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【SD】サンディエゴ・パドレス2023年総括

ハイ皆さん10月の野球といえばもちろんアリゾナ秋季リーグですよね!パドレスがピオリア・ハベリーナスに送り込んだ若手は今年Low-AからAAまで駆け上がり計.308/.393/.539/23HR/22SBという好成績で球団最優秀マイナー選手として表彰されたグラハム・ポーリー二塁/三塁手(MLB Pipeline球団プロスペクトランク12位)、High-A Midwest Leagueのオールスターに選ばれたネイサン・マルトレーラ一塁手(同11位)、彼ら二人と共にAAに昇格したHigh-Aと合わせ.274/.413/.428/16HR/46SBと将来のリードオフとして期待できそうなジェイコブ・マーシー中堅手(同13位)の22歳トリオ。一方投手はトミージョン手術から今季復帰した左腕ジャガー・ヘインズ(同26位)などが参加しこちらも楽しみで目が離せま頭を抱えてしまうシーズンだ。プレーオフに進出できなかった事実に関してだけではない。なぜ進出できなかったかが具体的に説明できないからだ。

今季パドレスは82勝80敗でレギュラーシーズンを終えプレーオフ進出を逃した。それも9月に20勝7敗という猛追劇を含めての成績だ。$255MMというMLB3位の年俸(贅沢税ベース暫定$280MMで3位)を投じたチーム成績としては明らかな期待外れだろう。かつて9月の出場ロースター40人枠拡大時に1か月分のメジャー最低年俸の支払いをケチりマイナー選手にメジャーリーグの雰囲気を味合わせることすら拒んだジョン・モーアスオーナーの低年俸時代とは異なるのだ。

しかし752得点はNL15球団中6位、防御率3.73はNL最良のミルウォーキー・ブリュワーズに小数点第2位まで並ぶ僅差の2位だ。+104得失点差によるピタゴラス勝敗はナショナルリーグでアトランタ・ブレーブスロサンジェルス・ドジャースに次ぐ92勝70敗。現実勝利数の差分-10勝は今季チーム最多のマイナス差分で、過去20年でこれを超えるマイナス差分は2006年のクリーブランド・インディアンズに続くのみだ(+88得失点、ピタゴラス勝敗89勝73敗ながら実際は78勝84敗で差分は-11勝)。

補強が控えめだったドジャースが予測以上に躍進したため92勝でも当初予測されていた地区優勝は出来なかっただろうが、ワイルドカードに十分滑り込める成績だ。

今年のパドレスは1点差ゲームに弱かったことが敗因としてメディアやファンから指摘された。10勝28敗なので確かにその通りだ。せめてこの状況で19勝19敗ならシーズン91勝でワイルドカードの1枠目に入り込めた。しかし、どうすれば1点差ゲームを勝てたのかと問われると実は明快な答えがない。つまらない答えだがおそらく運が悪かったからだろう。風水のラッキーカラーである白いメガネのブランドン・ディクソンをDFA(のちマイナー再契約)してしまい幸運を逃してしまったからかもしれない。

2014年とやや古いリサーチだが、全試合でのチーム勝率と1点差ゲーム限定の勝率の相関係数は0.15と低い。

また1点差ゲームでの弱さはリリーフの弱さに依るものと映りやすい。確かに今シーズンにおいてパドレスブルペンのfWARはナショナルリーグ15球団中11位と良くなかったし、リリーフが抑えていれば勝った1点差試合もあった。しかし上記の記事によるリリーフのWARとの相関性は0.026。殆ど無関係と断じて良いだろう。他のデータを調べても似た様なもので、1点差ゲームの勝敗は様々な要因に基づいており改善が困難だということが言えるだろう。少なくともその場面のみの改善が難しい。2021-2023年シーズンの1点差勝率とリリーフfWARの相関も計算してみたが、2021年から数えて0.09、0.62、0.44と相関がやや強い年もあるがバラつきが大きいので強い因果関係があるとまでは考えづらい。

また得点圏での弱さを指摘する意見もあるが、以前のnoteで触れたとおりこちらもまたランダム性が高いため、チャンスに強い選手を狙って獲得する事が出来ない。同じレギュラー打者が多く名を連ねた昨年はチャンスに強かった。

Late and Closeという僅差試合終盤の打撃成績を見ると、今季パドレスのOPS+は97(100が平均)、30球団中18位(NL9位)に甘んじている。しかし同4位と5位には111敗のオークランド・アスレチックスと91敗のワシントン・ナショナルズが名を連ね、地区優勝のボルティモア・オリオールズテキサス・レンジャースは27位と28位だ。確かにパドレスがその場面で打っていれば勝敗は変わったかもしれないが、リーグを見回すと終盤僅差の打撃成績がチーム全体の勝利に結びつくわけでも、強いチームがその手の場面で必ずしも打っていたわけはないことが解る。

期待からあまりに大きくかけ離れた低成績を見せつけられると、チームやメディアやファンはその理由を探したくなる。無理もない。だが1点差ゲームに勝てない、得点圏に打てなかったという事実は原因の様に語られるがあくまで断片的な結果にすぎない。1点差勝敗や得点圏打率という切り口は見ている側の記憶に残りやすいが、主要因の乏しさからそもそもそれらの局面を測ること自体にあまり意味がないようにすら思えてくる。

高き期待とのギャップ

シーズン前のFangraphs予測は92勝70敗、奇しくも先述のピタゴラス勝敗と全く同じである。得失点差は稼いでいるので細分化して敗因を探ることは困難だが、それでも何か至らなかった部分がある筈だ。まず開幕前のFangraphs WAR予測と比較してみよう。

上段が予測で中断が実績、下段が両者の差である。投手はやや予測を上回る一方で打者に大きな不足が生じている。

誤解のなきようお伝えするが、シーズンを通したパドレスの打撃成績は良かった。意外に思われるかもしれないが、今年のパドレス打線のwRC+は107、fWARと同じくNL15球団中3位だ。スラッシュラインは.244AVG/.329OBP/.413SLGだが、これはペトコパークが投手有利な球場である影響が大きい。しかし開幕前にはナショナルリーグであのブレーブスすら凌ぎトップの貢献をすると予測されていたことを振り返ると、ブレが実績でなく指標側にある可能性を考慮に入れても期待と若干のギャップはあったといえるだろう。

野手ポジション別の予実は以下の通りだ。

予測を上回ったシーズンは今季MLB3年目で躍進したキム・ハソン(.260/.351/.398/17HR/38SB/4.3fWAR)が守った二塁とコンバートでフェルナンド・タティス・ジュニア(.257/.322/.449/25HR/29SB/4.4fWAR)が出場停止後1試合を除く全141試合を守った右翼のみだ。

一方で予実ギャップのワースト3は一塁、中堅、DHだ。主な選手は一塁ジェイク・クローネンワース(.229/.312/.378/10HR/6SB/1.0fWAR)、中堅トレント・グリシャム(.198/.315/.352/13HR/15SB/1.7fWAR)、DHネルソン・クルーズ(.245/.283/.399/5HR/1SB/-0.2fWAR)とマット・カーペンター(.176/.322/.319/5HR/1SB/-0.3fWAR)らの不振だ。特にDHはテニス肘を患い142打席指名打者として打席に立ったマニー・マチャドが記録した0.6fWARを含めての数字なのでかなり物足りない。彼等の打撃は過去数シーズン下降線にあったが、さらにその降下の角度が増した結果になった。またグリシャムは主に9番を打っていたにもかかわらずバント数が14でNL2位で三振は154でNL11位で、多くの出来事がホームプレートから5フィート以内で起こっていたことになる。

特に二塁なら容認できる程度の打力だったクローネンワースを長打が求められる一塁に据え、クルーズ(42歳。7月リリース)やカーペンター(37歳。7月から使われもリリースもされず生殺し)という安価な高齢選手でDHを埋める編成には他ポジションの豪華さと比べると開幕前からいびつな印象を抱かせていた。とはいえパドレスはその弱点を傍観していたわけではなく、夏にギャレット・クーバーチェ・ジマンをトレード補強したが、パドレス入団後クーパーは.239/.323/.402と振るわず、チェに至っては肋骨部の怪我で欠場し161試合目でようやくパドレス初ヒット。32打数2安打という大不振に終わった。

またパドレスは今季右投手をあまり打てなかった。今季ナショナルリーグ全打席のうち左投手が27%、右投手が73%を投げている。パドレスは左投手からは良く打っており、NL2位の123wRC+を記録。しかし右投手からはNL7位の101wRC+に甘んじる。

それでも平均程度だから悪くないと思うかもしれない。しかしこの数字がNL左打者3位166wRC+のフアン・ソトを含めたものであることを忘れてはならない。

個々の差やシーズンごとの変動は多少あるにしても、一般的には右投手に強いのは右打者より左打者だ。レギュラーが多く確定していたパドレスではソトとグリシャム(右投手より左投手に強い)左打者の起用はほぼDHか一塁に限定されてしまっていたのだが、先述の通りクローネンワース、カーペンター、チェの成績が悉く低調だった。

逆に先のキムとタティス以外に良かった点を挙げるなら捕手か。中途補強のゲイリー・サンチェス復活とルイス・キャンプサーノの台頭だ。彼らは打撃が極度の不振に陥りのちに死球による眼球運動障害を患っていたことが判明するオースティン・ノラの代わりを務め、さらに余りある働きを見せた。

投手の役割別fWARは以下の通りだ。

今年は先発投手が良かった。毎年前半戦は調子が悪かったブレイク・スネルが早めの調整を行ったことが功を奏したか今季は180イニングを投げ2.25ERAと5年ぶり2度目のサイ・ヤング賞受賞が確実な好成績を収めた。過去2年コマンドが整わず封印していたチェンジアップが復活し、特に右打者に対する投球の幅が広がった。ジョー・マスグローブは3.05ERAながらケトルベルを落下させた爪先と肩の怪我で97.1イニングの先発登板に留まったことが残念だ。

4.55ERAのダルビッシュ有は.313BAPIPとやや不運と終盤の肘不具合(のちにストレスリアクションと判明)もあったが、過去5年で最多の四球率2.84/9と、昨年とは対照的に走者を置いた時の奪三振率が減少している点、左打者に4シーム、スライダー、スイーパーが打たれている点が気になった。本人の自覚によると以前より悪い球を投げている気は無い様で実際に変化量や速度の低下は見られかったので、ロケーションの問題かもしれない。

またセス・ルーゴ(146.1回、3.57ERA)とマイケル・ワカ(134.1回、3.22ERA)という、6年ぶりの先発転向と肩故障歴というリスクを抱えたベテラン投手獲得のギャンブルが共に当たった。

リリーフ投手のfWARはNLで11位。予測と同じ数字ながらNL内の順位は下がっているので、リーグ全体でリリーフによる貢献の比重が増したとも考えられる。ベンチに居るだけでピニャータより運気が上がる有料級スマイルでお馴染みジュリクソン・プロファー獲得をきっかけに遅すぎる猛追劇を見せた9月にジョシュ・ヘイダーの登板が3アウト以内に限定されていること、そしてその点について指摘されたヘイダーの反応についてサンディエゴの地元メディアやファンから非難の声が巻きあがった。

確かに61試合を投げたヘイダーの登板辺りイニング数は56.1と少ない。だがその点についてはパドレスの殿堂入り抑えトレバー・ホフマンのキャリア後半もそう変わらない。ヘイダーの登板に関するイニング数より大きな疑問は起用された場面だ。

Baseball ReferenceにgmLI (Game Leverage Index) という指標がある。どれだけ緊迫した場面で登板したかを表す指標で、1.0を超えるとリーグ平均を超える緊迫さの中で投球したことになる。

ヘイダーのgmLIは1.60、抑えだけあってパドレス投手陣の中では最高値だ。しかしMLBセーブ数トップ20投手のうち、セーブ数MLB9位を記録したヘイダーのgmLIは18位に甘んじる。言い換えれば、ヘイダーは他球団の抑えと比較するとプレッシャーが弱い場面の登板が多かったということになる。シーズンを通してパドレスの試合を追っていたファンの中には「なぜこんな余裕の場面でヘイダーを登板させるのか?」と思った方もいたはずだ。打順とは異なり、継投は試合が始まってからの選択がある程度可能だ。

1.30ERA、2.43xERA、リリーフ投手中NL6位のfWARというスタッツを見れば一目瞭然だがヘイダーは優秀なリリーバーのひとりだ。少なくともパドレスのリリーフ陣では群を抜いていた。しかしヘイダーでなくてもレイ・カーティム・ヒルでも無事に済む場面を多く投げていたことになる。これをメルビン監督の采配ミスと即座には決めつけられない。ヘイダーの3アウト2連投限定という要望をA.J.プレラーGM兼PBOが容認して獲得した可能性が有るからだ。

なおプレラーのマイクロマネジメントや現場介入等、またメルビン監督とのロースター編成の意見不一致により「南北戦争」「修復不可能」とチーム内関係者から評されていた両者の関係だが、オーナーの指示により会談の席が持たれどちらも退団する事にはならなそうだ。

また三振を奪えるリリーフが少なかったことも問題だろう。ヘイダーを含めてもK/9は8.96で10位。前半にロングリリーフを任されていたブレント・ハニーウェル(8.10/9)やセットアッパーの役割を期待されたガルシア(7.79/9)、肘故障で8月復帰となったロベルト・スアレス(7.81/9)の奪三振率はリーグ平均以下まで落ちている。ともすれば2勝12敗という延長戦に弱かった一因かもしれない。無死二塁から始まる延長10回以降は空振りが奪えずゴロに打ち取るタイプのリリーバーは向かない。内野ゴロ2つで失点してしまう可能性があるからだ。

参考までにBaseball Referenceのポジション別も載せるが、ここまでの説明と大きく乖離はしていない。投手6位、打者3位の働きを見せたにもかかわらずプレーオフを逃したのだ。

嬉しい誤算の無さ

今年のパドレスには運が無かったと序盤に述べたが、新人や若手の台頭が見込めないロースターだったため予想外の活躍に乏しかった。敢えて例を挙げるなら先述のキムと後半戦のキャンプサーノ位で、残りはマシュー・バッテンの様な野手控えや投手ならスポット先発やリリーフが主だった。昨年の新人マッケンジー・ゴアC.J.エイブラムスらを放出してソトを獲っているため致し方ないが、それ以前もベテラン即戦力獲得の為にプロスペクトを放出しているためマイナーからの突き上げがなく予測に対する上振れが起きない。そのため8月にマスグローブやダルビッシュが戦列を離脱すると、ナビル・クリスマットが速球派に見えるようなリッチ・ヒルの直球だがカーブだか判明しづらい雑種の遅いミートボールが小気味よくスタンドに放り込まれる様を4日おきに見せつけられる苦行をファンは強いられた。あまりに恐ろしかったのでヒル先発の試合中継前にはアニメ番組冒頭キャプションの様に「はなれてみてね」と伝えてほしかった。

近いようで遠かざったがやっぱり近かった

あれだけの大きな期待と投資を受けながらプレーオフを逃したことの残念さをさらに増幅させる理由は、NLワイルドカード争いの低迷ぶりだ。ワイルドカード第3枠に滑り込んだマイアミ・マーリンズの勝ち星は84勝。直接対決でマーリンズに4勝2敗で勝ち越していたパドレスは、僅かあと2勝を積めばグリシャムがバントの代わりにホームランを打つプレーオフに出場でき、ファンは無理矢理スカウトを気取りアリゾナ秋季リーグを追わなくても済んだのだ。たとえばカルロス・サンタナ独りにやられたピッツバーグ・パイレーツ3連敗スウィープ負けのうちせめて1試合と、オールスター明けと8月にフィラデルフィア・フィリーズアリゾナ・ダイヤモンドバックスに連敗したダブルヘッダーのうちせめて1試合でも取れていれば未来は変わっていたのだ。

フリーエージェントとなるスネルとヘイダーの流出に加え、オプション契約の扱いによってはワカとルーゴもFAになる来年のパドレスにも大きな幸運が求められるかもしれないが、ディクソンもシーズン後FAとなったので他のラッキーパーソンを探す必要が有りそうだ。

プロファー、白メガネ掛けるか?

追記
当記事投稿から2日後にFelixさんとのパドレストークで対談。主題は今季振り返りと来季の契約について
https://twitter.com/i/spaces/1ynJOyLWnNlKR

参照データ:Fangraphs

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