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【小説練習】彼女との別れ

テーマ:理想的な彼女の像を描く
場面設定:リアリティを求めるために彼女との別れるべきか
書き手:芸術家
※この話はフィクションです。

僕には大好きな彼女がいる。
彼女の虚で悲しそうな目が好きだ。
その目には僕が写っていない。
どこか別の世界を見ているような浮世離れした視線で虚空を見つめている。

僕は彼女にカリスマ的幻想を抱いているのかもしれない。
自分には理解できない悲しみや人生経験を彼女はしてきたのだろう。
それは本当は彼女が臆病だからなのかもしれないが、僕にはそれが優しすぎるが故に自分が傷ついているようにしか見えない。
彼女は他人のことを自分のように感じて悲しみ、フィクションでさえ現実世界のことのように感じる。

彼女が『メンヘラ』なのかと言われればそうではないと断言できる。
自分はメンヘラが嫌いだ。
自分の心の傷がどこについているのか?何でつけられたのか?どのような形なのか?どの程度の深さなのか?
それがわからずに、ふとした時に傷口が痛むと「痛い痛い」と泣き叫ぶ。
そんな生き方が自分の思う美しさと対極にある。

人の美しさとは「自分の傷の場所/原因/形状/深さを認識しそれを他人に絶対に見られたくない姿勢から身じみ出る孤高さ」である。

彼女は時々、過去の傷の話をしてくれる。
パートナーである僕を気遣ってか深い話はしてくれない。
しかし、優しさと若さからくる安直さゆえ傷を負った話が多い。
・束縛の激しい彼女を持つ友人と付き合ってしまった話。
・好きでもない彼氏との性行為の時の話
これだけを聞くと、どこにでもいる控えめな女性かもしれない。
しかし、これは彼女の経験した客観的な事実でしかない。
彼女が決して語らない心の叫びが体から滲み出て、他人を寄せ付けない虚で孤高な雰囲気を作っているのだろう。

彼女は僕の性癖だ。
自分が決して譲れない、言い換えればそれを否定すれば自分のこれからの生き方やこれからの人生すら否定される気がして否定しきれない鬱くしさを彼女は持っている。
ある意味で彼女を崇拝しているのだろう。

彼女に近づきたい。
彼女と同じ深さまで潜りたい。
彼女と同じように空高く舞い上がりたい。
そして、掘っても掘ってもそこが見えない彼女の心の底を見てみたい。

そう思う一方でいつまでも僕のカリスマでいてほしい。

そんなダブルバインドに僕は縛られている。

制作活動をするなか、ある自分の欲求に気づいた。

彼女と別れたいのかもしれない

彼女のことでいつも胸がいっぱいだ。
ことあるごとに過去の思い出を反芻している。
「今彼女は何をしているのか」
このように考えないのは、彼女の底を見るのが怖いのだろう。
過去はいつまでも色褪せず追憶するごとに美化されている。
彼女との思い出が僕のカリスマなのかもしれない。
今の彼女は幻想に追われふらふらと彷徨う僕を引き留め本物は隣にいることを教えてくれる。
逆に僕が彼女の傷を見直す鏡となっていることもあるだろう。
一緒に歩んでくれる、それが今の彼女だ。

では、今の彼女の元を離れ完全に思い出にしてしまえば、僕はもっと深いところまでおり、ふわふわと高く舞い上がれるのだろうか?

思い出を美化しているとは言ったが、ふと横を見れば虚な目で海や空を眺める彼女がいる。
今の彼女も間違いなく僕のカリスマなのである。

彼女に近づきたい。
そのためにある意味枷となっている今の彼女と別れを告げるべきなのだろうか?

今一緒にいることもできる。
しかし離れることでもっと近くにいれるのかもしれない。

いつか彼女に「別れよう」と言ってしまいそうな怪物が自分の中にいるような気がして怖くなってしまった。



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