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少年

例えばもし、未成年の人間が法を犯すとき
それはきっと成人済みの人間が法を犯すときと何かが異なる

未成年の少年が、はじめてたばこを買うために深夜のコンビニに向かって歩く

コンビニのまばゆい光は、少年の非行を露出させ、少年はそれを憎らしい目つきで応対する。自動ドアの開閉は決してウェルカムを意味しない、少年はあと一歩踏み出した瞬間からすべてを演技として解決させなければならない。可能な限り相手の理解できるコードで

店員の年齢はいくつか、性格は温厚だろうか、めんどうくさがりだろうか。それっぽく自然な流れで、タバコが欲しいという欲望を持っている自分を見せるにはどんな顔と声を演じるべきか。心臓から発せられる、早くこの場違いな環境から逃れたい欲望と、頭から発せられる、ここまで来たからには何としてもタバコの交渉を試みるべきだという欲望が、レジの奥に荘厳にカラフルに整列するタバコによって塞がれている。多分この一回の侵犯の欲望は、たばこを買えてしまったら再駆動され、未成年でいる間、歯車のように回転し続ける


それが自販機販売だった場合、今さっき通ってきた街灯に照らされる道路が、そこに至るまでにすれ違ってきた自動車や自転車のライトが、少年の非行を一瞬にして露出させ、やがて自分に向かって到来するだろう光が少年の肉を駆り立てる。自販機は横から貨幣を投入することができない。どうやっても自販機に向かい合う正規の位置に自分を置き、その光源と曇ったガラスに反射する誰かの視点と対面しなければならない。両親の目を盗んで借りた運転免許証が、ゆっくりと機械の中に取り込まれると救急車のような不快な音が響く。小銭を一枚づつ自販機の穴に通していく作業のあいだ、一定の間隔でそれは、少年ではない誰かに向かってメッセージを発し続ける。むしろそれは、少年の非行の中断を禁止する


「僕は、その儀式の虜になっていたと思う。孤独な緊張状態にいるとき脳から溢れ出る何かが、上から下へと肉を蠢いて僕を貫くと、僕を見るものは全き悪いものとして自然に開かれる。いつか職務質問を受けたとき、その憎しみはくだらない大人に暴かれて、たためられてしまった。その時、ズボンの片側に入っていたマルボロはたしか、ライターがなく、火をつけることができないという理由だけで摘発を逃れ、補導されることはなかった。なのに僕は、自分の手で、まだ口もつけていない10それそれを意味もなく握りつぶす必要があった。ただ、ぐしゃぐしゃに曲がり、先っぽから葉っぱがあふれ出したマルボロの束を見ていると、なぜか、その行為が正しい結末を迎えたように思えたのと、僕を見る警察官も、ここではないどこか、別の場所で満足している気がした。もし、そいつが気のいい警官、例えば美しい顔をしていたら僕もこの話をするたびに、薄い満足を感じていたかもしれない。だけど、そいつの顔は、鉄の塊に泥を塗りたくったような艶があって、体からはいくつもの臭いを必死に隠している純粋さが漂っていた。何より、僕がそこを歩いていたのは、彼女に頼まれて、気の進まない2人分の夕食の買い出しのためで、つまり僕は、いたくもない場違いな環境でのぞんでない場違いな経験をしてしたために、そこに取り残されてしまった。


家に帰るためには、来た道を逆行しなければならない瞬間が必ず訪れる。僕はそのもう一度に備えていらいらしているんだろう。あと1週間で僕は20歳を迎える。そしたらタバコを買うことも、買っていた事も宙に浮かぶぐらい軽くなってしまう。なんか、それは良くない気がする。良くない大人は、手錠を繋がれたまま脱獄した囚人が、持てる鈍器を持つしかないという非力さを暴力的なまでに噴きだす事を僕は知っている。


僕がしようとしているのは革命かもしれない。囚人となった大人が繰り返す、露出症的な興奮の暴力に対して。生きているだけで、帰るべくある道を風化させていく若者に対して。革命という幻想を抱くしかない自身の性に対して


ノースフェイスのやたらでかいバッグに、ありったけのストゼロを、サイドポケットには新品のマルボロを詰める。
学ランの上に黒パーカで頭まで包み込み、汚れたニッカポッカに甘い香水を振りまく。
ヘッドホンをして自転車に跨り、ライトの代わりにJBLのスピーカーをかごで光らせる
学生証を首から吊り下げ、顔写真の代わりにライターをねじ込む。
何も考えず、ただ標識にぶつからないようにだけ注意して田舎の暗闇を漕ぐ。
寒さで縮む全身の肉が、関節からでる音を自由にしてくれる」



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