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春になれば



"春になれば もう
 つまらないウソを
 吹き飛ばすんだろ?

 春になったら もう
 不甲斐ない自分自身を
 追い越すんだろ?"


 中村一義
 [春になれば]




初めて入社した日の事を
今でも鮮明に覚えている。

高卒で入社した会社は秋葉原で
千代田線と山手線で行こうとしたが
混んでそうなので日比谷線で行った。

入社式なので親に高島屋で
作って貰ったスーツで出勤。

スーツと言っても現代のような
小洒落たスリムな感じではない。

[ふぞろいの林檎たち]で
柳沢慎吾が着てたような
"背広"に近いニュアンスだ。



千代田線から日比谷線に乗り換える為
北千住駅の構内の人混みを歩いていると
[これで俺も社会の犬になるのか…]と
本気で逃げ出したくなった。

やっと乗車した日比谷線は激混みで
吊り革に掴まっていると前の席に座っていた
OLさんが明らかに自分を見て笑った。

きっと着こなせてない明らかに
[今日から社会人です(๑❛ᴗ❛๑)ノ]的な
風貌が可笑しかったのだろう。


なんとか会社に到着すると
誰も居ない( ̄▽ ̄= ̄▽ ̄)

恐る恐る階段を登ると2Fは倉庫。

更に3Fに上がると
ショールームで話し声が聞こえる。

先ほどの北千住駅に続いて
本気で逃げ出したくなったが
意を決して入ると同期含め全社員で
朝礼中だった(O.O;)(oo;)

後から先輩に聞いた話だと
[スーツは着てるが寝癖頭で
明らかに堅気に見えない目付きの悪い男]が
重役並みに遅刻して来てザワついたらしい。

9時出社だからといって
9時に到着してはダメという
社会のルールを初めて知った。


商品管理の担当だったので
翌日からは私服でOKという指示。

(母ちゃんゴメン。
 高い背広だったけど
 初日しか着ないらしいよ)

と思いつつ狂喜乱舞した( ノ^ω^)ノ


同期入社は
自分の他に男3人。女2人だった。

なぜか翌日から男だけで
秋葉原の駅で待ち合わせて
出勤しよういう話になった。

ダルっ。学生かよ!と思いつつ翌朝
私服で待ち合わせ場所へ到着。

すると恐ろし光景が待っていた。

自分以外の3人全員
上下ストーンウォッシュのデニムだった。

ダセエ。。
糞ダセエですよ!(/´△`\)!!!

動揺するココロの中で
[光GENJIかよ!]とツッコミを入れるも
奴らはキメ顔で待っている。
( • ̀ω•́ )✧( • ̀ω•́ )✧( • ̀ω•́ )✧

おい。やめろ。コッチ見んな。



ブルーハーツのTシャツに
黒ジャケ黒スリム+ラバーソールだった自分は
こんなこと言っちゃイケナイんだけどね

【こんな奴らと歩きたくないっ】


と思い待ち合わせグループからは脱退し
翌朝からは1人で出社した。


1人でテクテク歩いていると
レピッシュ好きの先輩ぽっちゃり女子
岩村さんが靴を誉めてくれたのが救いだった。

岩村さん。お元気ですか。

実は
ちょっとだけ好きでした。

つまらないウソじゃないです。

今じゃ不甲斐ない
社会の老犬になってしまいました。
ワンワン。

春になれば
あの初々しくも恥ずかしい
新人時代を思い出す。



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