炉留(独炉留 : 凛翔)


(暗い寮の自室の隅で1人。嫌、正しくは2人。頭上に凛翔を見下ろす様に居る彼は所謂異能の自我だ。彼は何時も凛翔に話しかけてくる。それは今も例外では無い。)
『凛翔さん。また傷触ってるのですか。良く無いですよ。』
(前髪を留め、マスクを外し口元や目元の火傷跡を指先でなぞる。右目は焦点を合わせる様子も無く虚ろな侭。客観的に良く見れば左目と比べ少し白く濁って居る気もする。)
関係無いでしょう。君には。
(凛翔は酷くイライラした様子で答えた。相変わらず彼はお節介だ。初めは幻聴だと思っていた。父親に愛されなかったから勝手に自分がこうして欲しいと望み聞いているだけの夢だろうと。ただ気が付けばこうして毎日会話を交わす事になって居た上、偶には寂しさを紛らわせる為の話し相手にもなって居た。)
君は僕が居ないと生きられないものね。
(凛翔は酷く寂しそうに言う。自室の隅で壁に手を付き立ち上がると、そのまま部屋にある救急箱に手を伸ばした。黒い手袋を外す。この部屋に居る時だけは間違えて生体に触れ傷を受け取る事を恐れなくて良い。)
『また受け取ったのですか。他人の傷を。』
(シャツを脱ぐと、脇の下辺りに紫色が白い肌に姿を現す。痣の様だ。まだ赤くも黄色くも無い。糖分治りそうに無い痣だ。)
僕が誰から貰っても君には関係無いでしょう。
(凛翔はそう告げると、包帯と湿布を手に取って黙々と包帯を巻き出す。別に骨折を他人から受け取った訳では無い。受け取ったのはただの打ち身の傷。こんな傷数日すれば治ると凛翔は彼に対して酷く呆れている。)
『綺麗な肌なのに…。』
(彼は凛翔の白い綺麗な肌が好きだった。昔から自分の異能の所為で彼の肌が美しくなくなって行くのがとてつもなく嫌だった。だから彼は今でも凛翔が異能を使う事を止めようとする。異能を使えば体力消耗も酷くなるし、何しろ全て治すのが大変だ。いつも苦労して治しているのを1番近くで見守っている。必死に治そうとするそんな姿を見るのは彼にとって1番辛かった。)
余計な事は考えないで。君は異能。僕は異能の所持者。その関係だけ忘れ無いで。
(凛翔は彼に対して今の発言以上の関係性は求めていなかった。ただの主従関係で居たいのだ。自分が彼の目に美しく見えるかどうかは重要では無い。凛翔にとって重要なのは、自分が異能を上手く利用出来てるかどうかだけだ。)
『はい。』
(異能の自我の彼は、いつもの明るさやお節介さをどこか遠くに置いていってしまったように、酷く落ち着いた様子で話すのを辞めた。凛翔はそれを無視する様に、救急箱を元の場所に戻しそのままベットに背中から飛び込む。打ち身の傷を受け取るのは日常茶飯事だ。痣がベットに思いっきり当たっても微塵も痛くない。)

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