村上比喩

影についての比喩

まず、横顔が浮かび上がってくる。これはたぶん僕と直子がいつも並んで歩いていたせいだろう。だから僕が最初に思い出すのはいつも彼女の横顔なのだ。それから彼女は僕のほうを向き、にっこりと笑い、少し首を傾げ、話しかけ、僕の目を覗き込む。まるで済んだ泉の底をちらりとよぎる小さな魚の影を探し求めるみたいに。(森。

「でも、殺したんだよ、この手で。殺意なんてなかった。僕は自分の影を殺すみたいに彼女を絞め殺したんだ。僕は彼女を占めている間、これは僕の影なんだと思っていた。この影を殺せば、僕はうまくいくと思っていた。でもそれは僕の影じゃなかった。キキだった」(『ダンス」

午前四時の町はひどくうらぶれて汚らしく見えた。そのいたるところに腐敗と崩壊の影がうかがえた。そしてそこにはまた僕自身の存在も含まれていた。まるでに。壁に焼き付けられた影のように。(「国境」)

獏は長い間クローゼットの中の彼女のワンピースやブラウスやスカートを見ていた。それらは彼女が後に残していった影だった。その影は主を失ったまま、力なくそこにぶら下がってた。(「ねじまき」)

加納クレタは首を横に振った。「憎しみというのは、暗く伸びた影のようなものです。それがどこから伸びてくるかは、おおかた本人にもわからないものです」(「ねじまき」)

佐伯さんという人は四十代半ばに見えるやせた女性(te…)上品で知恵的な顔だ地だった、目がきれいだ。そしていつも影のように淡いほほえみを口元に浮かべている。(「海辺」)

死のトポス

「誰とでも寝ちゃう女の子だったんだ」と僕は言った。まるで、弔辞みたいだ。

私が乗ったエレベーターはこぢんまりとしたオフィスとしても通用する蔵広かった。第二に綺麗だった。新品のかんおけのようにせいけつであるb。

僕はこの高度資本主義社会の像の墓場みたいなところでこんな風にぶつぶつ独り言を言いながら朽ちていくのか(「だんす」)

アメはそのままずっと黙って煙草を吸っていた。もっとも実際に吸ったのは二口か三口ぐらいで、あとは全部彼女の指の間で、ただの灰になってぽろぽろと芝の上に落ちた。それは僕に時間の死骸のようなものを想起させた。

まるで少し前に息を吹き返し、土を掘り返して墓場から這い出してきた新品のしたいみたいだ。

箱に入るとそれは小動物の死骸みたいに見えた。

月はそのあざのような暗い模様を…それは死者の目のように瞬きひとつせず、黙して空に浮かんでいる。






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