かたわ少女 感想

導入(ネタバレ無し)

フリーゲームである「かたわ少女」をプレイしました。
↓公式サイト

ジャンルとしては「ビジュアルノベル」、18禁要素があるのでいわゆる「エロゲー」。特徴は、「主人公とヒロインが全員障碍者であること」。
学園を舞台に、ヒロインとの関係を深めていく(多分)一般的なギャルゲー方式。

「かたわ」という言葉は体が不自由である人のことを指すが、差別用語として認知されているため、タイトルが公開された時は良くない方向で話題にされていたよう。
「悪趣味」だとか「検索してはいけない言葉」だとか言われていたようだけど、実際の内容は全くそんなことはなく、現在は沈静化している模様。
ギャルゲー・エロゲーの文化に詳しくはないのだけど、このゲームのシナリオは強いメッセージ性を持っており、「シナリオゲー」とか「泣きゲー」に分類されるはず。
重めのシナリオや、人間関係について深く考えることが好きな人にはおススメ。

僕は、小説・アニメ・漫画・映画などの創作物のシナリオに関してあまり感想を述べることはないし、あるとしてもTwitterで軽く済ませる程度なのだけど、この作品に対してはちょっと頭の中だけで整理しきれそうにないのでわざわざnoteのアカウントまで作って書き始めた。

このゲームのテーマ性について(ネタバレ無し)

このゲームの主題は、「いかに障碍と向き合うか」だとか「障碍者と健常者の間に存在する壁」ではない。
ヒロイン達は自分なりに障碍を受け入れており(そこまでの経緯が詳細に語られることはほぼない)、それぞれの学校生活を歩んでいる。
僕自身は、両腕が無い手塚琳や、両足が無い茨崎笑美のイラストを見た時は正直少しギョッとしたが、すぐに慣れて主人公と彼女らが構築する人間関係に没頭できるようになっていた。

では、「障碍」がこのゲームにおいてただイロモノとしての話題性をとっつけるだけの要素だったかというとそうでもない。
「障碍」の影響は「物理的な壁」ではなく「精神的な壁」にあった。
僕は、このゲームの主軸となるテーマは「他者との距離感」だと思う。
ヒロイン達は皆、大なり小なり他人との間に精神的な壁を作っていたり、歪んだ距離感を持っている。それを構築した「きっかけ」は確かに障碍が1つに挙げられるだろう。
ここで最も重要なのは「原因」ではなく「きっかけ」に過ぎないという点なんだと思う。彼女達が抱えてる歪みや悩みは、障碍者特有の問題では決してなく、誰もが抱える可能性のある物だった。
これらのことを、僕の語彙力では上手く言葉に出来ずにモヤモヤしてたのだけど、ネット上の感想を読み漁っているといくつか納得できるものがあったので貼っておきたい。

これは「障がいを乗り越える」という物語ではない。障がいという個性を持つ少年少女たちの、優しい恋物語だ。
人がその障害によって定義付けられる事など無い
この作品が描きたかったのは障碍者ではなく、人間である

人が、持っている障碍によって分類されることなどないし、それで人格まで全てが決まるわけじゃない。
そんなメッセージが込められているゲームだと感じた。

エロシーンについて(ネタバレ無し)

過激な内容はほぼないし、かなり薄め。それを期待していたわけではないし目当てでもなかったからどうでもよいのだが。
正直なところ、「エロゲーじゃなければもっと声を大にして周りに勧めるんだけどな...」と思いもしたのだが、このゲームにおけるエロシーンはシナリオ中の重要な意味を持つため、カットできそうにない。
行為中の細かい描写全てが、「障碍」という「個性」を持つキャラクターの内面を描き出していて、シナリオに上手く活かされていた。

設定によってエロシーンのイラスト差し替え設定が出来るが、立ち絵は差し替えられないのでyoutubeなどで隠さずに配信は無理だと思う。


以上でネタバレを考慮した全体の感想終わり。
以降よりネタバレ含めて各ヒロインルートの感想とか考えたことを書く。
順番は攻略した順で。
(いるか分からないけど)ここまでで興味が沸いた未プレイヤーは是非やって欲しい。

笑美ルート

一周目は成り行きに任せて攻略しようと思っていたため、突入条件が緩い笑美ルートに入った。
僕はまだこのゲームの本質を理解していなかったし、このルートは不穏な空気も全く出さずに主人公と笑美がイチャつき始めるため、めちゃくちゃ油断してた。
笑美は、明るい、という言葉が似合う性格をしているし、足を失ったことにくよくよしている様子はなかった。自分が走ることの出来る間は。

Act.3に入り、笑美が怪我による車椅子生活を終えるあたりから不穏な空気が流れ始め、露骨にビビる僕。
なんとか初見でグッドエンドには到達することは出来たが、僕はこのゲームへの認識を改めることになった。

このルートの公式テーマは、「独り立ち、出来る?」
僕は初め、一見元気はつらつで何でも一人でこなせそうな笑美にも、誰かに甘えてる部分があって、その点が成長するのかな?くらいに軽く考えてた。
「もう二度と大切な人を失わないために、もう二度と誰も信用しない。誰も大切な人にはならせない。」と覚悟を決めた少女の話だなんて誰が思うんだよ。
でも、「こんな悩み、実際に持ってる人はいっぱいいるよなぁ」と僕に考えさせてくれたあたり、笑美ルートを最初にやってよかったと思う。

「人は独りでは生きてはいけない」なんてものすごくありきたりに言われる言葉だけど、このルートは「独り立ちとは何でも一人でこなすことではない」というメッセージを投げかけているのかなと感じた。
何でも一人で解決できると思っている笑美が最終的に主人公を信頼し、支え合うようになる(決して依存でも傷のなめ合いでもない)シナリオは王道っぽいけどじんわり来た。
心の扉を開くために、まずは手ごろな身の上話から始めることを準備運動と表現するセンスが良すぎる。
誰も頼らないと決めている笑美が、実際には歩くことさえも義足の力を借りていることが皮肉であると同時に、結末の説得力を上げている。

作中終盤で語られて、真相はぼかされている「笑美は走ることが好きなのではなく、父親と走ることが好きだったのではないか?」という話。
僕は前者だと思う。後者だったら、父親のことを思い出す「走る」という行為そのものが嫌になるもんじゃないかという浅はかな考えだけど。
「走る」ことに関わる笑美は幸せな態度を示すし、「走れない」だけで過去思い詰めるぐらいなのだから。それはただの「逃げ」だという意見も分からんでもないけど。

余談だけど、このルートの主人公、心臓が強すぎる。
初めはこんなもんかと思っていたけど、他のルートで結構心臓病の発作が起きるあたりこっちが特殊っぽい。心臓病を克服するために笑美とトレーニングをする、という本筋なので当然っちゃ当然なのかもしれないけど。

とにかく、納得のいく終わり方であったしこのゲームの傾向を掴むことも出来たいいルートだったかな。人によっては心に刺さりやすそう。

静音ルート

一周目のAct.1はすーぐ突入条件を満たしてしまう笑美ルートに入ったけど、二周目からは順番を決めて狙ったルートに入るようにした。
どういう展開になるのか読めず面白そうだと思った静音ルートへ。

聾者(耳が全く聞こえない)であり手話で会話をする静音と、手話と口語の通訳をするミーシャ、そして主人公が織り成す3人の友情はそれだけで結構面白かった。様々なところで似たような話を見かけるけど、「ミーシャのセリフが、"静音の言葉を通訳したもの"なのか"ミーシャ本人の言葉"なのかが非常に分かりづらい」ことが、コミュニケーションにおける壁をゲームという媒体で十二分に表現していてすごく評価できる。

他ルートと同じく、静音の障碍における葛藤や悩みなどはほとんど描かれない。主人公が手話を習得するからコミュニケーション難も緩和されるし。
このルートの主軸、そして静音の内面の歪みについてはシナリオ終盤のこれらのセリフが分かりやすいと思う。

ミーシャ「しっちゃん(静音)って、人を思い通りにするくせがあるんだよ、ひっちゃん(主人公)。そうしたくてすることもあるし、そうでなくても自然とそうなっちゃうこともあるし~」
静音[何かが終わったって思ったとき、私は何もかも始めからやり直したいって思うの。成功したか失敗したかは関係ない。]
主人公「静音にとって、出来事は出来事でしかなく、重なり合うものはほとんどない。人生は成功と失敗と決断に分けられていて、それぞれが一つの物語として独立している。(中略) だから、その時々の他人の感情だけしか理解することができない。」

これはかなり初期から当然のように描写されていて、単なる「わがまま」だとか「強気な性格」で終わらせなかったことはありがたかった。静音が抱えるこの歪みが、リリー含め周囲との確執を生み出しているし、主人公が抱くある種の尊敬の念にもつながってるから。
グッドエンドで、この歪みが「ミーシャへの遠慮」から生じていたことが語られた。

静音[私が自分のために、ミーシャに私のことを話させようと思ったら、傲慢だと思われてしまう。メッセージは伝令役を通じてしか伝えられない。私はミーシャの隣にいて、自分のことを他の人に説明しろって命令してるのよ]

「他人の熱意や、興味があるものを知りたい」→「そのためには自分のことを伝えて信頼関係を築くことが近道」→「ミーシャを自分のために"使う"なんて傲慢」→「自分が何かを作りあげて興味を持ってもらうしかない」
という流れは語られるまで気づけなかったし、上手かったと思う。

このルートの公式テーマは、「あなたの考え、教えてくれる?」
一見他人の考えなんて気にしてなさそうな静音との対比、良いですね。聞かせてくれる?だったら満点なのだけど。

このルートは恋愛要素がかなり薄く、付き合い始めても全然イチャつかないし、会話内容は「リーダー論」や「人生の意義」みたいな話が多くてギャルゲー感は全然なかった。主人公の静音への感情も純粋な恋愛感情じゃなさそうな感じ。ルート導入ムービーが一番恋愛してたのでは?
それはそれで新鮮だったしいいのだけど、グッドエンドが「希望を胸に再開を誓い合い、学園を卒業する」エンドだったのはガチでキレた。再開するとこまで描いてくれ??幸せな光景を見せてくれ??
学園を卒業した後の関係性についてお互いが全く触れないので、二人の中では暗黙の了解のように別れることになってたのかなぁ。

次にミーシャの話。このルートはミーシャの掘り下げがかなり多く、実質的な静音&ミーシャルートだったと言える。
ミーシャは攻略対象ではないと公式に書かれてるから僕は完全に油断してた。主人公とミーシャが結ばれるハッピーエンドはないという意味だったか…。
主人公を取り合う三角関係、とプレイヤーに思わせてからの静音を取り合う三角関係だった、はシンプルかつ精神ダメージ強かった。
主人公との会話中に静音の話題になると不意に間が開く、主人公が静音と恋仲になると髪を切るといった伏線が身を結んでた。ミーシャの髪型変更が、過去に静音に振られた後にもあったと語られるのもエグみある。

このルートの選択肢はたった一つで、「迫るミーシャ(この時点ではプレイヤーはミーシャ→主人公だと思っている)を受け入れるか、拒否するか」だけ。
受け入れたら、3人が疎遠になるバッドエンドなわけだけど、面白いと思ったのは「体の関係を持ったこと」自体はほぼ触れられないし、静音にバレるような展開もないということ。だけど結末は変わる。
主人公に迫る際に使った「慰めて」という表現や独白時のセリフ「わたしが死んじゃった方がいいんじゃないかな?」から、ミーシャの精神はギリギリのところで踏みとどまっていただけだったことが窺い知れる。最後の最後に特大の罪悪感の後押しを受けてバッドに繋がったんだろうなぁと。
ミーシャ独白時、自殺してしまいかねないような精神状態と判断した主人公が止めるけど、バッドだと口で止めるところをグッドだと思わず手を掴むという変化になるのが凄く良い。主人公が抱える罪悪感、そしてミーシャとの間に引いた一線の表現と、そうならなかったグッドの対比が美しい。

ミーシャの抱える障碍については意図的にぼかされていて推測するしかないけど、難聴・ADHD・OCD説などがあるらしい。僕は一番ADHDがしっくりくると思う。
難聴説の根拠は「どんな状況でも大声」「静音に出会う前から手話をある程度使えた」あたりだと思うけど、日常会話で特に困っている描写がないのがちょっと弱いかなという感じ。
あと、「障碍関係なくたまたま使えたおかげで静音と巡り合えた」と考える方が素晴らしいと思わないか?な?
学園に来る前は周りから嫌われていたという描写は、どの説でも成り立ちそうなので判断基準にはなりそうもないな。

ミーシャを語る上で最も重要なのは多分バッドルートの行為中のこれ。

「スカートの留め具を外してパンティを下ろそうとすると、弱々しい、形だけの抵抗が増えてくる。それはただの儀式でしかない。
そういう儀式がミーシャにとっても大事なのだと気付く。だからミーシャは誰彼問わず必ずうれしそうにあいさつをするんだ、たとえ相手に会うのがうれしくないとしても。」

この文章がミーシャの本質を表しているものだと思うんだけど、正直よく分かってない。見栄を張ること?他人との壁を必ず作ること?いまいちしっくりこない。本当の自分を見せないことが同性愛者or両性愛者であることと繋がってるのかな(これは妄想に近い気もする)。

すごく精神に来るルートだった。ミーシャルートが欲しくなるくらい。でも攻略できるミーシャはもうミーシャじゃないんだよな。
静音周りは正直好み別れるだろうな。僕は好きです。グッドエンドで再会してくれれば文句なかったんだけど。
ヒロインが実質二人いて心情を読み取るための描写が多いので、より小説ぽかった気がする。このルートを読み終えたあたりで感想記事を書くことを考え始めた。

リリールート

実は静音ルートを探してる間にいつのまにか琳ルートに入ってしまうという事件が発生していたのだけど、琳ルートは明らかにレベルが高そう(シナリオ的な意味)だったので、最後にやろうと決めて琳ルート突入直前に掘り下げがあったリリールートを選択。すると何故か突然ラブロマンスが始まった。

シナリオは王道も王道だったと思うし、エロシーンの力の入れようもすごくてお色気担当といっても差し支えないレベル。でもそこはかとなく匂うロマンス。なんだろ、登場する舞台が広範囲なのと、引き裂かれる愛が本筋なシナリオだからだろうか。

リリーの障碍は「全盲」。全ヒロインの中で最も生活に支障をきたすと思うが、リリーは強く気丈に振舞っている。それが仮面の姿なのかと思いきや、ほんとに強い。なんかこのシナリオ、リリーのスコットランド移住の話が出てこなければ特に問題なく平穏な日常が続いてそうな気がするんだけど。
リリーの中の歪みがなかなか出てこない、いや、歪んでる必要はないんだけど。強いて言うなら「何でも自分で抱え込もうとする」ことかな?
本人は目のことを気にして欲しくなくて、必要以上に他人の手を借りることを拒んでいた、とか。描写が少ないので妄想に近いか。
でもグッドエンドラストシーンは、絶対に主人公が「ここにいて欲しい」と言ってくれるのを待ってたと思う。自覚していたかどうかは分からないけど、このセリフが出た瞬間からリリーはスコットランド行きなんて考えられなかっただろうな。

公式テーマは、「私が見ているもの、あなたにも見える?」
「見ること」にまつわる慣用句をやたらと主人公が意識してしまって、リリーに咎められるシーンがかなり多い。リリーと仲が深まった証として、顔を触らせる表現が良い。ここで、視覚の代わりに触覚でより深く知る、ということを提示していたからこそ行為中の体を触るシーンも活きる。
「隣人の声」の例えや、会話以外の事柄に対して一歩反応が遅れる描写など、学ぶことが多いな。

「私が自分の目が見えないことを謝ったことが一度だってある?生まれついたものはどうすることもできないの、久夫さん。自分のあり方を謝るなんて意味のないことよ」

頭では分かってることなんだけど、良いセリフ。

リリーと触れ合い、障碍そのものへの考え方と向き合う主人公。リリー自体がかなり人格者なので、主人公側にスポットが当たっているルート、とも言えるかもしれない。
あとなんかやたら主人公の心臓が弱い。主人公が自分の障碍と向き合うためのものか。

リリーのペアヒロインは華子なので、華子の掘り下げもある。なんならこのルートでかなりの成長を見せるのでifルートとしても見てもいいくらいか。
自分から積極的に他人に関わろうと奮起し変わっていく様子には煩悩バカップルもご満悦。

全く予想してなかったところからミーシャ掘り下げの剛速球が飛んできた。
一年前の髪が長かった時期は茶髪だったらしい。静音ルートをやってないと、「へぇ~」で終わりそうだけど、僕は失恋のくだりを知っていたから深い意味があるように見えた。ピンク髪に込められた気持ちは分からないけど。

終わり方がここまでで一番よかった。同じ大学に進学することが明言されたのが救いすぎる。THE・王道だったからこのゲームの初ルートはリリーがいいかもしれない。クライマックスシーンで発作を起こしながらリリーを追いかけるシーンのBGMがいいですね。明るい曲調なのがまた。
あとからルート導入ムービーを見返すと露骨に今後の展開が示されてて笑った。

華子ルート

泣いた。華子が火傷跡を見せるシーンがBGMとシナジー強すぎる。

琳を最後にしようと決めてたので残りの華子ルートをプレイ。

華子が抱えている障碍(と言っていいのかわからない)は半身火傷。唯一外見だけの障碍であり本来は日常生活の利便性の観点からは健常者と同じである。
にもかかわらず恐らく全ヒロインの中で最も障碍の影響を受けた人生を送っている皮肉。ああつれぇ。
ルートの流れはシンプルで、友達以上恋人未満の状態が長く続き、選択肢を間違えずに好感度を上げ切った後、今までの接し方を反省し対等な関係に拘ることで結ばれる。
他人に頼り切りになりたくないという点では笑美と似てる。その理由は別方向なんだけど。
これはプレイ中から既に違和感があったのだけど、他人を拒絶し怯え切ってるわりには華子がチョロい。華子は永遠に一人になりたいわけじゃない、壁を壊してきてくれる人を待っていた、という表現が合ってると思う。
公式テーマは「自分の恐れに向き合える?」
ここでいう「恐れ」は華子の「他人に拒絶される恐れ」「過去のトラウマ」だけでなく、主人公の「自分が普通ではないと烙印を押される恐れ」「華子を失ってしまう恐れ」あたりともかかってそうだなぁ。

華子の内面について書きたいことがほぼ書き終わってしまったので良かったシーンとか。
ビリヤードのシーン、主人公が岩魚子の話をした直後のイラスト差分、華子の顔つきが明らかに変化。嫉妬ビンビンですよ神。
主人公が傷を見せるシーン、まるで見とれるかのような華子の表情と描写が良い。傷を見せてくれるほど対等に扱ってくれていることの喜びと、主人公と共通点があることへの安堵の両方が伺える。最高。
華子が傷を見せるシーン、「私はただ......私を......見て欲しかったの。本当の私を」。泣いた。

終わり方も爽やか。まあ実質言ったも同然だからいいけど、華子側が「好き」だと言わなかったのは内気な性格だから、でいいのかな。

エロシーンで唐突に持参のゴムを取り出す主人公にめちゃくちゃ笑った。大事だけど、この展開で用意してる方がおかしくないか??
後からふと、一週間程度の旅行に行ってる間に親友二人がくっついてイチャつきだしてしまったリリーのことを考えるとまた笑った。

リリーといえば、このルートは起こる出来事がかなりリリールートと被っている。
主人公の好意がどちらに向いているかで同じイベントでもこんなにも様子が変わることが面白かった。リリールートはリリーがスコットランドから帰ってきてからが本番だけど、華子ルートはその間に全てが終わってるわけでかなりハイペース。リリー側がローすぎるだけかも。
こっちのルートのリリーは完全に母親。でも華子のことをよく理解していて、主人公との間にある、ある種の危うさまでも察知して助言のできる有能。これこの後移住の話が出てくるんだろうか。まあもしそうなってもカップル二人はもう大丈夫でしょ。

これまでで一番好きなルート。毎回似たようなことを言ってる気がするのは気のせい。他ルートと違い、始めからヒロインの内面の歪みが現れ始めているので心の準備をして読んだが、予想の数倍明るい気分になれた。

琳ルート

難解だった。攻略が、じゃなく、内容が。正直なところこのシナリオの内容の半分も理解できてないんじゃないかと思う。
このルートの感想はかなり的外れか、当たり障りのない内容しか書けない可能性もあるけど、なるべく推察を交えて書いていこうと思う。

琳が抱える障碍は両腕欠損だが、全ルートで最も障碍に触れられない。
足で絵を描くことに周囲の人間が驚く描写と、日常生活の些細な不便さが触れられる程度。
このルートで語られるのは、「芸術とは何か」「自己表現」「人は他者の本質を理解できるのか」「自己とは何か」「変化とは何か」といったもの。哲学書か?

ヒロインの琳は、発想や発言がめちゃくちゃで、コミュニケーション力に極端に欠けるキャラクターとして描かれる。というか、そう思わされるように描かれている。これは笑美ルートなどで見える様子でも一緒。
違和感を覚えたのはact.1で琳ルートが確定した後の生理のくだり。

琳「久夫......君がこんなこと聞きたいかどうかはわからないけど、関係ない、聞きたくなかったとしても君のせいだからね。
生理が来たからそれで手伝いが欲しいの。でも君と私は、まだトイレまでご一緒して下着を下ろしてもらうほどの仲じゃないと思うんだ。君が手伝うと言ってくれてもね」

驚くほどまともな思考と発言。この時点で琳がただ「変わっている」だけではないことに気づく。リリールートの項で触れたようにこの部分は早めに読んでいたので、これは手強そうだと感じ琳ルートを後回しにする原因となった。
琳は「考えを言葉にするのが苦手だ」と再三言う。だから自分は絵を描くのだと。「自己表現の手段」として、「描くこと」が「話すこと」の代替どころか上位互換になりうると信じている。それが自分にしか理解できない世界だと知らずに。琳にとって絵を描くことは呼吸することに等しく(たびたび出てくる「水中にいるようだ」という表現もかかっているんだと思う)、描かないと不安で、寂しくて、自分が孤独であるかのように感じている。
このルートでは芸術家が二人登場するが、両者とも琳のこれらの感情を理解しているとは言い難い。彼らの芸術への価値観は一貫して「芸術とは書き手・読み手によって解釈の姿が変わるもの」と描かれている(はず)。「芸術を通して人は完全に理解しあえる」と信じる琳と対称的なのだ。皮肉にもこの争点のみに絞ってもすでに理解しあえていないと言える。「琳は芸術家か」という話題も何度も出てくる。琳が絵を描く理由は、先述したように「これしか自己表現の手段がないから」。この点で作中で言われる「芸術家」とはかけ離れているように感じた。琳は自己表現ができれば何でもよかったんじゃないだろうか。

琳が抱えている歪みは自己表現だけでなく、「変化を極端に恐れている」ことも挙げられる。
公式テーマ「今を楽しんでる?」にもあるように、琳にとっては今この瞬間が全てであり、不変であることを望んでいる。主人公と出会い、自らの作品の展示会を開き、自己が別の人間へと変わっていくことを恐れている。まるで変わる前の自分が死ぬことと同義かのように。
この考え方は絵で自己表現をする手法で生きてきた弊害なんだと思う。「過去に書いた絵から当時の心情が読み取れる」というくだりがある。人は年をとるにつれて考えが変わるものだし、成長もしていく。「言葉」と違い「絵」というそのまま形が残るものに自己の内面を乗せている琳にとって、過去の絵は過去の自分そのものであり、それらの作品を並べることは、過去の自分達が語り掛けてくるに等しかったのではないか。琳の心は、目に見える過去作品達の違いと、折り合いがつかなかったのかもしれない。もう存在しない過去の自分が死んだように思えたのかもしれない。

他にも琳の発言は気になるところが結構あったのだけど、そこに意味が含まれているのかも分からない。左耳を触られるのを拒否したりとか。

グッドエンドは、絵が自己主張の手段として完璧ではないこと、そして人はお互いの全てを理解することはできないことを受け入れた琳が変わりゆく自分を自分だと認めるエンド。琳の精神的な成長がこのルートの本筋であり見どころかも。初見プレイでは「琳は絵を通して理解を求めているのでは?」と思って選んでいたら無事グッドに到達した。ちょっと選択肢多すぎるな...。

読んでる間はほんとに難解すぎて正直感情が追い付いてこなかったけど、興味深いルートだったと思う。こういった内容を専門に勉強してる人は、十二分に楽しめるんだろうな。

まとめ

いやあ面白かった。名作といわれるだけはあった。
シナリオの好みで言うと
華子>>リリー>静音≧笑美=琳 かなぁ。

このゲームの感想記事もっと増えてくれ。

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