糸を点てる



写真よりも遠くに見た姿を
熱よりも熱いざわめきに
息は吸うことを許されて
息は吐くことすら許される

降りかかるけむりは
私のところまで漂い落ちて
色を削がれて身を潜める
私は潔くそれを飲み込む

その輪郭に熱がかかるたびに
私の眼のふちは赤く染まり
私の眼のなかは溶けて膨らむ

どんどんと溶けだしたものを見て
花びらみたい
だれかに言われた気がした

いつからか
私を包む
ろうは忘れられていて
けむりのなかを自由に泳いだ

泳ぐたびに喉を通るけむりが
泳ぐたびに甘くなっていく  
そこでわたしは息の仕方を忘れて
苦しくなくて
ただ行き場を失った血液が
流れるままに底を目指して落ちていた
連なりわたしも落ちていく

指や足には息がかからず
むかう寒さにやがて削げ落ち
わたしを追い抜き
どこかの底へと突き刺さる

体中が曝されても
どこまでも凍らないのは
わたしだけ

それは前借りした温かさが
交じり合うことに焦がされて
甘ったるさを射しているから

尽きてしまえば触れられる
ただそこにあった
灰色の抜け殻に立ってられないだけの
優柔不断に立ち尽くす
   




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?