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バンドやろうぜ



1つ目の名も無きバンドを解散した後
ボーカルの奴と直ちに新しいバンド結成に
向けて動き出した。

今度は楽器店や雑誌には頼らない。
お互い人脈は少ないが知り合いや経験者を
人づてに探そうという事になった。

メンバーは幸い奇跡的に早く見つかった。

ベースは自分が働いていた
会社の先輩の佐藤さん。

隅田川の花火大会に
会社の皆んなで行こうと提案するも
誰からも賛同されず1人淋しそうな
顔をしていたので自分が同行して
帰りに飲み屋で口説いた。

ドラムの田部井くんは同じく
自分が働いていた会社の経理の女の子の
友達のお兄ちゃんの友達という
文字にすると逆に混乱する人脈の人だった。

あれ?ボーカルの奴
全く仕事してないじゃないか( ̄▽ ̄= ̄▽ ̄)

これまた近所の文房具屋さんで
楽譜を大量にコピーして課題曲のテープと
一緒に配り個人練習を経てスタジオに入った。

今度のドラムは違う!
まともに8ビートが叩ける!
ボーカルの奴と肩を叩き合った。

ベースの佐藤さんは
飛ぶ練習ばかりしたがるので
飛ぶのは弾けるようになってから!
と何度も教育的指導をした。

練習していたのは以下のバンドの曲だった。

THE MODS
ARB
THE ROLLING STONES
LITTLE RICHARD
SEX PISTOLS

こう並べると節操が無いように見えるが
速いロックンロールを演りたかったのだと思う。

だから後でルースターズを知った時は
これが演りたかったんだよ。と本気で悔やんだ。

LITTLE RICHARDの
[SLIPPIN' AND SLIDIN']は
スライダーズでハリーがカバーしてたのを見て
ズッキュンきて自分の持ち歌にさせて貰った。




半年ほどスタジオで練習した頃
記録用に録音したテープも何とか
聴けるレベルになってきた。

そして初めてLIVEを演ってみよう
という話になった。

蘭丸が"悪夢のようなバンドブーム"と評した
そのブーム真っ只中の頃だった。

1989年8月18日。
富士急ハイランド・コニファーフォレストで
『THE ROCK KIDS ’89』という夢のような
イベントが開催された。

出演は
エレファントカシマシ
SHOW-YA
ティアドロップス
THE STREET SLIDERS
THE MODS

宮本が客の野次に対して
[うるせえな。バカ野郎。]と啖呵を切った
あのLIVEだ。



自分とボーカルの奴は
チケットを購入していたにも関わらず
そのLIVEには行かなかった。

その変わり自分の父親の故郷
宮崎へ旅行する事に決まった。

もしタイムスリップ出来るなら
1989年の夏に飛んで自分の胸ぐらを掴み
断固イベントに行くべきだと説得するが
何しろ2人ともバカだった。

空港で白いスカイラインをレンタカーで借り
入手したてのレゲエのテープを流しながら
婆ちゃん家を目指した。

空はどこまでも高く
道端に連なるヤシの木が
全ての不安を忘れさせてくれた。

翌朝の婆ちゃんが出してくれた朝食時。

そろそろバンド名を
ちゃんと決めようという話になった。

それまで何個か候補を出し合ったが
格好つけてる感じで中々決まらなかった。

ボーカルの奴が不意に
[梅ぼしって英語で何て言うのかな?]
と言った。

は?…知らんし。

[ザルツ・チェリーかな?]

んな訳ねえだろ。バカ。

2人で大笑いした後
結局その言葉がバンド名に決まった。

正しくはSalted plumらしい。
あの頃の僕らは調べるという知識すら無かった。

SALTだと字面のアタック感が弱いので
ZALTにした。どこまでもバカだった。


ある時。ベースの佐藤さんが
[今日から俺の事をティファニーと呼んでくれ]
と言い出した。

な、なんで?( ̄▽ ̄;)
理由を尋ねると

[俺もスライダーズみたいに
"あだ名"が欲しいんだ( ̄ー ̄)]

お、おぅ。
深く追及しなかったが

ティファニーというブランドが
特別好きとかいう理由ではなく
前日たまたま見た"ティファニーで朝食を"
という映画が凄く良かったからだそうだ。

目まいがしそうな話だが実話だ。

バンドのファッションセンスは
全員バラバラだった。

ボーカルはMODSの森ヤン風。

自分は偽スライダーズ風。

ティファニーはストーンズのロンTに
モヘアセーターで髪型はリーゼント。

全ての主張がミクスチャーロック風に
凝縮されたミステリアスな服装だ。

黙っていればジェームス・ディーン似なのに
気を抜くとウッチャンナンチャンの南原になる。

田部井くんはシド・ヴィシャスのロンT。
顔は近鉄バッファローズに居た阿波野という
投手にソックリだった。たまに練習日を忘れる
天然くんだった。




おかしなバンド名の活動は2年ほど続き
亀戸や浦和で何回かLIVEを演った。

カバー曲ばかりでオリジナルを作る前に
解散してしまった。

解散の原因はボーカルの脱退だった。

理由は彼女が出来て
お付き合いに専念したいからとの事。

え?そんな理由?!!(゜ロ゜ノ)ノ

あなたもそう思っただろう。

でも燃える恋をジャマしてはいけない。
去る者は追わない主義だ。

残った3人のメンバーで
何回かスタジオに入ったが
ギターを弾きながら全曲歌うのは難しく
自分はベンジーになれなかった。

ドラムの田部井くんとは
音信不通になってしまったけど
他の2人とは今でも交流が続いている。

ボーカルの奴とは
先日のスライダーズ武道館にも2人で行った。

ティファニーは毎朝10キロ走って
最近ピアノを始めたらしい。
どこまでもミステリアスな男だ。



運転中に眠気が襲ってきた時。
睡眠打破の為に昔の音源を聴く事がある。

超絶に恥ずかしく荒削りな歌と演奏が
睡魔を吹き飛ばしてくれるのだ。




バンドってね。
力量の意味じゃなくて組んでる時は
物凄い無敵感があるんだよ。

あんな感覚を
いつかまた味わってみたい。



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