見出し画像

VRスタートアップ5周年の足跡

こんにちは、クラスター株式会社でCOO兼CFOをやっている岩崎です。バーチャルSNS「cluster」というサービスを運営しています。

実は本日2020年7月7日の七夕にクラスター社は5周年を迎えることになりました。一つの節目ということで、勝手ながら会社を代表してクラスター社のこれまでの5年間の軌跡を振り返ってみたいと思います。ちなみに、岩崎がクラスター社に関わり始めたのが2016年11月頃からなので、それまでの話は創業メンバーの記憶を辿った内容になっています。

このブログはclusterのユーザーやクリエイター、スタートアップ(のドタバタ)に興味のある方、クラスター社の現役社員、採用候補者等々を想定して書いています。社内向けにもここまできちんと整理してまとめたことはないので(私も知らない創業直後の話もあったので)、誰にとっても初耳情報盛りだくさんの内容になるのではないかと思います。いざ書いてみたら1万字を軽く越えてしまったので、お時間がある時にでも読んでいただければ幸いです。


創業〜シード期の試行錯誤(2015年7月〜2016年12月)

クラスター社の創業は2015年7月7日です。当時の社名は「Fictbox株式会社」でした。

私の大学時代の同級生で隣のサークルにいた加藤直人が代表となり、京大時代に加藤と一緒に3年間ひきこもっていたサークル後輩のJohnsonこと田中と2人で創業されました。元々2人は引きこもって自由にゲーム開発やアプリ開発を行っており、自主制作ゲームの収益(当時はそういうインディゲームで稼いでいる開発者も多かった)や受託開発費で一応生計を成り立てていました。ちょうどそんな頃にVRデバイスにも出会っていたようです。

当時彼らが運営していた技術ブログが一部エンジニア界隈には名の知れたものとなっており、京都にいる学生エンジニアの話を聞きつけたVCのSkyland Ventures木下さんが加藤宛にDMを送り、それがキッカケで実際に東京で会う約束をすることになります。

テクノロジーの進歩によって人とのコミュニケーションや買い物、仕事(エンジニアリング)がネットで完結しており、ひきこもり時代も特に困らず楽しくやっていたと加藤は言います。そんな快適なひきこもり生活における唯一のフラストレーションが、主に東京で行われるエンジニア勉強会や声優ライブに参加するために家から出なければならないことでした。言い換えれば、「人が集まる」という体験がインターネットに乗っていない、それが故にわざわざ新幹線に乗ってお金も時間も使って面倒な移動をしないといけない、ということです。

特に起業テーマを決めるわけでもなくふらっと東京の木下さんに会いに行った加藤でしたが、起業するならVRを使って「集まる」体験を提供できないかと考えていました。特に「家にいながらにして(水樹)奈々様のライブに行きたい」と強く思っていたようです(オタクですね)。そして、事業計画も具体的なプロダクトイメージもまだ固まっていない中、木下さんがほぼノールックで加藤に1,500万円の投資を決め、いよいよ本格的にスタートアップとしてスタートしていきます。

ここから非常に速いスピードでプロダクトを作っては捨てる、試行錯誤の日々が始まります。

2015年7月に創業して1ヶ月程度で最初に作ったのは、当時のスマホVRの代表格であるGearVRを使ったバーチャル会議システムでした。4〜5人で同期して会議用途に利用できるサービスだったようでしたが、このサービスは創業者2人でプロトタイピングし、ユーザーテストした上でサービス名が付くこともなくお蔵入りになったそうです。

その後、2015年9月には加藤が学生時代に関わっていた京都のゲーム制作会社のエンジニアとデザイナーがこの会社に合流します。よく当時京都から出てきてこの会社にコミットする判断をして移り住んだなと思いますが(笑)、今でも変わらずclusterのプロダクトを支える古参メンバーとして活躍してもらっています。

新メンバーを加えた2015年9月、今度はVRデバイス(GearVR、Oculus DK2)を使ってみんなで動画を見られるバーチャルアプリ 「フィクトボックス」をつくります。今でも画期的なのは、スマホでリアルタイムに動画を撮影してVR向けに配信できる機能があったことです(スマホのビュアーは無いですが)。本サービスは、コワーキングスペースでユーザーテスト実施しましたが、正式ローンチされることなくクローズしています。(今やお馴染みとなった「しゃちょー」こと代表加藤の青い鳥アバターはこの頃に作られたものだったんですね)

画像6

そして、今度はVRデバイスから離れて、スマホベースのアバターメッセンジャーサービスをつくります。スマホでボイスメッセ(3秒間)やテキストをUploadして3D空間内に置いておくことができるサービスでした。Uploadしたボイスメッセは、スマホの画面でタップすると再生されるという仕組みです。また、公式で用意したいくつかのアバターを選んで、この空間内でアバターをスマホ上で動かせる機能も付いていました。(これもユーザーテストをして、正式リリースすることなくクローズ)

画像5


次につくったのが、だだっ広い空間の中にVRデバイスで入って友達とダベるVRチャットサービスをつくりました。これは今のVRChat的な思想に近いVR雑談サービスだったようですが、これもプロトタイピングまででお蔵入りとなりました。

画像1
画像2


その次が、VR脱出ゲーム「Gimmick.」です。2人プレイ用のゲームで、実際に「Unity VR EXPO Shibuya」での展示も行ったようです。当時は加藤もプログラマーとしてコードを書いていましたが、このゲームのステージデザインも加藤自らが行ったようです。展示を通して数百名の方に体験してフィードバックをいただいたのち、これも正式ローンチされることなく終了したプロジェクトになりました。

画像3
画像4


そしてついに、今のclusterの原型に近い形で、2016年2月にバーチャルイベントサービス「cluster.」のα版が公開されることになります。

画像13

α版ローンチイベントにはVRの火付け役とも言えるOculus創業者パルマー・ラッキーがサンフランシスコからリアルタイムで参加し会場を湧かせました。まさにclusterの醍醐味とも言える物理的距離の制約を超えた体験が顕現した瞬間です。

当時の様子や代表の思想についてはSkyland Venturesのブログに詳しいのでご興味ある方はご覧ください。この当時の記録によると雑用なんでもやるマンな社長のはずなんですが、フェーズが変わったとはいえ残念ながら私が入社してから加藤の机がきれいになったところを一度も見ていないのでそろそろ本領を発揮してほしいですね(笑)

画像9

ところで、このイベントでもう一つ大事なエピソードがあります。なんとmixiの創業者である笠原さんがイベントにアバターで参加しているのを目撃したのです。

次の資金調達を考えていたので加藤がダメ元でDMを送ってみたところ、なんとアポが取れて実際にエンジェル出資に繋がっていきます。こういった不思議なご縁もあって、2016年4月にSkyland Ventures、East Ventures、mixi笠原さん個人から合計4,500万円の資金を調達しました。

ちょっと長いですが、当時加藤が考えていたことがanother life.の記事にしっかりまとめていただいているので、こちらもぜひ読んでみてください。

加藤はつねづね「持続性あるエコシステムを作るには一定量お金が流通しないといけない」と言っておりますが、α版を出した反響をもとにバーチャルイベントの経済的な可能性に確信を持ち、イベントを中心にビジネスを作っていくというクラスター社の大きな方向性が固まっていったようです。

その後はバーチャルイベントを通していろいろな機能を作って試して…というのを繰り返していきます。360度動画の生配信機能やデスクトップ共有機能だったり、スライドをWebブラウザ上で編集できて、動画を差し込んだりスライド順序を変えたりといった編集機能があったり、ゲームコントローラーで操作が可能だったり(当時まだVRにコントローラが無い時代)、VR内でイベント作成が可能だったりと、今無い機能もたくさん実装しては試していました。

2016年10月には、サンライズさんの『ゼーガペイン』という映画の試写会をcluster.上で開催しました。このイベントにはリアルタイムで1,000人以上の方に参加いただきました。

画像10

様々な機能やイベントの形を試す中で手応えを掴んでいきますが、当時はほとんどの機能がプロトタイピングにプロトタイピングを重ねた継ぎ接ぎで、さらにどのイベントも都度クラスター社がホストするという、とても使い勝手の悪いシステムでした。それを誰でもいつでもイベントを立てて勝手に開催できる汎用的な仕組みにするべく、裏側をまるっと作り直すことに。ちなみに、当時は代表含めて7名(代表/エンジニア4名/デザイナ1名/インターン1名)でした。

2016年11月頃、私はかなり久しぶりに大学同期である加藤に会いにクラスター社のオフィスを訪れました。ちょうど次の転職を考えていた頃に、加藤もスタートアップ経験があって営業でも管理でもなんでもやるマンを探しており、また日本発でグローバルヒットするネットサービスを創るぞという想いでも意気投合し、この会社にジョインすることを決めました(細かい話はここでは割愛しますが、どんな経歴だったかとかに興味がある方はこちらのブログをご覧ください)。


シリーズA調達と忍耐の時期(2017年1〜12月)

システムを裏側からまるっと作り直すということで、当然お金が足りないわけでして、資金調達に動き始めることになります。

2017年に入ってから私の方で事業計画をドラフトアップし、シードVCのSkyland Ventures木下さんとも連携しながら調達候補となるVCや事業会社にアプローチを始めました。

正直なところ、2020年の現在から見てもクラスター社のファイナンスの中では最も厳しく難しいラウンドだったのではないでしょうか。2億円の調達を目指していましたが、2016年のVRブームが終わり2017年はVR絶望期と言われる時代になっており、世界的にVRで成功したビジネスモデルもない状態でした。そんな状況下で慎重な投資家も多い中、ユナイテッド、エイベックス、DeNAや既存投資家のSkyaland Ventures、多くの個人投資家の皆さんがそれでもクラスター社の可能性を信じて賭けてくれたおかげで、5月には無事に目標額を集めきることができました(このラウンドに限ったことではないですが本当に感謝しています)。6月には、無事に正式版リリースにも漕ぎ着けます。

画像11

上のスライドは調達資料の一部です。2017年ではまさに「絵に書いた餅」でしたが、現在では1段目のバーチャルイベント事業がクラスター社の収益の要となり、2段目のバーチャルゲームを作れるプラットフォームとして発展し始めたことを思うと、加藤の構想力と、未来を実現するまで決して諦めない力は凄まじいものがありますね。

サービスリリースの勢いそのままに、数日後に行われた日本を代表するスタートアップカンファレンス「IVS」のピッチコンテスト「LaunchPad」でも映えある優勝を飾りました。

その後、2017年5月に業務提携を発表していたイグニス子会社のパルス社とともにバーチャルアイドルのプロデュースプロジェクトも進めていました。8月には夏のコミケに「岩本町芸能社」という(当時は)謎の団体で出展し、コミケで爆死したアイドルとして一躍脚光を集めることになります。

とはいえ、VRデバイスの普及も思った速度で進まず、ユーザー数も伸び悩み、バーチャルイベントのビジネス化の目処もまったく立たない忍耐の時期が続きます。バーチャルイベントを事業にしようにも、そもそもそんな事例がこの世に存在しないため途方に暮れるしかありません。

この頃は私と加藤のふたりで次のプロダクトの展開をどうするかをディスカッションして決めていたのですが、あるべき未来の大枠を描き、そこに旗を立てはしたものの、正直なところ足元の事業に光明が見えない苦しい日々ではありました。加藤が次の展開をどうするのか、彼の戦略を練る時間を捻出するため、代わりに私が一時的にプロダクトマネージャーとなり機能開発の優先度決定を行ったり開発メンバー全員と1on1を行っていた期間もありました。

そうして2017年10月、バーチャルな身体を持つ人間が今後増えていくことは必然であるが、バーチャル経済圏の実現のためには鶏卵問題としてアバターサービスの存在は不可欠、という考えのもと、スマホで誰でも簡単にキャラクターになれてライブ配信できるというサービス構想を加藤が打ち出します。SHOWROOMや17LIVEのキャラクター版といった方がイメージしやすいかもしれないですし、この当時にはなかったREALITYやIRIAM、Mirrativのエモモ機能を先取りをしたようなサービスと言った方がわかりやすいでしょうか。

とにかく、船頭がこっちだと道を示してからは手の早い、開発力の塊であるクラスター社。わずか1ヶ月半でiOSのβ版アプリを完成させ、2017年12月には声優さんを起用して数十回の配信をステルスで実施しています。サービス名は、キャラクターライブ配信アプリ「MyShadow」。初期バージョンでも3人までのコラボ配信が手軽にできるようになっており、視聴者をアバターとして呼び込んで一緒にダベるといった体験が最初から用意されていたのはclusterっぽい感じですね。

画像11

ところで、このキャラクターライブ配信アプリですが、なんとステルスローンチ後1ヶ月を待たずにクローズを決定します。

もちろんある一定うまくいくだろうという見込みと予測の元のチャレンジではあるものの、市場やビジネスの構造上の問題は山積み、そして「オンラインで集まる体験を共有する」というclusterにとっての本源的な価値を提供できていないなど、様々な問題はありました。

ただ、転換の一番の要因は、誰にも予測できなかった、2017年末から急激に加熱したあのバーチャルYouTuberブームでした。


イベントサービスとしてのclusterの突破口(2018年1〜8月)

MyShadowを試験運用する傍ら、2017年末からバーチャルYouTuberのブームに火が付き始めたのを横目で見つつ、「この流れはclusterにとってチャンスでは」「バーチャルな身体を持つ人を増やすということがMyShadowの存在理由なら、バーチャルYouTuberの流れで尽きているし、われわれはその活動の場としてのインフラ開発・提供に徹するべきでは」という結論に至り、改めてclusterに回帰していきます。

思い立ってからはいつも素早く、2ヶ月間足らずでユーザーがアバターを自由にアップロードできる機能をリリースするに至ります。

(※)ちなみに、それまでユーザーはロボットのアバターしか使えませんでした。とはいえ、このデフォルトアバターもなかなかの歴史的変遷を辿ってきているのでご興味ある方は下記ブログも併せてご覧ください。

そういえば、当時クラスター社でも「VTuberが配信できるシステムをつくろう!」という話になり、そうなると「配信場所はどうしよう?業者に防音室をお願いすると内装費が数百万かかりそう」という議論になりました。もちろん、まだ売上の全然立っていないスタートアップとしてそんなコストを許容できるはずもなく、じゃあベンチャーらしく材料買って自分たちで作ろうぜとなって、本当にいちから作ったのは懐かしい思い出です。(もう時効だと思いたいですが、当然消防法的にはアウトで、かつ夏は地獄の暑さを誇る灼熱スタジオでした笑)

画像12

さて、そんなこんなもあり、2018年4月末にはアバターを自由にUploadできる機能がリリースされました。

その記念イベントとして開催した月ノ美兎さんのVRイベント当日、会場がオープンした瞬間に想定を上回るユーザーが殺到しサーバートラブルが発生しました。ある種嬉しい誤算ではあったのですが、あまりに凄い勢いで殺到したために対応できず、この記念イベントは3週間後にリスケになりました。

にじさんじの運営の方々やこのイベントを楽しみにしていたユーザーの皆さんにはだいぶご迷惑をおかけして申し訳なかったのですが、リスケ時には無事にイベントが成功し、バーチャル上で推しキャラと空間を共有して集まり、一緒に盛り上がれるというこれまでに無い体験を提供することができました。

かなり余談ではありますが、当初予定していた日付での開催が延期となった日、ファンの皆様から厳しいご意見を多数頂戴したのですが、エゴサをしていて恐らく唯一肯定的なコメントをくれた「スワンマン」という人が1年後にクラスター社に入社することになります。もちろん、この時はまだ予想だにしていませんでした(ただの変な人だと思っていました笑)

ちょうどこの頃、GOROmanさんの引き合わせで人気VTuber輝夜月さんの運営社長と初めてお会いします。

先方社長と加藤で波長が合ったのか、すぐに「VR音楽ライブやろうぜ」と盛り上がり、そこからすぐに実績ある制作会社さんやソニーミュージックさんが加わり、5月末にはキックオフMtgが開かれました。

そこで非常に心臓に悪かったのは、まだ世の中にリアルタイムのVRライブを実現しているところがなく、有料での開催は完全に世界初の試みで、もちろん実績どころかVRライブの技術検証もまったく出来ていないにもかかわらず、3ヶ月後の8月末開催に向けて音楽ライブを開催するというのでトントン拍子に話が進んでいったことです(笑)もちろんまったく笑い事ではないのですが、加藤がやたらと自信満々だったことは覚えています。(加藤の広げた大風呂敷をなんとかまともな形にするのが私の役割なわけですが...笑)

ただ、ようやく掴んだバーチャルイベントの事業化の突破口、しかも念願のバーチャル音楽ライブとなれば会社一丸となって取り組む以外に選択肢はありません。かつ、よくある生配信と違って、音楽ライブとなれば一般人の感覚としても"チケットは有料"という感覚があるので、いよいよclusterにもビジネスの匂いがして来たのでは?と感じました。

そこから凄いスピードで企画を詰めて技術検証を行い、有料チケット機能を実装し、7月にはチケット販売に漕ぎ着けました。このチケットはプレミアム化し、発売開始直後に完売しました。

ここでは細かいことは割愛しますが、ライブ開催の2日前まで、実はライブとして破綻している箇所があり、深夜まで対策会議と技術検証を重ねて、ようやく前日にはプロデューサーからもOKの出るものに仕上がりました。ライブ当日はスタッフ一同が固唾を飲んで45分間を見守り、大きなトラブルも無く無事に世界初の商業VR音楽ライブを成功させることができました。終わった瞬間は自分も含めて目を滲ませるスタッフもいて、世の中に新しいものを生み出す苦難とそれを乗り越えた時の達成感をしみじみと感じました。

私はこのプロジェクトの推進責任者として各方面との調整を行い、失敗しないための予防策や有事のプランBを含めて様々なことをシミュレートしていました。それと同時に財務責任者として、そろそろ資金のバーンアウトが見え始めていたので、タイトなスケジュールの中でシリーズBの資金調達活動も並行させ、ライブ前日にはなんとか無事に4億円の入金が完了しました。


ビジネスモデル構築の奮闘(2018年9月〜2019年9月)

前述のライブでクラスター社としては創業来初めてまとまった売上が計上されました。ここから事業拡大を目指し、コーポレートロゴの刷新やサービス名変更(「cluster.」から「cluster」へ)も実施しました。

とはいえ、音楽ライブの制作コストがかなり高いものだったので、とても頻繁に開催して継続的に売上を上げられるようなものではないと判断し、元々予定していたギフティング(投げ銭)機能の実装を進めて2018年10月末にリリースしました。

リリース後の2ヶ月間は、バーチャルタレントを起用したハロウィン企画やクイズイベント等、ギフティングでの収益拡大を狙ってバーチャルイベントをいくつか開催しました。何本か企画をやった結果なのですが、スマホのライブ配信と比べて開催する側も参加する側もコストが高く、かつVRやPCを持つユーザーが限られることからギフト課金は目標としていたほどの収益規模にはなりませんでした。

今後の事業展開について検討した結果、改めて音楽ライブという圧倒的な体験、およびそれに伴ったチケット課金という成功体験に回帰します。

そのために最初にやらなければならなかったのが音楽ライブの制作コストを削減し、制作と運営のフローを標準化することです。毎回最初の輝夜月ライブほどにパワーを掛けるのは現実的ではありません。もっと手軽にライブを開催したいというバーチャルアイドルの方々の声も多数ありましたし、プラットフォームを開発するチームから独立してCGチームだけで音楽ライブを制作できるようにすることが当面の目標となりました。

そのための制作キット(SDK=Software Development Kit)の開発を試行錯誤しながら、2019年2月より音楽有料ライブを少しずつ増やしていきます。2019年4月30日の平成最後の日に開催した「さよなら平成カウントダウンライブ」、5月1日の令和初日に開催した「輝夜月LIVE@ZeppVR2」は整備したSDKを利用した初めてのライブとなりました。

2019年7月にはこのSDKを一般ユーザー向けに公開し、誰でもcluster上にイベント会場をアップロードできる機能をリリースしました。

2019年8月には日本初となるVRアニメミュージックフェスティバル「Vアニ」も開催しました。


clusterのスマホ対応と今後の展開(2019年10月〜)

様々な企画を考案・展開し、2019年は年間で公開バーチャルイベント数が350件と相当な数の実績を積むにいたります。

流通額もそこそこ大きくなりましたが、創業来われわれに立ちはだかる大きな壁が存在していました。

それは「アクセスできるデバイスの制約」です。

VRと(一定スペック以上の)PCという対応デバイスだけでは、どうしても動画配信と比べてユーザーが少なくなってしまいます。その観点で、2019年8月中旬にはWebブラウザ上での有料動画配信機能もリリースしますが(それでユーザー数は倍以上に増えたのですが)、動画なので自由に動いたりできず、当然空間内でのインタラクティブ性もなく、clusterで本来提供したい体験にはほど遠いものでした。

改めて加藤を含めた経営メンバーで徹底的に議論を重ねたのち、クラスター社としてとても大事なふたつの方針を全メンバーに打ち出します。

一つは、私が入社する前の2016年の時に確認したことでもあるのですが、我々がビジョンとして掲げる「バーチャル経済圏のインフラをつくる」という目標の達成のためには、VRデバイスは手段の一つであって目的ではないということです。

将来的に現状のVRデバイスユーザーは増えていくでしょうし、もちろんVRデバイスの方が没入体験が高いことは言わずもがなです。ただ、どこまでいっても中心に据えるべきはデバイスではなくユーザーです。家にいながらにして、実質的に現実と感じられるような価値交換やコミュニケーションができるという、広義のVR(Virtual Realtiy = 実質的な現実)体験のインターフェースとしては、VRデバイスに限ることなく、PCやスマホ、ゲーム機といったあらゆるものが対象になるべきです。ユーザーを取り巻くバーチャル環境のすべてを、clusterは整えるべきなのです。

もう一つは、これまで軸にしてきた「イベント」は、ハレとケでいうと、毎日行くものではないハレの体験となるのですが、ハレ体験はあくまでもビジネスの手段であり、イベントはプラットフォームの加速装置としての立ち位置であるということです。ハレの体験だけではプラットフォームたりえません。イベントという特別な日にしかサービスが利用されず、それ以外の時はユーザーに思い出してもらえないサービスになるでしょう。

2017年時点での構想の通り、我々ははじめから単なるバーチャルライブイベント事業者で終わろうとは思っていないのです。

画像11

そのふたつの大きな方針を言語化したことで、2020年3月に「スマホアプリ対応(対応デバイスの拡大)」「常設コンテンツUpload機能(ケの体験提供)」の2つをリリースすることに決めました。この開発と同時並行しながら、次なる展開に向けて8.3億円の資金調達も行いました。

そして当初の予定通り、2020年3月5日にスマホアプリと常設コンテンツUpload機能(ワールド機能)を同時にリリース。これが昨今のコロナの情勢も相まってかなりの勢いでダウンロードされ、企業様からのバーチャルイベントのお問い合わせも従来の数十倍までになりました。

お問い合わせに対応する形でパッケージプランも機動的に投入し、それ以前に進んでいた案件とも合わさって、創業来初となる単月黒字化を実現しています。

その後もSNS化(=ケの体験強化)に向けたフレンド機能を追加したり、常設コンテンツの自由度拡大を狙ったゲーム制作機能を出したり、前回調達時にも公表していたREALITYアバターとの連携機能をリリースするなど、3月以降はこれまで温めてきたものをガンガン出していっています。

スマホアプリという手軽さと、コロナの状況も相まって急速にclusterユーザーが拡大し、これまでコンテンツを作ったことがなかったような方もゲームのようなコンテンツを作り始めています。

現在はバーチャルイベントの法人案件受注によって黒字になっていますが、今後目指すところとしては、コンテンツを作るクリエイターとそこで遊んでいるユーザーとの間で価値交換を行うCtoCのアイテム課金機能をリリースし、クリエイターのエコシステムをつくることです。

clusterは「プラットフォーム」を志向し、実際に開発・運営をしていますが、そのためには「無くなるとめちゃめちゃ困る」「仕事がなくなってしまう」というレベルまでプロダクトを磨かないといけません。逆にこのように思う人が少しでも出てくれば、ビジョンとして掲げるバーチャル経済圏の第一歩となるので、現在全社を挙げてここに取り組んでいます。

機能や課金システム、コミュニティといった施策だけではなく、大型のIPタイアップももうじきお披露目できることになります。しかも複数走っているので、この夏の情報解禁を楽しみにしておいていただければと。

かなり長くなってしまいましたが、クラスター社は「人類の創造力を加速する」というミッションと、「バーチャル経済圏のインフラをつくる」というビジョンを実現すべく一丸となって邁進しておりますので、ユーザーとして応援くださる方はぜひサービスで遊んでいただければと思います。また、こういった新しいことをしでかす共犯者になりたいという方はこちらからのご応募をお待ちしています。

まだまだ至らないところが多いサービスではありますが、温かい目で見守っていただければ嬉しい限りです。6年目も変わらず攻めの姿勢で加速していきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?