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【No.3】変化する "医療" "保健" "福祉" ~生き方と未来を考える"進路note"~

1. 今では、信じられない“かつて”の話

■1964年東京オリンピックをきっかけとして環境が変化!

江戸東京博物館にて著者が撮影

高度経済成長時の日本…列車のトイレは垂れ流しでした。
当時は、列車で郊外から住宅密集地へ近づくと「トイレの使用はご遠慮下さい」とアナウンスされていました。また、ゴミは道路にポイポイ捨てられ、痰はそのへんに「ペッぺ」とはかれていた時代でした。

そして、「東京オリンピック」をきっかけに、海外からお客さんを迎え入れるために、『きれいな街にしよう!』と動きはじまりました。ゴミはゴミ箱へ、痰は痰壺にと…変化しました。

現代を過ごすみなさんが聞いたら、信じられないような「衛生状態」です。しかし、時代の流れとともに衛生環境にも変化がうまれました。(「環境被害の歴史」は、また別の機会で!)そして、衛生環境の変化によって人々の健康水準も上がったこともまた事実です。

右下が痰壺



2. ”健康水準”が向上した背景

■日本人が長生きできるようになったワケ

日本人の平均寿命は以下の通りになっています。
・ 男性81.47 年
・ 女性87.57 年 (参考:簡易生命表)

かつては1900年代半ばくらいまで「結核」によって亡くなる人が多い状況でした。しかし、1900年代半ばくらいから、日本人の「平均寿命」は伸びてきました。今では男性・女性ともに世界のトップ3に入る状況です。その背景には、以下の点があげられます。

日本人の”健康水準”が向上した背景
・社会経済の発展によって栄養状態や生活環境の衛生状態の改善
・科学技術の発展にともなう保健・医療サービスの高度化と普及

現在では、「がん」・「心臓病」・「脳卒中」で亡くなる人が5割以上です。これらの病気の発病や進行は、生活習慣が大きく関わっているといわれています。

~AIDS(後天性免疫不全症候群)治療の変化~
1981年に最初の患者が発見されて以来、世界中に広がったHIV(ヒト免疫不全ウイルス)を病原体とする感染症です。HIVは人間の免疫を低下させ、 肺炎やがんなど、さまざまな重大な病気を引き起こします。
かつては、不治の病というイメージがありましたが、現在では様々な治療薬が開発され、適切な治療によって症状をコントロールしながら普通の生活を送ることができるようになっています。



3. 医療における科学技術の現在

■医療分野の画像診断

レントゲン・エコー(超音波)・MRIなど画像診断の分野においては、「AI」の実用化が最も早いと考えられています。医師は、各種検査(レントゲン、CT、血液検査等)を、知識や長年の診療経験を基に病気を特定していきますが、「AI」は、即座に膨大な量の過去の病歴や世代間別の健康データを解析することができます。すでに、世界でもX線写真やCT、MRI、超音波画像など画像診断技術の精度は、ひとりの医師が診察できる患者の数に限界がある人間の能力を超えています。これまで医師が長年の経験をもとに診断をしていましたが、患者の画像から「AI」が瞬時に自動判別できる診断が可能になっています。 ICU患者を常時モニタリングしてわずかな変化をセンサー技術が察知することで、症状の変化や悪化を予測し、重篤化する前に対処することも可能になっています。

■これから「医師」・「検査技師」・「看護師」の役割も"変化"してくる

このように、「AI」技術は人間の情報処理機能の限界をはるかに超えているので、医師の見立てより診断の「有効性・妥当性」が高くなることが想像できます。医療向けAIの研究開発も急激に進んでおり、将来的には、AIを駆使した医師や医療者が、世界中の患者の診断や手術、ケアを遠隔操作でロボットを介して行われる時代も到来することでしょう。今後は、「AI」の解析による「病気の早期発見」や「最適な治療の選択」が行われ、「医師」が診断を行うことにが予測されます。


■ 手術支援ロボット

手術ロボットは、日本でも急速に普及が進んでいますが、導入機種のほとんどは「ダ・ヴィンチ」といわれています。全世界で4500台以上納入されたうちの約300台が日本の病院に設置されています。(アメリカに次ぐ第2位)

~ ロボット手術「メリット・デメリット」~
患者にとっては、傷が小さい・出血量が少ない・手術時間が短く・術後の回復が早い等のメリット、費用が高い・緊急対応が難しい等のデメリットがあげられます。病院や医師にとっては、視野がとても広くなる(従来に比べ約10~40倍)・機器の自由度が高く、人間には不可能な角度に機器を曲げての執刀が可能・縫合がどんな深く狭いところでも容易になる等のメリット、機器の維持コストが非常に高い・直接執刀するわけではないので感触がない等のデメリットがあげられます。(参考:神戸市立医療センター中央市民病院「ロボット手術センター」より)

しかし、ロボット支援手術への健康保険の適用は、2012年から前立腺がん、2016年から腎臓がん、2018年4月、肺がん、食道がん、胃がん、直腸がん、ぼうこうがん、子宮体がん、心臓病(心臓弁膜症)手術など12種類が認められ適用範囲は大きく拡大しました。保険適用後、約3倍に増えたといいます。


~最新の医療科学技術~
予防接種、抗生物質、レントゲン等…様々な進展をとげてきた医療。現在、最新の医療技術はここまで進んでいます!
重粒子線で、手術せずにがん治療(放射線治療のひとつで、エックス線やガンマ線に比べて、がん細胞の殺傷能力が高く、照射回数も少ない)
血流解析ツールで予測医療(手遅れや過剰治療の防止)
IPS細胞で網膜移植   など…



4.長寿命化~これからの未来どうなる?~

■超高齢社会の到来!

今後、医療のさらなる発展すると、高齢者の健康水準も上がります。そうなると…今後さらに高齢社会が進み、高齢者1人を支える非高齢者の人数は今後ますます増えてくると予測されています。


■健康を支える社会システムも変化?

日本人が世界の中でも長生きできる国になったのは、国民皆保険制度(国民健康保険料(税))という「誰もが必要な時に負担を少なく医療を受けることができる」この社会的な支援制度のおかげもあるかもしれません。

しかし、余談になりますが…この制度は「終身雇用、年功序列」という人々の働く環境(以下の3つが大前提)が整っていることが前提です。

・ピラミッド型の人口構成(生産年齢人口が十分存在する)
・右肩上がりの経済成長(国民所得と税収が増え続ける)
・病気になる人の少なさ(総医療費の適正)

少子高齢化が進み「高齢者(比較すると…病気になる可能性が高い)」が増え、「生産年齢人口」が減り、社会の税収は増えない状況です。そのあげく働いてもは働いても個人の負担が上がる状況になります。「国民皆保険制度」の見直すことも含め、社会における「保健・医療分野」が担う役割も変化は必要ではないでしょうか。

社会保障費は、2000年から10年間で急増し、2010年以降なだらかに上がり、2018年横ばいが続いている状態です。2025年以降再び増加に転じると予測されています。


■社会保障費このままで大丈夫なの?

高齢社会なので、もちろん病気になりやすい高齢者に治療費の負担を少なくするべきだと考えますが、社会のお金が現在のように使用していたらそもそもお金が足りないのが現状です。

2018年の状況と2025年、2040年の変化の予測

厚生労働省資料より作成


■ 社会保障費の内訳

社会保障費(「年金」・「医療」・「介護」・「子ども子育て」)の割合は、「年金」「医療」が大きく占めています。さらに、「医療費」・「介護費」は、全人口の約13%を占める75歳以上の高齢者に使用しています(医療費:約3分の1、介護費:9割)。「医療」「介護」の2つのコストを抑えることが現実的な対応でしょう。

~年齢階級別国民医療費(R2年度)より~
▽年齢階級別
65歳未満:38.5%  -  65歳以上:61.5

▼ 医科診療医療費
65歳未満:35.8%  -  65歳以上:64.2
歯科診療医療費
65歳未満:60.6%  -  65歳以上:39.4
薬局調剤医療費
65歳未満:41.6%  -  65歳以上:58.4
(厚生労働省)


■  「重複服薬」の見直し(節薬をする)
医療費の内訳をみると、「調剤」の割合が約18%を占めています。
(厚生労働省「平成29年度医療費の動向~概算医療費の年度集計結果~」)


~「重複服薬」の影響~
複数の医療機関を受診し、同じ効能の薬を複数処方されると…薬剤と医療費の過剰使用となる。
体の不調を招くことがあり、薬が増えるほど副作用のリスクが高まる。
・国保財政・医療保険財政、等の医療費負担が大きくなる。

◇「お薬手帳」や「かかりつけ薬局」の役割
重複服薬を防ぐために、「お薬手帳」や「かかりつけ薬局」が重要な役割を担っていることでしょう。しかし、重要な役割を担っているものの現在ではあまり重要視されていません。現時点でどこまで効果があって、機能しているかはわかりませんが、今後、マイナンバー保険証等のデジタル化が進むことによって効果が上がることを期待しています。

また、個人にとっても「ジェネリック医薬品」の使用は、医療費の節約を行うことも可能でしょう。


■ 超高齢社会における「保健・医療・福祉」の役割

・最先端医療の発展や進化するがん治療や検診で高寿命化が起こる
健康寿命やQOLを伸ばすため医療・保健分野の役割に変化
・「病」が対処療法から『予防やケア』に向かう

~「長生き=幸せ」なのか?~
健康の定義(WHO):肉体的・精神的・社会的、いずれの面において良好な状態であること(単に、肉体的な病気がない、弱っていない、ということではない。)
健康寿命(2000,WHO):健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間(平均寿命から寝たきりや認知症など介護状態の期間を差し引いた期間)



■対症療法から予防・ケア医療へシフト

世界の流れは、病院に行って薬を投与する流れの「治療」だけでなく、「予防」・「ケア」も含めた包括的な対応へ変化しています。

▼    病気の予防~3つの段階~
一次予防:生活習慣の改善や予防接種などで「未然に防ぐ」。
二次予防:「定期検査」や「検診」を受け、早期発見・早期治療をする。
三次予防:適切に治療し、「悪化や再発を防止」する。
ちなみに、アメリカでは検診を受けると保険料が安くなるそうです。
→【予防について】詳しくは後日別の記事にて掲載予定!


■ テクノロジーの積極的活用(例)

前述した医療へのテクノロジーの活用はもちろんのこと、福祉分野におけるテクノロジーの活用もますます重要になってくると考えられます。介護の仕事そのものを自動化することはなかなか難しいが、以下のようなテクノロジーの積極的に活用する例は今後の未来を考えるヒントにつながるのではないかと思います。

▼  介護ロボット

©️理化学研究所が開発した介護用ロボット「ROBER」


遠隔操作と自動運転を可能とした車椅子

©️Digital Nature Group「Telewheelchair」

 

▼ 介護者の身体的負担を軽減する装着用スーツ

©️株式会社イノフィスのアシストスーツ


▼ 現段階では…実用化が叶わなかった「全自動洗濯物たたみ機」

Laundroid(ランドロイド)©️セブンドリーマーズ

セブンドリーマーズは、全自動洗濯物たたみ機の運用を試みたが、現段階で、ユニクロ・エアリズムのようなものをたたむことが難しく実用化できていない。しかし、社会に出回っていなくとも…このような試行錯誤が後に社会のためにつながるものであり、このような発想チャレンジ自体がとても評価されるものであろう。


◼️ さいごに…

視野を広げよう!
~これからの「保健・医療・福祉」分野の”しごと”の変化~

「医療に関わる仕事=医師・看護師」という観点からさらに視野を広げてみてはいかがでしょうか?


■ こんな ”しごと” 産まれるかも…

例えば
★ 診断用の画像ツールの”製作”
★ 介護・ケアロボットによる補助的役割
★ 予防に携わる”技師”
★ 利用者に合った対応ができる薬剤師
★ QOL向上の”サービス業”
★ AIを使用できる医師・看護師

など…

幅広い視点で考えるとこれからの「保健・医療・福祉の”しごと”」もますます興味深いものになります!



【※引用文献-参考文献】

『池上彰の「経済学」講義』(池上彰/著、KADOKAWA)
『日本進化論』(落合陽一/著、SB新書)
『あなたの仕事は「誰を」幸せにするか?(北原茂実、ダイヤモンド社)
『2040年の未来予測』(成毛眞/著、日経BP)
『120歳まで生きたいので最先端医療を取材してみた』(堀江貴文、祥伝社新書)
『むだ死にしない技術』(堀江貴文、マガジンハウス)
『現代高等保健体育』(和唐正勝、高橋建夫ほか31名、株式会社大修館書店)

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