「SYLVAIN SYLVAIN」ライナーノーツ

そういえばnoteのアカウントもってるんだった。
愛するシルヴェイン・シルヴェインが亡くなったので、ここに以前書いたシルヴェインのライナーを転載します。
シルヴェインとはバンドでも共演しましたし、思い入れも思い出もたくさんありますが、とりいそぎこちらを。

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「愛すべき」 という言葉が世界一似合うロックンローラー…… それがシルヴェイン・シルヴェインだ。ハートブレイカーズ・フリークにもデヴィッドヨハンセン・ファンにも支持される彼は、ビートルズで言えばジョン派にもポール派にも愛されたリンゴスターのような存在ではなかろうか。あの笑顔、あの立ち振る舞い。あのクセっ毛、あの頬紅。もちろん、あの声にあのギター。そしてこの曲たち。すべてが愛しい。でしゃばり過ぎずに控えめになり過ぎないサイド・ギタリストの鏡。本作のジャケットを見ていただければわかるとおり、ソロ作にもかかわらずセンターに立たず端でポージングするところにさえも彼の美学を感じるのは決して気のせいではないだろう。  

いや、そりゃあね、ジョニーサンダースはかっこいいよ。大好きだ。だけども、シルヴェイン・シルヴェインの素晴らしさを解っていない人があまりにも多すぎやしないか? そんな人はそれこそボーン・トゥ・ルーズな人生を送ってますよ。先の 「ドールズ再結成」 という奇跡のニュースが飛びこんできた際も「だって、ジョニサンいないじゃん」ってなつまらぬ発言をいたるところで耳にした。おい、そんな当たり前のことを堂々と言ってどうする。しかもしてやったりな顔しやがって。ジョニーどころかジェリーノーランだって何年も前からいないよ。けれども、それよりなによりシルヴェインが表舞台でギターをかき鳴らしてる様を観たい、聴きたいと思わないのかい。腕に LAMF と刺青入れてアイリッシュリキュール呑みながらロックンローラーを気取るのもよいが、シルヴェイン・シルヴェインの素晴らしさを解らぬ輩は、もはやロックンローラーとしてのパーソナリティーが完全にクライシスだといっても過言ではないだろう。

……とかなんとか、冷静なる判断、分析、解説が要求されるライナーノーツという大役を前に興奮しすぎた自分を軽く嫌悪。「○○が解らない人とは一生わかりあえないであろう」 といったオールドスクールの宣言を今更したとことで、この偉大なるロックンローラーの真の魅力が若者には伝わらないのは百も承知だ。それに、ここ近年はシルヴェインもパワーポップ愛好者たちを中心にようやく評価されはじめ、むしろスタイル重視のジョニーサンダースマンの方が肩身が狭いおもいをしてるような気もするし、昔だったら考えられない“シル単独絵柄”のT-シャツが売られ、着られたりもしてるのも目にするようになってきた。けれども、それでもまだまだ憎まれ口を叩きたくなるのですよ! そんな気持ちは本作を手にとって、この駄文を読む前にプレイボタンを押したあなたなら一撃でわかってもらえると思う。だって、こんなにも素晴らしいロックンロールレコードが“元ドールズのソロ”の一言で片付けられ続けてきたんだぜ。それはもはや罪以外のナニモノでもない。

 パンクの産みの親の一人であることをやみくもにアピールするでもなく、ましてや新しいスタイルにチャレンジすることに全力をかけたものでもなく、ルーツである黒人音楽や 50’s、60’s の音楽を気軽に遊び気分でプレイするのともちょいと違う本作。こいつは、みずみずしくも小粋なロックンロールが古くも新しくもなく“瞬間のキラメき”として永久にはじけまくる類まれな作品なのだ。ジョニーサンダースのグレイト極まりないソロ作たちに決してひけをとるとも思えないし。ソングライティングにしてもロックパイルのあの二人と並び評されてもまったくおかしくないくらいのクオリティだと思う。そんでもってこの瞬発力はどうだい。わずか一瞬、ホントに瞬時にして聴くもの全てのハートをキャッチするパワーをもっている曲だらけじゃないか。もう何年も前の話になるが、筆者が某クラブでDJもどきを行い、ここぞとばかりにシルヴェインのレコード (曲は本作には入ってない 『THE KIDS ARE BACK』 だったが) を大音量でかけたことがあるのだが、DJブースの前にたちまち人が群がり 「これ誰の曲ですか?」 と問われもした。  

さて、そんな本作はニューヨークドールズ崩壊後、クリミナルズを経て、1979年に発売されたシルヴェインの初ソロ名義作。プロデュースはトーキングヘッズにタフダーツにロバートゴードンなどなどのニューヨーク地下勢を手がけたランス・クウィン (主な仕事はボン・ジョヴィであろうが)。またバックのメンバーにはジョニー・ラオ (G)、バズ・ヴェルノ (B)、ボビー・ブレイン (Piano) といったデヴィッド・ヨハンセンともからんだ経験のあるメンバーや、エリオット・マーフィーの作品にも参加してるトニー・マシーン (Ds) などが参加しており、ニューヨークの街の空気を具現化するミュージシャンが勢ぞろいしてはシルのプレイを盛り立てている。因みにメインドラマーのリー・クリスタルはパワーポップ・ファンにはおなじみザ・ボーイフレンズのメンバーであり、かのジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツのメンバーでもあった男。このボーイフレンズも最高にイカしたロックンロールバンドであり前身バンドであるポッピーズとあわせてCD化されているので是非聴いていただきたい。  

では、ここいらで内容についても軽くふれておこう。まずはドールズ時代からライヴでプレイされていたシルの代表作、“ゴキゲンな” という表現はこの曲のために存在すると言うべき名曲 『TEENAGE NEWS』 でのっけからカッ飛ばす。ここで今すぐ街に飛び出したくなるような気分をグッとこらえれば、すぐに最高のロックンロール・ナンバーが立て続く。彼の“愛らしい”だけじゃない側面も垣間見れる渋めのナンバー『I’M SO SORRY』を挟んでは、美しきストリングスとピアノが印象的、終盤にはビートルズのフレーズも顔を出す 『WITHOUT YOU』 で涙の元栓がひねられまくり、中盤の名曲 『EVERY BOY AND EVERY GIRL』 のサビと出くわした頃にはもういてもたってもいられないほどの感動が押し寄せる。こらえきれぬあなたがジャケを抱きしめ部屋をうろうろ徘徊したとしても後半戦の R&Bバラード 『DEEPER AND DEEPER』 でもう一度グッとさせられ、ハッと我に返る。その後も多くのバンドがこぞってカヴァーしているクラレンス“フロッグマン”ヘンリーの『AIN’T GOT NO HOME』をバッチリきめてくれ、サックスがむせび泣くおかげで謎のアーバンムードが漂うインストナンバー『TONIGHT』で見事に締めくくられる。……というわけで、こいつは最初から最後まで聴き逃せない。いや、それどころか繰り返し繰り返し回転させてしまう中毒性のある作品となっているのだ。しかも、アッ!という間に終わっちまう潔いことこの上ない収録時間ときたもんだ。それでも一本の名作青春映画を観終わったくらいの興奮と感動がここには詰まっているのでご安心あれ。  

とかなんとか書いてきたものの、これを読んでる人は既に本作を手に入れているわけなので今更とやかく言うことなどなし。それぞれの人生に必要不可欠なロックンロールレコードの一枚となること必須な本作を今後も愛しまくろうじゃあないか、なぁ兄弟! そして、あなたの友人のパンクス、グラムロッカーたち、パブロック、パワーポップ愛好者、なんだったらロカビリアンでもモッズでもいいから、とにかく全てのロックンロールフリークの耳にこの光輝くロックンロールを届けようではないか。「ニックロウ好きなの? じゃあこれはどう?」「バディ・ホリー好き、あ、これも聴いてみたら!?」「ボーイズ聴いてるんだ……じゃあシルもいけるな!」などと多少強引でこじつけ的な呼びかけも決して的ハズレではなかろうし、それが友情を深め、信頼を勝ち得、相手が異性の場合はなんだったら恋に発展する可能性もはらんでいる。 

 最後に余談であるが…… シルヴェインの甘く切なき歌声を聴き、素晴らしきロックンロールにもかかわらず正当評価を受けてない現実を目の当たりにするにつけ、私は彼をついついある人物とオーバーラップさせてしまう。その人物とはジョニー大倉。両者は音楽性もどことなく似てるし (ジョニー大倉が 『DEEPER AND DEEPER』 を歌ってもシックリくるであろう)、最高のソロ作を多々作りあげてるにもかかわらず軽視されてるところまでソックリだ。ニューヨークドールズとキャロル、ジョニーサンダースと矢沢永吉がいかにグレイトかは今更私なんぞが言わなくても誰もが口にするであろうし、今後もCDは売れ続け、語りつがれていくであろう。しかし、シルヴェイン・シルヴェインとジョニー大倉がどちらにも負けず劣らず偉大なる存在であるかを皆にもっともっとわかっていただきたい。本来ならば誰かと対比して素晴らしさを説明する必要などないはずなので当然ジレンマも感じているのだが、これを機に、彼等がいかにかけがえのないロックンローラーであるかを今後もしつこく主張し続けていくことを勝手にここに誓わせていただく。 「シルヴェイン気に入った? じゃあジョニー大倉も聴いてみない?」 とも書いておく。  

というわけで、この誰にも操られぬ自由気ままなニューヨーク人形のソロ作を思う存分楽しんでいただきたい。 

 2007.06.09 TSUNEGLAM SAM (YOUNG PARISIAN)


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