さよならと言う

子どもは保育園に通っている。
通っている保育園は、いいところだと思う。
先生方は優しく、給食は極端な偏食の子どももおいしいと喜び、園庭はないが毎日お散歩に連れて行ってたくさん遊ばせてもらっている。
散歩に行けない天候の日でも、絵本や紙芝居を読んでもらって楽しそう。

でも、保育園で、「男の子はカッコイイ」「女の子はかわいい」を覚えてきたなあ、と感じる。
父である夫には「お父さんは青とか、カッコイイ色のコップを使って」、母である私には「お母さんは、かわいいピンクとか紫使って」と言う。
子ども自身、与えられたものに違和感はなく、むしろとても好き、気に入った、と感じているようだ。

男の子でもピンクやプリンセスが好きでもいいし、女の子が青や仮面ライダーを好きでも全然いい。
そう思っているのは本心だけど、しかし、別に男の子が仮面ライダーを好きでも、女の子がプリンセスを好きでも、それもそれで間違いなわけはない。

でも、どこまで自然に、好きになったんだろう。
どのくらい、与えられたものの影響って大きいのだろう。
そのへんは、正直よくわからずにいる。

20代のときに働いていた会社での話。
2011年の東日本大震災の時点で東京在住だったので、自粛・節電ムードの中で、通っていた美容室に行けなくなった。
カットの練習で無料で切ってもらっていたのだけど、美容師さんから「しばらく、夜残って練習できないことになったので…」と連絡があった。
私はその頃、契約社員で日給制で、ワーキングプアという状態にあった。
なので、「切ってもらえないなら、しばらく伸ばそう…」と思った。
それまでは、ショートカットやボブを続けていた。
髪を伸ばして(というか、ただただ伸びて)、邪魔になってきたので結ぶようになった。
すると、社員の若い男性から言われた。
「もちださん、髪伸ばしてるんですか?そっちの方がいいですよー」
褒められたんだと思う。
彼は褒めたつもりだと思う。
でも、ものすごく嫌だった。
「どうして伸ばし始めたんですか?」
と聞いてきたので、当時ちょっと気になっていた漫画『臨死!!江古田ちゃん』のタイトルを挙げて、
「OLはコスプレだって聞いたから、そうかと思って」
とよくわからない答えをしたら、彼はふーん…と微妙な顔をしていた。
別に伸ばしたくもないのに伸ばして、仕方なく小綺麗に見えるようにシュシュをつけるなどしていた。
それは私の好きなファッションというわけではなかったけど、「そっちの方がいい」と言われるならコスプレ成功ではあったんだろう。

その後、別の人から、
「ねえ、もちださん、結婚するの?髪伸ばしてるから結婚するんだろうねって噂されてるよ」
と言われて、めちゃくちゃ気持ち悪くて腹立たしかったので即ショートカットに戻した。
たかが髪伸ばしたくらいで「結婚か?」とか馬鹿みたいだし、噂してねぇで本人に聞いてこいよ、否定してやるから、と思った。
当時すでに今の夫と付き合って同棲もしていたが、結婚のことを周りが勝手に想像して陰で言ってるなんて、たえがたかった。

そういう「女らしい」の決めつけ、「結婚するときは髪を伸ばす」の決めつけが、本当に嫌だった。
私は実際の結婚式のときも、ボブでした。

いまの会社で、たいして親しくもない男性社員から、
「…今日のもちださんの服装いいね。いつもの感じはあんまり好みじゃないなって思ってたけど、そのワンピースいいよ」
と褒められた(?)こともあった。
褒められたというか、一方的な批評である。
「あっそうですかー」
とヘラヘラして終わらせたけど、ずっと心にモヤモヤが残っている。
その人は、退職する女性社員への寄せ書きにも、
「そろそろ短いスカートはやめたほうがいいよ、年齢的に」
などと書くような人なので、どんな女性に対しても自分がジャッジできる立場にあると勘違いしてる類の人なんだと思う。
別におまえに褒められるために服着てねえよ。

若かった頃は、嫌だなと思う気持ちがあっても、
「若い女の子」枠におさまってる方が便利な面もあって(とはいえ、なめられることでツライことも多々あるが)、求められる「若い女の子」に寄せていたところがあった、と思う。
今は30代後半になり、会社には私より若い人がたくさんいる。
結婚して子どもも生まれて、「若い女の子」枠ではなく「お母さん」「おばちゃん」枠になったなぁ、と感じる。
周りからの見られ方が。

で、これがどうも、楽だな…と感じている。
「若い女の子」枠のときに可愛がってもらった人の中にも、本当に優しくて、思いやりがあって、私を見下さないで尊重して接してくれる素敵な人は、もちろんいた。男女問わずいた。はっきり顔も名前も覚えてる。
「おばちゃん」枠になったからと言って、雰囲気的な貫禄もついてないし、相変わらずとてもなめられている…とも思う。
おばちゃんも女だから、男尊女卑の思考の前では、やはり下に見られるものなんだな、と。
それでも、若い頃よりは、楽だ。

30代前半の女性が、
「えっ、私もまだ若手ですよー」
と、20代後半の人と一緒くたにされたがっている場面に出くわしたことがあった。
その気持ちもわかる。
でも、もちろん若いんだけど、30代前半って数年前の自分と同じだなと思うと。
いっそ、こっちに来ちゃうと楽なんだよ、とこっそり思う。

前の会社で私をノイローゼ気味に陥らせた強烈キャラの女性社員は、60代で、当時の私よりすこし年上の娘さんがいると話していた。
のだが、なぜか女としてめちゃくちゃ私に張り合おうとしてくるので、本当に疲れてしまった。
なにかといえば私のことをディスってきていた。
ほかの若い女性契約社員に対しても同じ態度だった。
仕事面も、口うるさいのに自分は動かないスタイルなので、めちゃくちゃ嫌われていた。

ああいう生き方はしんどいなぁ、と、いま思い出しても、反面教師にしたい人No. 1だ。
同じ土俵で若者と争おうとしない。
若者にしてあげられることを考える、気持ちの温かい年配者になりたい。

これからも好きな服を着たいし好きな髪型にしたい。
オシャレをしないで生きたいという宣言でもない(まあ普段から休みの日はすっぴんで行動することが多いし、オシャレ好きとは言えないけど)。

でも、
・どうでもいい人から素敵と思われても仕方ない。
・女らしさを他人から押し付けられる筋合いはない。
という点は心に留めて、生きていこうと思う。

子どもにも、好きなものを好きで構わないけど、他人にも自分にも『らしさ』を当て嵌めるのはやめようね、と話していきたい。
そんな『らしさ』には、さよならと言う。

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