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30代レズビアンの切ない瞬間


※この話は個人を特定できないようにめちゃくちゃフェイク入れています







我輩は30代のレズビアンである。

ある日、大型商業施設にて赤ちゃんを連れた30代くらいの夫婦を見かけた。
ベビーカーを押す母親に見覚えがあった。

どこかで会った気がする…
誰だろう…

そうや、ヒカルやわ!
若いときにビアンバーで知り合ったヒカルに違いない!

レズビアン界隈にいたときのヒカルは
ボーイッシュな髪型に個性的なファッションという印象に残る身なりをしていたけれど
久しぶりに見かけたヒカルは、髪が伸びていて平凡な服装をしていて、いかにも一般女性といった身なりになっていた。

雰囲気がかなり変わっていたけれど、目元の特徴と声でヒカルだと確信した。



 * * * 



ヒカルとはお互いにまだ学生だったときに知り合った。
同じ歳で、趣味も似ていたことから話が弾んで連絡先を交換した。
それからビアンバーでときどき一緒に飲むようになった。
お互いの当時の彼女を交えて4人で遊びにいったこともある。
私が看護師国家試験に受かったときは祝ってくれたし
私が病院勤務が辛くなって退職しようか迷っていたときには背中を押してくれた。

20代半ばのとき、ヒカルは数年ほど付き合っていた彼女と別れた。
そしてレズビアン界隈から忽然と消えた。
LINEのアカウントも、Twitterのアカウントも消えていた。
何人かの共通の知り合いにヒカルの消息を尋ねたが、知る人はいなかった。

急にいなくなるなんて…何か一言くらい言ってほしかったな、とか思う部分もあったが、ヒカルにはヒカルの事情があったのだろう。

こんな界隈だから急に会えなくなるのはよくあること、仕方がないと自分を納得させた。    



 * * *



久しぶりに見かけたヒカルに私は混乱した。

結婚して子供を産んだんだ。
あれ?  ヒカルは完全ビアンで男性は本気で無理って言っていたような…  セクシャリティが変わったのだろうか?
それともセクシャリティの壁を越えられるくらい素敵な男性と出会って結婚に踏み切ったのだろうか?
それとも、まさかセクシャリティを隠して結婚生活を送っている?
よく分からなかったが、なんにせよヒカルが元気に生きているようで良かったと私は思った。

私はヒカルに声をかけたかったが、
今のヒカルがレズビアン界隈にいた過去を隠して生きているかもしれないと思うと躊躇われた。

結局声をかけられなくて切なさが残った。



今読んでいる夜職漫画『みいちゃんと山田さん』の山田さんの言葉に共感した。




レズビアンの世界ってそれぞれが事情を抱えていて、誰かが急にいなくなるのは珍しいことじゃない。
そんな世界だからこそ一期一会を大切にしたいと私は改めて思ったのであった…。