が付いたが、この男かなり麻雀が上手かった。
好きな雀士は佐々木寿人と堀内正人。
つまり、彼が打つ麻雀はこの2人の麻雀であった。
徹底したデジタルは本当に一部の隙もなく、また西の出身であることから三麻にも精通しており、とにかくSに勝った記憶はほとんど無い。ラスを踏ませるのも一苦労する男だった。
あとイカサマに何故か詳しい。靴紐も結べず鋏で紙を真っ直ぐ切れないが、小手返しと燕返しとブッコ抜きは得意だった。

もう1人は共通の友人K
彼は感情が良く出る麻雀を打つ人間だった。煽りやすく、煽られやすく、キレやすい。特段上手い訳でもないが、下手ということも無い。麻雀に関しては特長のない男。

同じく共通の友人L
彼も麻雀の腕はなかなかのものだった。
普段は競技麻雀が主戦場で、赤なしの麻雀を打ったり見たりすることが多いと言う。プロという訳では無いが、手作りと推し引き関してはこの中では1番上手かったと思う。近代のデジタル麻雀からは半歩ほど引いた場所にいる男。

そして、前日に麻雀のルールを覚え「ツモったら捨てる」ことと麻雀牌の種類だけなんとなく覚えてきた男、僕。

まず、Sは僕に麻雀のルールを順序よく教えてくれた。この時は手積みで遊んだこともあって、洗牌、山積み、配牌。ツモと打牌を繰り返す、4メンツ1雀頭等々.......基本的なルールを説明された。

あらかた理解したところで、Sはこう言った。

「じゃあ、今夜のレートだけど.......」

僕は猛抗議した。

当然である。3人経験者で初心者をカモにして荒稼ぎされたらたまったもんではない。
しかしSは僕をなだめ、今夜のレートが超低レート.......具体的には0.2の祝儀0.5であると話した。
1晩ボコボコにされた試算を僕にみせ、どんなに負けても「一時の娯楽に供する」範囲内で収まることを僕に説明した。
Sの言い分としては「レートが乗ってないと打牌が適当になる。どんなに安くてもいいから、レートを乗せれば真剣になる」との事だった。一理あるが、そもそもこちらは今夜初めて麻雀をやるド素人である。

赤木しげるならいざ知らず、普通の人間が経験者相手取って麻雀に臨んでも、負けるのは見え見えだ。

正直これには最後まで反対したが、安い飲み会一回分程度の金額にガタガタと言い続けるのもアレなので、渋々条件を飲んだ。

数時間後.......。

その日僕は、1420円の負けでしっかりとラスを引いた。

トップはLが取り、僕はLに1420円耳を揃えてキッチリ支払った。あの時のにやけ顔は今でもハッキリと覚えている。

正直大した額ではない。ただ金額の問題ではなく「勝負に負けて金を払う」という行為自体がえらく屈辱的に思えた。

ここまでが、僕が麻雀に出会った日の全てである。

正直対局の内容なんかよく覚えてない。

そもそもルールを知らない頃のことなのだから、それも仕方ない。

覚えているのは、あの狭い6畳の部屋で摘んだ牌の感触と、1420円負けた事くらい。

なので、本題の話はここで終わりであり、あとの話は蛇足となる。

その日から、僕は麻雀にどっぷりとハマった。

本屋で麻雀書籍を買ってルールを覚え、当時はネット麻雀と言えばMJが主流だった為、MJで朝から晩まで打ち続けた。

役も点数計算も分からないながらに少しづつ覚えて、5月になる頃には役はほとんど覚えたし、出来ないことといえば点数計算くらいになった。

ただ、麻雀とは関係なく締切はやってくるものであり、5月のGWには限界駆動4徹原稿を執り行ったり、そのせいで「アタシより原稿の方が大事なのね」と、また当時の彼女に振られたりした。原稿の方が大事に決まってる。

原稿が仕上がった頃、Sは僕に彼がかつて書いた小説を読むように進めてきた。

麻雀を題材にした短編小説で、読んで感想を聞かせて欲しいとの事だった。

Sの書いた本は一通り家に置いてあったため、本棚から取り出して、その小説を読むことにした。

タイトルは『帯びた熱』。

ヤクザの代打ちをしている主人公が、ある対局中にオーラス断ラスに追い込まれながら、走馬灯のように過去を回想する。

なぜこうなったのか、どこで道を踏み外したのか。

そんな過去の回想シーンの中に、こんな一説があった。

『それは、火傷しそうなほどに、強烈な熱を放っていた。
ああ、この熱は。
どんな温もりでも、肩代わりできない。
俺が、この手で勝ち取った金。』

この一説に、僕は経験したことは無いが共感をするという奇妙な感覚に包まれた。

あの日支払った1420円には、手から離れる時にすっ、と熱が抜けていく感覚があったような.......気がした。

確かめる他にないと思った。

僕はネットで近所の雀荘を調べ、そこに足を運んだ。

レートは0.5の5-10。

よくある、何の変哲もないフツーの低レート雀荘だ。

ビビりにビビって財布に2万円も入れていったのを覚えてる。

初めて打ったリーチは3455678pの2-5-8p待ちだったのもよーーーく覚えてる。普通に初心者であったことと、初フリーでめちゃくちゃ緊張していて、待ちがわからなくなりそうになった。

しかもこの店は赤5pが2枚も入っていて、その2枚とも手の中にあった。

確か出上がりだった。上家のメンバーが、初めて雀荘に来たという僕にサービスだと言わんばかりの5pを切り出してきたのは覚えている。

その日は、軽く4~5半荘程度打った。

とりあえず1万円を放り込んでいたカゴの中は、1000円ばかりであるが増えていた。

何とか収支をプラスで初フリーを終えることが出来た喜びと同時に、僕は答え合わせをすることになった。


自らの手で掴み取った1000円は、ほんの僅かながら、熱を帯びていた。


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