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月の下であいましょう

これは遠い昔のある女性のお話。

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読書好きでドラマや映画も好き。
話し上手に聞き上手、社交的で言葉選びも巧み、なんといっても知的でした。
ワインの飲みっぷりの良さもあって幸せそうな人だなと思っていました。
そんな彼女も悩みの一つや二つはあったりして、愚痴の聞き役をしていました。

「しなやか」で「したたか」

そんな言葉が似合う彼女。
週末の夜になると電話がかかってきます。

「行こ!」

イイことがあったり、イヤなことがあるとよく掛かってきた電話。
聞き役とは言え、会える楽しみがあったことは否定できなかったあの頃。
待ってました!と言わんばかりに車を出し、ラジオから流れる心地よい音楽に身をひたす。窓を開け、風に髪がなびく姿は、どこかで見たことのあるような景色。
何度その景色を見て、素敵だなと思ったことか。

ドキワクな夜はいつもそうやって幕を開ける。

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幾度となく繰り出した夜のドライブ。
行き先は風の吹くまま気の向くまま。
地図なし、ナビなし、夜の街を走り抜け、山を海を何度も超えた。

時間の経過とともにLift Upされるココロの揺らぎはまさにGroove Train。

夜が明けるまで走り続け、昇り始める太陽を拝む。
降り出した雪に感動し、夜の雪山に埋もれる。
ココドコ?イマドコ?な迷子状態を何度経験したただろう。

「行き当たりばったりだから楽しいんじゃない?」

その思いは二人の暗黙の了解だったのかもしれません。

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ある晩、いつものように夜のドライブへ。
夜空にはお月さまが出ていました。
まんまるい月の記憶があるので、満月だったのかもしれません。
彼女が何気に呟きました。


「月の下で会いましょう」

私は無知でした。
その言葉が何を意味するのか考えることもないまま長い間、その言葉は記憶の底へと沈んでいました。

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あれから十余年。
夜空を見上げると美しいお月さまが昇っています。

あの時の言葉が思い起こされます。

月の下で会いましょうと呟いた貴女はこの月を眺めているんだろうか、と。
私たちは今でも月の下で逢ってるんだろうか、と。


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