Point in line(ポアント・アン・リニュ)の成立条件

1 point in lineとは?

これから不定期でフェンシングのわかりにくいルールの部分について、私の知っている範囲で、私の解釈を解説をしていこうかなと思っています。
その第一弾としてPoint in line(ポアント・アン・リニュ)をとりあげたいと思います。

フェンシングしている人でもPoint in line(ポアント・アン・リニュ)ってなに…?と、知らない人も多いかと思います。
私も高校時代は全く意識していませんでした。

まず、Point in line(ポアント・アン・リニュ)について大雑把に説明しますと

「相手がアタック動作に入る前に腕を伸ばして、ポイントを相手の有効面に向けたまま、叩かれずに突く」

というフレーズです。フルーレとサーブルにもあります。
剣先(point)が相手の有効面(line)に向いている、英語の意味まんまですね。

なんでこんなルールがあるの?と不思議に思う人もいるかもしれませんが、このようなルールがあるのは、フェンシングには「先に腕を伸ばした方が勝ち」という概念があるからです。
しかし、フェンシングを初めて攻撃権について教わる時「先に前に出た方が勝ち」と教わったはずだと思います。
ここに、point in lineの分かり辛さ、ひいてはフェンシングのフレーズ、特にフルーレのフレーズが分かりにくい理由があります。
たしかに「先に前に出た方が勝ち」という概念は存在しますが、それと共存して「先に腕を伸ばした方が勝ち」という概念も存在するのです。
おそらく、「先に前に出た方が勝ち」という概念の方がシンプルなため、はじめにそう教えるのだと思いますし、それで十分だとも思いますが、ある程度経験を積んできたらもう一つの概念「先に腕を伸ばした方が勝ち」を意識し、状況においてその二つの概念のどちらを優先すべきか考えられるようになる必要があります。

この二つの概念の対立はプレパラーションアタックの問題とも直結しますが、その議論は今回はおいといて、引き続きpoint in lineの説明をしていこうと思います。

2 定義

大雑把なルールを把握した上で、次にちゃんとルールブックの定義も見てみましょう。

リニューのポジション
t. 15 
リニューのポジションは、剣を持っている腕が真っ直ぐ伸びていて、剣先が絶 えず相手の有効面を脅かす特定の守備位置 (t.84.1/2/3, t.89.4.e, t.89.5.a, t.102, t.103.3.e, t.106.4.a/b 参照)
フルーレ
t. 84
フラーズ・ダルムの分析の際の攻撃の先行性の判断には下記の点に注意しなければならない

相手がポワント・アン・リニュにある時に攻撃が開始される場合(t.15 参照)、攻撃 者は先ず初めに相手の刀身を一方に逸らさなければならない 主審は、攻撃者の刀身が相手の刀身に単に触れるだけでは相手の剣を十分に逸らした ことにならないことを確実にしなければならない(t.89.5.a 参照)

攻撃者が相手の剣を一方に逸らそうとして相手の剣を捕らえ損なう場合(デロブマン)、 攻撃権は相手にうつる
サーブル
t.102
正しい攻撃に関する判断には、下記の点を考慮しなければならない

相手がポワント・アン・リニュ(参照. t.15)の状態の時に攻撃が開始される場合、攻撃者は、まず最初に相手の武器を払いのけなければならない 主審は、刃と刃が互いに接触するだけでは相手の剣を充分に逸らしたとは考慮しない事を確実にしなければならない

相手の刀身を逸らそうとして相手の剣を捕まえることができない場合、攻撃の権利は、 相手に渡る

相手の刀身がポワント・アン・リニュの状態でない時に攻撃が開始される場合、直接かデガジュマン、またはクーペによって、さもなければ、相手にパラードを余儀なくさせるフェント(t.103 参照)を先行させて攻撃を完了させることができる

参照
(https://fencing-jpn.jp/cms/wp-content/uploads/2021/02/d1d5a90053300ec0f9a4d21a3b9bb4df.pdf)

日本語のルールじゃなんだかよくわかりにくいですね。英語でも見てみましょう。

Point in line
t.15
The point in line position is a specific position in which the fencer’s sword arm is kept straight and the point of his weapon continually threatens his opponent’s valid target (cf. t.84.1/2/3, t.89.4.e, t.89.5.a, t.102, t.103.3.e, t.106.4.a/b).
Foil
t.84
To judge the priority of an attack when analysing the fencing phrase, it should be noted that:
1
 If the attack is initiated when the opponent is ‘point in line’ (cf. t.15), the attacker must, first, deflect the opponent’s blade. Referees must ensure that a mere contact of the blades is not considered as sufficient to deflect the opponent’s blade (cf. t.89.5.a).
2
If the attacker, when attempting to deflect the opponent’s blade, fails to find it (dérobement), the right of attack passes to the opponent.
Saber
t.102
In order to judge as to the correctness of an attack the following points must be considered:
1
If the attack is initiated when the opponent has his point ‘in line’ (cf. t.15) the attacker must first deflect his opponent’s weapon. Referees must ensure that a mere contact of the blades is not considered as sufficient to deflect the opponent’s blade.
2
If, when attempting to find the opponent’s blade to deflect it, the blade is not found (dérobement), the right of attack passes to the opponent.
3
If the attack is commenced when the opponent’s blade is not ‘in line’Äb0, the attack may be completed either direct, or by a disengagement or by a cutover, or else be preceded by feints (cf. t.103) which oblige the opponent to parry.

参照
(https://static.fie.org/uploads/25/127073-technical%20rules%20ang.pdf)

ルール上では「この状況だとpoint in lineをとる」というよりは「この状況だとアタックをとらない」みたいな説明になっていますね。でも、「アタックをとらない」ということは「point in lineをとる」ということ、だと思います。

さて、Point in lineの成立条件をまとめてましょう(フルーレもサーブルも同じ)
①腕を伸ばし続けている
②剣先が常に相手の有効面を向いている
③相手の剣に叩かれて、有効面から剣先がそらされていない

基本、最初に紹介した説明と同じですが、③については微妙に違います。
ルールブックにおいては「剣を叩いただけでは十分ではなく、相手の剣を十分に排除する必要がある」と書いてあります。
私の初めの説明では剣接触がない、とだけ書きましたが、ただ剣と剣が触れただけで、剣先がずっと相手の方を向いて有効面を脅かしていたら、ルール上はpoint in liineは成立するのです。
ただ、実際においては剣と剣が少しでも触れたらpoint in lineを取る人は多くはないと思いますし、十分に剣が排除されたかされてないかを見極めるのは困難だと思います。
なので、最初に紹介した大雑把な説明さえ覚えておけばいいと思います。

文字だけの説明だけでは、実際にどんな動作なのか具体的には想像できないと思いますので、以下のyoutubeに上がってる解説動画を是非見てみてください。


https://www.youtube.com/watch?v=6_k6qVOErxc

サーブルにおけるpoint in lineを説明していますが、フルーレも基本は同じです。ただ、サーブルにおいてはたとえ、叩かれず、有効面に向けたまま、腕を伸ばしていたとしても、最後きれいにスラスト出来なければ(パッセしてしまうと)point in lineとは認められないことに注意しましょう。(ルールブックにこんな記載見当たらないけどもそうらしい…)


https://www.youtube.com/watch?v=wHJT_ojBS8k

もう一つ、日本のナショナルチームの櫛橋さんが解説している日本語の動画もあります。

3  point in lineにおけるジャッジの不一致

Point in lineのルールについて説明してきましたが、実際はどうでしょうか?
まずはpoint in lineとジャッジされたプレイについてまとめている動画があるので、それを見て雰囲気を掴んでみましょう。

https://www.youtube.com/watch?v=0k7OPX8Sgdk
https://www.youtube.com/watch?v=X5oBhWy69cM
https://www.youtube.com/watch?v=TjrL-t33k4g

雰囲気を掴んだ上で次の動画を見てみましょう

このプレーはどちらのフレーズ(右のアタックか左のpoint in line)だと思いましたか?
この試合の審判は右のアタックと判定していますが、実は複数の審判にこのプレーを見せたところ、アタックをとる審判とpoint in lineをとる審判でほとんど半々に分かれたそうです。(詳しくはhttps://t.co/ukIllucFg3?amp=1)

今回のプレーを見てみると、アタック(右の選手のマルシェ・ファンデブ)開始の前に左の選手が腕を伸ばしてはいますが、その時間の差が短いことがわかります。おそらくこの「短い時間差」に意見が分かれた理由があると思われます。
先ほど紹介したようにルールでは「アタック動作の開始前」としか書かれていませんので、ルール上ではpoint in lineは成立するはずですが、腕を伸ばしたタイミングがアタック開始のタイミングと近いとどうしてもコントラアタックのように見えてしまい、point in lineをとりたくないという気持ちが生まれてしまうためだと思われます。
それぞれの立場に立って主張を書いてみますと

①point in line派
・アタック動作開始の前にpoint in lineのポジションをとっている
・アタック側が剣を捉えようとして空振りしている(先ほど取り上げたルールt.84.2参照)
②アタック派
・point in lineをセットしたのがアタック開始の直前すぎて、コントラアタックに見える

ということです。私個人としてはこのプレーに関してはpoint in line派ですが、アタック派の気持ちもわかります。
この問題はトップレベルの国際審判員でも意見が分かれるところなので、我々が審判をする時は、判断した自分なりの明確な理由を示すことができればプレイヤーも納得すると思います。

同じような例として次のプレーを見てみましょう。

ビデオ判定で左の選手のアタック(多分point in lineとコールしても問題はないと思う)となりましたが、これも意見が分かれそうなプレーでしょう。
皆さんどっちのフレーズをとりたいですか?

もし、この時間差の問題について定量的なコンセンサスがあれば、教えていただきたいです。

これ以外で、point in lineの審判による不一致がでるのは、「剣先が有効面を向き続けているか」の判断でしょうか。
これについては(2,定義)であげた解説動画①において言及されていますので、見てみてください。

4 まとめ

長々と書きましたが最後にいくつかまとめを
・point in lineのジャッジは難しい!
・point in lineのジャッジが自分の基準と違う!と思ったらその審判に合わせて試合をする
・point in lineを狙おうと思ったら、審判にpoint in lineですよとアピールするために、相手との距離を一旦とってから腕を伸ばすのが安全

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